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【悲報】なんの感慨もドラマもなく、ゾンビさんが大量に消滅させられる

一般プロゾンビのAさん

「一体俺達が何をしたって言うんだ。ただ教会の地下で暮らしてただけじゃないか!」

 岩を砕く音の原因は、シグさんが自分の足元の地面にパイルを打ち込む音だった。両足の踵の後ろから1本ずつ、鉄杭が地面に刺さっている。いったい何が始まるというのか。


 既に背中のスナイパーライフルを腰だめで構えて、左腕はマジックアームのように伸びて長銃の真ん中を支えている。可変式の盾が開いて、銃座盾のようなバイポッドが構築されていく。設置が完了後、両腕、両太ももから排熱用の空冷管がむき出しに現れ、内部からファンが高回転してけたたましい音を出し始めた。


 シグさんの背中からも、ノズルが伸びており、それは構えたライフルと直結している。ノズルの繋がった背中から突起物が飛びだすと、エアフィンの付いたエンジンが外界に現れ、生物では有り得ない機械の駆動音を響かせる。同時に顔面のブラックスクリーンが上部にスライドされ、現れた六眼のカメラの光がブルーからレッドに輝きを変え、凶暴さを現した。


 さらにシグさんの体から女性アナウンスの声がして『警告します。オーバーユニットシステムを確認しました。システムエラー、危険です。速やかに解除してください。繰り返します――』となにやら物騒な台詞を述べていた。


 最後にスナイパーライフルだと思っていた銃のバレルが三又に開かれると、バレルの下に付属していた一本の小さい筒が中にシフトされて内部にセットされる。入った筒は三又の砲身の中で回転しはじめると、バリバリと音を鳴らして紫電を発生させ始める。



『う、うるさい……』



 スノーが堪らず耳を両手で塞いで我慢していた。俺もヘッドホンを少し耳から外して対応している程だった。シグさん単体で音量設定を間違えている。


 最終的に狙撃用の超長銃だと思っていた武器が、レーザーカノン砲に変貌を遂げていた。こんなの詐欺じゃないか。いや、俺が言えた立場じゃないけどさ。




『さあ、早く開けろ!! それとも扉を破壊した方がいいか!?』

『――ッ!?』



 慌てた様子で緑茶さんが門の施錠を外し、五芒星の五つの角から要となる石を取り外す。

 やがて五芒星の光は急激に光量を減らして、開かれてゆく。



 開かれた門の向こう側に、無数のゾンビ達の姿が見えた。開かれた扉を何事だとも驚く形相で奴等は振り向いていた。


 その時、俺は無意識に最初に見えたゾンビのレベルを見定めようとした。そして41という数字を目で認識した瞬間だった。



 哀れな腐肉の魔物は一瞬で消し飛んだ。



 灰になったのか、バラバラに吹き飛んだのか、消滅したのかよくわからないが……とにかくシグさんのレーザー兵器で綺麗さっぱり、光の速さで掃除されてしまったのだ。

 後に残るのはモーゼの道の如く、真っ直ぐに伸びる綺麗な道と、その端にゾンビだった残骸が散らばる肉の御庭畑だった。



 シグさんは一発を撃った後、ライフルの三又の中の回転していた小さな筒を吐き捨てさせると、全身の排熱用の隙間から蒸気を噴出させている。背中のむき出しのエンジンからはユラユラと陽炎を発生させており、今すぐに内部に戻せる状態ではなかった。



『これぞ一撃必滅、一瞬で敵の大軍を圧倒する兵器“レーザーカノン”だ。消費エネルギー約3万、発熱量は通常ビーム兵器の10倍以上! 熱暴走による機体ダメージまで発生させ、そこ等のオートマタではまともに使いこなす事すら不可能な武器だ。それらを克服した末に手にできたのがこの威力だ。いかがかな? まさに神の鉄槌と呼んでも相応しい殲滅兵器だっただろう?』



 凄い。確かに圧倒的だ。


 普通じゃあない。明らかに反則レベルの攻撃だ。こんなの、どのゲームでも最終兵器レベルで使っちゃダメなヤツだろう。こんな武器を装備した相手にキル数の勝負なんか勝てっこない。既に幾十人のゾンビ達が死んだかわからないよ。


 そう、わからないのだ。



「これってゾンビの撃破数、わかりますか?」

『……そんな事は知らない。いっぱいだ』

「それじゃあ勝負にならないでしょう」



 そもそも、他のゲームにありがちなキル数のログなど、サモルドにはない。


 もともと教会地下の敵を殲滅できればよかったんだけど、折角だから俺だってシグさんと競り合いたかった。だのにコレでは、なあ……。


 そんな時、頼れる男アゲイルに話が振られた。


「なーアゲイル。たしかさ、冒険者のギルド長と偶にダイスで遊んでなかった?」

『ふむ、今も持っている。つまり、コレで決めるという事かな?』

「さっすがアゲイル、察しがいい」



 察しがいいのは大変よろしいのだが、そのダイスでキミらはどんな遊びをしていたんだ。まさか双六でもするわけじゃああるまい。



 アゲイルが取り出したのは十面ダイスが二つ。

 片方は0~9の一桁目専用、もう片方は10~100の二桁目専用のダイスとなっている。イカサマが無いかどうか、適当に数回ふって見せる。41、97、107。


 ……なんか、こうして見るとアゲイル、ただのギャンブル好きな妙なオッサンじゃあないか。黒い鎧を装備しているせいで余計にヘンテコに見える。



『では、確認も済んだだろう。……いざ』


 アゲイルが自分の兜の中にダイスを放り込んだ。


『……ふむ、70か』

『そんなものか』


 うん、ホントにそんな数を倒したとも思える威力だった。俺も文句はない。


 いや、納得してる場合じゃあないぞ。普通に考えて勝負にならない。

 こっちも似たような事しないと勝ちがないぞ。



「聖水を使おう、このままじゃ勝負にならん!」

『まあそうなりますよね』


 用意してきた聖水を取り出し、魔弓術を氷属性で使用する。すると、ビンの中の聖水が一本の氷の矢に変化する。魔弓術の一つ、弓矢作成だ。これは他の属性でも可能で、これで色んな種類の矢を作る事が可能だ。


 聖水を凍らせて作った氷矢をルナイラの弓で引き絞ると、魔撃と同じような入力バーが出現する。ほぼ魔撃とやる事は変わりないが、弓でやる魔法は通常の魔法よりも面白い派生攻撃がある。



 片手タイピングで“千氷剣”と入力変換すると、細かいデータの数字が表れる。コレでプレイヤー側の準備は完了だ。


 しばらく前に見つけたショートカット操作でできるAIによる自律自動モードの切り替えを行い、スノーに任せる。


「ユキノ、いつも通り、あとは弦を放すだけだ。ここからはお前の感知に任せる、ここだと思うところを射てくれ」

『では――』



 封印された門の中へと入った瞬間、スノーは天井に向けて矢を撃ち放った。


 感知の数値が高いスノーは、弓を放つ際には動作も反応も的確だ。既に俺よりも精密なエイムで敵を撃つ事が可能となっていた。


 今回は魔弓という魔法みたいな物だが、それでも同じ事だ。弓矢の扱いについては既にスノーに任せきりになっている。それくらい、スノーの弓術は名人級の腕を誇っている。


 やはり闇だろうとハイでなかろうと、エルフはエルフなのだろう。



 門の奥は、意外と広く、天井も高かった。元がドラゴンの封印場所だったせいか、単純にだだっ広い。無駄に広がっているし、射線を切る物がほとんどない。あるとすれば、天井を支えている巨大な柱が幾つかあるくらいだ。



 射った氷の矢は一定の速度で天井を目指すが、その途中で爆発するように巨大な氷の塊に肥大化し、途端に砕けて飛び散った。


 砕けた氷はやがて剣や槍のように形を変えて、天から氷の刃が無数に落ちてくる。


 氷刃は一本一本が的確にゾンビの脳天を貫き、又はゾンビ共の腹を貫き、凍結させてゆく。やがて彼等は凍りついた身体が砕け、地面に崩れ落ちていくと供に、聖水の効果によって浄化されて灰へ変わっていく。


 凍った聖水でもちゃんとアンデッドには効果があるというのも疑問だが……まあ、今更だ。聖水って凍るんだ、とも最初は思っていたんだけど、今では全く疑問にも思わない。


 当然だけれど、頭上から落ちてくる氷刃はスノーに向かってもくる。しかしスノーは最初から落ちてくる位置を把握しているようで、ちょっと移動するだけでこれらを避ける。


「よっしゃ、何匹くらい倒せた?」

『……ざっと、26体ですかね』

「おふぅ……。そんなもんか」



 70対26じゃあ話にならない。力量さがありすぎるバスケの試合みたいな点数差だ。


「そういえば、シグさんはどうしたんだろう。まだこっちに入ってくる様子がないな」

『……さっきの場所でずっと固まってるみたい』

「……え?」



 まさかと思って小田の方を見ると、小田の奴は俺の方を見ていて、両手の平を天に向けて「だめだこりゃ」のジェスチャーを行い、鼻で笑っていた。小田のノーパソの画面には、先ほどの全身砲台と同じ構えをしたまま全く動かないシグさんの姿があった。



『しばらく排熱に時間が掛かる。少しだけ、待っていてくれ』

「あ、はい。わかりました」



 待つ訳がない。

 自分のパソコンに振り向きなおして、スノーに淡淡と指示を出す。


「今のうちに大まかな雑魚は食っておこう」

『わかりました』



 先ほどと同じ要領で残った聖水を全部使ってしまおう。


 二射、三射と続けて放ち、出し惜しむ事もなく最後の6本目の聖水も放ち終える。


 最終的に倒せた雑魚の総数は97体となった。スノーの言う数字に狂いがなければの話だが、特に疑うつもりはない。実際に数えれば、本当に97体は聖水の氷矢で倒したはずだ。それくらい、スノーの耳は正確だ。


 あとこの場に残っているゾンビは、一撃では倒せないような強敵ばかりという事になる。



『待たせたな』



 やっとシグさんが現れた。超長銃で取り回しにくそうなレイザーカノンを抱えているところを見ると、まだそれを使うらしい。


「遅すぎたので、97匹狩りましたよ」

『……本当か?』

「疑うのでしたら数は70でいいですよ」

『いや、信用しよう。ちなみにどうやって数えた?』

「ウチのエルフは耳がいいので」

『なら、あと何体敵が残っているのか当ててみてくれ』


 確かに残数は気になるところだ。

 そういう事なので、スノーには集中してこの場に残る敵の数を数えてもらう。



『……安心してください。まだ33体は残ってます』

『つまり残りの全てを俺が倒せば、逆転勝利だな』

「31体倒せばいいんですよ。逆に俺は4体倒せば勝ち確定です」

『頭いいな、キミ』


 いや、普通に考えるだろそれくらい。こんな人が本当にランカーなのか疑わしいとさえ思ってしまった。

 だがそれは誤解だと認識する。


 そう、今のは――



『……もっとも、ここから先、キミのエルフが4体も倒せるのならばの話だがな』



 ――単なる挑発でしかなかった。


 ただの見栄なら滑稽な台詞だっただろうが、シグさんには確実な手立てがあったと思わせる、実力と算段があった。


 シグさんの肩パーツから妙な長方形型の箱のような物が現れた。すると箱の上から一本、煙を噴きながら飛び出す小型巡航ミサイルが飛び出した。


 弓形を描いて真上から敵地に向かって飛んでいくミサイルを、スノーと俺は唖然として見つめている事しかできなかった。そして着弾すると同時に、赤黒い炎と黒煙が周辺を撒き散らした。

 確実に、ゾンビ数体が吹き飛ばされた事だろう。




『あと四体。俺から先に奪えるかな?』




 さすがにミサイルはズルくないですか?

リアルでダイスを振ったんですが、ダイス目が低かったらネタ回になったんですがね。残念ながら気まぐれな神様は真面目を要求されたようです。

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