本当に大丈夫かね、この二人……
格上の人から一対一の勝負を申し込まれた。
個人的に、これは物凄く光栄な事だ。
対戦ゲームで例えれば、実力者に認められて一緒に切磋琢磨しようぜ、という熱いお誘いだ。
これがもしも格闘ゲームであったなら、俺も脳筋仕様で誘いに乗るところだけれど、サモルドはジャンルが違うからなぁ。
一対一の勝負といえば、イコールで決闘が真っ先に思い浮かんだ。
もし、シグさんと一戦する事になったとして、スノーが万が一にでも殺されたりでもしたら、俺は立ち直れない自信がある。
極自然に物事を考えて行動し、論理・思考さえも変化・成長していくAIは、さながら本物の人間のようだとも錯覚する時がある。いまやスノーは俺にとって、生活にすら及ぼすほどの友人であり、ゲームにおいては最高の相棒であり、ある意味では自分で作った我が子でもある。
その所為か、ここまで一人のキャラに感情移入したのは初めてだ。愛着しかない。
格闘ゲームは別に負けても失うモノは大きくないけれど、サモルドで負けは本当に取り返しが付かない場合がある。
もちろん、対戦で負けるつもりはないし、負けるとも思ってはいない。だが、相手が相当な実力者であるならば俺とて考える。
そもそも一言に勝負と言っても、まさか撃ち合いがしたい訳でもないだろう。その場合、オートマタの方が圧倒的に優位だ。競う価値すらない。
そうだ、その競う事が重要なのだ。
なにをして競うのか。これが問題だ。
……あ、丁度いい事を思いついた。
「シグさん。一対一の勝負なんですが、いま面白そうなイベントを進めている最中なんですよ」
『ほう、どんなイベントだ?』
「教会の地下に封印された扉がありまして、その奥には数百という不死者が蔓延っているらしいんです。そいつ等の討伐が今回のイベントです」
『それは……なるほど、面白そうだな』
「でしょう? 実は一人で殲滅しようと思ってたんですが、今から乗り込んで倒したゾンビの数で競うというのは?」
『よろしい。その勝負、乗った』
わーい、これで面倒なレイド戦を考えなくて済むぞぉ。しかもスコアランキング3位のシグさんを無料で戦力にできるなんて、まったく最高だぜ。……いや、ちゃんと後で報酬くらい支払うけどね。人を都合よく利用したって思われると、後に自分の評判を落としかねない。そういうの、ダメ絶対。
「ゼタっち、さっきの一人で殲滅云々ってマジ?」
「するわけがない。ちゃんとレイド組もうとか考えてたよ? でも面倒くさくなった」
「うん、知ってた」
さすが心の友よ。知ってたなら聞くなよって言いたい。
「でも本当に大丈夫なん? 数百以上のゾンビ、二人で殲滅できるの?」
「さてなぁ……。でも最近、戦闘面に関してはザコばかりで苦戦しなかったからな。竜の卵を持って帰る時も、結局ドラゴンとは戦わなかったし、そろそろ敗北を知りたい」
「調子に?」
「乗ってます」
さて、アホな事ばかり言ってないで本気出して取り掛かるか。さすがにシグさんの目の前で無様は晒したくないからな。
その後、スノーに事情を説明して早速、戦闘準備に取り掛かってもらう。ハイエルフの容疑が掛かっているのも説明すると『どうしてそんなとんでもない嘘を平気で吐けるんです!?』と怒られた。ごめんよ、つい興が乗っちゃったんだ。
あと、一応アゲイルにも教会地下には来てもらう。討ち漏らしで地上にゾンビが現れたら大問題だからな。通路で門番として参加してもらう事にした。
あと、教会から大量に聖水を購入した。聖水はアンデッド系の魔物の弱点の一つだ。一応、持てるだけ持とうとして6瓶くらいになった。これだけあれば十分だろう。足りなきゃシグさんが頑張ってくれるさ。
銀の矢も矢筒に入る最大数二十本用意してあるし、影丸も竜骨小太刀もある。夜目のスキルがあるので暗闇対策も全く問題はない。
『待たせたな』
「それほど待ってもないですよ」
『……これが、オートマタ?』
聖剣の間で待っていると、シグさんが先ほどと同じ装備のままで現れると、スノーが珍妙なモノでも見るように聞いて来た。
「なにか変か?」
『変というより、独特な音を発する生物だな、と思いまして』
「生物というか、機械だけどな」
『口元が人に見えますが?』
「そういうパーツなんだよ」
スノーはオートマタという存在に興味が湧いたらしく、ジックリと観察していた。
考えてみれば、スノーはオートマタと出会うのはコレが初めてだ。銃だって物珍しく見えるだろう。
あと、口元だけ人型パーツを使用しているプレイヤーは結構多い。理由はボイス出力に影響するからだ。
極端な例ではあるが、ロボット系の音声出力が低いパーツを使っているとボイスチャットでもカタコト言葉で他者には聞こえる。だから口元だけ、或いは顔だけ人の顔というオートマタは多い。
『そういえば自己紹介がまだだった。シグだ。キミの名前は?』
「ゼタです。キャラの名前はユキノです」
『よろしくお願いします。ユキノです』
『……ユキノ?』
何か引っ掛かったのか、わざわざ聞き返してきた。
「何かありましたか?」
『いや、スコアランキングでも見ない名前だと思っただけだ』
「まあ、エルフですからね」
『……それもそうか』
本当は偽名だからです。と、簡単にネタばらししても面白くない。別に俺だって嘘をつきたい訳じゃない。ただ、行動原理が面白いか面白くないかで決めているだけだ。……余計にタチが悪いか。
さて、挨拶も済んだ事だし、さっそく地下の封印の門の前まで移動する。後ろではアゲイルと緑茶さんが一緒になって付いてくる。アゲイルは門番役として、緑茶さんには封印の門を開けてもらわねばならない。神官職でないと、あの門は開かないのだそうだ。鍵も大神官が持っていて、それを借り受けてきている。
いよいよ封印の門の前までくると、緑茶さんが最後に不安そうな声で確認を取った。
『あの、本当にお二人で攻略されるんですか? 危険なのでは?』
「『大丈夫だ、問題ない』」
シグさんとハモってしまった。なんか今の、気持ち悪かったな。他人と完全に声が同調すると、無性に気味が悪くなる。
『ユキノさんも問題ありませんか?』
「いつも通り不安しかないけど、もう慣れた」
はっはっは、信用されてるなぁ俺。
『……はあ、わかりました。ゼタさんとユキノさんを信じましょう。精霊騎士団第一席の実力、見せていただきましょう』
いい演出だ。ちょっと得意な気分になった。でも第一席とか言っても、所詮は入った順番だから強さの問題じゃあないんだけどさ。
『時にゼタくん。一ついいだろうか?』
いきなりシグさんが神妙な声音で忠告をしてきた。
『そこは危ない』
そこ、というのはスノーの立っている場所の事だろう。
すると突然、岩でも砕くような豪音が二回、聞こえてきた。
音の発生源は、シグさんの足元だった――
『悪いが、初撃は頂く』




