オートマタとハイエルフ?
オートマタ。
彼等は『サモンズワールド』というゲームにおいては存在自体が異端だ。
何せ、一見した世界観からはマッチせず、雰囲気も戦い方も操作までも他の種族とは違う。それこそ、別のゲームを入植したんじゃないかって言われる程に浮いた存在だ。
彼等は魔法を一切使わないが、架空の近未来武器や実弾銃などを使って戦闘を行う。
操作方法は基本的にはFPSと同じだ。ただ、聞く話によると旋回速度がステータス化されており、本来のFPSのように一瞬で背後の標的をエイムして撃つ……といった行動が難しい仕様となっているらしい。
その他、ゲージなどは弾薬やエネルギー残量、あと機体の部位負荷率などが表記されているそうだ。
ちなみに体のパーツは使い続けていると破損して、修理が必要になるという面倒な設定付き。その所為で開始直後は自分の機体専用のガレージやメンテナンス工房をいかにして手に入れられるかが鍵となるらしい。だがその施設の維持費も馬鹿にならず、中堅以下の敵しか狩れないプレイヤー等は一度の失敗で資金難に陥り、そのまま鉄屑エンドになってしまうのがオチだとか。
初心者には三番目くらいにはオススメされない種族である。でも使いこなせる人ならばサモルドでも最高クラスの戦闘力を誇るオートマタは人気のある種族の一つだ。そもそも戦術の次元が違うからね。中世と近代程の差なら確実に近代が有利だ。
エルフレベルで否定的な声はないのがオートマタだ。単にプレイヤースキルが異常に求められているだけだしね。
……で、そのオートマタの中でも二番目の実力を持つ人がシグさん。現在、何故かこのエルタニアに来ている。
この人、確かエルタニアとは違う大陸で活動しているんじゃなかっただろうか。それにエルタニア王国でオートマタを見たのはこれが初めてなほど、この地域はオートマタには適さない。
何せ、エルタニア王国には機械的な文明の痕跡がまったく存在しないからだ。
他の国では宇宙船が埋まってるとか、SFチックな都市の廃墟ビル群のエリアがあるとか。画像を見た事もあるが、なかなかに壮大なインスピレーションを受けるマッピングをしていた。
そういったエリアにオートマタが欲しがるパーツが存在している。俗に発掘するとも言われている。
もちろん、ガレージ、メンテ工房などもそういったエリアに存在する。
だからエルタニアにはオートマタはまったく居心地がよろしくないだろう。来ても旨味がないし。もし修理が必要になっても、修理する当てもないだろう。
「どーするさ?」
「いや、どうするって……気にはなるけど、放置するしかなくね?」
いきなり話しかけて「ファンなんです握手してください」となっちゃう程じゃあないし。
確かに物珍しいけれども、わざわざ話しかける程でもないだろう。フレンドにはなりたいけどさ、有名人を見かけたからフレンドになりましょって誘うのは個人的にイヤらしいからやりたくない。一緒に冒険や任務をこなしたり、あるいは同じ志を持っていたからとか……そういう切っ掛けがあって初めてフレンドになれるのだと、俺はそう言いたい。
しかしながら、俺がそう思うからと言って、相手がそうとは限らない。
「ゼタっち、なんかアッチからこっち来てるんだけど」
「……マジかよ。頑張れ」
「うへぇ~。マジモンのランカーさんに話しかけられるとか、なんか緊張すんなぁ」
俺も気になるからスノーには少しだけ席を離れると言って小田のノーパソの近くまでやってきた。
小田は俺にも会話が聞こえるように、音の出力設定をスピーカーに変更してくれた。
「こ、こんちはー?」
『こんにちは。やはりキミもプレイヤーだったか。いい装備だ』
シグさんの声は成人男性のそれだった。少しハードな物言いだが、それが許される低音ボイスが中々にマッチしていた。
「ど、どうも。ええっと。そういう貴方はスコアランク3位のシグさんっすか?」
『その通りだ。よくわかったな』
有名人だもん、そりゃよくわかるよ。
背中の武器が異常に目立ってるからね。
対戦車用ライフルみたいな長さと口径のバレルに、水筒みたいな大きさの多種機能付きスコープを装着、バイポッドにもなる可変式の盾を持った人なんてサモルドでもシグさんしか居ない。そもそもライフル一丁、手に入れるのにも難しいのに、それを使える状態にリペアするのも大変なはずで……。パーツも有限、発掘するのも一苦労、レア度の高い武器ほど全てのパーツを揃えるのは困難である。
普通のスナイパーライフルなら少しくらい数もあろうが、シグさんの使うスナイパーライフルはユニーク武器みたいな領域で、そこまでカスタム、チューニングした人は今のところ他にはいないらしい。
実際には何ができるのかは知らないが、その異様な大きさの長銃を持ってたらそれだけインパクトもあり、記憶にも残るというものだ。
『すまない。人を探しに訪れたんだ。少し聞いてもいいだろうか?』
「あ、はい。まあ知ってる人物なら」
『大丈夫だ、有名人のはずだからな。金髪でアイスブルーの瞳、背は低めで主装備が白枝の弓、背中に小太刀みたいなのも装備していて、狩人らしきマントの姿らしいエルフ族なのだが、知らないかな?』
ゆっくりとした動きで小田が俺の方を見てきた。
一度、マイクのスイッチを切る。
「どーすんの?」
「いや、え、どうするっても」
これってスノー――ユキノの事だよな。え、マジで怖い。なんで俺探されてるの?
思い当たる節が全くない……。いや、ホントに全く、微塵たりとも思い当たらない。なにもしてないのに探されてるって怖くない?
「ゼタっち、コイツもしかしたら、指名手配したドワーフの奴等が仇討ちとか依頼したかもしれなくない?」
「仇討ち? 俺が誰かに恨まれるような事をしたのか?」
「ゼタっちは忘れてるだけなんだぜ……鳥頭だから」
そうは言うけどな……。恨みって奴は、やられた側はいつまでも記憶に残ってるモンだし、やった側はあんまり覚えてないもんだろ。
『どうした? 知っているのか?』
「ほら、聞かれてるぞ? 早く答えてやれよ」
「……人の気も知らずにぃ……もう知ーらない。――あーもしもし? 今本人さんが居るんで替わりますね」
マイクの電源を入れた後、突然吹っ切れたと思ったら、俺にマイクを押し付けた。まあ、別にアゲイル経由で話しても良いと小田が許してくれるんならいいけどさ。
「すまんな、アゲイル。ちょっと借りるよ」
『構わない。……二人ほど仲が良いと、こんな型破りもできるのだな』
精霊との契約みたいな話なのだろうか。まあAIの中での設定で、精霊が他の精霊付きに会話するなどあり得ない行為だと驚いてるのかもしれないな。そう考えると、ちょっとした俺のイタズラ心がくすぐられる。
それはともかくとして、今はシグさんとご対面するとしようか。
「どうも。お探しのエルフのプレイヤーです」
『……君達は一緒に住んでいるのか?』
「いえ、違います。なんでか最近、二十四時間ずっと同じ部屋にいる気がしますが、ただの友達です」
『なるほど。ルームメイト、のようなものか』
違います。ただの夏休み限定の居候です。
『……ところで今どこにいる? 君のキャラと今すぐに会えないだろうか?』
かなり積極的だな、この人。こんな有名人に追っ掛けられるほどの事をしただろうか。
「大丈夫ですけど、一応理由を聞いても?」
『噂に聞くハイエルフがどれ程の強さなのか知りたいんだ』
「……ハイ?」
ハイ、エルフと言ったのだろうか。
えっと、ハイエルフってなんだったか。確か通常の寿命よりもさらに長命なエルフで、エルフの祖とも呼ばれる存在になるんだったか。エンシェントエルフは『歴史上のエルフの英雄』としての意味合いがあるので、また違った存在なのだとか。
でもハイエルフって生まれた時からそうだっけ? 妖怪猫又みたいに寿命を迎えてから尻尾が生えて進化するとかそういうのではないのか?
いや、わかんないけどさ。そもそも100歳以上のキャラは作れない縛りがある。その考えは無理があるんじゃあないか?
というか、スノーがハイエルフってガセはどこから出てきたんだ。
「あの、なんでハイエルフだと思ったんですか?」
『隠す必要はない。通常、戦闘が不得意なエルフ族が格上であろうドワーフ4人を瞬く間に全滅させるなど不可能だ。ハイエルフ専用装備であろう銀矢を放つ白枝の弓。本来適性のないはずの氷属性までも使いこなす魔法の手腕。更に、古代エルフ文字を使いこなすエルフが、ここエルタニアの魔法ギルドには所属しているとも聞いている。
私見ではあるが、キミのキャラをハイエルフと推理した。違うか?』
違います。盛大な勘違いです、おめでとうございます。
でもまあ、言われてみればハイエルフと言われても頷けそうな要素が少しくらいはあるけれども……。
しかし自信たっぷりにいうものだから、残念さがにじみ出てしまっている。さすが永遠の二番手だけある。名前負けしてない。
うん、面白そうだからこのまま勘違いさせておこう。
「さすが、わかっちゃいましたか。その慧眼、はんぱねっすね」
『ふむ。やはりそうだったか。俺の目に狂いはなかった』
その目は洗ってきた方がいいんじゃないかな。
『ところで、再び確認させてもらってすまないが、今から会う事はできないだろうか?』
「随分とこだわりますね。別に構わないですけど、いったいなにをするんですか?」
『なに、簡単なことだ』
すると、彼はさも当たり前な様子で、とんでもないことを申し込んできた。
『キミのハイエルフと一対一の勝負がしたい』
スノーの偽称詐欺容疑が勝手に一つ増えた。




