教会の下にゾンビの大群がいるってさ。奴等はどこにでも湧くね
昼過ぎに目が覚めると、画面では既にスノーが行動を開始していた。
どうやら会議まとめの資料を読んでくれたらしい。今はサルタルに話を持ちかけに行き、後日には戦士ギルドの長と会談を設ける場を作ってくれると約束する場面だった。
各々、別行動をして遭遇する事は無かったが、グループアプリを使っているので報連相に問題は無かった。あと会議に参加していなかった商会側のコッコさんも全体的に支持してくれた。
ついでに『足りない部分はこちらで補うよ』と頼りになる札束が「俺に任せな」と煙草咥えたシュールスタンプをくれた。
方々のギルドからも概ねの了解を得て、計画は順調に進められていた。
ただ一つ、場所についてだけはひと手間必要がでてきた。
「教会なのに地下にゾンビ?」
『ええ、そのようでして……』
会議で徹夜した日から一日跨いだ次の日の事だ。
湯呑太子さんはこの日、ログアウトしているみたいなので、俺とスノーが直接教会まで顔を出す事にしていた。
そして緑茶さんから教会の地下には魔物が巣くっていると聞かされたのだ。
実際にはどうなっているのかを確認するために、聖剣の台座がある間よりも、更に地下へと続く通路を進んでいく。するとこれぞ『開かずの扉』と言わんばかりに施錠された門があった。
ご丁寧に門には五芒星の仰々しい魔法陣が彫られてあり、封印してますよって感じで赤い光を発していた。これでは中が確認できない。しかし、これが大きなイベントの一つだという予感だけはする。
『大神官様に確認したところによると、もともとは悪しき黒竜を封じ込めていた場所らしいのです。それ自体は初代エルタニア王が聖剣の力によって討伐されて、使われなくなった場所に後のエルタニア国王が邪神教徒を閉じ込めてる場所として使ったそうです。しかし処置を誤ったらしく、彼等はリッチやワイトというアンデッドの魔物に成り下がり、現在も居残り続けているそうです。故にここから先は一級封印指定区域だそうです』
教会なんて神聖な場所の地下に、ゾンビ軍団が大勢入るという事実。……アウトだよ。
……この世界には武装した悪魔祓いとか居ないのか? いなけりゃ銀の弾丸を込めた聖なるショットガンを手にしたヘビースモーカーの探偵を今すぐ雇うべきだろう。
「まあ、何でもいいや。上手く処理すれば場所は使ってもいいんだろう?」
『それなら大神官様も「彼等を葬ってくれるのであればむしろお願いしたいくらいだ」とおっしゃっておりました』
じゃあやった方がいいな。たぶん、こういうのはイベント扱いになって、スコアポイントも貰えるだろうし。経験上、この手のイベントは参加者に千、MVPは五千くらい手に入る。まあ、大雑把にだけどさ。
『……精霊ゼタ。たぶん簡単に処理は無理だと思う。ここの奥の敵、数が多すぎる』
スノーが冷静に門の向こう側を音で確認していた。感知スキルのレベルが高いので信頼性は高い。
「ちなみに数が多いってどのくらい?」
『ざっと百は下らないでしょうか。門の向こう側からは声が絶え間なく聞こえてきます』
百以上は多いなぁ。
敵を無限に切り倒すだけのゲームならまだしも、さすがに一人で対処できる規模じゃないな。
それに魔物のレベルは実際に見てみないとわからない。何百年も前のゾンビという設定なら、かなりの強さになっていてもおかしくない。
普通のゾンビならまだ戦った事はある。ゴブリンよりもまあまあ強い程度だ。一体だけなら一桁のレベルでもギリギリ倒せる。でもゾンビ共って元が人間なせいか、スキルを使ってきたり魔法を使ってきたりする。
戦い方にも個体差もあり、連帯感も持ち合わせている事から、たまに異名持ちが複数固まっていることもある。結構厄介な敵だ。
「大規模レイドで一斉に押し掛けるのが無難かな」
『レイド……ですか?』
そういえばスノーはパーティを組んだ事は数回あっても、大規模な戦闘はまだやった事がなかったな。基本ソロプレイだし、それ以外はアゲイルとデュオ組んだり、偶に4人以下のパーティでやってきただけだからな。
「簡単に言うと、大人数で軍隊みたいなのを組んで全員がリーダーに従って戦うって感じかな」
『なるほど。では、精霊ゼタが今回は指揮官になるので?』
「いや、俺は無理。戦ってる最中に仲間の確認とかあんまりしないし」
やろうと思えばできなくはないかもしれないけど、個人的に後ろで指示飛ばす役に面白味を感じられないんだよね。どうせなら前線で暴れたい。
それに大人数で戦うなら、ラックさんに来てもらいたい。あの人は俺と違って周囲をよく見てるし、指示も的確、時間管理も上手く執り行なうし、昔から一緒にやってきた実績もあるから無難だ。
あと、ころぽんさんも指揮ができる。この前、一緒に竜の卵を採りに行った時にそういう話をしていた。普段から後衛専門でやっていたらしく、場を仕切るのは慣れているのだとか。
精霊騎士団内に限れば、指揮を任せられるのはこの二人だろう。
でもなぁ……この場合、アリッサとメロンソーダの二人に来てもらうって方が問題だなぁ。
スノーはアリッサの事を避けてるし、今でも二人が会話している様子を見たことが無い。
メロンソーダの方は魔法学院から中々外に出たがらないし。あんまり使いすぎると敬遠されそうだ。俺だって頼られるのは苦手だし。
いや、考えるべきはそれだけではないぞ。
大規模というなら精霊騎士団以外の戦力を雇わなくてはいけない。その雇い主はゲーム側が用意した人物ではない。俺になるわけだ。
そうなると考える事が一気に増える。いったい、どの程度の戦力を用意すべきか、精霊付き限定で募集をするとしてもレベル制限をいくらにしておくか。報酬金額はどうするか、手当てはあるのか……などなど。
「ぐぅ。この問題は今すぐには解決できそうにないな」
『そうなのですか?』
「ああ。それに俺の頭がそろそろ限界だ。いい加減、真剣になり続けてウンザリしてるんだ」
『もう少し頑張りましょう。真面目な時の精霊ゼタが私は好きですよ』
「くそぅ、くそぅ! あなたはそうやっていつも僕の純粋な心を誑かそうとする!」
好きとか簡単に言うなや、惚れてまうやろ! そして童貞が露呈しちゃうだろ! まあ、それがどうしたって気もするけど。
スノーの期待にはできうる限りは応えたいけれども、人には得手不得手がある訳でして。
実際どうするかは、人を募集してから考えてみるか。
集まった後でどうするか決めればいいし。
最悪、本当に俺が指揮する事になるかもしれんが、もうそうなったら腹を括ろう。その上で皆には死んでもらおうか。いやサモルドの場合、死は冗談にならないか。キャラロストしちゃうし。
「なあなあ、ゼタっち」
「ああん? んだよ、今の俺は割と機嫌がよろしくないぞ」
「いやいや、ちょっと俺の画面見てみ」
そう言いつつ、既に小田は自分のノーパソの画面を俺に向けて、アゲイルのいる冒険者ギルド内の、ある一点に指を差して見せつけた。
そこには、明らかに世界観からして場違いな存在が居た。
仮面ヒーローみたいなフォルムをした黒のアーマードな胴体。手足も同じく、サイボーグのような造形でテカテカと光沢を帯びている。
腰には異常にバレルの長い拳銃を装備。頭は顎なしのバイクのヘルメットみたいなので、スクリーンが黒塗りで、そこに六つの青く光っている点がある。言ってはなんだが……リメイク版ロボコ○プのパチモノみたいな感じだと率直に思った。
それと一番の特徴が、背中に持っている大型のスナイパーライフルと、左腕の可変式の盾だ。
それらの特徴ある装備品を持っている事から、とある有名な人物の名前が思い浮かぶ。
八月現在、スコアランキング第三位にして、『サモンズワールド』で遠距離最強の名を持つトップランカーの一人。
「オートマタ永遠の二番手のシグさんだ」
……いや、不名誉って思うかもしれないけどさ、仕方が無いじゃん。事実、スコアランキング上位常連のオートマタ“アンドロメダ”さんの下にいっつもいるし、ネットでも皆そんな反応だし、そう覚えちゃったよ。
そんな人がどうしてこんな所に来ているんだ。
聖なるショットガン云々はコンスタンティ○。おもしろいよ




