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精霊騎士団 特別会議②

 俺はね、別に誰かを出し抜こうとか思っていた訳じゃあないんだ。ただ、早く会議を終わらせたかっただけなんだ。


 それが、なんで国家の政の一つを任されるんだ。おかしいじゃないか。俺が学級委員長を任されるくらいにおかしい。こんなの間違ってるよ!



 とはいえ、うだうだと文句を垂れるつもりではない。文句を言った分だけ時間が過ぎ去ってしまう。

 こうなったらもう穴だらけでもいい、即席で骨組を考えて、さっさとスコアポイント競争の前線に復帰するしかあるまい。



『さて、もう議論するべき事は残ってないかな?』

「ラックさん! 重大な事を聞いてません」

『なにかな?』

「予算! 予算プリーズ! まさかス――ユキノのポケットマネーから出せなんて事は言わないですよね?」

『……ああ、それもそうか。僕もうっかりしてたよ』



 いや、それがないと大問題なんですけど。何に使うかはまだ決めていないが、閉じ込めておく牢屋の土地に精霊付きでも抵抗できない檻を作らなくてはいけない。開発費も建築費も必要になってくるだろう。


『アリッサ、どれくらい出せそうかな?』

『……私は精霊ゼタの言った案が実現するのであれば幾らでも財政を割いても良いと考える。財務大臣に問うからしばらく待て』



 資金は潤沢と考えていいらしい。

 そうと決まれば今度は人手か。


「すみません、ころぽんさんとマダオの二人に協力をお願いしたいです」

「え……いやん」

「俺一人とか無理だから、今回はマジで助けて」

「ありゃ? 珍しくらしくないモノ言いじゃん。ゼタっちにそう言われたら断れないねぇ」


 よし、一人巻き込んだ。地獄に巻き込むならお前も一緒だ。


『私も別に構わないですけど、なぜ私なんでしょうか?』

「ちょっとお願いしたい事がありまして」


 ごめんなさい、ころぽんさん。貴方に恨みはないんですが、その何となく断れない性格を見込んで道連れにします。それに絶対この人、有能聖人だし。


 俺の勝手なイメージだけど、社長秘書やってて社長のセクハラに耐えつつ毎日ネトゲで発散してる美人さんって設定が頭の中で構築されてたりする。まあ、ボイスチェンジャー使ってる可能性もあるけどね。



 でも頼みたい事があるというのは本当だ。

 メロンソーダが作った魔道具ならきっと精霊付きでも壊れない檻や手錠を作ってくれるハズだ。それくらい、彼女は魔法分野に関してはエキスパートなのだ。




『若いの、ワタシは誘ってくれんのか?』

「湯呑さんが? いいんですか?」

『ご意見番みたいな立ち位置が面白そうじゃと思うてな。いかんかな?』

「いえいえ、湯呑さんさえ良ければよろしくお願いします」



 湯呑太子は第九席の“緑茶”さんのプレイヤーだ。


 緑茶さんは母性溢れるような女神官さんで、クラスはハイプリースト。泣きボクロや厚い唇なんかは、世代差での好みを感じる。たぶん湯呑さんの喋り方はキャラ作りではなく、リアルで御爺さんの歳なんだと思う。


 普段は教会にずっと籠っている。戦闘経験はなく、ずっと教会に訪れた人を治療しているだけらしい。


 この人は街の外に出かけて冒険をするようなタイプではなく、街を巡ったり緑茶さんと気兼ねなく会話するなどの、いわゆる世界観に入り込むタイプの遊び方をする人だ。エルフ族のプレイヤーにそういう楽しみ方をする人は多い。



 出会った経緯は、とある暗殺任務で奇病を治そうと教会へ訪れた時に、たまたま緑茶という名前を耳にしたのだ。それを聞かなければ、まず彼女がアバターだったとは思わなかった。


 精霊騎士団に入った経緯は、僧侶タイプの人も居なかったし、試しにスカウトしてみたら案外乗り気だった、という感じだ。


 操作は不慣れらしいけど緑茶さんが凄く優秀で、教会の高位神官と同じく、人体欠損を治せるレベルだ。



『とりあえず他の皆は解散して大丈夫みたいだね。じゃあゼタ君、後は頼むよ』

「任せてください。バシッと一週間で整えてみせますよ」

『またテキトウに言って……それが本当にできたらキミを神と崇めてあげるよ』

「マジですか!?」


 冗談でも言ってみるものだな。よし、本気だすか。神になったら何しようかな……宮殿でも築くか。「バ○フバリ! バ○フバリ!」と騒がれるくらいに大きいのを所望しよう。ダンサーが千人くらい必要になってくるだろうな。今から踊り子を育成せねば間に合わないぞ。


「ゼタっち、そんなのホントにできるお?」

「ハハ、無理に決まってるじゃないかJK(常識的に考えて)」

『相変わらず仲良しだな、この二人は』



 最後は誰が言ったのかはわからないが、とりあえず会議は終わりを迎え、円卓の部屋には4人だけが残った。残った人数と比べると広すぎる部屋だ。あまり落ち着かない。


 まあ話し会いが始まれば気にもならないだろう。さて、こんな時間の掛かりそうな事はささっと片付けよう。俺も暇ではないのだ。


「じゃ、早速! 誰か問題点を教えてください。今考えている事は二つしかありません。一つはプレイヤーによる治安維持部隊の設立。もう一つはプレイヤー専用の新たな監獄を作る事です。三人とも、何か足りない点などはありますか?」


 するとメロンソーダが手を挙げた。早速何かあるようだ。


『あたし、寝てていい?』

『ご、ごめんなさい。もうダメじゃない、ゼタさんが珍しく真面目にしてらっしゃるのに!』

『いや、あたしが寝てる間に、ころぽん喋ればいいじゃん。できないわけじゃないでしょ。じゃ』

『あ、コラ!』



 メロンソーダが自分に対して闇魔法を使用した。どうやら音が聞こえなくなる状態異常『無音』に掛かったようだ。さらに机に帽子を頭に乗せて突っ伏して寝てしまった。なんかデジャヴュを感じると思ったら、授業中の俺の姿だ。



「……すみません。後からころぽんさんが伝えてください」

『ごめんなさい。お恥かしい……』

「ゼタっちがアレを否定すると自分を否定する事になるよね」



 うるさい。今、真面目な話をするんだから茶化さないでくれ。ちなみに最後の小田の発言はマイクを切っていたようで、ネットの向こう側では無反応だった。


 とにかく話を戻すためにころぽんさんが再び話し始めた。



『新事業を始める際に大事なのは、目的や意図、狙いを決める事ですかね。今のところ、ゼタさんはそれらを押さえてますよ』


 新事業って言い方、やっぱりころぽんさんは発言が社会人って感じする。まあ、この場合は新制度だと思うんですけどね。



『ただのぉ、その二つだけでは問題があるのではないか?』


「ご隠居、何か策がおありかな?」


『ほっほっほ、急くでないわい。なあに、無駄に歳を重ねた訳じゃあないぞ』



 なんか小田と湯呑さんが演技混じりに語りだしたぞ。



『そもそもの、人を扱うには飴と鞭が必要という。ゼタ坊の話には鞭しかないのではないか』



 飴と鞭はわかる。鞭というのは処罰の事だろうけど、飴ってこの場合、何の話になるんだ。


「? ええと、つまり、どうすればいいのですか?」

「ゼタっちは人の考えを読むのは得意なのに、大衆を動かすのは苦手だよな。俺にはわかったぞ」

「……なんだよ、お前にはわかったのかよ?」


「湯呑さんが言いたいのは『こっちの方法を推奨します。色々と特典つけますよ!』って感じの誘惑だよ」


『マダオ君はわかっとるのお。そういう事じゃて。治安を脅かさない場合の利点を作ってやらねば人は平和を維持できぬし、従わぬという事じゃ』


 ……つまり、どういうことさね?


「ゼタっち、具体的な話をしようか。冒険者ギルドがあったとする。そこにプレイヤーがやってくると、今まではFランからスタートしてたじゃんか」

「そう、らしいな?」


「これをやめて、Dランからスタートできる事にする。ついでに精霊付きだとボーナスとして依頼料金がプラスされたり、宿屋の宿泊が無料になったりする。武器・防具屋の割引とかもあるし、依頼も優先して良い物が選べる。そうだ、倉庫屋とかワンフロア分無料とかどうよ?」

「……なるほど」


「ここで、逆にNPCに迷惑を掛けたり、犯罪行為をした場合にはこれを無くす。ギルド除名もして今までの経歴も全部パーになる。倉庫のアイテムも全部没収。ゼタっちならどう思う?」

「間違いなくブレーキがかかるな。凄くわかりやすかった。つまり、それが飴と鞭か」



 迷惑行為をするよりも利点が多いと思わせる必要があるのか。確かに、それは重要な気がしてきたぞ。


 今まで悪いヤツは叩いて潰せって考えていたけど、そもそも悪くなる前の時点のプレイヤーも居るかもしれない。そちらの意識も足りてなかったな。



「ご隠居、さすがの慧眼っすね」

『いやいや、そこまでワタシは考えとらんぞぉ。マダオ君の提案はいい筋をしておる』



 おっと、なんだか湯呑さんが小田の事を気に入ったみたいだ。よかったな小田。ちょっとだけ複雑な気分だけどね。おのれ、小田のくせに生意気な……とは思う。

 でもそれ以上に友人が認められる方が嬉しいけどね。



 さて置きまして、残念ながらこれで一つまたやるべき事が増えてしまった訳だ。



『精霊付きに対する優遇処置も考えないといけなくなりましたね』

「そうですね」



 これはまた、長くなりそうだ。

次回に引き続きます。

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