表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/181

プレイヤーの質

 地下水路から地上へ出ると変装していた服装を解除し、もう不必要なので魔属性で消滅させてしまう。


 こういう、戦闘面とは関係のない場面で闇エルフのユニーク特性である魔属性は大活躍していた。モノが一瞬で灰になって消え去るのだから暗殺任務時の証拠隠滅などにも大助かりしている。ゴミの処理なんかにも使えるし、クリーンだ。


“ユキノ”としての姿に早変わりすると、あとは貴族街の中にある『ぴよぴよ亭』という料理屋を目指す。何人かの精霊騎士団の議員が参加・不参加の表明をしている。すぐに来れそうなのは“大豪商”のルピアこと『コッコ』さんだけだった。他は返事がなかったり、まだわからない人ばかりだ。そもそも社会人も多いし、夏休みを謳歌している俺と小田がおかしいのだ。参加者は少なくて当然だ。



「今更思ったんだけどさ、別に今日急ぎでやる必要もないんじゃね?」

「まあやるって言っちまったんだし。また今度、団員が揃ったらもう一度開けばいいじゃん」

「そうだねぇ。あとゼタっち、団員じゃない、議員だぜ?」

「……そのどや顔にビンタしてぇ」



 どうでもいいんだけど、精霊騎士団のメンバーは団員呼びではなく、議員とされている。なんでかって、俺が聞きたい。どうにも小田はアーサー王伝説がらみで考えているらしく、最初は「円卓騎士団って名乗りませんか!」とうるさかった。次いで「精霊を入れた方が……」とラックさんが言うと「じゃあ精霊騎士団でいきましょう、ちなみにメンバーは卿って呼び合いませんか!?」と、興奮気味に熱苦しく推し進めていった。


 で、最後にアリッサが卿の称号は簡単には授けられないとして、精霊騎士団は騎士団なのに議員という事になった。正直ウケル。


 俺はなんでもいいけどね。ラックさんは苦笑いだった気がする。


 こういう話は古い仲だからこそ許される押し問答だと思う。ちょっとギリだけど、俺は小田なら許せるかって気になった。


 気心知れた相手でなければ、押しの強い要求はネットでも嫌がられる。



 例えば――



『そこの弓使いのエルフの人! 一緒にダンジョンに行かない?』

『オイやめろって。エルフっていえば最弱種族だぞ。誘うなよ』

『え、そうなの? あーごめんねー。て、返事ないからNPCだったかな?』

『あん? NPCで戦闘キャラなのか。なら一応誘って連れてくか。肉壁になるし』


 突然現れた二人の冒険者風の人間達がスノーの行く手を阻み、プレイヤーが好き勝手言ってきた。



 ――こういう奴等は嫌がられる事この上ない。まくし立ててきたかと思えばいきなり貶すとか、無いだろ。


 そもそも何勝手に話しかけてきてんだよ。挨拶くらい先にしろよ。つか、肉壁とか言ったか、このクソ野郎。



 プレイヤーの程度もヤバそうだったけど、ゲーム内キャラも同様に怪しい雰囲気だった。作り笑顔の得意そうな詐欺師って印象で、装備は様になっているがあんまり強くなさそうな剣士二人組だ。バランス悪い。


 個人的にはこういう奴等は絶対に関わり合いたくない。彼等とフレンド登録すると骨の髄まで利用されて使えないと思った瞬間に使い捨てられる。本当の話だよ。


 こっちは無視して先に進みたいのだが、2体のキャラが進行方向の邪魔をする。向こうはお構いなしに絡んでくるというのが厄介だよ。



 こういう奴と遭遇すると「プレイヤーの質が落ちたな」と実感する瞬間でもある。


 仕方がないのでチャットチャンネルをオープンにして一応、礼儀を通す事にした。



「もしもし。聞こえますか?」

『あ? なんだよ、いんじゃん。つーかガキか? まあいいや。おい、今からダンジョン行くからよ。一緒に行かねえか?』

「すみませんが、用事があるので失礼します」



 丁寧に断ったつもりなんだけど相手はまた余計なことを言い始める。



『おい待てよ。エルフなんて最弱種族使ってる分際で俺らに誘われて光栄くらいに思えよ』



 そんなの思えねぇよ。胸くそ悪い奴だな。


 というか貴方、最初は『エルフなんて誘うな』と言ってくれたじゃないか。断った事が癪にでも障って意固地になったか。……そんなところだろうな。


「そもそも人のキャラを肉壁にするとか言ってる時点でご一緒したくありません」

『クソ生意気なガキだな……。中坊だろテメエ?』

「ゲームの中でまでリアルを持ちだすのはどうかと思うんですが?」

『うっせえな。中学のクソガキが生意気にネトゲしてんじゃねえよ!』

「……はぁ」



 もう面倒くさくなってきたのでオープンチャンネルは切った。

 相手側のキャラがよく見えるようにスクショを撮って保存。画像を二号機のパソコンに送信してピクチャの切り取り加工して、すぐにブラックリストの晒しスレ板に上げておく。罪状は強引な勧誘、及び人に暴言を浴びせるなどの恐喝。進路妨害などの迷惑行為とことさら酷く晒しておく。


「スノー。面倒くさいから屋根上に登って移動しよう」

『わかりました』

『あ、テメエ――!』


 シノビクラスの特技として壁走りが可能となっている。それを利用して壁から垂直に走って登りきった。


 本当に、なんであんなのがいるんだろう。少し前まではネチケットを弁えた人しかいなかった筈なのに。


 しかもこのゲームではブラックリストやブロックユーザーの項目がないから、今後会わないようにできると言ったシステム的な解決ができないのが問題だ。二度と遭遇しない事を祈るばかりだ。



『あの、先程の肉壁というのはどういう意味でしょうか?』

「……敵の囮にするって意味だよ。無視してくれ」



 スノーが絶句していた。胸くそ悪くなったのはスノーも一緒で、連中を軽蔑の眼差しを込めて一瞥すると、もう二度と振り返る事は無かった。


 ああ、もう最悪だ。あんなのと関わるだけで嫌な気分にさせられてしまった。なんであんな奴等が同じゲームで遊んでいるんだ。ホント、勘弁してほしい。






 ぴよぴよ亭とは、プレイヤーコッコさんが提案した、割烹料理店形式の隠れた名店だ。


 板前長は王宮勤めの元副料理長だった人物で、弟子が五名ほど裏の調理場で働いている。精霊騎士団の会議中にコッコさんがルピアを使ってヘッドハンティングをしでかした経緯がある。アリッサは眉を痙攣させながら了承した。アリッサも相当苦労人だと思うよ。



 そのぴよぴよ亭に到着すると、嫌な気分を払拭するためにさっさとスノーには料理を食べてもらう事にした。

 スノーは卵料理がお気に入りで、茶碗蒸しとか出し巻き卵とかスクランブルエッグとか、軟らかくてフワフワしている黄色い食べ物をよく好む。これで機嫌を良くしてくれればいいのだが、やはりそこまで単純ではなかった。



 今日のスノーは一口食べても、あんまり良い表情をしてくれない。口から溜息を漏らしては、スプーンで茶碗蒸しの具をつついていた。


 しばらくするといつもの鎧姿ではない、普段着の姿のアゲイルが来店し、一緒に小さい女の子のルピアが登場した。可愛らしいメイド服を着用していて、少しオドオドとした様子が微笑ましい。そんな見た目であるから、凄くかわいいという印象を覚える。……逆に言うとそれしかない。


 だが、そんなキャラが“大豪商”の称号を持っている。きっと誰も初見では見抜けないだろうな。ちなみに前回のスコアランキングでランク15位入りした猛者でもある。戦闘職でないのに凄い事だ。



『お、お疲れ様です。マスターもしばらくすれば来られるらしいのです。はい』

『ルピアは相変わらずかわいい』

『そうだな。今日も可愛らしいな』

『あ、ありがとうございます。コレも全部、マスターのお陰です』



 えへへ、とはにかみながら照れるルピアの姿に癒されたのだろう。やっとスノーが硬かった態度を崩した。


 ちなみに、成り上がり成分としては精霊騎士団の中でもルピアが一番だ。何せスタートラインが奴隷商人に売り飛ばされる寸前の農家の娘だったらしいのだ。


 コッコさんが何をしたのかは語られないが、とんでもない商才を持っているのは確かだ。未だに戦闘スキルなし、三枚舌を利用して“大豪商”まで上り詰めてきたのだ。現実世界でもコッコさんは只者ではないだろう。



『あーい。ごめんくだせえ』



 気だるい声と共に、今度はメロンソーダが現れた。プレイヤーのころぽんさんが挨拶をしないので、恐らく自律動作でやってきたのだろう。スノーが真っ先に気にした様子で聞き出した。


『メロン、引き篭もるんじゃなかったの?』

『飯食ってからなー。腹へったー。オジジ、ショーチューっての一本。あと焼いた肉』

『では私はお任せコースを頼もう。火酒ならなんでも』

『わ、わたしは、えーと、えーと……な、なんでも、はダメでしたね。ええと、えーと――』

『ルピア様。今日は、北海から新鮮な魚が届いておりますよ』

『――そ、それでお願いします……』


 なんか画面が騒がしくなってきたな。でもこういう場面を見てると俺も少し嬉しくなる。良い雰囲気だからな。


 どうでもいい疑問だが、相変わらず食文化に関してはレベルの高い世界だな。スノーが食べてる卵料理とか、コッコさんの伝えた料理を簡単に再現できるし。酒なんかでも、俺は詳しくないけどいろんな種類が用意されてるし、どこで取り寄せて用意しているのか。物流が凄いのだろうか。……ワイバーン運送とかありそう。



 しばらく、現実側の俺達も一緒にサンドイッチを食い始めた。小田は今日、泊り込みをするつもりらしく、食事まで用意してくれた。嬉しくはあるのだが、お前は俺の家に居過ぎではなかろうか。



『あ、マスターが帰ってきたみたいです』

『こんばんは、皆さん。お久しぶりですね』


 この仰々しい丁寧口調の男性こそ、ルピアがマスターと敬愛を込めて呼ぶ人物、コッコさんだ。名前とは一切関係なく、普通の人っぽい印象を受ける。


 あと、たぶんだけどルピアにマスター呼びさせているのは本人の趣味だろう。



 俺達はお互いに挨拶をしてワチャワチャと会話し始めた。

 それから近況を聞いたり、近頃の変化などを耳にしていた。



 そして、この後関わる騒動に一番かかわりの有る話をコッコさんの口から耳にした。



「サモルドがブーム?」

『そうなんだ。まあ、まだ兆しがあるって程なんですがね。攻略サイトも閲覧数が伸びてるらしいですし、なんで誰も知らなかったんだって一部ではこぞってダウンロードしてるみたいですよ』

「にわかには信じがたいことですね」



 このサモルドが人気ゲームになりえるのか? ううん、考えにくい。


 だって初見殺しのオンパレードで一見さんお断りを『完全なる(復活しない)死』という形で知らしめてくれる、酷いゲームなのだ。ゲームバランスだって酷いし、結局エルタニア周辺の魔物が弱い場所から皆スタートする羽目になっている。


 俺は一度も死んでませんけどね。さすが俺。


「あ、でも新規が増えたってのはわかります。ココに来る前に変な二人組に絡まれたんで」

『変な二人組?』

「興味があるなら晒し版に載っけてるんでどうぞ」


 コッコさんがしばらく無言になり、画像を閲覧したらしい。相変わらず行動が早い。

 すると小田が会話に混ざってきた。


「そういえば俺の方でも、妙な話をギルドで聞きましたよ。なんか、ドワーフ達が変だって」

『もうその話を聞いているんだね』


 なんだ。なにが変なんだろうか。



『エルタニアの近辺でも問題になってるんだけどね。無断で領土侵犯を繰り返しているみたいなんだよ』



 コッコさんの話をまとめるとこうだ。




 エルタニアの西部側にドワーフの国がある。そこのドワーフ達が周辺諸国へ侵入し、無断で鉱物資源を取って持って帰るのだそうだ。

 しかも恐らくは精霊付きであろうという噂である。


『精霊付きは異常な強さで手がつけられない上、常識がない連中だって商会の人たちは愚痴を漏らしてるよ』

「まあ、確かに……常識のない連中も居ますよね……」



 異常な強さとは言うが、NPCが弱いだけなんだよな。最近の調査で分かった事だが、おそらくNPCは全てレベルが1なのだろう。過去、スノーが筋トレをして強化していたように、NPCはレベル1を固定としてステータスを強化している状態なのだ。


 それもこれも、鑑定眼をもつプレイヤーが現れるまでわからなかった事だ。かなりレアなスキルみたいで、俺も一人しか遭遇した事がない。ちなみにその人は精霊騎士団の一人のドワーフだ。


「でも、俺達だって一応節度は守ってるつもりですけどね」


『僕やゼタ君、マダオ君なんかは世界観に則って遊んでいる自然主義(ナチュラリスト)と呼ぶべき存在だ。僕等はAIに任せている所もあるし、キャラを蔑ろにはせず、共に行動する事を肯定している。そっちの方が効率的だしね。


 逆に、今回の騒動の中心は機械主義(マシニズム)の連中だ。AIの感情を無視して行動し続けるから、彼等は疲労度限界を超えてもキャラを使い続けている。まるで機械のようにキャラを使い潰すことからそう呼ぶことにした』


 なるほど。自然と機械か。対比が上手い事表現できている。


 でもキャラを使い潰すとか可哀想な事をするんなら、オートマタでも使えばいいと思うんだがな。いや、オートマタだと燃料切れを起こすと機能停止するのか。その点、生物系の種族は疲労度限界を迎えても、一応動きはするのだ。真っ白に燃え尽きて生き物とも思えない動きでバッドステータスもかなり強めだ。俺達はその状態を白ゾンビと名付けていた。



『あと気になるのが、マクロを使用してるんじゃないかって思うんだよね』

「マクロって……違法じゃないんですか?」


 マクロとは、ある一定の動作を自動操作で行い、ゲームを楽してプレイするプログラムの一つだ。よく、ポチポチするゲームで使われる事が多いが、3Dアクションのゲームにも使われる事がある。昔、中国人がそれをして、レアアイテムを日本人プレイヤーに売るという話をニュースでやっていた事がある。いや、あれはボットだったかな?



『一応、運営には聞いてみたんだけど、調査するって言ったっきり、返答が無いんだよね』

「相変わらずの塩対応……」


 そういえば、スキルのレベルアップ時のタグも結局変わってないし、というか最近では慣れた。今では画面中央にタグが表れても気になるほどでもなく、無視して戦闘を続けるようになっていた。これが調教か……。




『とにかく、僕は近々、精霊騎士団で議会を開くべきだと思っている。色々と手を打つべきだ。精霊付きの評判が悪くなると、倉庫屋や運送屋に悪評が移りかねない』


「結局は自分のテリトリーが関係してたんですね」


『もちろんだよ。人は基本的に自分の欲望を優先すべきなのさ。それに、人に迷惑を掛けない欲望はすべて善である』



 良い性格してるよな。コッコさん。本当、なんでそんな名前なんだろうな。


『二人とも、協力してくれるかい?』

「悪い話じゃないんで、もちろんいいですよ」

「任せてくださいよ。ところでコッコさん。話は変わるんですけど、ちょっと竜小屋とか作りたいんですが――」




 こうして商談を交わしたり、面白い話を聞いたりしつつ、幾時間後に食事会は終わりを迎えた。



 この後、アゲイルは冒険者ギルドの長であるブランドーに会いに行き、スノーはエルタニア国内の森に建てた自宅に帰ることにしたのだった。


ネトゲしてる時に遭遇した嫌な人を思い出しながら書いてました。

本当にいるんですよ、変な人。



だから私はそういう人たちが来ないように部屋名を「ホモが集まるVC部屋」を立てて、ネタだとわかる人とだけ遊んでました。嘘と思われるかもしれませんが、マジです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ