嵐の前の平和
初めての我が家は、色んな人の手を借りて、ちょっと憧れていた、高い木の上に建ててました。
愛着もあるし綺麗に使いたい。傷だってつけたくないし、丁寧に、丁寧に、我が子を可愛がるように手間をかけて家を大事にしていました。
ある日、我が家を焼かれました。
火を点けた奴はそんな家主の苦労も知らずに、笑ってこう言いました。
そんなところに建てた奴が悪いのだ、と。
7月の下旬。
夏休みが訪れるまでに、俺とスノーの周囲では壮大な物語が繰り広げられていた。映画にして3本くらい作れそうなスケールだ。
暗殺ギルドの初仕事は壮絶な依頼で最後は大往生だった。なんであんな良い奴が……今思い出しても涙が止まらねえよ。笑い無し、完全シリアスでお届けされた最初の任務は無事に完了したのだが、この話には続きがあった。……――と言った具合に、この話は延々と続く上に長すぎるので省略する。
次に“精霊騎士団”を設立した。これが一番重要な気がする。ラックさんが中心となり、俺と小田が外堀を埋め、いち早くエルタニア王国入りをして役立ってくれた『ころぽん』さんと、『Re:to』さんの二人が議会に参加し、一緒になって色んなシステムをこのエルタニア王国に構築した。
その代表的な一例が『倉庫屋』だ。
これが最初に必要だと思ったのは、アイテム袋が存在しない事による不便さだった。
色んなゲームでも当然存在するハズの収納袋やアイテムボックスが、このゲームには存在しない。当然、倒した魔物が大きければ、その素材を持って帰ってきたとしても保管場所に困る。
それで考えられた結果が『倉庫屋』だ。
ただ単に荷物を預けて置ける倉庫なのだが、後に運搬業にも手を出した。色々と便利な仕事を付け足していく内、順調に営業は軌道に乗り始め、現在は議員の一人“大豪商”の二つ名を持つ人族『ルピア』が管理している。
それに、倉庫屋にはこのゲームにおいての重要な役割があった。
『サモンズワールド』で自キャラが死んでしまった場合、どうなるだろうか?
死体はそのまま、放置されて置いてけぼり。持っていた装備や道具もそのままとなる。
そうなるとプレイヤーはどうにかして取りに行きたいと思うが、残念ながら回収は難しい。今まで苦労して手に入れた財産はなくなり、そのままではやる気も起きない。
だが、この倉庫屋にアイテムを精霊名義で預けておけば、キャラロストした後に、新キャラを作成してもある程度、資金と装備を整えて再開することが可能となるのだ。
その他はアイテム交換所を作ったり、プレイヤー達の集会の場を設置したり、初心者の扱い方や礼儀などを取り上げて、面白くない部分を少々積み上げていった。
もちろん、精霊騎士団の皆で狩りをしたり、ダンジョン攻略をしたりと、クランとかチームみたいな事をして遊んだりもした。戦闘職の人たちは基本的にユニークな戦い方ばかりで面白かったな。
そして、大きな変化がもう一つ……。わたくし善太郎ことゼタが、某動画サイトで動画デビューしました。
と言っても自分の動画ではなく、奏のプレイヤーであるリトさんの動画内で登場しただけだ。
リトさんは生放送のゲーム実況者で、俺はよく知らなかったのだが結構ファンがいるみたいだった。撮影する時に一緒に遊ばせてもらった。現在は機材のオススメなどを聞いて、近々動画を撮影するつもりだ。何をするべきか悩みどころである。
そんなこんなの5月と6月も終わり、夏休みをクーラーの利いた部屋で俺と小田は順調にゲームに勤しんでいた。
数ヶ月前の約束を果たすためだ。
アゲイルの竜騎士復職のため、ドラゴンの巣から卵を奪取するのが今回の旅の目的だった。
メンバーはアゲイル、スノー、メロンソーダの3人。激戦が繰り広げられる可能性もあったが、いざドラゴンと相対するとアゲイルが竜語を話し始め、その後は平和的に話が済んだ。道中の魔物が強かったり、片道一週間なのが大変だったくらいだ。
卵は既に孵化しており、今は小さい仔竜をアゲイルが大事に育てている最中だ。結構、大食で魔物でも何でも食う。そしてよく眠る。現在はアゲイルの腕の中でスヤスヤと安眠している。
ちなみに成竜になるには30年以上掛かるが、騎乗ならば半年で可能となるので、それまでは我慢らしい。
「おつかれっす!」
「ころぽんさんもお疲れ様です」
『お疲れ様です。たまには冒険もいいものですね。今回は誘ってくれてありがとうございました』
ころぽんさんは落ち着いた女性の人で、ゲージ管理や後衛での援護が得意らしい。知的な人で考え方も柔軟で、すぐに仲良くなった。
『礼を言おう。ユキノ殿、メロンソーダ殿、此度の旅の同行、心より感謝している』
『楽しかったから大丈夫』
『あー……疲れだぁ。もう一ヶ月は外なんか出たくないわぁ』
だみ声気味の小生意気な女の子が空飛ぶ箒の上でナマケモノみたいなぶら下がり方をして愚痴を吐いていた。
メロンソーダ。
半魔人の魔界種で、名前とは裏腹に肌は全然緑色ではない。むしろメロンソーダの要素どこだよと言いたいくらい、普通の人間みたいな見た目の女の子だ。黒魔女と呼びたくなるような黒いとんがり帽子に黒ローブ。そんな服装と空飛ぶ箒に跨った姿から大体想像は付くだろうけど、彼女は魔女の血族、ウィッチらしい。
あとメロンソーダ要素は緑眼だってさ。そんなのわからんって。
『すみません、ソーダもちゃんとお礼を言って』
『ヤダ。もー帰る。学院に篭って三日間寝たい! じゃなきゃ世界滅ぼすぞぉ!』
『もぅ。皆さん、ごめんなさいね』
『またなー』
二人はエルタニア王国に到着するとその場で別れてしまった。
それでもなんだか、あの二人のやり取りを聴いていると微笑ましい。心が癒される。歳の離れた姉妹みたいな感じでさ。
『我々も冒険者ギルドに一度顔を出す。ユキノ殿は?』
『私も自分のギルドに顔出すべき?』
「その方がいいな。よし。ちゃんと戻ったんだし、ここらで解散するか。んで、夜になったら“ぴよぴよ亭”で打ち上げしよぜ!」
「それならソーダちゃんも呼ぶべきじゃね?」
「三日間こもるっていってたのに? それならいっそ、議員全員に送ってもよくね?」
「それもそーだな」
グループメッセージで招集を掛けて、夜の打ち上げに誘いつつ、ついでに近況の情報共有を促す。二週間も居なかったのだから何かしら変化もあるだろう。
「さて、ユキノのままで行くと目立つから、一度宿で変装を解くか」
『わかりました』
現在スノーは“ユキノ”と名乗っている。
見た目も銀髪ではなく金髪で、髪を結っている。一見したイメージも元の姿とは大きく異なる。身長は厚底で伸ばし、新緑の革鎧を着て狩人のマントを羽織っている。主装備は以前のスコアランキングで手に入れた『ルナイラ』という弓。背中の矢筒の中には銀の矢が残っていて、腰には影丸が、背中には新しい武器の小太刀が差してある。
暗殺ギルドに入ってから変装というスキルを覚えたのだ。
スノーは暗殺者としての顔と、ユキノと名乗る一般的なエルフの狩人として、王都で活動をしている。
現在、ユキノがスノーという暗殺者だという事を知っているのは小田と、ラックさん、アゲイル、アリッサだけだ。ホーク・ニル・ジェシーの冒険者達は今でも時々会っているけれど、彼等は変装については知らないハズだ。
それから、現在のスノーのステータスだ。
名前:スノー クラス:シノビ・エリート
年齢:13 性別:女
種族:闇エルフ 出身:ヒュードラ雪山
身分:流れ者のエルフ
武器:竜骨小太刀《右》
小サーベル『影丸』《右》
魔鉱ナックルダガー×6《左・右》
エルフの神弓「ルナイラ」☆
防具:シノビシリーズ(オルレ庵作)
新緑の革鎧(変装スキル)
装備品:白影の織物(銀嶺のシルフローブ)☆
狩人のマント(変装スキル)
レベル:52
HP:229 SP:420 MP:638
筋力:117 体力:110 体格: 7
魔力:231 知性:195 精神:212
敏速:218 器用:225 感知:220
肉体成長率:C+
術技習得率:A
感覚最適化:B+
性格:冷静 冷血 気まぐれ
友好種族
人間:○ エルフ:× ドワーフ:×
ビースト:△ オートマタ:× 半魔人:△
スキル
軽剣術Lv10 《片手で扱える剣の習熟度合い》
短剣術Lv10 《短剣を扱う習熟度・投擲》
魔弓術Lv 9 《弓を扱う技量と魔弓を意のままに操る技術》
魔力剣Lv 9 《魔力を乗せて斬撃を与える。属性は任意で可能》
残影 Lv10 《移動スキル。一定時間回避状態で移動できる》
隠形 Lv 6 《相手の意識の外側を突き、姿を消す術》
開錠 Lv 5 《鍵開けなどの特殊技能》
変装 Lv 7 《自身を他人に見せる技術》
隠密 Lv 1 《他人に気付かれずに行動する技術》
感知 Lv10 《意識を集中して開眼する感知方法。相手の位置が正確に把握できる》
魔法
魔撃《属性:風・闇・氷・魔》
下級魔法《属性:風・闇・氷・魔》
インジビブル・改 《闇》 Lv 6
アイス ダガー 《氷》 Lv10
アイシクル タワー《氷》 Lv 5
中級魔法《属性:闇・氷・魔》
アイスコメット 《氷》 Lv 6
ネガティブ グラビティ《闇》 Lv 3
ケイオス フレア 《魔》 Lv -
上級魔法《属性:氷・魔》
ヘイル フィンブル 《氷》 Lv 1
アトゥイコロカムイ 《氷》 Lv 3
混合魔法
シルバーダークネス《氷+闇》 Lv 8
コキュートス 《風+氷+闇》 Lv 4
隠しデータの方だが、戦闘中に擬似心眼と急所発見が統合されて《心眼(真)》に変化した。効果はスノーが自律行動をしている時に発揮するものらしいので、俺には大して意味はない。けれど心眼持ちってだけで、単純に響きがカッコいい。
それから、竜骨小太刀はアゲイルが以前ギフトで貰った巨大な骨から作った武器である。でっかい骨としかわからなかったが、竜骨だと鑑定された時は大喜びだったな。
で、アゲイルが自分の槍を作った際に、余った竜骨で小太刀を作ったのだ。性能は上々。
武器つながりで貰ったルナイラの弓はちゃんと使用している。一時期は誰かに売ろうとか思ってたけどね。
それでも星のマークが付いてたから使ってみたら、これがまた強いのなんの。たぶん、ドラゴンでも一発で死ぬ恐れがある。魔属性の魔法とか勝手に増えてたけど、全く興味もわかずに弓無双をしていました。弓ガンカタみたいな戦い方もできる。ロマンしかないね。
あとは銀嶺のローブだが、これは5・6月のスコアランキングの報酬で手に入れたアイテムだ。風の加護があるらしく、敏速が上がったりちょっとした飛び道具ならは弾き飛ばす効果がある。かなり凶悪な性能をしている。
『変装、終わりました』
スノーがいつの間にかどこにでもいる、普通の人間の女性の姿になっていた。声に変化がないのが違和感を覚えるけど、まああんまり喋る事もないし構わないだろう。
「よし、さっさとサルタルに報告済ませて、さっさと打ち上げしようぜ!」
忍びなのに隠密のレベル1ってどうなんだよって?
逆に訊きたいのですが、忍ばないのが忍者なのでは?




