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意志が人生に価値を生み出す

『……精霊ゼタ。どうしますか?』

「暗殺ギルドか」



 突然のお誘いに正直驚いた。


 暗殺ギルドの存在自体は知っていたが、加入できるとは思わなかったな。なにぶん、拠点が未だに見つかっていないのだ。実は単なる設定でしかないのでは? と思っていたのだが、ギルドの人間が現れたので実在はしているようだ。


 面白そうじゃないか。


「相手に選考基準とか、スノーに対する評価を聞いてくれ」

『はい。……どうして私を?』


『そうじゃな。単独でダンジョンに挑む無茶を成し遂げてくる実力、戦士ギルドの人間を一度に複数始末できる技量、アリッサ王女の『聖剣の儀式』完遂を陰で支えた裏の立役者にして謎の存在』


 老人暗殺者はつらつらとスノーのやった事を述べつつ、割とべた褒め気味で画面越しに引きつった笑顔になってしまった。最後の部分は世間へのアピール不足でしかないのだが、暗殺者さんにとっては受けが良かったらしい。


『褒めるべき点は他にも幾つかあるんじゃが……。ワシが一番気に入ったのはその無欲さだ。強者である事を誇らず、名誉に囚われず、権力になびかない気高さ。まさにワシの理想とする人物像よ。どうじゃ、御主。ワシの弟子になって暗殺者にならんか?』

『……精霊に聞いてみる』


 老人暗殺者の理想の人物、なんかハードボイルドだな。葉巻とか吸ってそうなおじ様が脳内に現れたぞ。いや、それはどうでもいい。この老人暗殺者、どっちかって言うとスノーを暗殺者にするよりも、スノー自身に興味があるらしい。


 確かに、この老人がスノーが暗殺者に仕上げたいと思うのも理解できる。無表情だし、冷静だし、魔物に対する冷徹さはまさに必殺仕事人である。戦闘もアクロバティックだし、身軽で器用。投擲ナイフなどもはや妙技の域だ。神業と言われるまで遠くないかもしれない。


 でも、人に対する温情も持ち合わせてしまっている。

 ……スノーが暗殺者になれるだろうか? いや、どう考えても向いてない。魔物狩りを主とするハンターなら間違いなく問題ないんだけどな。


 まあ、未だに報告の無い暗殺ギルドの実態を一番に体験できるというのはなんとも魅力のある話でもある。体育系部活動から直々に『ウチに来て!』と言われるくらいには誇っていいはずだ。俺? そんな経験ないな。見たことすらない。あんなの漫画やアニメの世界だけだ。


 それに暗殺者の弟子になって得られる知識とかにも興味がある。なんとかスノーを納得させられないだろうか。……あ、そうだ。いい事思いついた。



「スノーはどう思う? 暗殺ギルド」

『……字面から察するに、誰かを殺すんですよね』

「やっぱり人を殺すのには抵抗があるか?」



 俺の何気ない言葉で、スノーは少し驚いた様子で沈黙した。


 どうやらスノーは俺が暗殺ギルドに肯定的なことに気が付いたようだ。でもスノーはバトルアサシンなんてクラスになっているんだ。もしかしたらコレも何かの運命なのかもしれない。……と勝手に妄想してみる。


 まあスノーが殺人を嫌がるのは重々承知している。その上で俺には実に妙案があるのだ。


「なに寂しそうな反応してるんだよ、安心しろって。むしろコレは殺される人を助ける事にもなるかもしれないぞ?」

『どういう事ですか?』

「暗殺ギルドに入って、依頼人の標的を逃がす。簡単だろ?」

『……それは色々と問題があるのでは?』

「大丈夫。案はちゃんとあるから」

『??』


 とあるハリウッド映画に『○レイザー』という名作があるのだけれど(無論、筋肉ムキムキマッチョマンのヘンタイ主演作)簡潔に説明すると主人公が悪の組織に殺されそうな人を助けるという話なのだ。その手法は組織に死んだと思わせて人知れない安全な場所に連れていって逃がすという行為なのだが、それと同じだ。

 相手に殺したと思わせ、対象を逃がす。そうすれば助けられる。実に名案だ。


『なるほど。確かに、それは面白そうですね』

「そうだろう? できるかどうか不明な点を除けば問題あるまい」

『待って、それは大問題なのでは?』

「なんとか成るさ」


 物事ってのは「なんとかなる」と思えば、不可能でない範囲ならば勝手に成し遂げているものだ。まずはやってみること。できなければその時はごめんなさいって言って何食わぬ顔をすればいい。皆、誰しも失敗から経験を得て成長するのだから。失敗を繰り返し、積み上げてきて、初めて偉業は成し遂げられる。そう、人類の歴史とは失敗を積み重ねなのさ。……俺今良い事言った気がする。早くこの言葉を誰かに伝えたい。コレはきっと歴史に残る名言だ。


「人類とは失敗の歴史である。この名言どう!?」

『まるで精霊ゼタを表した言葉ですね』

「辛辣ゥ!?」



 まあ、どうでもいいけどね。

 あ、そうだ。先にコレだけは明言しておかないとマズイからな。闇の業界なら尚更だ。


「たった一つ。コレだけ確認できたら暗殺ギルドに加入しよう」

『ひとつ?』

「拒否権の有無だ。理由は、信念を曲げたくないからと言っておけ」




 スノーは感慨深い無言の頷きで応えると、老人暗殺者に向き直した。アチラも俺達の話し合いが終わったのだと察した。


『それで、精霊殿はなんと?』

『入ってもいいって。でも一つだけ条件がある』

『条件とな?』

『拒否権があるのか。理由は信念を曲げたくないから、だと』

『……ほう』


 すると、老人は面白そうに声を高まらせると、今度は楽しそうに腹の底で暴れまわる笑い声を抑え、最後には『愉快』と述べた。

 老人は黒頭巾を外して素顔を見せた。そこには人のような獣の顔があった。顔色は赤くて、口が丸くて耳の大きな……まるでサルみたいな顔だった。いや、猿の獣人なのか?

 ともかく、その猿はこれ以上ないほどに嬉しそうに口を開いて目を輝かせていた。



『信念、尊厳、誇りは、心に余裕を有する者にしか宿りはしない。今を命がけで必死に生きるだけの者、又は、今日を無駄に捨てる者には決して宿らぬ、宝石のような精神よな。価値のわからぬ有象無象等は薄いプライドと吐き捨てるだろうが、それこそ浅はかな言葉じゃ。生きる目的も価値も無い者ほど、面白くない事はない』



 良いこと言うね、この猿老人。暗殺ギルドの人間と言っても、良い人なのかもしれない。


『相判った。ワシこそ、エルタニアの暗殺ギルドを取り仕切っている“サルタル”だ。ワシの立場で貴殿の要求、快く受け入れようではないか。スノー殿、是非とも我等の下でその力を発揮してもらえぬかな?』


 あっさりと受け入れられてしまった。実は突っぱねられるとも思っていたんだけど、それほどまでにスノーの実力は高いのだろうか。まだレベル34なんだけどな。


 でもNPCのレベルが判らないから、一般的な強さとか判断できないという問題もある。もしかしたら平均レベル20なんて世界なのかもしれないし、実はもっと低いのかもしれない。


 そういえば、アリッサやアゲイルなどは既に他方から現在エルタニア最強戦力、などと噂されているらしい。スノーも同じレベルなのだから、結構な強さなのかもしれない。


 何はともあれ、拒否権が貰えたのはいいことだ。やりたい仕事、やりたくない仕事は選ぶ必要は必ず出てくる。間違っても「騙して悪いが……」なんて言われる仕事はしたくないからね。


『わかった。これからよろしくお願いします』


 こうして、スノーは暗殺ギルドに加入した。


 以後、様々な隠密スキルや潜入系のスキル、ユニークな魔法などを会得しながら仕事をこなしていく事になっていく。

 そして徐々にシノビ要素が追加されていき、7月には見事な忍者スノーが出来上がる事になるのだが、それは後日にしておこう。まだまだ語るべき事は多いのだ。



「サルタルかぁ。覚えやすくて良い名前だ。俺は気に入った」

『いえ、そこじゃないでしょう』




 俺達はまだ、徐々に広がっているこの世界の問題に、未だに気付こうともしなかった。

 問題に気がつき始めるのは、約三ヵ月後の夏休みとなる。

『サルタル』とはスペイン語で「跳ぶ」という意味です。そして猿なので……まあ猿飛佐助から取りましたとさ。下らないでしょう? 

あと飛ぶと跳ぶでは意味違うじゃんって思う方居ませんか? 私もそう思います。

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