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待ってました、ギルドからの勧誘

 運営のギフトというから期待したのだが、装備しない武器を貰ってしまった。しかも現環境下ではまったく必要とされていない武器である。

 弓の武器は銃系の下位互換でしかないというのが、今のところの認知度だ。


『武器に銘が彫ってある……エルフ語で“ルナイラ”って書いてある』


 名前のある武器か。……それはとても興味深いな。


 武器の種類に名前はあっても、武器そのものに名前が付いたアイテムは今までに見た事がなかったので、魔物などにある“異名持ち(ネームド)”の武器版なのだろう。もしかしたら強力な武器なのかもしれない。


 最初はガッカリしたが、ちょっと興味がわいてきた。



「スノー、いま装備できるか?」

『可能ですが、今度はエルタニア王国の教会を破壊するつもりですか?』

「……すみません、今度にします」



 まさか装備した瞬間に周囲が吹っ飛ぶようなことはないとは思うが、調子に乗った前科があるからな。実験をするなら魔法学院の修練場か王都の外でするべきだろう。変な最終兵器的な武器だったら困るし。自爆する武器とか、強力だけど精神が暴走するとかさ。



 ふと気になってサブのパソコンで攻略サイトの掲示板を見に行った。何人かが運営からギフトを貰ったと報告をしていたのでその内容を確認する。


 どうやら貰えたのは武器ではなく、三日月型の角だったり、紅く輝く何かの鱗だったとか、素材関係が多かった。ただの素材だとあんまり貰っても嬉しくないだろうな。たぶんランクの順位で優位なギフトを受け取れるのだろう、と予想はできるけど、確かめてみるか。


 一応、小田とラックさんにメッセージを飛ばして何をもらえたのか聞いてみる。小田の返事は早かった。


『馬鹿でけえホネ貰った』

『……骨? 何の骨?』

『わかんね。とりあえずホネ。アゲイルよりでっけえ骨一本。それよか、どこに置いておけばいいんだよコレ……』

『しらん』



 サモンズワールドに何でも仕舞えるアイテムボックスや倉庫は存在しない。現状ではキャラが自分で持ち運びできる分しか所持できない。巨大で場所を取るだけのアイテムなら相当邪魔だろう。というかゴミでしかないな。アゲイル、相変わらずなぜか不憫だ。


 ちなみにラックさんは既に就寝しているのか、返事はなかった。たぶん後日返事は得られるだろう。スコアランク一位が何を貰ったのか、興味深くもある。




「ま、当初の予定のスコアランキングの確認は終わったし、帰ろっか」

『はい』




 俺もそろそろ寝てもいい頃合だったが、ゲーム画面はそのままにしておいた。別にこの後、宿屋に戻ったスノーの着替えるのを待っているとか、湯浴みシーンを期待しているわけでは決してない。貰った弓をどう扱うべきか、少し考える事にしただけである。ホントだよ? ボク、ウソ吐かないよ?


 そんな事を考えていたら一度だけ、大衆浴場があるかどうかを確認した事を思い出してしまった。もしかしたら、スノーの視点なら、男子禁制の桃源郷、ザ・ヘブンズドアの隙間を垣間見る事ができるのではないかと一縷の望みを期待してしまったのだ。


 いや、別に卑しい意図はないんです。これはこのゲームがどれだけレーティングに対して挑戦的なのかを探るための、ワタクシの飽くなき探究心の表れなのだよ。ホントだよ? ボク、ウソ吐かないよ? 



 でもね、エルタニア王国に大衆浴場はないんだ。この時点で絶望した。神は俺を見捨てたのである。酷い話だ。神様サイテー。


 じゃあスノーはどうしているのかというと、個室でお湯を沸かして、少ない湯を使って体を清めるだけであった。興奮しましたありがとうございます。あとお金のある人は教会で一定金額お布施をすると“清廉の祈り”を神父か修道女さんから受け、頭からつま先まで一瞬で綺麗になる。風情がないので俺はやりたくないね。


 ちなみにスノー本人の意思としては、どうやら金額が気になるらしく、お布施の方は遠慮していた。お金に余裕があると言っても、ちょっとだけ高いからね。


 まあ俺としても、スノーのサービスシーンは是非毎日行なってほしいので、むしろその判断に拍手で称えた。ベネ、非常にベネである、と。


 しかし今日はいくら待ってもスノーが部屋を取っている宿屋に到着しない。遠回りをして変な所へ向かっている。まさかスノーさんが俺の下心に気付いてログアウトを待っているのかも、と深読みをし始めていたらスノーが小声で呟き始めた。





『ゼン……いえ、精霊ゼタ。少しいいですか?』

「どうした? ……いや、なんだ?」


 スノーが二人の時にいつものように呼ぶのをやめて、誰かが居る時に使う呼び名を使った。画面上では既に真夜中で、人通りも少ない。誰かがいる様子はなかったのに、警戒してそれを使ったことで油断を取り払った。


『跡をつけられています。どうすればいいですか?』


 ヘッドホンの音量を上げて物音を聞き取りやすくする。特に物音が聞こえてくる様子はないが、スノーが何かあると言っているのだ。何かがあるんだろう。



「相手の人数はわかるか?」

『恐らく、一人。物陰に常に隠れています。ですが、どういう訳か常に気配がします。まるでアピールしているみたいです』

「逆に捕まえてみるか。そっちのが面白そうだ」

『正気ですか?』

「正気ですがなにか?」

『……聞いた私がバカでした』


 そんな自分を卑下するなよ。全くもう。

 とにかくここは一つ。何か妙案でも考える。


 まずは人気の無い建物の合間に向かう。戦闘になる場合、誰かに見られるとまた騒ぎになるかもしれないからだ。

 割と近場に条件に一致するルートがあり、迷わず向かう。人気は完全に無く、月明かりだけが真っ直ぐの一本道を薄暗く照らしている。



「よし、さっさと魔撃の魔属性でアレしてコレして――」



 とりあえず暗がりの道の先で、地面に魔法を地面に撃ち込む。

 ちなみに久しぶりに魔属性だ。別に魔物に対して使わないだけで、使っても問題なさそうな場面ならば積極的に使う。魔属性の一番の問題は経験値が入らない事だからな。


 地面にスノーが入り込めるほどの穴を作って中に入り込む。深さ3mほどである。地上の穴に大して闇魔法の認識阻害を使用する。これで穴の存在が認知しにくくなる。闇魔法らしいイヤらしい魔法だ。こんな素晴らしい魔法を開発した『ころぽん』さんにはマジで感謝だ。


『いったいなにをするつもりなんですか?』

「モグラ作戦」


 上は一本道。魔撃も真っ直ぐに進む。察しがよければもうわかるだろうけど、つまりそういう事だ。

 来た道に向かって魔属性の魔撃を撃ち込み、一直線の地下通路を作る。さらにスノーの感知能力の高さを利用して相手の背後を取る作戦だ。


『これ、戻せるんですか?』

「そんな事は考えてない」

『ああ、またそうやって後先を考えずに……』


 そんな事言わないで。ただの出来心だからな。

 さっさと追跡者の真下まで移動すると、スノーに相手の位置を教えてもらい、氷属性の魔撃を真上に打ち出す。足を凍らせて動けなくするためだ。いい感じで手応えもあったらしく、相手の背後に出る位置に魔属性で穴を開けて、地上に戻ってきた。


 さあ、相手はいったいどんなやつなんだろうかと思っていると、妙な存在がそこに居た。


「……なんだ? これ」


 人型の真っ黒なモヤの塊だった。魔物なのか、そうじゃないのか、何とも奇妙な存在だ。別に暴れたりしていないし、足掻こうともしていない。ただ、凍りついた地面が足を氷結させているのを見ると、実体はあるようだ。


『人じゃない――後ろです!』


 目の前の存在に若干の困惑を覚えているとスノーが背後の存在を察知してくれた。横へと回避しつつ振り返り、影丸を抜いて相手を見る。

 そこには先ほどまで居なかった人影がほんの数瞬前までスノーのいた場所に短剣を突き立てていた。



『ふむ、実力は報告通りじゃな。反応も悪くない』



 黒頭巾に黒一色のスーツ。大針のような細いダガー。小柄でやけに体を小さくして構えたその存在を見て、一目で暗殺系の職業だとわかった。

 中の人は年老いた男性のような口調だが、やけに高音で目玉親○みたいな声音が印象的だ。腰も曲がっており、如何にもだと言わんばかりな気がしてならない。変装でもしているんだろう。男性を装った女性という可能性もある。


 こういう油断ならない場面というのは、妙に嬉しいものだ。夜中であるにもかかわらず、テンションが上がってきてしまう。


『どうしますか?』

「相手の試すような態度が気になる。奴の目的を聞いてくれ」

『……なにが目的? あと、そこの魔物みたいなのは貴方の仕業?』


 スノーの二つの質問に対して老人の暗殺者は嬉しそうになって答えた。


『肝も据わっておるか。ますます気に入ったわい。そうじゃなあ。まずは一つ、そこな魔物と称した存在であるが、それはワシの影じゃ。“戻れ”』


 言葉を発した後、足を凍てつかせていたモヤの塊は地面に溶けるように消えていき、影となって物体は消失した。その後、影は老人の足元へと宿ると、影の一部となって消えた。いや、戻ったのか。


 何の類だろう。魔法だろうか。だとするとかなり汎用性に長けた魔法だな。使い魔みたいに操れるのか。気になる。


『あと、目的じゃったな……。御主を直々にスカウトしに来たんじゃよ』


『スカウト?』



『そうじゃ。“暗殺ギルド”からじゃがな』

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