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とあるアバターの胸の内

 私はゼタ。

 ヒュードラ山脈の秘境に住む『闇エルフ』最後の一人である。


 幼い頃に村の教会で神託を受け、私は精霊様に魅入られたのだと告げられた。

 十三までは神の加護により死ぬ事はなく、精霊様と出会うまでは無事に過ごせるのだとか。



 もっとも、精霊様と出会った後は神の加護が消え、すぐに死ぬかもしれないらしいけれど。


 それもいいと思えた。




 そもそも闇エルフとは太古の時代、邪なる外の神と契約し、一部のエルフから離反した者達の末裔だという。

 その所為で闇エルフは他族から忌避され、神から差し向けられた猟犬によって戯れに殺される存在となっている。


 まあ悪い事をしたから罰せられるのは仕方がない事だと思うし、最後の闇エルフの末裔としてちゃんと反省している。その証として清貧とした生活を送り、こんな寒い雪山でも我慢している。……していたのだ。




「殺される心の準備はできている。無謀な突撃を命じられても潔く死んで務めを果たそう」




 だが……精霊と出会ってから危険が増した、という事は無かった。


 変わったと言えば、精霊様の声が聞こえるようになっただけだ。


 挨拶や日常会話など、差し障りのないものから始まる。

 本来であれば体の自由を奪われると聞いていたのだが、そんなものは最初のうちだけだった。基本的に体は自由だし、偶に短い時間だけ何かを要求してくるだけだった。少し想像と違っていた。


 むしろ、よく会話してきた。


『短剣か剣の武具はない?』

「家にはありませんが、村の中を探せばあるかと」

『使った事は?』

「ありません」

『防具は?』

「ありません」

『戦える?』

「戦った事はありません」


 この程度の会話ならばまだいい。「ああ、この人は私を戦わせるつもりなのか」と意図が理解できる。別に戦うことが嫌だとかはない。むしろこの身は一族の贖罪の為にあり、それが私の使命であるならば異存などない。


 しかし、彼は魔物に挑む様子は無かった。一度だけ外に出て『まだ無理だ』と言ったきり、村の外には出た事がなかった。



 じゃあ何をしていたのかというと、ずっと会話していた。


『昨日なに食べた?』

「はい。茹でた芋を」

『寒くない?』

「寒いです」

『誰も居なくて寂しくない?』

「別に」

『闇エルフなのに褐色じゃないのなんで?』

「陽の光をほとんど浴びないから白いのではないかと……」

『雪エルフの方がしっくりくる。名前スノーに変えよう、そうしよう。むしろスノーのほうがかわいいから是非変えよう』

「……それが精霊様の御心ならば、改名いたしますが」


 軽いノリで改名させられた。別段『ゼタ』という名前に強い思い入れも無いので構わなかったけれど。


 それにしてもこの人、会話をやめない。

 意味のない会話を続けようとする。


 他人と話すのは慣れてないから、続けているとちょっとだけ疲れる。



(でも、まあ、イヤじゃない)


 声しか聞こえない存在だが、誰かと共に過ごす時間。そんな風にも感じていた。




 ……それから数日後、生活は激変した。

 精霊様は『検証』と称して私に色々なことをさせた。


 魔撃を撃ち込んだり、見つけた小剣を振り回すのはまだわかる。使い勝手を知る為だ。だが剣を振りながら魔法を使えと言われた時にはさすがに無茶だと思った。どうやら『技の融合』なる現象が起こるらしい。


 繰り返してみたが結局できなかった。その時は彼曰く『レベルかステータスが不足している可能性がある』と言って諦めた。


 その後も直立水平飛びを数十回やらされたり、筋トレ(腕立て、腹筋、背筋、スクワット)なるモノをさせられて筋肉痛になった。一番つらかったのが雪を掻き分け土を掘らされたことだ。


 しかも拷問のように毎日だ。




 しばらくして『正式サービスが開始した』と宣言された。

 その日から別の指示を出すようになってきた。



『今から狩りに行くぞ』

「……なぜ?」

『強くなるためだ。というか俺達、かなり出遅れてるんだよ。βテスターはレベル10なんてとっくに到達してるし、小田の奴でさえ『竜騎士』を使い始めて既にレベル15まで上げてるんだ。俺達ものんびりしてられないだろう!?』

「小田という方がどなたか存じませんが、私に竜騎士と比べられるほどの価値はありません」

『いいや、いける。間違いない。闇エルフなんて種族を引いた奴は他に居なかった! つまりお前はユニーク個体なんだよ!』


 どうやら彼は勘違いしている。闇エルフというのは簡単に言えば主神に背いた異端物。言ってみれば犯罪者とそれほど遠くない存在だ。それを訂正する前に彼は『自分に自信を持て』と遮った。




『まあ俺に任せろ。小田がジャガーと戦っている時に動きは大体覚えた。魔法攻撃に弱い事も理解してる。魔撃を撃つ隙もある。ホワイトジャガーがどれほど強いかはわからないが、一対一なら負けん』


 それからすぐに、精霊が体に宿る感覚がした。こうなってしまうと私の体は私のモノではなくなる。自由がほとんどなくなる。喋ったり指に力を入れたりはできるが、体の向きや移動など、私の意思では動けなくなる。


『安心しろ、これでも初期ステータス裸縛りプレイはたまにしてるんだ』

「どこの変質者ですか」



 まさかのド変態発言である。裸でいったい何を縛り付けてプレイしているのだ。

 もしかしたら私はとんでもない精霊に体を預けてしまっているのかもしれない……。



 私の心配も他所に、体は勝手に進み始める。


 刃こぼれの目立つ小剣を手に、悠然と雪を踏みしめていく。掛け布団を外套代わりにして寒さを凌ぐ。そして――


『今宵の俺は経験値に餓えてるぜ』


 精霊の自分に陶酔しきった声に寒気がした。

 まるで今から決戦にでも赴かんとする立ち振る舞いに、滑稽さが表れていた。


「そもそも、ホワイトジャガーとは何者ですか?」

『知らなかったのか? この前一緒に見たと思ったんだが。ほら、ココからでも林の向こう側に見えるだろ』



 アレだよ、と目で捉えると、頭の中が真っ白になった。

 しばらくの間、動揺で脳が理解する事を拒んでいた。しかし時間が経つと彼はアレに向かって歩き出す。



 白と黒のまだら模様の神獣――神の放った猟犬として恐れていた獣だった。



 神獣は岩の上で、雪風の調べを感じるように優雅に鎮座していた。アレの周囲には刃と化した氷雪の欠片が常に渦を巻いており、近寄るだけでその身を引き裂くのだ。

 そんな相手に、まさかボロボロの剣一本で戦うなど、正気ではない。


 いくらなんでも、アレに戦いを挑むとは考えたくなかった。死ぬのが怖いのではない。死は既に覚悟はしていたのだから。


 私が恐れているのは神と、神に連なる者に挑むことだ。神の眷属に刃を向けるなど思いもしなかった。故に断ち切ったと思っていた畏れが、思い思わず想起してしまったのだ。


「……本当に、アレですか?」

『いや、なんか見た目? エフェクトがパワーアップしてるな。バージョンアップしたからか? まあいいや。どっちもそんなに変わらないさ』

「うそですよね? 冗談ですよね? 何かの間違いだとおっしゃってください」

『挨拶代わりに魔撃するぞ』



 なんの躊躇いもなく魔撃を両の手の平に生み出した。闇エルフ特有の禍々しい光を吸い込む色の弾丸だ。もはやこの精霊を止めることなど不可能だと諦めた。もしかしたら私に憑いているのは悪霊の類だったのかもしれない。なるほど、そう考えると納得する。まさに闇エルフにはお似合いなのだから。


 既に私は死んだ後の事を考えていた。


 神様に怒られるのだろうか。不可抗力なのに。そもそも何十世紀も昔のご先祖様の罪なんか本当は知らないしと言いたい、むしろ今まで付き合ってやったのにこの仕打ちは酷い。 私だって少しくらい思う事はあるし、これで浮かばれなきゃ神様は心が狭すぎる。むしろ楽園に迎え入れられ「今まで良く耐えたね、ご苦労様。さあ私の膝元でおやすみなさい……」なんて言われながら頭をナデナデして貰わないと割に合わない!


 だがそんな夢ももうすぐ砕け散るのだろう。きっと今にでも神の猟犬の怒りを買い、私はアレに咀嚼されて天国へ行くこともできずに『死者が彷徨う地』に投げ出されるのだろう。それだけ考えると、極大の溜息しか出てこなかった。



『おい、既に死んだつもりかよ』

「自殺するなら早くしてください。無駄に希望を持たせないでください」

『まあ待て。今ちょっと入力してるから』

「にゅうりょく?」


 既に発射可能状態の魔撃の弾を、すぐには撃たず、維持し続けていた。


『試射してるとき、ボタン長押ししてたら出てきたんだよ。魔撃は形状が変更可能なんだと。説明とかないからわからなかったわ』


 そう言って魔弾の形が太い針のような形状に変化する。


『円柱型で底面12,8の高さ99mm。名称NATO弾。重さは……1kgくらい? 速度は……しらね。残りのMP全部つっこんじゃえ。あ、回転エネルギー付けるの忘れてた。まあどうせ牽制だし、この距離ならいいか……――発射ッ!!』




 瞬間、空気の割れる音が轟いた。

 両の手の平に伝わるビリビリと響く衝撃波に、思わずたじろいだ。


 だが本当に驚愕したのは、その魔撃の威力だ。


 気が付けば……というよりも気が付かないうちに、神の猟犬の首が消失した。胴体と頭が分離され、頭部だけが天高く吹き飛び、宙を舞っていた。


 唖然としている内に、頭部は重力に引き寄せられ、最終的に真っ白な雪原に落下した。その隣りでは真っ赤な血をダクダクと肉の断面から流し続ける白い獣の姿。


「……え」

『うそん。敵弱すぎ』

「ああ、神様……」


 やってしまった。やってしまいました。

 この瞬間、闇エルフの歴史にまた一つ新たな罪が増えてしまった。




 しかし精霊は私の不安など意に介すこともなく、純粋に私のレベルアップにご満悦だった。その後、私も精霊の喜びにつられて、人生初のレベルアップで力が充実していく感覚に浸り……最終的に「神様とか実は気のせいかもしれない」と、気に留めなくなっていた。





 私の名前はゼタ……改め“スノー”。

 ヒュードラ山脈の雪山に住んでいた『闇エルフ』最後の一人である。


 たぶん、この世界で唯一『魔属性』を扱えます。



 名前:スノー  クラス:軽剣士

 年齢:13   性別:女

 種族:闇エルフ   出身:ヒュードラ雪山

 身分:忌み人


 現在地:ヒュードラ雪山


武器:古いショートソード

防具:エルフの衣服

装備品:なし


レベル:1→7

HP:38   SP:70   MP:74

筋力:15   体力:17   体格: 6

魔力:47   知性:20   精神:17

敏速:40   器用:38   感知:30



肉体成長率:D→D+ 上昇

術技習得率:A

感覚最適化:B


性格:内気 冷静 弱気→冷血に改心



スキル

 軽剣術Lv1 習得《片手で扱える剣の習熟度合い》

 魔力剣Lv1 習得《魔力を乗せて斬撃を与える。属性は任意で可能。MPも消費する》



魔法

 魔撃《属性:魔》《魔力を撃ち出す誰でも扱える基礎魔法》

 下級魔法《属性:魔》 習得《魔属性魔法を扱えるようになった》


魔属性……いったい何者なんだ。

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