リザルトタイムとは、ご褒美の時間である
十分間、氷棘のナックルで殴り続けた。その間に反撃が無かったのか疑問に思われるだろうが、これが意外にも無かった。
ジタバタともがいて、胸を貫いた氷柱から脱しようとはしていたのだが、それだけだった。
武器を手放していないので、それにも警戒してもいたのだが、魔法を使う様子は一切なかった。まあ、その件に関しては後々わかるのでココでは説明しない。
そして、一切の動きをやめた後、スノーのレベルが一気に7も上昇した事で、やっと奴を倒したのだと判断できた。
その気になるステータスだが、かなり上昇した。
名前:スノー クラス:バトルアサシン
年齢:13 性別:女
種族:闇エルフ 出身:ヒュードラ雪山
身分:忌み人
武器:右:バデレール or ナックルダガー
左:ナックルダガー
防具:ライトアーマー 一部(両腕・両足)
装備品:和の織物(状態・上着)
レベル:20
HP:82 SP:152 MP:213
筋力:37 体力:39 体格: 6
魔力:85 知性:63 精神:65
敏速:72 器用:82 感知:77
肉体成長率:C→C+
術技習得率:A
感覚最適化:B+
性格:内気 冷静 冷血
友好種族
人間:△ エルフ:× ドワーフ:×
ビースト:△ オートマタ:× 半魔人:△
スキル
軽剣術Lv1 《片手で扱える剣の習熟度合い》
短剣術Lv3 《短剣を扱う習熟度》
魔力剣Lv3 《魔力を乗せて斬撃を与える。属性は任意で可能。MPも消費する》
残影 Lv3 《移動スキル。一定時間回避状態で移動できる》
魔法
魔撃《属性:氷・魔》
下級魔法《属性:氷・魔》
アイスダガー 《氷》Lv1(強化可能)
アイシクルタワー《氷》Lv1(強化可能)
中級魔法《属性:氷・魔》 習得
相変わらず魔力の上りが抜群だ。MPなんてもう200台まで乗った。
それから肉体成長率というのに+が付いた。今後、筋力や体力の上昇率が上がるのだろう。うれしい事だ。
さらに魔法に関しては中級を習得した。魔属性は一切使っていないのだが、解放されると一緒に出てきた。あと、下級の魔法が強化可能のタグが出ている。たぶん、こちらは自分で強化したい項目を選んで伸ばしていくのだろう。今度、ゆっくりしている時にでもスノーと話し合いながら伸ばそう。
「時間かかったなあ」
『そうですね。……はぁ――あ、いえ、すみません』
相当大きなため息だった。無意識だったのか、気がついてすぐに撤回しようとしていた。
「お疲れ様。もうちょっと調べたら休憩にしようか」
『ありがとうございます』
スノーの疲労が結構なものらしい。もうちょっとしたらその場で足を崩してしまいそうだ。
とりあえず動かなくなったシャドウナイトから戦利品を奪う事にする。
「刀身の長いサーベルと護拳付きの短剣か。これは値打ちもので間違いないだろうな」
なにせシャドウナイトが手を放しても、刀身から黒いオーラを纏っているのだ。恐らくは魔剣などの類かもしれない。その辺の分野はまだ調べていないので、今度詳しそうなプレイヤーに話を聞いてみることにしよう。
とりあえず回収して短剣の装備を試みる。
『これは、妙な感覚ですね』
「なにかあったか?」
『こう、魔法学院で触媒に触れた時と似ています』
触媒か。確か魔法の属性習得に役立つアイテムだったか。でも、スノーは魔法学院で習得できなかったと凹んでいたな。
でも個人的な見解で言えば、あれは触媒のランクが低かったとか、スノーのクラスが魔法系統では無かった事などの理由だと思っているのだが、真実はわかっていない。
だからこそ、試したい。この、まだ誰もわかっていないだろうという、誰もまだ踏み込んでいない真っ白な雪の上を踏み歩く感じが優越感を満たしてくれる。
善は急げと前回の方法を思い出してみる。
「……じゃあ、魔力剣か、あるいは魔力を吸い取るような感じで、剣を握ってくれ」
すると画面中央に忌々しい“奴”が現れた。『《属性:闇》の素質を習得しました。《魔撃:闇》を習得しました。《下級魔法:闇》を習得しました』などと言われても、俺は戦闘中にお前が邪魔をしたことを決して忘れちゃいないぞ。と、既にマウスカーソルをOKの出現場所にセットしていたので速攻で消そうとした。……のだが、文章量が多い関係か、OKボタンの位置が少しだけ下にズレていたのでクリックを外した。余計に腹が立つ。
こんなことされたら本当に喧嘩を売られている気分になってくる。
「はあ、まあいいや。闇属性習得おめでとう」
『はい、ありがとうございます』
とりあえず戦利品はそんなところか。もう一つ気になるのはシャドウナイト……鎧の中身だ。
「うーん? 誰だ、中身が亡霊とか言った奴」
鎧の兜頭を引き抜ぬいて裏側をみると、中身は確かに空っぽではあったが、何も無かった訳ではなかった。
鎧の内側のプレートには、複雑な魔法陣が幾重にも彫られていた。そして、アイシクルタワーで貫いたすぐ傍で、赤く光る石が設置されていた。石は突き破られた鎧の鉄の切っ先で傷つけられて欠けていた。周辺の魔法陣も崩壊している。
「亡霊っていうか、自立動力系っぽいか? 幽霊っぽくないし。これは向こうがガセなのか、そもそも種類が違うのか……」
まあ、その辺の話は互いに情報開示をし合って確証を得るしかあるまい。一応、スクリーンショットで保存しておく。……動画として保存しておけば楽になるんだろうな。
でも、魔法を使わなくなった理由はこの中身にあるのだろうとは予想できた。魔道機械であれば、中身の回路を潰されて魔法が使用できなくなったと理論付ければ納得できる。
「とりあえず赤い石ゲット!」
『魔石、でしょうか?』
「そんな感じだろうな。売れば金になるだろう」
いくらになるかは知らないけど、さすがにゴミではないだろう。
『……ゼンタロウ、そろそろ……よいでしょうか?』
スノーが限界か。それもしょうがない事か。
「ああ、もう大丈夫だ。ゆっくりしてくれ」
自律モードに変えて、全部スノーに任せてしまう。
そう言うと、スノーは肩から脱力し、武器防具を外してゆく。荷物を端に置いていくと、靴を脱ぎ、さらに服を脱ぎ始めた。
「ほぉ」
思わず感嘆の声が漏れた。
スノーは肌着?すらも脱ぎ捨て、一糸纏わぬ神々しい御姿となると、淡く光る湖の中に入って汚れを落とし始めた。
……その姿は泉の妖精と評しても遜色ない姿であった。やがてスノーの腰辺りにまで水位が上がると、ただ優しく波打たれていた淡い碧の光から光玉がフワフワと浮き始める。
『ぁ……キレイ』
暗がりの地底湖に一人、浮んでいるスノー。長い銀髪が水面の上で扇状に広がり、キラキラと光っている。
なんだ、このかわいいくせに美しい存在。
スクショ送り決定だ。大事にロックフォルダに保管しておこう。
『おめでとうございます。《月の女神》の試練を乗り越えた証として《混合魔法》を習得しました』
スクショをしようとした瞬間、習得メッセージが邪魔をしてきた。まあ、この一文も大事なので、保存しておくのも間違いではない。魔法分野の先駆者たちがこの事を知ったら、間違いなくこのダンジョンへ押し寄せてくるだろうからな。合体させて作る魔法なんて、絶対好きそうだし。
しかし、この混合魔法、ステータス画面には追加されていなかった。また隠しデータ扱いとなるのだろうか。
まあそんな事はどうでもいい。早くスクショを――
『やあ、こんばんは。ゼンタロウくん』
「はぎゃァッ!?」
目の前に、グロ画像が突然現れた。いや、画像ではない。顔……?
なんか、古代文化によくありがちな気色悪い配色の能面的だ。ハイカラチックでカラフル模様をした仮面の女がいきなり画面の真ん前に移り込んできたのだ。
スノーの水浴びシーンをスクショしようとしていたら、いきなり呪われそうな仮面が現れたでござる。いったい何を言っているのかわからねーと思うが、俺にもわからねえ。
『おやおや、吃驚し過ぎて混乱しちゃったかな? ああ、こういう時、人は自己紹介からするんだったかな? 私は月の女神の最高神直々の眷属、まあ、好きに呼んでくれていいよ』
「お、おぅ。えっと。なにこのイベント? それよかあの、すみませんが一瞬でもちょっと、画面からズレていただけませんでしょうか?」
『そんなことしたら女の子の裸が見えちゃうでしょうが』
「そんなもん今更邪魔するんじゃないよ!」
いままでそんな事、一切規制してこなかったじゃないか!
むしろ乳首丸見えだったじゃあないですか!
それを今、この幻想的かつ芸術的な美が介在している風景を前にして突然の邪魔するとはどういう事だ!
これだけは絶対に保存しておかねばいけないのだ、それをこの女(?)はどれほど理解して物申していると思っているんだ。
「はやくどいて女神様、スノーが見えないでしょ!」
『うわ……。下心丸出しとか……。マジですかキミ』
「いいから今すぐどくんだ、どけええええええッ!」
『キミ、無駄に必死だな。まあ、話が終わったらすぐに退くから』
「よし、ならば早くしてくれ」
というか、今までマイクつなげっぱなしだったのに、スノーが全く反応していない。会話がこの仮面女神に切り替わっているのか。よくわからないが、はやくこの特殊イベントを終わらせたい。
『早くって……。私も百年ぶりくらいに人と話すんだから、ちょっとゆっくりしたいんですけど?』
「そういう設定なの? 百年ぶりって事は、昔は割と人が来てたのか?」
『そうそう。十年に一人くらいのペースかな。王族の人が混合魔法習得に訪れたり、命知らずが偶にここまでやってきて挑戦したりね』
へえ。そういえば昔は恒例行事みたいなことを言ってたな。
『一応、古い人王と妖精王との盟約だったからこの試練場は残してるけどさ。放置されると私も退屈でしょうがないのよ』
「御神殿って名前だったけど、試練場なのか」
『まあ人間からすれば神殿だし。神である私がここに住んでるし』
なるほど。神様はココを試練場として作ったけど、人間としては神様が住んでるから神殿と名づけたのかな。
試練場といえば、ここのダンジョンの魔物のレベル、ちょっと差がありすぎではなかろうか。
ゴブリンがレベル7~15。だけど最終奥のレベル32のシャドウナイト異名持ち。このゲームではこれが普通なのだろうか。
『それにしても、よくあのシャドウナイト倒したよね。生み出してから百年以上も経った上、ゴブリン狩りまくって異名持ちに遂げたから……ああ、こりゃもう誰もクリアできねーわって思ってたのに』
「ああ、それであんなに強かったのか。でも、何故そんな事に?」
『百年間人間が来なかったからだよ。ゴブリンが勝手に巣にしようと外から侵入するから、毎回駆除してもらってたの。で、結果レベルがどんどん上がってね。あ、闇の魔剣は両方とも貰って帰っていいよ。あれもどうせゴブリンから押収したものだし』
「元々そのつもりです」
意図せずに聞きたいことが聞けたのでよかった。
しかし闇の魔剣か。銘とかないのだろうか。サモンズワールドって基本的に名前とか無いよな。魔物はちゃんとあるのに。
『ところで一つ気になるんだけど、聞いていい?』
「イヤって言っても聞くんでしょう?」
『その通り。あの子、スノーっていうの? 結構面白い子だね。私気に入ったかも。どこで見つけてきたの?』
どこで見つけてきたって、そりゃあヒュードラ山脈って言えばいいのだが。
……これって要するにあれじゃあないか?
結構前だけど、スノーから聞いた異界の神と契約して一族まとめて怒られたって話の関連か?
言わない方がいいよな。
「うーん? 聞いてどうするんだ?」
『いやー、私って、あんまりエルフに詳しくないんだけどさ。あの子、普通のエルフっぽくないからさ?』
ほう、見る目の有る奴だ。
だが最後の台詞だけで嘘がプンプン臭ってくる言い回しだぜ。
あんまり詳しくない奴が、普通のエルフかどうかなんてわかる訳ないだろ。コイツ、とぼけた振りしてるだけだ。
絶対にコイツ、外の冒険者達より数百倍は詳しいに違いない。……下手に対応すると心証悪くするだろうか。いや、もう相手は確信していると思ってもいいかもしれない。
……でも、闇エルフだと気付いていて危険に思ったのなら、手を出さないって事はないと思うんだよな。そう思うと、別に正直に話してもいいかってなった。
「まあ、いっか。ヒュードラ山脈のエルフの村。あと闇エルフって種族」
『へえ、やっぱりそうなんだ。じゃあ魔属性持ってるんだ』
「持ってますね」
『じゃあなんで使わなかったの? アレならシャドウナイトも瞬殺できたよね?』
「あんなチートみたいなもん使っても面白くない。そもそも経験値が入らないから使いたくない」
『ふーん。そっか。じゃあいいや』
……じゃあいいやって。使ってたら何をするつもりだったんだ。
まあ、ロクでもない予想ならいくらでも思いつくから止しておこう。どうせ「なんでもない」と、はぐらかされるだろうし。
『あ、そうだ。最後に一つ、頼み事をしてもいい?』
「やっと最後か……」
『えっとね。できればでいいんだけど、上の階の残ってる三つの部屋。攻略できるんなら攻略してきてほしいな。そこにもシャドウナイトが一体ずついて、ずっとゴブリン狩りしてたから強さが半端じゃなくってね。レベルとか50くらいになってるから、倒せたら倒しておいて』
「なんで上の方が強敵なんだよ……」
『そりゃだって、戦う回数は上のほうが多いからね』
言われてみればそうなるか……。下のほうが来ないわけだし。
『それじゃ、よろしくねー』
それだけ言って、仮面の女神は勝手に画面下にフェードアウトして去っていった。なんだか、無性に疲れた。
しかし、女神の頼み事か。
叶えたら何かもらえるんだろうか。もしそうなら、ちょっと期待したい。
「いや、それどころじゃない! スノーは!?」
画面は既に湖の上にはなく、地底湖の岩浜の上。画面の真ん中でスノーは服を着て、織物を上に被り、丸くなってスヤスヤと寝息を立てて寝転んでいた。
全てが、終わっていた。楽園は遥か夢の彼方へと通り過ぎ去っていたのだ。
……ふざけんな。ふざけるな、ふざけるな馬鹿野郎!!
ウァアアアアアアアアアアアッ!!!
「兄貴うるさいダマレ!!」
「スミマセン」
スノーの寝顔はスクショしたけど、絶対に上の階のシャドウナイトは無視するって決めた。




