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早く経験値をよこせ④

 両手にナックルダガー、今回は逆手に装備してシャドウナイトと相対する。


 話によると、シャドウナイトは亡霊が中にいるらしい。亡霊には物理で攻撃しても通用しない。


 効果的なのは魔法、特に聖属性の技が効果的だそうだ。


 ちなみに、聖属性は光にまつわる属性という訳ではなく、生命に関係する技が多い。基本は回復魔法、あとは植物を成長させたり、毒を生成するなど、多彩らしい。



「スノー、魔力剣」


 通常のスキルで使う魔力剣は武器に氷の刃が生まれる。たぶんこれでも魔法攻撃の判定が入るはずだ。


 ちなみにナックルダガーに使用すると、殴る位置に三つほど棘ができる。


 色々検証していた時にも思ったが、武器によって魔力剣の形は変わるらしい。牙剣の時とは形も特性も違う。


 しかし今回に限ってはナックルが生きる形だ。


 なにせ相手は鎧。


 刃が通じる部位が限られている。関節部の内側を狙うのは容易ではない。さらにリーチ差もある。刃の出番はないとは言わないが、厳しいだろう。



 だがナックルなら打撃の部類だ。鎧を潰していけば、いずれ動作不良で動けなくなる。



 今回やる事はただ一つ。相手の攻撃を掻い潜り、連打を打ち込む。ただそれだけだ。



 だが……ここまで不気味に微動だにしない相手だと、こちらも攻め込むのが難しい。



 まるで、間合いを完全に把握している人間相手と勝負しているような感覚だ。



 探りを入れてみるか。


「スノー、アイスダガーは投擲できるか?」

『慣れたものです』


 ナックルダガーを装備した状態でも、問題はなかったらしい。氷の投擲剣を親指と人差し指に挟み込み、スローイングする。ナックルが指に装着するタイプだからこそできる技だ。



 一方、シャドウナイトは飛んできた氷剣をいとも容易く左の護拳付き短剣で弾き飛ばした。傷もなく、薄氷すらついていない。


 どころか、それを皮切りにシャドウナイトが突進してきた。慌てることはないと相手をしっかりと見据えて攻撃を見切るつもりで待ち構える。


 ただし、攻撃可能圏内ではない距離から、右のサーベルを一気に縦斬した。それが何を意味するのか理解したのは直後の事だった。



「マッ――ジか!?」



 黒い真空刃っぽい剣撃のエフェクトが超高速で飛んできたのだ。回避動作でギリギリ躱したが、あの弾速は反則的だ。中距離でそんなの撃たれたらびっくりするわ。

 その上、その一撃を囮にして更に奴は飛び込み、自身の間合いであり、スノーの間合い外の場所をキープしてサーベルを振り回した。


 機動力もあり、間合い管理も抜群。さすが異名持ち。同じレベル30でも、異名無しのホワイトジャガーとは質が違う。


 どうにか踏み込んで攻撃を入れたいと思うたが、連撃に隙が無い。ヤツめ、明らかに隙を見せる時は、左が常に剣を振るえる位置にある。


 だが、踏み込まないと攻められないだろう? と言いたげな奴の攻撃に、今は奴の間合いの範囲から外へと後退するしかなかった。


「にゃろうめ。ちょっと本気でやるか」

『……できれば初めから本気出してください』


 バカ野郎、一本200円だぞ。簡単に奥の手を使ってたまるか。


 机の引出から常温で保存していたエナジードリンク『緑の怪物の力・コーヒー味』を取り出す。コーヒー味は売ってる店が少ないから、あんまり消費したくないというのもあるが、これが一番効くのだ。ちなみに常温で置いておく理由は、その方が体内での吸収速度が上がると勝手に思っているからである。



 プルタブを開け、缶の底に穴を空け、底の方から一気に吸い込み喉へと流し込む。


「――――ックゥ! この頭がバカになる感覚サイコーッ!」

『……いったい何をしてるんですか』


 何って動体視力のドーピング。実際、コーヒーには興奮作用があるから体感時間がより長くなって一瞬の判断力が鋭敏になるのだ。


「来るッ」


 スノーの体を若干左にスライドさせ、ガードもさせておく。すると下から斬り上げられたサーベルをダガーの刃とぶつかり、斬撃の軌道を逸らした。

 このせめぎ合いの後、先に動けるのはスノーだ。すかさず奴の背後に入り込み、スノーが腰の入れた見事な左ブローを叩きこんだ。



 文句なし、見事な一撃だった。



 殴った下わき腹の鎧が凹み、腰の右側が凍りついていた。


 相手は背後のスノーを一時的に見失っている。乱打のチャンスだ。


 そして画面の中央で――




『短剣術がLv3に上がりました』




「今出るなやッ!?」


 何度目だ。


 スキルレベルアップ報告されてしまった。運営、いつになったら客の要望に応えてくれるんですか。

 しかも立て続けて残影と魔力剣のレベルが上がりましたと出てきやがる。


 鬱陶しい上にこのタブ、画面カーソルで『OK』を押さないと消えてくれない。慌てて右手をマウス操作にして即消しするのだが――



『ぅわッ――!?』

「なッ!? クッソがッ!」



 ――お陰で初の直撃を食らった。


 シャドウナイトが剣を地面に突き刺す動作で『闇の波動』とでも命名しようか、剣を中心に黒霧のエフェクトが爆発してスノーを襲ったのだ。


 そのダメージはHP総量の6割方。そのあと、地面を転がり続け、壁に激突するまでに更に一割ほどなくなっていく。地面転がってダメージとか、そんなのまであるとかもう最悪だ……。


 いや、そんな事より。



「こちとら真剣勝負の途中に茶々入れやがって……」



 レベル差もあるが、スノーは紙装甲だ。まともな防具なんて装備していない。

 一撃でも良いのが入ったら、冗談じゃなく死んじゃうってのに、こんな下らないことで邪魔しやがって。


 こうなったら運営にこの仕様を変更するまでダイレクトメールを送り続けてやる。レス住人にも協力してもらって仕様変更の運動を唱えよう。


 とにかくスノーの状態確認をしたい。状態異常出血だけは御免こうむる。

 一々ステータス画面を開くのは操作の弊害になるので、状態チェックは携帯のアプリで行う。常に画面横に置いているので、タッチ起動させればすぐに確認できた。


「出血はないが、『恐怖状態』だと……」



 恐怖状態。たしかこのゲームでは闇魔法の特殊状態異常だったはずだ。


 闇魔法は状態異常系の魔法が多い。攻略サイトで今わかっているだけでも、恐怖、魅了、混乱、精神汚染が既に判明している。


 恐怖状態はキャラクターの動作不良。攻撃や移動などに補正が入ってしまう。

 治す方法は、聖魔法の状態回復か万能薬を使うしか判明していない。




「おい、大丈夫か?」

『む、無理です』

「お、大丈夫そうじゃん」

『あんなの! 直撃したら、死んでしまいます!』

「既に直撃したんだけどな」


 恐怖っていうか、怖気づいている感じだな。

 いや、冗談ではなく、こりゃあ参った。スノーの動きにワンクッション入って遅れる感じがする。さらに身を抱え、震えている。これじゃあ相手に『どうぞ御斬りになってください』と伝えているみたいだ。どんな対戦ゲームでも怖気づいて引き下がる奴が必ず負けるんだ。戦略的な誘いを目的とした演技ならともかく、これじゃあ格好の的だ。


 しかしあれだ。これは精神的に心が折られたというより、魔法的な効果なのだろうか。


「……スノー、怖いか?」

『はい……』

「何が怖い?」

『いえ、その。わ、わかりません』

「俺って怖い?」

『怖い、かも、しれません』


 いつものスノーなら、『いえ、別に』と応えそうだが、本人も何が怖いのかわかっていない感じがする。魔法の効果異常だと、無理やり恐怖という感情を埋め込まれているって感じになっているのか。


 となると、解除方法は本体殴ればいいとか、剣を折るとか、その辺か。


 まったく、どうすりゃいいんだか。


「よしスノー! もう面倒だ!」

『ど、どうするんですか?』

「お前はずっと目を瞑ってろ、何も聞くな、何も言うな。俺が全部勝手に動かすから」

『い、ヤぁ!?』


 イヤとか言ったかもしれないが、聞かなかった。


 とにかく、上手くいくかはわからないが、やれるだけやってみよう。やらなければここで俺とスノーの冒険はここで幕を閉じちゃうからな。


 それに、もしかしたら今がチャンスなのかもしれないのだ。



 奴が放ったのはたぶん、闇属性の魔法だ。魔法という事はあの技にはクールタイムがあるはずだ。つまり、今再び懐にもぐりこめば、同じ魔法を発動できないのだ。



 もしかしたら他にも魔法を持っていたり、別の技で対処できる可能性もあるが、今は考えない。



 スノーが足をもつらせながら立ち上がる。腕には青い痣をつけて、白くて綺麗だった服は転がった拍子に土で汚れてしまった。


 ナックルダガーもまともに握っていない。指にはめたモノをぶら下げているだけだ。



「……何か策が必要だ」



 いや、ある。


 策ならあるが、これは奴の動向が問題となる。



 これが失敗したら、たぶん、スノーは一刀両断だろうな。




 ……いや、リスクを恐れて、何が大物狩りだ。




「スノー、無事に帰ったら結婚しよう」

『……ふぁ!?』




 よし、死亡フラグ立った。ただし、意図したものなのできっと回避されるだろう。


 妙なジンクスを信じて、作戦を実行する。溜めをしない魔撃を放ち、微妙な速度で弾丸がシャドウナイトへと飛んでいく。


 シャドウナイトはアイスダガーを弾き飛ばした時と同じように、左の護拳付き短剣で魔撃を弾き飛ばし、凄まじい速度で突撃してくる。


 次はどうする? 更につっこんでくるか? また黒い真空刃が飛んでくるか?


 奴の性格からすれば、攻め時を見誤る事はない。だから――




「――このまま突っ込むよなあ?」



 奴は恐れに身を震わせたスノーに遠慮なく切り込もうと、更に一歩踏み込み、加速した。


 それを見越し――いや、確認もせずに奴がそうすると信じて、スノーを振り返らせ、しゃがませる。


 すかさず壁に対して、アイシクルタワーを発動。突如として壁から横に向けて生えた巨大な氷柱が生成される。鋭く尖った氷柱は、シャドウナイトを真っ直ぐに捉えていた。



 刹那――鉄が引き裂かれながら擦れる音が響き渡った。


 シャドウナイトが自分から氷柱に、勢いよく胸から突き刺さってくれたのだ。



「スノー、目を開けてみろよ。面白いモノが見れるぞ」

『は、はい? ……うわぁ』



 恐ろしいと思っていた存在が、軽く惨めな姿になっているのを見て、どんな顔をすればいいのかわからない、口半開きの呆然状態になっていた。




「策ってのはよぉ、即興で考えたモノが上手くはまると最高だよな。まだこれが怖いか?」

『……いえ、それほど』

「いい回答だ」


 状態異常にもすでに恐怖は消えていた。



「さて、この哀れなナイトを――ひたすら殴れ!」

『はい!』



 長くなるので省略するが、磔状態のシャドウナイトを十分以上もナックルで殴打し続け、倒す事に成功した。

オラオラですが何か?

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