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簡単に殺したらマズいんですよ、このゲーム

そろそろタイトルが変わります。

 家に帰ってきてすぐに夕食としてピザを数種類作り、自分の食べる分を皿に盛って自室にお持ち帰りする。


 さらに2ℓのコーラと氷の入ったパーティ用のコップを用意、あとは高級ヘッドホンを装着して音量は最大、気分はアメリカンピザ男のつもりでパソコンを起動する。赤か黒の帽子でもあればもっと様になっていただろう。いやはや、そんな下らない事をしているのが愉快でたまらない。毎日こんなルンルンな気分でゲームにログインしたいものである。



 昨日はホンの少し大変だった。ゲームのAIが悩み相談をしてきたのだ。それも、スノーの生い立ちとリンクしているというか。手の込んだイベントだった。


 そもそもスノーは周囲に人がいない環境で育ったのだ。都会にいきなり投入されれば人間関係で一気に疲れもするだろう。


 ……今更だが、人間みたいなストレスをAIが学習するとは、考えてみればすごい事だ。このまま技術が進化し続けるとどこまで行くんだろうなと、人がテクノロジーに飲み込まれる恐怖映画を思い出した。その内、本当に機械が人間をターミネートする世界になってAIが世界を支配する事にならないだろうか。



「うーん。そうなったら自分をサイボーグ化させて、敵側に寝返ろう」



 我ながらクソ野郎である。

 まあそんな事はどうでもいい。どうせ妄想だ。


「さーてと。今日からやっと本格的な戦闘ができるぞ。ウィーァッハー! イエー!」


 よく知りもしない洋楽を流しつつテンションのギアを更に上げる。



 早く戦闘したい理由はいくつもある。


 先日発見したコマンド技の事だ。


 コマンド入力の攻撃方法があると研究会で報告すると、近接戦闘の分野は凄まじい速度で成長を遂げた。



 必殺技を所持しているクラスは主に近接戦闘を行うクラスの特性であると今のところ考えられている。


 基本的にキャラ一体につき、最低3つは覚えており、強さも利便性も様々である。


 技の種類はクラスによって区別されるらしい。


 スノーはバトルアサシンで、その下位互換にアサシンというクラスがある。

 そのアサシンの方は既に情報として上がっていて、使える技も判明している。



 旋風翔。入力順は『横>下>斜め>攻撃』。無敵時間のある対空技で空中に昇りながら攻撃をする。


 天中殺。空中に居る時に『下>下>攻撃』。上空から急落下して襲い掛かる奇襲技。このゲームは速度が威力に加算されるので、火力不足を補える。


 魔力剣、入力順は『下>斜め>横>攻撃』。既にスキルとして所持している技だが、これも含まれるらしい。なにか違うのか、それとも一緒なのかは実際に試して確認したいところだ。


 空闊歩、空中に居る際、進みたい方向へ二回素早く入力する。多くの格闘ゲームで普通に存在する『空中ダッシュ』だが、サモンズワールドではクラス限定行動らしい。



 以上の4つがアサシンクラスの技だ。


 その上位互換のバトルアサシンともなれば、もう一つ二つ増えるだろう。


 それにスキルにある軽剣術と短剣術のレベルも上がっていけば、更なる技の強化も可能だろう。


 なにより、超必殺技なんてものがあるかも、と噂されているのだ。

 現状ではまだ憶測の域をでていない。だがNPCキャラがそれらしい大技を使ったのを見たプレイヤーがいるらしい。取得条件がわかっていないが、きっとスキルレベルが関係しているだろうと俺は考えている。……超必殺技自体がガセでない事を祈るばかりだ。




 まあ、最悪無くてもそれはそれでいい。スノーの強みは強力な一撃必殺技を使う事ではない。


 スノー(クラス:アサシン)は格闘ゲームで言うところの“紙耐久ハイスピード連撃タイプ”だ。相手を上回る速度で襲い掛かり、一方的に攻撃を与え、前後左右から手数で圧倒する戦い方ができる。それはそれで味のある勝ち方だ。


 美味い勝利は体が熱くなる。心が躍る。胸が滾る。闘争の炎が燃え上がるのだ。


 この面白みのない寒い現実には存在しない情熱だ。人間は基本自分勝手だし、相手するのは面倒くさいし、余計な情報がいつも飛び交って、雑音ばかり。気を使うし使わされるし、何から何まで鬱陶しくって頭がパンクしそうになる。


 だからこんなクソな現実とは一時おさらばして、今日も目くるめく夢のある異世界にのめりこむのだ。


 ああ、今日もそこには愛する我が分身、スノーが俺を迎えてくれるのだ。




「ただいまスノー、さあ今日も元気に張り切って――」

『精霊ゼタ、助けてください』


 目の前で見覚えのないNPC達が、剣を振って戦闘していた。



 ログイン早々に急展開だったが、盗賊とエンカウントをしたんだろうと考える。



 どうやらダンジョンと思わしき石洞の前には既に到着していたようだ。が、彼等はいったい何者だろうか。


 わからないが、戦えばいいのだろうか。

 まあ、先に状況の整理をしたいところだ――と思っていたのだが、片方の男の技量が高いのか、もうちょっとで決着がつきそうだった。スノーの助けてという発言もある。


 時間もなさそうだし、とりあえず止める事にした。



「スノー、アイスダガーで二人の邪魔する位置に投擲」



 もう既に手に握っていたのか、作った氷短剣を右手で投擲すると、うまい具合に二人の剣戟の最中に命中し、剣が重なった場所が凍りついて固まった。


『なんだ!?』

『おいテメエ! 邪魔すんじゃねえ!』


 二人は離れようとして剣を手放し、距離を取った。これで死線は少し遠のいただろう。


 しかし状況が未だにつかめないな。どうやら彼等はスノーに敵意はまだ向けていないようだ。


 その辺の詳しい話はよくわかっていないが、たぶんこの行動で間違っていないはずだ。根拠はスノーが待ったを入れなかったからである。


「とりあえずスノー、これで大丈夫か?」

『はい、とりあえずは……』

「じゃあ今から10秒以内で、なるべく簡潔に状況を報告して」

『え? あ、その、ちょっと、まって……――茶髪の男が敵、かも?』

「もう一人の冒険者風の男は?」

『たぶん、被害者……かと』


 要求しておいて申し訳ないが、ほとんど要領を得ない。

 まあ、詳しい話はあとで聞くことにしよう。茶髪の方を倒せば問題ない筈だ。



「戦闘不能を目的とする。スノー、バデレールを鞘につけたまま装備して構えて。紐でくくって鞘が抜けないようにな」

『わかりました』



 バデレールは短刀と似ているとはいえ、峰の部分に刃がついている。峰打ちができないわけではないが、余計な心配はしたくない。


 NPCでも殺人はまずい。



 それは『友好種族値』が関係している。



 不殺を望んでいるのは状況も把握していないのに、問答無用で殺すリスクを負いたくないからだ。下手をすると人間との友好関係値が低下しかねない。ただでさえスノーの友好種族は△と×しかないのだ。


 ちなみに友好種族の値が×になると、その種族から買い物ができなくなったり、差別で宿に泊れないなどのペナルティがある。さらに酷い地域だと奴隷にされて行動不能にされたり、問答無用で戦闘になったりする程だと攻略班から報告があった。


 友好種族値は大事にしないと後々面倒なのだ。




 さて、スノーの準備も終わった。茶髪さんにそろそろご挨拶をしようか。

よく知りもしないけどハイテンションになれる洋楽『ボスホス』の『ワードアップ』

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