キャラメイク
とある疑問を投げかけられた。ネットゲームをする際に「選ぶ性別はどうするか?」と。
俺は当然こう言った。
「いや、女の子だろ」
それが当然だ。当たり前であり、運命であり、世の真理だ。
愚か者はさらに疑問を重ねる。「なぜか?」と。
「いや、ゲームの中でまで男のケツなんぞ追いかけたくない」
という訳で、俺はどんなゲームでも決まって女の子を作るし使う。そして今回、始める「サモンズ ワールド」なるゲームでもそれは変わらない。
このゲームを始めるきっかけは、単なる気まぐれである。
よくわかんない内にβテストの応募メールが携帯に届いており、気まぐれで応募してみたら当選したと返ってきたから「じゃあやってみるか」ぐらいの気まぐれさである。きっと当選しなかったとしても悔しいなんて思いもしなかっただろう。
家に帰って早速パソコンからURL経由でゲームをインストールし、起動待ちする。その間、俺は別のゲームをしながらダウンロードを待つ。本当にそれほど興味はなかったのだ。
そしていつの間にかプレイ開始画面になっており、まずはキャラクターのキャラメイク画面に入る。
決められるのは名前、年齢、種族、容姿と、大手ゲーム会社であるならば別段驚くべきところのない普通っぽさがあった。
特に思い入れも感じなかったのでよく使う「ゼタ」という名前を入れて、種族がニュートラルである人間のまま容姿をいじくってみた。
と、ここで一つ驚く。
この容姿が、力の入れ具合が半端ではなかった。やたらとパーツが多い。
こういうゲームで決まってするのが、一番初めに最後の数字をみて、いくつパーツがあるのかを確認する事だ。目の種類だけで132種類。むしろ一つ一つ確認するのに困る程だ。ご丁寧にソート機能までついている。当然目の色彩も変更可能だ。
他のパーツを見ても、細かく区分化されている。
顔の各部パーツが多いのはどのゲームもそうだ。目、耳、口、眉、髪型、色、肌の色。
身長や胸、体格も基本的にどのゲームでもありえることだ。
だがそこから、毛の太さや生え方、腕や足の長さ、指の形、手相や足裏など「おいおい何処までこだわらせるんだコレ、どこむけのフェチだよ」と思わず苦笑いとなった。
やりようによってはとんでもない奇形が作れるぞ。そういうのに限って妙に面白いのが誕生するのだ。
ここで一つ疑問が生まれた。
「どこの会社だ、コレ」
有名どころでMMOを作ってる会社といえば大体察せられるが、聞いたこともない制作チーム名だった。
「『トラキオン』? 聞いたことないな……。『ジニー、検索お願い。ゲーム会社、トラキオン』」
携帯のAIナビさん(Shir○の亜種)で検索してみた。が、それに関する回答は「一ヶ月ほど前に株式登録された新設会社です」とロボ風に回答してくれた。
聞いたこともない会社だったが、設立したばかりならば納得だ。
「ふむ。人間じゃなくって、他の種族なんかどうなってんだ」
とりあえず人間のパーツから見ていたが、次にエルフを見た。順にドワーフ、ビースト、オートマタ、半魔人と軽くチェックしていく。
なんと言うか、世界観に忠実というのが中々深みを感じた。何がといえば、一つの種族に対するパーツの量が人間の時と同等かそれ以上の量があるからだ。
ビーストは獣人の事みたいだが、人間の顔の上にネコミミが生えている奴もいれば、完全に獣の奴まである。そうなってくると獣顔専用のパーツが割り振られており、体の造形まで同じ要領で変わってくる。毛並みだとか模様がどうだとか、爪の長さや厚さ、筋肉の柔軟さの表現、骨格の様子まで、見ているだけで感嘆の声が漏れてくる。3Dモデル単体でも売れる気がしてくる。
オートマタはどうやら自動人形の事で、これもフェチズムと男のロマンが詰め込まれている。球形関節が見えるのもあれば、どちらかというとサイボーグ的な生態パーツを使っているような造形もある。オーパーツ的なエンジンにチェーンや歯車といったタイプもあり、もはや何でもありである。
半魔人という設定には少しワクワク感もあった。どうやらこのゲームの設定的には魔人と人間から生まれたハーフ種族らしい。その所為か、角が生えていたり肌の色を赤にしたり、明らかに人間離れした外見にも変更できた。さらに血統の項目では鬼種や翼種、魔界種、他にも複数の部門毎が分かれている事からも、内容の底知れなさがうかがえた。
半魔人……これを選んでみるのも中々にオツな気もしたが……俺はそろそろ本命に触れたい気分だった。
全てのパーツを見ることはなく、エルフの項目に移動した。そういえばドワーフはどうしたかって? いや、あんな毛むくじゃらで男と女の区別がわからん種族に興味はない。
さて、エルフはどちらかというと他族と比べてパーツが少ない。全体的に見て思ったのが、綺麗な造形のモノしか取り揃えていなかったからだろうとも思えた。
思えば、人間、ビースト、半魔人には汚い造形のパーツも多かった。使われるかどうかの話はさておき、現実にいるとしたらこういう形のもあるだろう、という妄想を膨らませてくれる良い設定だ。
だからエルフの『選び抜かれた綺麗なパーツしか存在しない』というのも、エルフは美形であるという設定の忠実さが読み取れる。エルフというのはやはり美形であることが定められているのだろう。
という事で迷わずエルフを選び、パーツを取捨選択していく。
はじめは軽い気持ちだった。自分の妄想した最高の美を追求してやろうなんて冗談半分だった。
だが次第に時間も忘れ、完璧を目指し、「あれでもなければこれでもない」などと四苦八苦、気がつかない内に深夜のスーパーハイモードになっていた。
何で俺はこんなゲームに本気になって、キャラの造形を深めているのか。理由も動機も見失い、疑問もいつの間にかどこかへ消え去っていた。
もはや最高に自分好みな美女を作る事。そんな煩悩しか残っていなかった。
目指すべきは氷の女王のような芸術品。森の賢者とは一味違う、触れると冷凍火傷するぜヒャッホイと一人テンションを上げ続けながら、黙々と体形を作り続け、誰の声にも耳を貸さずに……――
そして気がつけば、朝陽が昇っていた。
「……なにしてんだろ……。自分で引くわー」
目の前のロリエルフを見て思う。
自分は果たしてこんな小さい少女が好みだっただろうか、と。
長い銀髪のストレート。子供っぽさがあるのに凛々しい顔つき。無感動のように無表情で、何事にも動じない冷静さが伺える。アイスブルーの瞳はさながら宝石のようにも思え、一人で興奮した。手足は細く、身長から比較すればそれほど違和感のない長さ。手足も思う限りの彼女に似合うものを選び、手相はわざわざネットで調べながら生命線が長く幸運に恵まれ、金運、縁、大成うんぬん……まさに考えうる限り最高の手相にした。我ながら無駄にこだわった逸品だ。
クールで知性的、なのに見た目が幼いというギャップはもはや王道と言ってもいいのではないだろうか。
あえて認めよう。惚れた。
そして自分が救いようのないヘンタイだったのだと理解する。
俺ヘンタイ。ああ、なんと罪深い響きだ。そっとパソコンのコンセントに油をまいてシャーペンの芯を――(危険なので絶対にマネしないでください)
「落ち着け俺。……所詮ゲームじゃないか。別にロリエルフくらい良いじゃないか。特別珍しい訳でもないし、ヘンタイでもない。いいじゃないかロリエルフ、みんな好きさ。というか、もうそろそろ現実見よ。……さっさと学校行って寝なければ」
完全に学校の授業で居眠りの予定を決め、素早くキャラメイクを終了し、画面を進めてさっさとゲームの世界に入り込む。そしてゲームデータがアップロードされていく。
なんだか時間がかかりそうなので、電源入れっぱなしで学校に行く事を決意。一応、一時間後にパソコンは自動シャットダウンをするようには設定したが、不安は残る。データのやり取りの最中に消えたらきっと大惨事だろう。
まあ、そうなったらそうなって別にいいかと開き直る。不安など軽く捨て置いて気だるげに登校することにした。
この先は家に帰ってからだろうと思っていると、学校の門の前あたりで――
「ん? メール?」
制作会社であるトラキオンからメールが来た。
内容はどうやらアプリの案内であった。
ざっくり言うと、『携帯からでもキャラクターの状態が確認できますよ』という物だった。どうやらパソコンと携帯で連動して遊べるらしい。少しだけ目が覚めた気分になった。
まだβテストだというのに、先走り過ぎてなかろうかと不安になる内容だったが、力の入れ具合が妙に凄まじいと感じさせることもある。そういう前のめりに制作していくゲームはきらいじゃない。むしろ好きだ。
という訳で、早速アプリを入れて授業が始まるまで状態を確認することにした。
名前:ゼタ クラス:未設定
年齢:13 性別:女
種族:闇エルフ 出身:ヒュードラ雪山
身分:忌み人
現在地:ヒュードラ雪山 教会
武器:なし(適正装備:短剣・小剣・☆弓全般・小銃・☆杖全般)
防具:エルフの衣服
装備品:なし
レベル:1
HP:17 SP:27 MP:41
筋力: 5 体力: 7 体格: 5
魔力:18 知性:14 精神: 9
敏速:15 器用:15 感知:12
肉体成長率:D
術技習得率:A
感覚最適化:B
性格:内気 冷静 弱気
友好種族
人間:△ エルフ:× ドワーフ:×
ビースト:△ オートマタ:× 半魔人:△
スキル
魔法
魔撃《属性:魔》
タイトル画面から移動すると、早速キャラクターのステータス画面であった。
「うーん。まともな説明が今の所一つもないけれど、他では見られない項目が二つ三つもあるな」
昨夜の内に作った設定は名前と性別と種族、それから見た目である。その他のステータス数値なんかは後でわかるというのは理解できる。魔法とかスキルとか、その辺の項目もまあわかる。
疑問に思ったりするのは、種族や友好種族といった項目だ。
種族が闇エルフとなっていた。普通のエルフを想像していたのだが違ったようだ。
醤油ラーメンだと思って注文したら味噌ラーメンがやってきた気分だ。同じラーメンだからいいでしょ? みたいないい加減さだ。
「闇だからなのか、身分が忌み人とかいう訳の分からない事に。友好種族に△と×しかねえし、そもそも同族からも嫌われてるのか」
開始直後でよくわからないが、あんまり味方っぽいとは言えない存在だ。
それに魔力や知性に比べて筋力や体力が軒並み低い。恐らく後衛での弓兵か術士が最適かと思われる。適正武器でも弓と魔杖は全般使えるみたいだし、☆のマークが入っている。
要するにこのキャラはガチガチの後衛タイプで、つまり連携が必須となりえるステータス配分なのだとわかる。
「一人で突撃したらすぐ死んじゃいそうな感じだな。というかエルフでも剣士を選ばせてほしかったもんだが」
他のゲームでももっぱら、自分はガチガチの接近戦プレイヤーだと思っている。剣か銃、どちらを選ぶとしたら剣だ。無論ここに魔法が入っても剣だ。
打撃と斬撃は違う物だと思っているし、大剣・双剣・長剣・刀などを主に好んで使う。別に遠距離攻撃が嫌いだとか苦手だとかではない。こだわりというか、ただ接近戦をしている時のギリギリのせめぎ合いなんかが楽しいのだ。
「短剣か小剣って、副兵装じゃないか。二刀持ちができたら、まあ続けてもいいか……」
そんな感想を述べていると、携帯とにらめっこしていた俺に声を掛けてくる者が居た。