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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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異常の片鱗

 すべての授業が終わって部活動が始まるという頃。

 あの氷魚先輩……師匠から緊急事態の呼び出しを受けた。今日はコンビニに寄ってピンクで薄いゴムを買い、迅速な帰宅をしたかったのだがそれは叶わなくなってしまった。


 ちなみに逃げ出すことは断じて許さないらしい。……逃げたらどうなるのか試したいものだが、師匠をコケにするのも良くない。


 まあきっとすぐに終わるだろう。『ゲーム制作部』は基本、各々分担作業で活動している。その多くは自宅で進めている。今のところ、部室での活動はミーティングくらいだった。



 早いところ用事を済ませようと部室のある棟に向かおうとするのだが、何故かダイスが俺の後を追っていた。


「……なんだよ、まだ何か用か?」

「いやぁ、その、ちょっとさ? あ、そうだ、ゼタって何部だ?」

「聞いてどうすんだよ?」

「べ、べつに? ただ気になっただけっつーか、まあ、そんな感じ?」


 気になっただけで追いかけてくるんじゃあない。それに返答になっていない。会話のキャッチボールが下手くそか。本当、面倒くさいから無視したい。


 ……とはいえなぁ。復縁した日に険悪にするのも、意地が悪いか。



「ゲーム制作部だよ」

「へえ、ゲーム制作部に入ってんだ」

「……そういうお前は?」

「漫研――」

「よし、もう二度と俺の目の前に現れるな」

「――いやいや! でも、あれだ! 俺の考えてた漫研のイメージと全然違うくってさぁ、別の所に入ろうかと思ってんだよ!」

「だと思ったんだよクソッタレ」



 結局金魚の糞みたいに付いてくる気だったのかよ。勘弁してくれ。



「いいじゃねえか別に。それにオレもゲーム作るとかちょっと興味あるし」

「……言っておくが、お前が思っているようなゲーム作りじゃあねえと思うがな」



 普段、格闘ゲームばかりしている先輩たちが何作っているのかと言えばアナログゲームだ。

 あと今期の先輩方はテーブルトークRPGに特化しているらしい。まあ、最近の流行りかね。某動画サイトで大流行したしさ。


 とまあ、そんな話はどうでもいい。それより今はコイツと早く離れたい。



「お前が来てもなんの役にも立たないからさっさと漫研と言う名の就労監獄所にお帰り」

「ちょちょちょちょっと待てって! そう邪険にせずに聞いてほしい話があるんだって!」

「また今度な。それか間にティンを挟んで会話してくれ」


 人間、そう簡単に嫌いだった奴を突然好きになんてなれないんだよ。まだダイスに対しては嫌悪のベクトルが少しは残っているのだ。


 そういう所の気遣いが足りねえから邪険にしているというのに言わねばわからないのか、この阿呆は……。


「あーもうわかった! いいよ! もう勝手に付いて行くから!」


 なぜそうなる。

 怒るくらいなら距離を置けばいいのに。


 どうでもいいや。ダイスのことは勝手に付いてくる置物とでも思っておこう。


 そんなやり取りをしたからか、部室に到着して扉を開くと俺が最後だったらしい。師匠である氷魚先輩、それからアベコベの双子先輩たち、それから三年の斎藤部長が既に着席をしていた。


 斉藤部長は体も大きく、少し野性的というか、粗野な感じの人だ。だけど性格ならこの場の誰よりもまともだ。とはいえ、こんなクセモノだらけの巣窟でだけどな。



 一言、遅れてすみませんと口にする寸前、待ってましたと言わんばかりに氷魚先輩から野次が飛んできた。



「遅いよゼータ。センパイを待たせるとは良い度胸だよ」

「人を可変式ガ○ダムみたいな呼び名にしないでください、球磨川先輩」

「逆にゼタくんは仰々しいので、もっと親しみのある呼び方に変えるよーに。候補としてはベア師匠、氷魚パイセン、クマちゃんさん」

「ちゃんさんパイセン師匠、勘弁してください」



 何も考えていない返答を繰り返しながら自分の席である出口から一番近くの椅子に座る。

 今日は珍しくモニターとゲームに電源が入っていない。こういう日はいつも真面目なミーティングになる。そして無駄に長いことが多い。


 本日はどんな話をするのやら知らないが、早めに終わって欲しいものだ。



 決められた自分の席に着いたところで、斉藤部長が当然の疑問を投げかけてきた。



「さて、今日集まってもらったのは重大な話がある。のだが……時に辻風、後ろの彼は?」

「ただの動く置物です。お気になさらずに」

「なんでだよ! ……えーっと、入部希望の竹林大輔です。今日は見学させてもらおうかと思いまして――」

「――ほう、この時期にか」


 斉藤部長がちょっと含みのある顔をした。当然だ。ゴールデンウィク明けの『部活動始め立て』なんてタイミングで部活を変える奴、「どうせすぐにやめるだろ」と入社三ヶ月で退社した新社員並みに信用されない。再就職はきっと苦労するだろう。



「ありがたい。キミ、今から入部して欲しい。よし諸君。今日の会議は終わり、解散! あ、竹林君。入部申請書明日までによろしく」

「ちょっと待ってください」



 なんだ、いまの迷いのない対応は……。どころか恐ろしいまでの食いつきようだ。

 しかも緊急会議も終わった、とはどういう話だ。


 いや、予想しよう。こういうのは大概、お決まりの展開というのがあるはずだ。


「斉藤部長、一応説明していただけますか?」


「実は部長会議で、今年から部員五人以下の部活動は廃部ないし、同好会に格下げすると言われたんだ。ウチが廃部なんてないだろうが、同好会では生徒会から部費が降りないからな」

「ああ、お決まり過ぎる……」

「ついでにウチはゲームばかりして活動結果を出さないロクデナシだからな!」

「グーの音も出ませんね」



 同好会に格下げされても別に良いとは思うだけどな。活動内容だって対戦ゲームで遊ぶか自宅での個人作業だし。


 それに、入部希望者は他にもいたのだ。……入部希望者を全員追い払ったのは他でもない氷魚先輩と斉藤部長の二人だけど。


 入部試験とか言って俺と同じように対戦ゲームをさせて『下手くそだから入部拒否!』なんて平気でしていたのだ。だのに今になってコレとか、ホントこの人達って面白いよ。……人事ですが何か?


 だが、人事だからこそ、思うところもある。


「ぶちょー。ちょっちいい?」

「球磨川? 何かあるのか?」

「私じゃなく、ゼタ後輩が何か言いたいみたいだよ」


 わざわざ黙っていたのに、氷魚先輩がわざわざ掘り出してきた。そんなに顔に出ていたか。


「何かあるのか、辻風?」

「一応、入部試験をしませんか?」


 このまま何もしないでダイスを入部させるなんて少し不公平だ。

 別に邪険にして追い出すつもりもないが、せめて入部テストだけは受けさせたい。そしてパシリ認定を受けて雑用係に落としてやりたい。でなければ俺の時はなんだったのだ。未だに碌な部活内容も知らないし、毎回ゲームのトレーニングモードに付き合わされて無駄な時間を食われている。



 要するにスケープゴート役が欲しいのだ。



「なあゼタ、試験って何するんだ?」

「別に難しいことはしない。ただ好きなゲームを選んで対戦するだけだ」

「チョット質問。ココって『ゲーム制作部』なんだよな?」

「恒例行事だ、気にするな」



 ゲームを作る側が対戦ゲームで選考されるのはどうかと思うが、それが今のこの部の方針だ。

 部活道とは全くの無関係だろ……とは毎回思うのだが、そういう決まりだったはずだ。


 ふと、氷魚先輩を見ると、イタズラっぽい表情をしてニヤリと笑っていた。



「やはりゼタくんもそう思うか。実は私も少しくらい揉んであげてもいいかなぁと思ってたんだよ」

「ですよね師匠!」

「というコトでゼタくん。今回はキミがやりたまえ」

「あれ? 今日は球磨川先輩はやらないのですか?」

「私はパス。最近徹夜でね。ちょっと本調子じゃないの」



 そういう氷魚先輩はあくびこそしていなかったものの目蓋が少し重いのか、平目になっていた。

 さてはゴールデンウィーク中は夜型生活を送っていたな。いいなぁ、俺もそんな気楽な学生生活を送りたかった。


 ……まあサモルドの件を除けば、俺だって十分に気楽な学生生活だけどさ。



「え、ナニ? ゼタとやんの?」

「ああ。どれでもいいさ。ここにあるゲームで好きなの選べよ」

「マジか。お、このゲーム懐かしなぁ。あ、こっちは兄貴とよくやったなぁ」


 そういって、奴が手に取ったのは……ネタで有名な某世紀末バスケット格闘ゲームと、存在そのものがバグとまで呼ばれる3D対戦ゲームだった。なんてコアなゲームを手にして、純粋な目をしているんだ。そう思うと俺の中で奴の見方が少しだけ変わった。


 ……もしかしたら俺は、少々奴のことを甘く見ていたのかもしれない。


 いや、よくよく考えてみればコイツだってサモルドではランカーを張る男だ。間違っても弱いなんてことはありえないだろう。



「お、これなんて、いいんじゃね? これならゼタもやったことあるだろ?」


 そうして提示してきたのは何十年経とうと変わらない、不朽の名作『街バト』のⅡだった。2D対戦格闘ゲームでコレを知らない奴はきっといないというほどのゲームだ。


 まだコンボという概念が誕生したばかりのゲームで対戦形式は立ち回りが重要視されている。そして読み合いの錬度もかなり高い正統派格闘ゲームの金字塔だ。


 非常にいいチョイスだった。気に入った。大いに見直したよ。


 あとは手早く対戦準備が行われた。問題はレトロゲーム特有のゲームカセットの反応だった。カセットタイプはディスクと違って接触が悪いとゲームが起動しないのだ。


 色んなオカルト起動方法を試して数分後、やっとの思いでキャラセレクト画面まで辿り着く。



 さあて、いよいよ対戦だ。

 今回、俺は遊びなしで真面目に戦うつもりでいる。迷いなく、一番勝てるキャラを使うつもりであった。



「ゼタ、解ってるとは思うけどマーシャルアーツの軍人は禁止ね」

「……師匠、真剣勝負にハメ無しなんて勿体付けないでくださいよ」

「それじゃあ試験の意味ないし」


 そりゃあそうだが、面白くないな。師匠のいうことだから素直に従うけれどさ。

 ならばと諦めてクンフー警官を選ぶと、ダイスはロシアンプロレスラーを選んできた。どちらも人気の高いキャラだし、よく見る対戦図式だ。ちなみにこの場合はクンフー警官のほうが有利だ。



「それじゃあ二人のお手並み拝見といきますか」

「部長はどっちが勝つと思う?」

「辻風に一枚」

「だよねー。私はあえて竹林くんに一枚」

「一号、二号、お前らはどうする?」

「じゃあ辻風氏に一枚ですぞ」

「俺も辻風に一枚。あと部長、俺らを一号、二号って呼ぶのやめてくんね?」



 裏で賭けが始まった。しかも師匠は俺ではなくダイスに賭けやがった。ちょっとどころではなく、非常に腹が立つ。



「なあゼタ、オレらも賭けね?」

「別にいいけど、お前負けたら一万な」

「うげ、金かよ……つーか額のゼロ二つ減らしてくれ」

「つまんねえヤツだな」



 別段、俺がお前に何か要求することもないし、期待するモノもない。じゃあだから万人にとって価値を見出せる金を要求するしかない。

 それに払えなくても別に構わない。それをネタに弄るだけだ。



「そもそもお前が勝てば問題ない話だ。それよりそっちの望みはなんだ?」



 負ける気など微塵もないけど、とりあえず煽るつもりで聞いてやった。

 俺にとっては所詮その程度のつもりだった。しかし俺とは違い、ダイスは神妙な顔つきをして真面目そうな顔してから口を開いた。



「……相談を聞いてくれ」



 眉をひそめたくなるような望みだったが、話している間に対戦モード画面になっていた。

 気を引き締めなくては、と気持ちを切り替えて画面に集中した。


 対戦前に軽くボタンを押して感覚を思い出そうとしてみた。

 それにしても十字キーのコマンド入力なんて久しぶりだ。最近のコントローラーよりよっぽどチープなさわり心地で軽い。ボタンもちょっと反応が悪い。反発する為の中のシリコンがきっと古くなっているからだろう。少し強めに押す必要がありそうだ。




「勝たせてもらうぜ、ゼタ!」

「言ってろザコ輔」




 と、盛り上がりを見せたのもココまでだ。


 ここからは対戦内容になるのだが、俺は詳しく語りたくない。

 何せ俺にとって、ちっとも面白くもないオチが待っているんだからな。



 簡潔に言えば、俺は奴から一本も取れずに負けることになる。どころか攻撃すらできずに終わる。


 実力で負けたんならいいさ。

 だが、冗談じゃあない。こんな酷い負け方が通って堪るかよ。




 ……コントローラーが潰れたんだよ。



 現実ではありえない潰し方でさ。




「初めて見たぜ、親指でコントローラー貫いてるの」

「……俺もだよ」



 強めに押そうと思った指が、板みたいなコントローラーを手品みたいな見た目で貫通していた。

 意味わかんねえ。

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