時を遡れば――②
変更点。
鳥谷氏⇒竹林氏に変更いたしました。
連続殺人事件もいよいよ本腰という頃合。
日野アキラは検視による遺体解剖の立会いに来ていた。
三人目ともなると世間の注目度も高まり、警察としてもこの事件の重要性は高くなっていた。
だけれども彼等にとって異世界絡みの事件は探れば探るほど、違和感だとか奇妙だとか、理解できないといったことばかりが目立つ。
「どうみても奴さん、鉈とか斧とか……あり得ないが、中世の剣って類の刃物を携帯してる。だが、そんなもん昼間っからどうやって持ち運ぶ?」
「え? そうですね……。例えば車とかに隠してるとか、ですかね?」
「……二人目は狭い路地を追い掛け回された末に死んだんだぞ」
「それもそうですね」
そもそも、二人目の被害者を追いかける犯人の姿を、誰も目撃していないと言うのだから、既に最初からおかしな話なのだ。町中の防犯カメラの映像にも、走り抜ける少年の姿しか確認されていない。
そして日野の隣にいた人物……日野の後輩は、一人で勝手にお手上げと結論付けて、最近はずっと携帯のゲームに夢中だった。今だって上司の命令で、仕方がなく検視を見学しているに過ぎない。
日野は普段ならば舐めた態度を取るなと激怒している頃だろう。しかし、残念ながら現在の日野は後輩と同じ気分で、結果を待つばかりといったところだった。
とは言え、それほど待つこともないだろう。死因は刃物による斬殺。それ以外になにがあるというのか。
わかるのは、犯人が使っていた大よその得物と技術の錬度くらいだ。技術よりも力任せという技量で、しかし迷いのない太刀筋から手馴れている輩であることは容易に想像できた。
「やっぱり他のホトケと同じ、即死ですかね」
「お前、話を聞いてたのか? 今回は病院に着くまでしばらく息をしてたって聞いてないのか?」
「……嘘でしょう? あの傷、きっと心臓まで入ってますよ?」
「確かに、な。それこそ奇跡なのかもな。……だからこそ、まだ生きていてくれたら、立派な証言者に成り得てくれたんだがな」
そこまで日野が口にすると、死人に対して自分勝手な発言をしたと気が付き、自分の悪癖が出たことで無性にタバコを吹かしたくなった。何か悪い気分になるとすぐに煙草を考えるのも、悪い癖だ。
とりあえず禁煙中に使えるキツメのミントタブレットを取り出して無言で口に入れて紛らわせた。
そんなことをしている間に、検視官の執刀医からいぶかしんだ声が聞こえてきた。
「何か見つけたか?」
「いえ、なんといいますか……。心臓に石コロ一つ分の窪みがあったのです。まるでそこに何かがあったみたいに……」
「……医療器具を取り付けていたとかは? 例えば幼い頃にペースメーカーを入れた、とか?」
「カルテにはその様な記載はされておりませんし、形も全く別ですね」
「ちなみにそれは死因に関係があるか?」
「刃傷とは全く関係がないと思われます」
「そうか。とりあえずは記録だけはしておいてくれ」
こうして、また一つ要領の得ない話が出てきたところで、日野はまた溜息を吐いてしまった。
日野はいつしか、隣りで携帯でゲームをして無言を貫いている後輩が羨ましく思えてきた。
「竹林、ゲームって楽しいか?」
「……まあ、ボチボチっすね」
「遊んでるのに楽しくないのか?」
「あんまりそういう感覚ではやってないですね。これでも自分、真剣にしてるつもりなんで」
「その熱意を事件に向けて欲しいもんだ」
そういうと、日野は出口の方へと歩き始めた。
竹林後輩がどこへ行くのか訪ねると、日野は「トイレ」と短く言い放ち、退出してしまった。残された後輩は溜息を放つと、携帯を一瞬見て、頬を軽く掻いた。
「……うーん。俺もどーするかね」
『なにか?』
「いや、どーにもならん話だ」
竹林刑事は執刀医に睨まれたのを感じて、肩を竦めて部屋を出て行った。この場で彼が一番、どうすれば良いのか本気で悩んでいたことなど、知る由もなかった。
「言っても誰も信じないだろうって話を説明するには、どうすれば言いと思う?」
『……私ならば、自分を信じてくれる味方を多く作ります』
「……参考にならないご意見どーもありがと、スケアクロウ」