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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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相棒の誓い

 向こうは寒いからと防寒着を着せて連れて来た聖は、さっそく教会の外へ出て、しばらく言葉を失っていた。



「……マジでココどこよ」



 やっと口を動かしたかと思うと、男さながらの口調で呆然といった風にしていた。


 俺としては、どうやら普通にゲームに関わっていない人間でもこちら側に来れるという実証ができた。……なんて別のことを考えていたので、話半分の相づち程度に言葉を返した。



「ヒュードラ山脈、スノーの故郷だよ」

「さむいわよ」

「まあ、雪山だしな」

「山の上なの? 耳キーンってなってないけど」

「……その表現はどうなんだ?」



 でも言われてみたら、高所へ移動した時に感じる気圧の変化らしき物がないというのは盲点であった。けれどこの世界にそういう現象が実在して、通用するのかどうかは不明だ。


 竜の背中に乗って空を移動し続ける世界観だ。現実で同じ事をしようとすると空気が薄くて気を失ったり、寒さで凍えてしまうらしい。以前どこかのスレで第二次世界大戦の戦闘機パイロットは皆、体を温めるために酒を持ち込んでいたという話を聞いた覚えがある。


 もしかしたら地球とは、何学の根本が違うのかもしれない。魔素だかマナなんてものもあるしな。


 それにこの世界では神様が実在していて、御神殿に仮面を付けた女神様(?)がいたり、水を沸かせたりとか……この世界の住人の生活に直接関わっていたりするのだ。地球と同じ常識とは考えない方がいいのかもしれない。



(……神様、か)



 ふと、神の存在について考えると、今まで思いつかなかったことが思い浮かんだ。


 この世界の神様はゲームとして考えていた頃だと単なる世界観の背景としか思えなかった。地球の神様とは違って、かなり露出があったからだ。


 だけれどここは仮想世界ではなく別の現実だ。ならばこの世界の神が超常的な存在だとすれば、まさしく運営と同じ立場だったりするのではないだろうか? ……なんて考えたりもした。


 実際はどうだかわからない。もしかしたら地球の何者かが神々の領域じみた能力を駆使して、ゲーム的な異世界を構築した……とか。そんなとんでもない話があるかもしれない。この場合、異世界の神という存在は俺達とそんなに立場は変わらないことになる。


 あるいはこの世界は誰かの妄想を具現化した夢的な話だったり、他にも宇宙よりも上位の世界からシミュレーションを行なっているだとか……。


 ……なんだか発想がいずれも狂気染みてきたな。SANチェックの必要があるだろうか?



 ともかく、この異世界でも名のある神と対話をすることさえできれば、地球と異世界が繋がった状態に、何らかの説明が得られるかもしれない。



「……ゼン太郎、彼女を連れてきて本当に良かったんですか?」



 今後の予定に少しばかりの指標に目処が立ったところで、スノーがやっと口を開いた。どうやら聖は村の散策に出かけたのか、姿が消えていた。……聖がいなくなったのを待ってからの開口だったのか。



「まあ、約束だったしな」

「いつもみたいにはぐらかせばよかったのでは? そういうのは得意ですよね」

「人を詐欺師みたいに言わないで。あとお前は聖に何か恨みでもあるのか?」



 いつも聖が目の前に現れると、スノーは警戒心を表すようにくちびるを僅かに尖らせたり、眉を顰めたりとわかりやすく不機嫌になる。



「アレはゼン太郎を困らせました」

「細かいことを気にするなって。あれは身内ネタみたいなもんだ。アイツは暴力的だけど人望もある。中身は俺より数倍はまともだ」



 と聖を持ち上げつつスノーを宥めようとすると、何故か口から溜息を吐かれてしまった。どんな気持ちを込めた溜息なのか。


 なにがいけなかったのかちゃんと理解してないけど、こういう時は頭を撫でておく。そうすると納得がいかないと主張するように手から逃れて離れてしまった。まるで猫のご機嫌を伺っているみたいな気分になってきた。きっと今の自分は相手を察する能力が求められている!


 というコトで頑張って考えてたのだが……結果として俺が微妙な気持ちになった。自惚れるつもりは全くないのだけど、自分の相方を取られるみたいな感じなのかもしれない、とか思えてしまったのだ。これって自惚れてるから思い付く発想であって、自分にはそこまで人望ねえよってツッコミを入れたくなる。というか、個人的には人望なんてないほうが気楽なので欲しくない。



 そういえば――



「……なあ、スノー。これは明言しておく必要もないかもしれないけど、今の俺達の関係ってなんだと思う?」


「今更ですね。……“精霊と精霊付き”ではないですか?」



 今までだと、そういう考え方のままでもいいのだろうな。



「でもさ、それってなんだかゲームとしての設定っぽさが残ってて、俺は嫌なんだよ。未だに“使ってる”みたいな感覚がして抵抗がある」


「……ゼン太郎は私を使うのは嫌なんですか?」



 そうすると、スノーがまたムっとした表情を作った。今の話の流れだと、この前の話はどこへ消えたんだってことになるからな。



「早とちりするなって。別に頼りたくないって訳じゃないんだ。なんていうか『使う』なんて言葉はさ、物とか道具に当てる言葉だろ? でも『頼る』って言葉は人にお願いをする時に使う言葉だ」


「……つまりゼン太郎は、私を物としてではなく、人として扱いたい、と? 確かにそれらしいことを以前も言ってましたが……しかしそれは、単なる言葉のあやでは?」


「言葉を軽んじるなよ。言葉は言霊、そこには魂が宿るもんだ。だから大事なところはキチンと整理しておくべきだ」



 スノーとは特に、だ。


 これから先、きっと多くの難題が用意されていることだろう。それを乗り越えるには、今回のようにスノーと一緒に立ち向わねばならないこともあるハズだ。


 もはや四の五の理屈をこねるつもりはない。これから先、自分一人の力で解決するのは無謀だ。これからは自分の問題は俺だけのモノではなく、スノーの問題でもあると認識すべきだ。そういう気持ちなって欲しいと願われてしまったのだから、それに相応しい間柄を決めておきたい。



「俺はスノーとは対等な立場でありたい」


「……対等、ですか」


「ああ。それこそ……――“相棒”みたいな関係がいい」



 相棒、ただの思いつきだった。だけど、そんな風な関係が理想だと、勝手に想像した。



「相棒とは、特別な関係ですか?」

「当然よ。相棒は厚い信頼と固い絆で結ばれた最強の存在なんだぜ?」

「よくわかりませんが、カッコいいですね。具体的なことはちっともわかりませんが」


 確かに、今のは具体性がなかった。何かいい手はないかと考えると、簡単に一つ思いついた。



「……なんなら誓いでも立てようか?」


 教会という場所がそういう雰囲気もあってか、そういう考えに行き着いた。


 思いつきで置いた教台の上にある黄金の杯に目が行き、スノーと一緒にそれの目の前までやってきた。中を覗くと、透き通るような透明の水が杯の中で器の黄金色を映し出している。なんだか匂いだけでも心が躍るような、そんな清々しい香がしていた。


 透明ながらも水らしからぬ匂いを嗅ぐと、やっぱり酒なんだな、と今更ながらに感じ取った。どうでもいいが、当然ならが俺もスノーも未成年だ。たぶんどっちも飲んではダメなのだろうが、しかしここは日本ではない。異世界だ。だから一切、問題はない。……ということにしておこう。




「さてと……。前口上だが……」

「ゼン太郎からどうぞ」


 やっぱりそうなるよな。まあ言いだしっぺだし、ある程度要点は考えていた。



「辻風善太郎は、“無貌の白雪”のスノーとはこれより先は一心同体、これから先はいかなる困難も共に立ち向かうことをここに誓う」


「……“無貌の白雪”のスノーは、善太郎とこれから先も共にあり、いかなる障害も共に乗り越えると誓います」



 お互いに即興だった。それでもそれなりに形になったのが妙に面白くて、お互いに微笑を作っていた。


 そうしてから一口ずつ、交替で黄金の杯の口に当てて、儀式めいたことに興じていた。




 ……その間、俺の視界には再び、青い二枚の羽が宙に漂っていた。

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