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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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決断⑤

『弱い者ほど、相手を許すことができない。許すということは、すなわち強さの証なのだ』

マハトマ・ガンジー

 急に、溜息を吐き出したくなった。



 段々、馬鹿馬鹿しくなってきた。


 本当、お前はそうやって毎回毎回、俺の出鼻を挫きやがる。全く、自分を殺した相手だぞ? お前こそ正気かよ。……なんて、悪態吐きたくなった。



 だがな、俺だってちゃんと考えてるんだ。


 コイツは既に消さなくちゃあならない悪だ。過去の不幸を免罪符に殺人なんて認める訳にはいかないし、人間なんて大なり小なり嫌なことを飲み込まなきゃあいけない時がある。


 だから野放しにはできないし、そしたら俺はコイツの罪を容認したことになる。そんなことは断じて許さない。



 しかし、それでも俺はどっかの馬鹿のお陰で、この男を許さなくてはいけないらしい。誰に、何に対しての「許せ」という言葉なのかも不明だし、わざわざ律儀に聞くこともないけれども。


 そりゃあ、聞いてやるよ。……聞いてやりたいんだよ、奴の親友だった身としては。



 そもそも俺は納得を得る為にココまできたはずだ。



 よく考えるんだ。単に許さず、血祭りに上げただけで俺は満足かよ? ……わかんねえけど、気分良く清々しい青空に朝日を浴びて最高の目覚めってことは無さそうだ。殺しておいてそんな風に振舞えるんなら俺はとことん病んでるに違いない。


 むしろ、夜な夜な眠れない日でも続くんだろうか。心は気付いてないフリをして、体は勝手に反応するらしいからな、自分の場合。



 それに……。



 ナイフを床に落とした時点でこのクソガキめ、今がチャンスとばかりに必死にもがき暴れ始めた。全く持って反省の色なしとなれば、もはや怒りなど通り越して呆れ果てるしかなくなってくる。


 やっぱり許すなんて不可能なほどに、コイツの性根は腐っている。



「いい加減にしやがれ!」



 ついつい腹が立って暴力に訴えた。有体に言って顎に向かって右フックをお見舞いしただけだ。ついでに掴んだ胸倉を引き寄せつつ、腰を使って体を捻じり、肩をぶつけるイメージで横から殴ると、相手を昏倒させられる程の威力があるらしい。初めて人に向かってこの技を使ってみたが、綺麗に気絶してやがる。


 ちなみに顔面を殴る時、正拳突きは大変危険らしい。なんでも歯を殴ってしまうと逆に自分の拳を痛めるからだとか。まあ、顎を殴っても拳が痛いのは同じらしい……。



「まったく、余計な手間を掛けるんじゃあねえよ。殴る側の身にもなって考えろ」

「……ゼン太郎、結局、それはどうするんですか?」

「……さてな? 俺も正直、どうすればいいかわからない」

「相変わらず、ですね」

「今回ばかりはわるいと思ってる」



 とりあえず考えるしかあるまい。自分なりに納得できる微妙なラインを。


 ……まずは……そうだな。感情と理屈を別けて考えよう。どうにもそこが厄介な気がするのだ。


 それに、小田を殺された怒りが強すぎて、今の自分では、最終的に殺せば晴れるような気になってしまっている。実際のところは自分でもわからないが、とりあえず、そう決め付けた。


 ただ、別の要因で小田の意味不明な死に際の言葉に反したくもなかった。これも感情的で、実に厄介な問題である。



 逆に感情を抜きにした場合の、奴を始末する理屈を考えてみる。


 生きていると困る理由は多々ある。


 奴は復讐なんて簡単に考えつきそうで、自分が悪いとは一切思ってもいないのだろう。きっと俺に仕返しをするに違いない。奴はそういう男だ。それは奴のしてきたことから明らかだ。


 そして自分の手で殺す理由としては、今の日本の裁判に掛けたところで証拠が機能するとは思えないからだ。


 だから己で始末した方が手っ取り早いし、殺した方が世の為だ。時間も掛からない。時間は無限ではないのだ。いつまでも一人の人間に構っていられるほど、人の時間は安くない。


 ……だが待て、と警鐘を鳴らすものがある。


 本来、人が人を裁く正当な理由などない。だというのに自分があたかも裁定者であるように、他人の生き死にを決めるだなんて、思いあがりも甚だしいではないか。


 殺すのはさすがに極論過ぎている、早計だ。更生させられるのならばそうしてやるべきだという情けも、少しくらいあってもいいのではないだろうか?



 ……と、まあ、感情を抜きにして考えてはみたが、やはりいけ好かないというのは変わりない……。



 どうせ生き延びるのならば、自分のしたことを悔いるくらいの酷い目に遭って、どこか知らないところで勝手に朽ちてもらいたいくらいだ。



「……そうか、島流しって手もあったか」

「決まりましたか?」

「一応、な。ちなみにスノー、この部屋の紋章陣で転移した先はどんな場所だった?」

「そうですね。暗くて狭い、洞窟のような場所でした。それから森独特の湿気もありましたね。……恐らくダンジョンかと。ですが、すみません。急いでいたので、それ以上のことは……」

「いや、十分だ。むしろ丁度いい。スノー悪いが手を貸してくれ」



 松葉の所持品をすべて部屋に置きざりにして、スノーが一度転移した紋章陣の上に置いた。とは言っても、目ぼしいのは奴の携帯くらいしかなかったが。


 そもそも不思議なのはパソコンが壊れたのに、紋章陣はそのままだということか。いや、自分の部屋のパソコンだって電源を落としても紋章陣は残っていたか。そう思うとまだ不自然さはない。


 それより問題は、この紋章陣をどうやって消すか。……一つ試してみるか。どうせ松葉の所持品だ。それでダメだったら、スノーに部屋ごと魔法で消し去ってもらおう。



「それで、どうするんですか?」

「……最後に奴の耳に直接聞かせなきゃあ、気が済まないことがある。……合図したら転移で送ってくれ。それで、終いにしよう」



 奴の為に待っているのも癪なので、上体を起させて耳を引っ張って無理やり目を覚まさせた。するとまだおぼつかない様子ではあるが、話は聞ける体勢であった。



「……あ、え? 痛い、痛いからやめてよ」


「安心しろよ、すぐやめてやるからよ。だがこの方がよく聞こえるだろ、耳クソ野郎。お前を今から異世界に送ってやる。二度と帰ってこなくていいぞ」


「え? な、なんで、そんなこと――」


「俺はお前をとてもじゃねえが、許せない。この場で絶望に顔を歪めながら冷たくなってくれたらと本気で願ってるよ。だがな……死んだくせに業腹にも“許せ許せ”とうるさい奴もいるんだよ。


 だからな……どっちも選ぶことにした。許してやるよ。絶対に許さないけどな。俺はお前を殺すつもりで異世界に送る。だけど同時に、許すつもりで命だけは取らないでやる。そして二度と俺の目の前に現れるな。向こうで勝手に朽ち果てるなり、もがき苦しんで生き恥でも晒してろ。今後、俺に一切関与しなけりゃあ、きっと恨みも忘れてるかもな」


「い、いみがわからないよ」


「……受け入れられないんなら、やっぱりお前はすぐに死ぬか、地べたを這いずり回るゴキブリ以下で地面に埋もれて腐っていく死体に成り下がるだけだ。……要は、どうなるかは運とお前次第だってことだ」



 汚い耳を離して立ち上がり、俺はただ、見下げて送ることにした。正直、こんなクズを自分の手で殺すなんかよりも、よっぽど気分はマシだと思えた。



「……――スノー、送ってくれ」



 魔力が通るように、紋章陣が光りを放ち始めた。もうすぐに奴は消えるだろう。



「ま、待って、い、いやだ。僕は異世界なんて、行きたくない! ヤダ! や、やり直させください、絶対に――」



 言葉途中ではあったが、そんなのは知ったことではない。それにまた禄でもないことを言うつもりだったのだろう。


 ……そもそもの話。



「人生にやり直しなんて都合のいい言葉はないんだよ」



 まあ、聞こえてなどいないだろうけどな。


 それもどうでも良いか。これで二度と奴と出会わずに済むと考えれば、それでいい。

 いや、まだこの紋章陣を消せていないのだから、気が早いか。



「スノー、フォールヘイズだ」


 松葉の携帯をスノーに軽く投げ放つと、消しゴムで綺麗に消すように、その存在をこの世から消してくれた。


 すると紋章陣は力を失っていくかのようにうっすらと消えて行き、異世界の門は完全に閉じた。

松葉少年の今後

20面ダイス


1・生還(中身不明)

2・生き残るが不幸

3・限りなく不幸

4・楽に死ねる

5~18・絶望の末に死ぬ

19・20「???」


そんなに甘くない。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや異世界送りとか高いところから突き落としたけど殺意はなかったというようなものである。スノーさんに手を汚させただけでしかないわけだが、まあ主人公がそれで自分自身をごまかせるならいいのか。
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