人格が変われば運命が変わる
昨日の今日だが、また地元に帰ってきた。とは言え、今回は駅一つ隣で降りたので、昨日とは全く違う景色だ。そもそも今回は目的地が違うからな。
時刻は既に昼時に差し掛かっていた。少し準備に時間を取られ過ぎたかもしれないが、戦う準備が一番肝心だとも言うだろう。既に俺は奴を殺すと決めたのだ。その為には死体を異世界に送るための準備や、敵の抵抗を予測しなくてはならない。
それに攻めるとしても様々なパターンが予測される。敵が誰で、どこにいて、どんな性格の奴なのか、待ち構えているのか、いないのか……まずは情報がなければ企てもできない。
一先ず情報収集を目的として、スノーと一緒に電車で一時間半もの長い距離を移動してきた。ちなみにスノーの服装は戦闘しやすいようにと、黒いパーカーにショートデニム、頭には帽子にカツラ、高級ヘッドホン装備の状態である。服の袖下にはアルミラージの隠し刃を装備していて、それ以外は特に武器は持ってこなかった。というのも武器の携帯は不味いと判断したからだ。
駅前ロータリーに出てくると、自然と目立つパトカーの存在が目に付いた。車の屋根に取り付けられた赤いランプを見るだけで、まるで見張っているぞと周囲に主張しているようにも感じとれた。
「……どうかしましたか?」
「いや、聖の言う通りだったなぁ、と思っただけだ」
聖の交友関係者に総当たりしてわかった事は現在二つ。
一つは警察の存在。どうやら厳戒警備体制を敷いているらしく、ゴールデンウィークだと言うのに連続殺人事件のお蔭で何人もの警官がお仕事に駆り出されているらしい。そのせいで、こちらも目立つ武器の類などは持ち運ぶのを控えることにしたのだ。……競技用のコンパウンドボウで、矢も持ち運んでいないから大丈夫だという言い訳も考えたが、自分は今回の殺人事件の被害者らと接点が多いので、慎重にならざるを得なかった。無用な嫌疑は御免だ。
それからもう一つ、母校の中学の資料室が荒らされていたのだとか……。“カナちゃん”という聖の友達がたまたまそれを聞いていたらしい。それも、今年の卒業生の学年だけだったとか。相手はそれでターゲットの住所を割り出したのかもしれない。他の可能性ももちろんあるが、とりあえず今は怪しい部分から探っていく。……何分、俺の考える容疑者候補が多すぎるのだ。
学校内の問題児であった不良グループの鼻もげユー君らに恨みを持つ奴は多かった筈だ。それと同じく、俺にも何らかの因縁を付けてくる奴もこれまた多かった。学年最後の年になる頃には絡んでくる奴も少なかったが、我ながら好き勝手にやり過ぎた。今になって、そのツケを払わされている気分だ。
「今更ですが、その服装、珍しいですね。いつ以来でしょうか」
「学生服のことか? そういや入学式以来だな」
「なぜ、その服なのですか?」
「スノーは知らないだろうけどな。学生服って信用されるんだよ。異世界で言う所の近衛兵の服みたいなもんだ」
特に、学校に入る時なんかは重要だ。制服指定の学校に私服で来るヤツなんて違和感しかない。ゴールデンウィークでも部活動やらしている連中も多いだろうしさ。
それにOBが母校に尋ねに来るなんて、よくあることだろう。
それからしばらく歩いて、つい最近門出を祝われた中学校に到着した。入口玄関口の受付で部活動OBとして指導しにきたと名目をでっち上げて許可証札を受け取る。美術部なんて特に都合がいい。連中は各自で自由に場所を選んで風景を描いたりするから、どこに行っても不思議がられない。
それからスノーには資料室の鍵を鍵開けスキルで開けてもらう関係上、連れていきたいのでそのまま後ろについて来てもらう。
後は記憶を頼りに資料室へと向かって行くのだが、バツの悪いことに人の居そうな教員室の見える位置にあった。
誰かに見つかったら面倒だからと急いで鍵を開けてもらった。闇魔法で姿を消せばいいと思うかもしれないが、屋敷にいる時と違って外ではMPの回復が難しいから、できれば無駄遣いしたくない。
「開きましたよ」
誰かに見つかる前に素早く資料室に入ると、鍵付きのファイル棚が綺麗に陳列されていた。荒らされたとは思えないな。
その中から自分の学年のファイルを探し出して、スノーに鍵を解除してもらう。
ファイルを開くとそっちは整理が不十分で、順番も何もあったものではなかった。荒らされた後、とりあえず見た目だけ収めて閉じたって感じだった。少し時間が掛かりそうだ。
一枚目を見るとそこには名前だとか生徒IDとか生年月日、住所、あと白黒写真ではあったが顔写真も記載されていた。出席日数やら成績とかも卒業時点の情報が記載されており、一人ひとり見ていくのも興味はあったが、さすがにやめておいた。
そういった、個人情報の塊である書類の中で、一通り流し読みして不良二人組みと自分のデータが見当たらないことに気が付いた。ちなみに小田のデータは残っていた。
「データ管理甘いなぁ」
少しばかり学校側に難癖を抱いたりした。荒らされた後に紛失がないのか確認しろよ、と。
まあ、運営してる学校にもよるか。人手不足で気に掛ける人も少ないのかもしれないし。自分達は運が悪かったのだと思っておこう。
「しかし、これでいよいよ、俺が狙われたのが確定したな」
もしかしたら俺を標的として実は小田を狙ってた、とかいう可能性も無きにしも非ずだったからな。
「これでなにがわかったんですか?」
「いや、まだなんともなぁ」
とりあえず生徒の名簿一覧と細かい生徒情報の中から他に誰か減っていないかを調べてみた。順番がぐちゃぐちゃだから、調べるのも面倒だったが、たまたま目に入った顔写真の男が妙にデジャヴュのように何かを思い出しかけた。
「どうしました?」
「いや、こいつ……」
ファイルの中でも一人、特筆するでもなく目立たない一枚の人物。
名前は松葉真吾。そのメガネ顔の冴えない顔を見たとき、自分でも不思議なのだが、何故か鼻もげユー君と一緒になってフラッシュバックされた。
特に記憶に残るような相手では無かったのだけれど、気になって住所を読んでみると、妙に自分で書いた記憶が残っていた。
「いや、待てよ。確かコイツ……。松葉、マツバ……――そうだ、あの松葉ガニだ!」
「何の話ですか?」
「いや、そういう話が昔あったんだよ」
夏休み明けに一度、不登校になった男子生徒が俺に会いたいとかいう気持ち悪い話があったのだ。確か、こんな名前のやつだったんじゃあなかっただろうか。
それと不登校になった理由を想像して、恐らくあの二人の不良が関係あるんじゃあないかと推測した後で、まさか夏休みの大阪での時、俺が無視したからその事で俺に逆恨みでもしたのかと、そこまで考えた。
それにこのウジウジとした顔を見ていると、性格まで想像して、一日中家に篭もってゲームなんかやって、自分がこうなったのは周囲の連中のせいだ、とか恨み辛み吐きちらしたりして……。ついでにサモルドの自キャラが現実に来たら、本性をむき出しにして他人の迷惑とか考えずに暴れ散らすんだろうな――と、決め付けてみた。
実際はどうかはわからないが、もしもコイツが例の犯人ならば、きっとその様な思考が為されていたという予測であり、単なる憶測だ。
しかし想像だけでも、色々考えてしまう。もしコイツが小田を殺した犯人だとしたら……と、ついつい深く読み込む。
出席日数やら成績などを見てみると――……なんか、普通の奴だった。
理数がちょっと成績良くて、逆に文系が悪くて、評価は真面目で大人しい子。出席日数は二年生までは皆勤賞も狙えていた。俺なんかとはまるで違う真面目さだ。……でも三年になると二・三学期分すべてを休んだのかと思うような欠席率でもあった。
進学はどうやらしていない。完全に塞ぎこんでいるのか、そんなに酷い状態だったのか、このたった一枚の紙から、妙な悲惨さまで連想してしまった。
「……だとしても、誰かを殺していい理由にはならないだろ」
正論らしい言葉を吐いて、迷いを断ち切って振り払おうとうとしたつもりだった。
だけど逆に「殺していい理由」についての言葉が、まるでそっくりそのまま自分に帰ってきた気がした。
殺すと決めた。絶対に殺してやらねば気が済まないとも考えた。
決めたのならば、それは一直線で達成させなければいけないのに。
身勝手に対する怒りと、人に頼るなという憤りと、結果的な哀れみと、ほんの少しの罪悪感で、覚える必要のない眩暈がした。
「……ゼン太郎、大丈夫ですか?」
「ああ、うん。あんまり気分は良くないな」
書類から目を放したくなって携帯をつけると、聖が新に得た情報を送ってきていた。
というのも、昨日の夕方、小田と俺が襲われた時間帯に、妙な騒ぎ声が聞こえてきたというモノだった。その住所というのが、まさしくこの松葉という奴の家であったのだから、余計に頭を抱える羽目になった。
「どうすっかなぁ……」
絶対とか言っておきながら、結局は自分の言葉の軽さを証明したに過ぎなかった。




