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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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習慣が変われば人格が変わる

 目が覚めたら外の天気は清々しいほどの快晴で、空の彼方まで絶妙に透き通っている青だった。昨日の雨で空気が綺麗になったからなのか、自分まで爽やかな気持ちになっていた。


 それに気分がいいのは天気の影響だけではないだろう。頭をスノーの腕と胸が癒すように包み込まれていた。程よく温くて、香の少ない乾燥した木の匂いと、ほんのちょっぴりの甘い雰囲気。いままでの経験から思い出しても、これ以上ないほどの至福ってヤツを味わっていた。



「ゼン太郎、目が覚めましたか?」

「おかげさまで」

「ではそろそろ手を離してもよろしいでしょうか?」

「寂しいこと言うなよ……泣いちゃいそう」

「はいはい」



 頭部の辺りを子供の背中を叩いてあやすみたいに撫でられた。元気は出るけど、このままでは甘えが過ぎてダメになってくる予感がするのですぐさま逃げた。


 そうなった後で気がついたのだが、いつの間にベッドへ移動していたのか、布団の上にいた。服が昨日のままなので、布団やらシーツが全体的に湿っている。それでも風邪を引いてない自分に驚きだ。それどころか、昨日の打ち身の痛みも和らいでいる。……ナイフが刺さった傷はまだ痛かった。



 時間を見ると、朝の7時前だった。いつ寝たのかも定かでないから、何時間無駄にしたのか、よくわかってない。



「それでゼン太郎。結局、一夜待ちましたが、昨日は何があったのですか?」


 ベッドの上で静かに待っているスノーが、昨日と同じくジッと俺の姿をその目に捉えていた。そんなに穴が開くほど見られると、逆に言い辛いものがあるのだが、しかし巻き込むと決めたからには覚悟は決めた。昨日の起こりから順にすべてを話し――――結末まで全てを伝え切った。




「小田は、死んだ。殺されたよ。どっかのクソ野郎の所為でさ」



 スノーは珍しく長話に耳を傾け、聞き終えた後、俺を睨みつけた。



「ゼン太郎、昨日、私には関係のない話だと言ってましたか?」

「ああ、言ったな」

「どこが全く関係ないですか!?」

「……全部?」


 平手打ちが飛んで来た。しかもかなり鋭い。しかも体がよろけるのを許さないといわんばかりに胸倉を掴んで元の位置に戻してきた。


「むしろ全部私に関係あるのですが?」

「そうは思わなかった」



 返す平手の裏で反対の方側を叩かれた。鋭さは先よりないが、堅い甲が頬を打つのが痛い。


 その後、俺が言葉を返すたびにビンタが往復で襲ってくることになった。



「正直、自分が異世界側の住人だとか、あっち側とかどっち側だとか考えたこともないですが、一応、私も異世界側の住人です。異世界の誰かが地球人の誰かを殺したのなら私が無関係とは言えないはずです!」


「そんな難しいこと、スノーは気にしなくっていいって――アゥ」


「マダオは私の相談に乗ってくれていた、私の新しい友達だったんです! 色々とゼン太郎のことを教えてくれた、有力な情報提供者だったのです!」


「それは悪かった……――いや待て、提供者ってなんだ!? あんにゃろう、まさかまた裏でコソコソと俺を出し抜こうと――イタい!」


「全部、ゼン太郎が悪いんじゃないですか! 一人で勝手に何もかも進めようとするから――」


「そんなもん、一々誰かを頼ってたら何もできないガキじゃねえかっ――ぶッ!? おい、反論で殴るのは無しだろ!?」


「――そこが心配になるんじゃないですか! あと誰かを頼ることがそんなに悪いことなんですか!?」


「しらねえよ――あんッ!? おい、ちょっとさすがにシャレに――いたいってッ!? ――だから、殴るな舌噛んじゃうだろ!」



 やばい、ちょっと前まで女神みたいに優しかったのに、今では有無を言わさずボッコボコにされてるのなんで? 誰か助けて!


 そんな救いを求める心の叫びは誰にも届けられることはなく、しばらく有無を言わさず殴られ続けた。すると次第にスノーの方が息を切らしつつ、溜息混じりに手を振るうのをやめていた。俺の顔、ひょうたん顔みたいになってないだろうか。



「……叩いていてわかったのですが、やっとモヤモヤの正体がハッキリしました。やはりゼン太郎が悪かったのです」


「ただの八つ当たりで解決したの?」


「違います。……――私やマダオが、どれだけゼン太郎を心配していたか、わかってなかったからです。困っている時に、辛い時に、窮地の時に……何も話してくれないことが、とても悔しかったのです」


「……それって、そんなにダメなことか?」


「わかりません。でも少なくとも、明らかに敵がいる今回のような場合では、私を頼って欲しかったです」



 スノーが掴んだ手を解いて、頭の天辺を俺の胸に押し付けてきた。


 言われてみれば確かに、と思うでもない。冷静に考えたら、無謀もいいところだったと、今なら思える。


 ……自分でも、考えが凝り固まっていたのだろうか。

 でもスノーに頼ってはいけないって、心の中にある抵抗感は今でも残っている。……仕方がないじゃあないか。俺だってスノーを傷つけたくなかったし、辛い思いなんてさせたくなかった。人殺しに抵抗があることも知っているし、無茶なお願いは言いたくなかった。……できれば平穏で安息とした中で、徐々に問題を解決させていければと思っていたのだ。


 そんな本心を自覚すると、やっと自分がスノーに対して過保護でいたのだと理解した。


 ゲームだと思っていた時と違って「自分がスノーの面倒を見てやれる」なんて、保護者でも気取ろうとしていたのかもしれない。



 ……もしも、俺とスノーが逆の立場だったとして、スノーが相談もせずに苦労をしていて、全く自分を頼ってくれなかったとしたら? ……そんな風に想像したら、確かに、歯がゆかった。まあ、それで最終的に解決したのならばそれは成長するのに必要だった試練で済んだのだろうけど。



 今回に限って言えば、自分の一人よがりで最悪の結果となってしまった。見通しが甘かった。


 これは、反省すべきだった。



「……ゴメン、スノー。許してくれるか?」

「ゼン太郎が、改めてくれるなら」

「ああ、ちゃんと改めるよ」



 そういったら、スノーが俺の胸に手を当てて「じゃあ許します」なんて言いながら身を寄せてくれた。なんだか気まずいといか、気恥ずかしいのだけれど、それに応えようとして、手を添えるだけのハグをしようと両手を広げようとしたら……乱暴に離れの扉を開く音がした。




「兄貴、朝ご飯どうする――……の?」




 空気が凍りついた。


 予想外だった。


 どうすれば良いのか、頭が真っ白になりかけた。


 そして、聖の行動は早かった。



「もしもし、すみません警察ですか。すぐに――」

「待ってやめて! そういうのじゃあないから! お前は何か誤解をしている!」


 すぐさま駆け寄って手にした通話を切らせようとしたのだが、さすが聖だ。抵抗で肘が襲い掛かってきた。危うく昇天させられるところだった。


「何が誤解なの? 幼い女の子を誘拐してきてコスプレさせて部屋に閉じ込めた上に愛玩具にでもしているクソ男の絵にしか見えないわ」

「違う! 全ッ然違ぁう! というか、勝手に部屋に入るな! お前は常識がないのか!?」

「うるさい! 少なくとも兄貴よりはマシな自信があるわ! というか、その子はなんなの!? 本気で警察沙汰じゃあないでしょうね!?」

「それだけは断じて違うから!」


 必死で弁明しようとしている最中、俺と聖の間になぜか一本の透き通る刃が通過していった。それは一直線に壁に突き刺さり、俺と聖は顔を青くして、氷剣を放った人物に目を向けた。今まさに警察沙汰になりかけたことに、冷や汗がどっと噴出した。



「誰ですか、その喧しい女は? 初めて見ますね」

「余計に話がややこしくなるから待って! 俺の妹だから! こんな野蛮人でも一応安全だから! だから攻撃禁止!」


 あと気軽に魔法を使うな、と注意したくなったのだが、聖の前にいる以上、簡単に魔法がどうとか口にできなかった。


「……なるほど。そうでしたか。……いえ、これっぽっちも納得はしませんが」


 最後、聞こえるように舌打ちが聞こえてきた。

 よくわからないが、今まで見たことがない以上にスノーが不機嫌になっていた。


 怒ったスノーはすぐさま俺の腕を掴むと聖から引き剥がし、さらに親の敵みたいに聖を強く睨みつけていた。なんだ、この初めて味わう笑えない空気は……。これが俗に言う修羅場だろうか。



「というか、その子、え? 耳が、尖ってる? それにその銀髪、カツラじゃないの? ちょっと、マジでその子は何? 兄貴とどういう関係なの? その子、何なの?」


 急に頭が痛くなってきた。

 耳と指摘されて、今になって気がついた。安全な自室という意識を持っていた所為で、スノーがヘッドホンで耳を隠してなかった。このままでは聖に色々と説明をしなくてはいけなくなる。なんでこんな問題が増えてしまったんだ。そんな情事よりも他にするべきことがあるはずなのに……。



 ……いや、本当だよ。こんなことで時間なんか使ってる場合じゃあねえんだよ。



 やっと冷静に物事を見つめられるようになってきた。

 何を寝惚けて暢気にイチャイチャしようとかしてたんだと気を張りなおした。我ながらどうかしている。


 こうしている間にも、小田を殺した犯人は野放しのままなのに、なぜ遊んでいられる。

 それに、俺を狙っていたのなら、再び自宅にやってくるかもしれない。そうなると、今度は親父や母さんが危ない。反省も後悔も大事だが、なによりもやるべき問題を片付けてからだ。



「悪いけど今は説明するつもりはない」

「ふざけてるの?」

「悪いが大真面目だ。でも約束する。今回の件が終わったら、ちゃんとお前にも説明する」

「……それって……小田さんのこと?」

「そうだ」



 聖がヤケにしおらしくして、物思いに耽り始めた。小田と何度か遊んでいたこともあってか、今回の事件は相当聖にも影響を与えているのだろう。



「ねえ。それって私にも手伝える事って、ある?」

「いや、必要――」



 ――ない。と言い掛けて、今回の反省点を思い出してすぐに答えを出すのは取りやめた。そりゃあ、聖だって何かしたいって気持ちはあるはずで、もしかしたら、今は何か役に立ちたいと思うタイミングなのかもしれない。


 だとしたら、聖に頼れるスキルは今、何かと考えてから、結論を得た。



「……必要あるな。情報収集を頼みたい。聖の知り合いに片っ端から聞いて欲しい。ここ最近、一週間以内でおかしな出来事がなかったか。あと騒ぎ声が聞こえたとか、見かけない外国人を見たとかでもいい」


「わかったわ」


「あと、ここから先は親父や母さん、他の人にも黙っておいてくれ。今は、うまく説明できる自信がない」


「……それ、大丈夫なの?」


「大丈夫だ。今度は絶対に失敗しない」



 失敗して、たまるか。


 一度目は油断した。だが二度目はもうない。


 相手がどこの何者なのか見当も付いていないが、必ずこの手で引きずり出して自分が何をしたのかを、必ず後悔させてやる。



 小田を殺した野郎は、絶対にこの手で殺してやる。

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