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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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置き去りにされた問題は、いずれ運命となって再び立ちはだかるだろう

 うるさいサイレンの音が聞こえてくる。

 自宅前に救急車が来た後、周囲が騒がしかったことにやっと気がついた。だからといって周囲の人だかりで何かが劇的に変わることはなく、あっという間に救急隊員の手によって小田は迅速に搬送され、自分も一緒に怪我の治療にと運ばれた。腕の傷だとか、全身の痛みだとか、今になっても実感なんてなかった。


 ただ、死に体の小田の様子を横目に、なんとなく、物思いに耽っていた。



 何を許せばいいのだろうか。許せないことが多すぎて、どれか一つだとか思うことは不可能だった。




 それでも、一番初めに思い出すのは、五年前の話だった。


 もう五年も前なのか……。それとも“まだ”なのか……。


 作り話みたいな忘れたい記憶が、目蓋の裏側で甦ってきた。






 小学校の頃、俺は図工とか芸術とか……ああいうのって別に好きじゃあなかった。ただ親がそういう関係の仕事をしてて、コツとか工夫とか手順とか、そういうのを知っていた程度だった。


 そんな自分の作品が、図工の時間に制作した作品が町や市の賞を取ったり、あるいは府県の展覧会やコンクールで出たりしては持て囃されていた。そうしたら自分への評価っていうのはだいたい決まっていて「辻風善太郎は芸術家の息子で、そういうのが好きな奴なんだ」という周囲からのイメージが勝手に出来上がっていた。


 そこに俺の意思は介在しないはずだった。……でも不思議なモノで、こういうのは周りが盛り上がると本人も自覚なしにその気になってしまうらしく、俺自身も『将来は父親みたいな芸術家になるのだろう』なんて漠然とした『夢』を膨らませていた。



 周囲にとやかく言われるくらいで人間の中身は決まってしまうのだろう。子供の時分なんて、特にさ。




 でもある時、俺は確かに反抗心を抱いた。


 切っ掛けがいつだったかは定かでない。だが具体的な状況だけは覚えている。

 小学校の図工で制作された作品って基本的に、クラスで代表として一つ、どこかの展覧会やコンクールに応募されるのだ。まあ金を出して個人で応募すればその限りではないけれどさ。でも勝手に応募されるってのは基本的に教師が決めて、勝手に出すもんだった。


 その時も、いつも通りに自分の作品が提出されたのだけど、俺はそれが気に喰わなかった。


 何故なら自分と同じクラスで、同じテーマの作品を手がけ、明らかに俺よりも面白い作品を完成させた奴がいたからだ。俺自身が負けたと思った程の出来栄えなのだから間違いない。……といっても、所詮は小学生の感覚だ。実際にどっちが優れているかなど、些末な話かもしれない。


 でも自分は確かに、違和感を覚えたのだ。そして、選ばれるのは決まっていたことなのかもしれないと思った時、裏切られた気になった。



 親の七光り。自分の作品の出来栄えではなく、親の名の元に得た裁定。自身の実力など実はそれほど重要でもなく、ただの「そういう奴が作ったから」なんて、印象で決められる評価の世界。



 だったら自分がどれだけ情熱を注いだところで正しい評価などなく、どれほど頑張っても達成感など実は嘘っぱちで……。


 その時になって自分は、憧れ初めていた芸術の世界の穢れを視た気になった。




 だからその年の夏休みに提出する作品は、自分が今まで作ってこなかったような雑で、なんの価値も見いだせない物体を提出した。ただの粗物な置物だと言えばいい。こんな物を選ぶ奴は、絶対にいないだろう、と思いを込めて創ったものだ。


 そして同時に、俺が凄い奴だと思った同級生が、見事な力作を用意してきた。それが選ばれ、出展されれば、俺はまた芸術の世界って奴に希望が持てるような気がした。




 そしたらさ、今度はちゃんと、その凄い同級生の力作が選ばれたよ。――――……なぜか、俺の名前でだけど。



 その事実を聞いたとき、俺は意味が解らなかった。後にして思えば、あれは利用されたのだろう。



 その同級生も、きっとどこかで気がついてたんだと思う。俺が賞を取るのは親の名前有りきだってことに。


 だから俺の名前を偽って受賞した後に、実はその作品は自分の作品だと申し立てたのだと。そいつがどれだけ夏のコンクールの賞を欲していたのかは知らない、あるいは単なる思い付きだったのかもしれない。所詮は小学生のすることだからさ。


 だが、その所詮「小学生」といえど、その学年では間違いなく一つの確かな社会が構築されていて、気がつけば俺は見事に社会的な抹殺を受けていた。


 弁解も言い訳も許されぬまま気がつけば話が進んでいて、俺は小学生ながらに盗作者扱いされていた。友達と思ってた連中からも手酷く言われたよ。「お前みたいなクズは信じられない」てさ。教師だって「苛められる原因はご本人にある」と抜かしやがった。



 思えばその時に初めて、人間って奴は束になると馬鹿で愚かで、恐ろしいと化物みたいに変貌するのだと実感した。あれだけ圧倒されたら、一人で勝てるワケがないのだとも実感した。



 結局、色々と揉めた末に、自分は家族ごと別の町に引っ越していた。


 後になってから、故意で俺の名前を使ったのだというどこから来たのかわからない謝罪文書が送られてきたらしいが、そんなのは一番風評が荒かった時期から半年も過ぎた後だった。全部、どうでもよくなっていた。



「お前ら散々貶しておいて、挙句“許されない行為”だとか断罪するみたいに言っておいて、いざ自分達の側だとこれだけかよ。ふざけんじゃねえよ。文言だけでごめんなさいたぁ言い御身分じゃあねえか」




 そうやって、捻くれた。


 疑い症になり、偏見の目で物事を見て、友達などいらないと抜かし、孤高を気取って不貞腐れて、毎日惰性で過ごし、挙句学校に携帯ゲームまで持ち込んで、馬鹿みたいに一人で意地を張り続けた。時にはつまらない理由で他人の喧嘩に介入して、怪我させたこともあったか……。今から思うと、小学生のクセに、一人だけ漫画の不良中学生みたいなことをやっていたのだった。




「それ、なにしてんの?」



 そういや、その喧嘩の後くらいだったか。小田を初めて認知したのは……。


 その時の奴の目には青い痣があった気がする。見た瞬間に漫画みたいな顔だったもんで、鼻で笑っていた気がする。


 変な時期に、同じタイミングで転校してきたことで少しだけ話題になったこともあった。家が近所だったり、同じクラスになったり、奇妙な縁を感じてはいたが、だからどうしたという具合に、無視を続けていた。相手にするのも嫌だった。


「向こうへ行け」


 邪険にして追い払った。本当を言うと、誰かと向き合うのが怖かった。自分の殻に閉じこもるのはとても楽で、心地よかったから。寂しくはあったけど、痛いよりかはずっとマシだと思えた。


 だというのに、次の日には小田は俺と同じゲームを持って現れた。


「ねえ、交換やんない?」

「……お前、学校にゲーム持ち込んでいいと思ってんの?」

「キミもじゃないか」

「俺はそういうキャラなの」

「じゃあ、僕もそれでいいよ」


 そうやって、半ば強引に、奴は踏み込んできた。

 単なる暇つぶし目的だったのか、それとも俺の気がつかない何かの思惑が隠れていたのかわからない。


 でもそれでも、現実に見える場所で、ゲーム越しでも誰かと一緒に遊ぶという状況がとても久しぶりだったので……。


 ゲームシステムの『お友達登録』なんて物をやった後の『マダオが友だちになりました』なんてメッセージが、懐かしくて、心の傷に酷く染みこんできて……。



 我ながらチョロかったというべきか、気を許すのが簡単だったというか……。気が付く暇もなく、親友なんてものになっていた。



 だから、昔の連中のことなど、どうでもよくなった。

 一々、過去なんて拘らなくて済んだ。これからのことを考えて、大事な奴が少し居ればそれでいいと、小田のお陰で思えるようになったのだ。 

注意:コンクールやら展覧会については、かなり創作フィクション成分が入っております。真に受けないよう、よろしくお願いします(汗)

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