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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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今日、自分が死ぬかもしれないなどと誰が想像するのか

 ポケットの中で携帯が震えた。


「ん? ゼタっちからか……」


 いつもならば簡単に取るのだが今回はやめておいた。というのも仕事中のような状況だったからだ。



「お願いしまーす。期間限定30%OFFですのでぜひ試してくださーい」



 連休初日ではあったけど、自分は広告ティッシュ配りのバイト……のようなことをしていた。濁しているのは、別に雇われているわけではなかったからだ。


 これはいわゆる、親のお手伝いである。



 以前から、母さんの店の広告配りをしてほしいと頼まれていた。母さんは美容室を経営していて、中にはステージで活躍する人物なんかもお客さんにいるという、割と人気のある店だった。売り上げも悪くなく、従業員も気の明るい人たちが多くて、今が順風満帆といった感じだった。


 そんな店でも、売り込みをしないわけにはいかないらしい。それで割引券付きのティッシュ配りだ。


 自分は詳しくはないけど、こういう広告配りは許可が必要だとかで、日取りも場所も限定されていた。前々から連休初日を予定していたのだけれど、思うように捌けず、四時前ぐらいになってやっと残り僅かという状態になった。


 やはり人気の少ない要因は例の連続殺人が関係しているのだろうか。そもそも事件は夜で、被害者は二人とも不良ということで、自分にはあまり関係がないと思う人ばかりだと予想していたのだが、やっぱり『人殺しが近くにいる』という事件が怖いのだろう。



 変なところで被害を受けたかな、と呆れていると母さんが仕事着の姿で歩いてきた。



「マサ、どう?」

「うーん、もうちょいって感じ」

「じゃあもう今日は帰んなさい。ホイ、これお給料ね」

「ちょ……ザツだなぁ」



 気軽な感じでサイフから樋口さんを一枚押し付けられた。給料とか聞こえたけど、これは間違いなくお小遣いだ。お小遣いでなければなるまい。



「男が細かいこと気にすんな。今日は仕方がないさ。ウチも今日は早仕舞いするから、アンタも気ぃ付けて帰ってね」

「了解」



 一言の文句を飲み込んで返事をすると、母さんはニッとキツく笑ってぱっぱと荷物をダンボールにまとめて店に帰って行った。残された自分は帰ってよし、ということなのだろう。


 こういう強気で男勝りな性格なのが、自分の母親だった。


 実直だし、裏がないし、元気に溢れていて明るい。普段から忙しくて顔をあわせる時間は短いけれど、自分の親はこの人以外には有り得ない、なんて……口にするには少し恥じらいがある感情を抱いている。……自慢の母親だ。



 ただし……あの趣味だけは息子としてはちょっと、受け入れるのが難しい。……去年の夏も際どい露出度多めのコスチュームだったし、歳を考えてほしい。まあ、母さんの人生だし、口出しはしないけども……。



 口出しといえば、気難しい友人からの電話があったことを思い出した。善太郎から電話があったことを思い出して携帯を見ると短く「家から出るな」とメッセージが来ていた。



 これはどういった意味合いのあるメッセージなのだろうか、と考えて想像してみた。


 簡単に危機が差し迫っていることは窺い知れるけど、具体的な内容がわからなかった。随分と急いでいたのだろうけど。


 他に判断できる材料はないかと別の可能性も考えてみた。

 思い出すのは昨日の電話だ。殺人事件の話をしたのだから、きっとその件なのだろう。


 でも何故今になって? と想像を膨らませると、善太郎はもしかしたら何かに気がついたのかもしれない。だとすると、その何かとはなんだろう……。



 今日の時点での新な情報とはなんだったか。二人目の被害者がいたことと関係しているものだろうか?



 そういえば今回殺された二人は同じ中学で、ついでに言うならば自分や善太郎も同じ中学で……。


 ……まさかとは思うのだけれど、被害者の関連から犯人は同じ中学の顔見知りとか、そんな突飛な推理を善太郎はしたのだろうか?


 とりあえず一度そうだと仮定してみて……だとすると今回の事件は単純にキャラがプレイヤーを襲ったという話ではなく、相手は特定の人物を狙っていて、サモルドのキャラクターを使って殺人を犯しているのだとしたら?



「普通にありえそうな気がしてきた……」



 そうすると、自然と善太郎が帰ってくる予感がした。たぶん、自分で何かしら手を下すのではないか、と。


 こういう『いざ』という時に限って、善太郎は他人を頼らない。全部自分で済ませてしまう。解決しようとする。



 それはある意味凄いことなのだけれど、頼ってもらえない身としては悲しくて、悔しいものがあるのだ。自分はただのお荷物だといわれているみたいで……。


 自他共に認める、うっかり屋なクセしてさ……。


 そこまで考えると、余計に不安が増してきた。



「……ここからなら、帰り道だし」



 思い立った()吉日、とか善太郎なら言いそうだ。本来は「ら」ではなく「が」なところが特に、だ。


 もしかしたら善太郎は既に家に帰ってきているか、あるいは近い内に帰ってくるだろうと先読みして、彼の実家を訪ねることにした。



 もちろん、自分が狙われるとも限らないし、道の角に差し掛かる度に影から覗いて人通りを確認し、注意して道を歩いた。


 ちらほらと人はいる。近所の人たちが犬の散歩なり、自転車に乗って買い物の帰りみたいな人がいた。どこにもそれっぽい怪しい人物はいないし、むしろ自分の方が怪しい素振りをしていた。……こんな人通りも人目もある時間帯から怪しむのもおかしいか。



 結局、なんてこともなく善太郎の家に到着した。すると、何かしら不思議な感慨が浮かんだ。


 懐かしいというよりかは、慣れ親しんだ、という感情だろうか。ハッキリ言って友人として考えても入り浸りすぎだった。後ろを過ぎていく人からも普通に挨拶されてしまって「どーもー」なんて返事したりして、玄関扉の前に立ってベルを鳴らした。



 家に誰も居ないんなら、それもいいかと思っていると、不意に首筋に走る、妙な気配というモノを感じた。



 後ろを振り向くと……そこには誰もいなくて、ただの玄関先と道路しかなかった。


 気のせいかと思っていると、玄関が半開きまで普通に開いた。姿を見せたのは善太郎の妹の聖ちゃんだった。なんだか慌てて服を着たみたいな状態で、家でだらしなく過ごしていた雰囲気が伝わってきた。



「あ、あれぇ? 小田さん? どしたの?」

「ああ、いや。ゼタっち帰ってきてるかなぁとか思ってさ」

「……なんだ、用事って兄貴か」



 なぜかあからさまな溜息を吐かれてしまった。悪いことでもしてしまっただろうか。しかし無用心だと思えた。チャイム鳴らしてチェーンロックせずに扉を開けるなんて……。


 いや、もしもサモルドのキャラならば、チェーンなんて簡単に壊してしまうのだろうけど。


「なあ、聖ちゃん。ゼタっちからなにか聞いてない?」

「え? あ、そういえば兄貴から意味わかんない連絡あったけど」

「なんて言ってたの?」

「食い物が荒らされてたかとか、そういう事件とか噂はなかったか? とか」

「……そっか。そういうことか。大体事情がわかってきた」


 善太郎が何を考えていたのかようやく掴んできた。たぶん、そっちのルートから事件がプレイヤーの犯行だと確証めいた推察を得たのだろう。


 そして、やはり善太郎は何かをするつもりなのだ。



 とりあえず、玄関でずっとというのもなんだし、聖ちゃんに言っていつもみたいに善太郎の部屋で待たせてもらおうか。と、提案しようとしたが、彼女の方から喋り出した。



「ところでさ、小田さんの後ろの人――」



 不意に、いぶかしむ様子でいた彼女の目が、僕ではなく後ろの空を見つめていたことに気がついた。いや、その瞳に映っている先には、確かな人の像があった。





「――――誰?」





 急いで振り返ったつもりなのに、何故か感覚がとても遅く感じた。ただ振り返るだけのこの瞬間が、何倍にも引き伸ばされた映画のシーンみたいに動きがゆっくりだった。



 その一瞬の出来事の中で、長い純色の物体が振り下ろされると理解した瞬間、聖ちゃんがいた玄関扉を背中で押して乱暴に閉めた。この先を彼女には決して見せてはならない。



 扉が閉まると同時に、全身に衝撃が襲い掛かった。



 首と肩の間に重く圧し掛かるそれは、骨を砕かれたみたいに強引に胸に向かって突き抜けて、扉に背を預けて崩れ落ちた。



 なんというか、自分がとてつもなくバカみたいに思えてきた。



 息ができない。痛みなど感じなかった。苦しいとも思わない。



 ただ、肩から叩き斬られたんだなぁ、と……地面を血で汚していくのと同じくらいに、淡々と理解していくだけだった。

さて、そろそろサイコロの準備をしましょうか。

今回は特別に1D100〈生50<51死〉で決めます。


(……どうでもいいですが、今回の件で死ぬ人数も1D6で決めました)

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