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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
152/181

違和感の手応え

 今年は十日間もの長期連休となるゴールデンウィーク、その初日。


 スノーは電車で都市へと出掛けて、自分は倉の中でスノーを見守りつつ魔法の感覚を覚える訓練をしていた。何度目かの挑戦でやっと魔力の使い方みたいなのが理解できてきた。


 魔力袋みたいなものが心臓の近くにでもあるのか、そのなにかを意識して動かそうとすると、なにかが掴めた気分になるのだ。この感覚を紋章陣に当ててみると、鉛筆書きの線から淡い光が漏れてくる。



「紋章陣の発動については、コツさえ掴めば楽勝って感じになってきたな……」



 だが、これが覚えたての魔法となるとさっぱりできなかった。


 魔属性の魔法“フォール・ヘイズ”の発動を意識してみたのだけれど、これが全く上手くいかない。スクロールの読み込みが足りないとかでなければ、上手くいくと思っていたのだけれど……。



 なにかが噛みあわないのだ。そのなにかがわかれば発動すると思うのだけれど、一向に魔法は発動できなかった。


 どれほど考えても答えが出ないので、またしても保留にした。

 色々と保留しすぎていて自分でもどんな問題が残っているのかそろそろ忘れそうだが、忘れるということはそれほど重要ではないということだ。いちいち時間を無駄にしてはいけない。



 とはいえ、軽く溜息が出てきてしまった。もういっそのこと、自分の能力をステータス化してくれると物凄く助かるのになぁ。……などと考えてはみたが、そんなゲームじゃあないんだからさ。



「……なんでステータスってのがあるのかねえ?」



 ゲーム画面のそれ等を見て、ふと疑問に思った。サモンズワールドがゲームとして認知されてきた最たる特徴、キャラクター達のステータス。


 鑑定眼とか一部のスキル持ちがNPCにもステータスは存在するとまで言っていたこのステータス。人物の数値化という現象の違和感。


 もしかしたら運営が、わざわざ一人ひとり丁寧に作ったものなのかもしれないが……。いや、考えても仕方のない疑問か。答えを持つ運営はそもそも答えてくれないのだからな。



 それよりも良い手を思いついたのだ。



 A4サイズの紙を用意して、紋章陣を何枚か印刷し、折畳んでポケットに忍ばせておく。試しに一枚取り出し、魔力っぽいものを与えると局所的な転移が発動する。そこで魔力を完全には吸い込ませず、中途半端な量の魔力だけ注ぎ込んだ。そうすると転移された対象は異世界側には到達できずに、あの白い宇宙だか海みたいな空間で漂うことになるだろう。



「これの方が楽だな!」



 いざという時はこれを利用して、敵対象を転移させ、あの白い海の中に閉じ込めておく。――というプランだ。


 注意点として、再び転移を行なうと必ず開いた側から出てくるので、ずっと閉じ込めておくという手段はできないということだ。


 だが出現させる場所はこちらで選べるし、となると戦うステージはこちらで選べる。……なんなら深海の底で出現させたっていいし、燃え盛るキラウエア火山の溶岩の中に出現させても良い訳だ。



 ただ、最大の謎は……範囲が小さいから、こんな用紙一枚の範囲で人一人分の転移が可能なのかどうか、だ。


 魔法って物理法則とか通用するのか全くわからないし、簡単に人体実験なんてやって良い物ではないからなぁ。もしかしたら中途半端に転移して、紋章陣の紙に埋まった尻が出来上がってしまうかもしれない。……どこかの塀にでも貼り付けておくとSNSで画像アップされそうだな。




 最悪、ポンコツ扱いになるかもしれないが、防衛手段については最低限の目処が立った。これで安心して熟睡できるってもんだ。


 しかしそんな話をすると、スノーは苦虫でも噛んでしまったような顔になっていた。理由を聞こうとしても「今はやめておきます」とか言われて、拒絶されてまったし。……そういえば小田からの電話の前に言いかけていた言葉を聞こうとしたら「街から無事に帰ってこれたらにします」と、結局は聞けず仕舞いだった。


 いったい何を企んでいるのやら……。


 だが、スノーに何かされるのなら俺は大歓迎だ。しっかりと倍にしてエッチな仕返しをしてやろう。むしろその為に一つ謀ってほしいくらいだった。こういうアウトな企画は、建前と動機を用意しておくと最終的に許される……みたいな思惑が隠れているのだ。



 さあ、隠しカメラもノゾキアナの開発も既に準備は整っている。いつでも挑んでくるがいい!




 俺のそんな下品な計画など露知らずであろうスノーは現在、路面電車から降り、切符を改札口に通して、駅から出てきたところだった。服装は黒パーカーに大きなヘッドホン。ついでに、心地の良い高級な音質がスノーの耳を楽しませていることだろう。


 一人で都会に旅立たせてはいるが、しっかりとモニタリングだけはしている。もしもの時があったら不安だし、そこはスノーも了承済みだ。一応、お互いに話し掛けたりはしないと事前に取り決めているので、会話は一切ない。もし話すことがあるとすれば、スノー側がギブアップを頼んだ時だけだ。


 さて、次は前回使用しなかった地下鉄を利用しなくてはいけない場面だった。この前は甘えてタクシーを使ったので、今回はちゃんと地下鉄に乗り換えてもらう。まあ、バスでもいいよとは伝えてあるのだけど。



 しかしここでなんと、スノーは地下鉄もバス停も通り過ぎて歩いて南側へと闊歩していく。まさかコイツ、公共機関を利用するという趣旨を無視して、徒歩で移動するつもりなのだろうか……。いや、まああの距離を歩けるのなら別にいいんだけど、片道で一時間とか二時間は掛かるだろうなぁ。 


 計算したらスノーの昼食が二時過ぎになりそうだった。


 だけど今のところ、人通りが多い場所でも気分を悪くする様子もなさそうだし、なんだか鼻歌交じりで、余裕さえ感じ取れる。



 ……時間も掛かりそうだし、ネットでも見て情報収集にでも勤しもう。



 まあ特別変わったことがなければいいのだ。大型連休のスタートで新幹線とか飛行機が混雑しているとか、当たり前すぎる情報が出てくればそれでよかった。だというのに……――




「…………まさか、地元の名前を、連続殺人事件の記事で見ることになるとはなぁ」




 ――なぜか、そういう話になっていた。



 昨日の夜に殺されたらしい。


 あの花菱少年――鼻もげユー君と同じ年齢の少年が、今度は人気のない路地裏で死体となって発見されたようだ。殺され方はユー君と同じく、鋭利な刃物による殺傷。出血多量によるショック死だとか……。


 しかも、何者かから逃げているのではないかという目撃情報もあったらしく、警察も動いているとかで、事件は割と表面化しているらしい。どちらも殺され方が同じく鋭利な刃物による殺害だったからだろう。……まあ、こんなご時勢に刃物で殺されるだなんて、異世界からの復讐としか思えないのだけど。



「……目撃情報が本人だけで、その後死体だけが路地裏で、か」



 本人の姿が確認できなかったのは、そういう隠密の術を持っているからだろうか。……なんか妙だな。だけど、その違和感にはまだ少し手応えが薄い。


 とりあえず殺された少年の方に注目してみた。


 名前を見てもピンとも来なかったが、顔写真を見た瞬間にすぐに思い出した。



「確かコイツ、鼻もげユー君と一緒に居たヤツだ」



 以前、夏休みに大阪のゲームセンターですれ違ったのを覚えている。


 コイツもゲームとか好きそうだけど……ネトゲまでする奴だとは思わなかったな。これはユー君と同じく思った感想だ。あいつ等、古い不良みたいにトイレやらコンビニの前で集まってウダウダしたり、普通に暴力行為を行なうような連中だったし。なんというか、家でピコピコやるよりも、外で暴れる連中って言い方がしっくり来るのだ。




「まさか鼻もげユー君のキャラが帰化せずに、こっちで野生化みたいなことになってないだろうなぁ……」




 だとするとコンビニとかスーパーで無銭飲食が始まったりしそうだな……。


 でもそういう話は今のところ記事でも見ないし、話も聞かない……。いや、実際はどうなんだ?



「……やっぱり変だ」



 すぐに小田に連絡を取ろうとした。だがあの野郎、この肝心な時に電話には出なかった。だが別に小田でなくてもいい。


 自宅の方に連絡をしてみると、妹の聖がさっそく休日ボケした声で出てきた。



「もしもし、聖。少しいいか?」


『突然電話してきてなに? 私、友達と色々やってて忙しいんだけど』


「どうせつまらない話だろ。それより聞きたいことがある。最近、コンビニとかスーパー、あるいは食べ物を取り扱う店で、勝手に食い物がなくなったとか荒らされたとか、幽霊騒ぎみたいなことはなかったか?」


『え? いや、知らないし……。何その話? それより殺人事件の方がよっぽどだけどねぇ』


「わかった。ありがとう」


『え、ちょ、勝手に切――』



 妹の聖は交友関係に優れた人物だ。人脈ネットワーク強者の聖が「噂すら聞かない」と言うのであれば高い確率で、そういった事件はなかったのだろう。


 だとすると……この異世界人の何某は、誰かに養われている可能性がある。その養われている人物とは、すなわち、第三者のプレイヤーだ。



「……こりゃあ、絶対に家から出るなって注意しておくか」



 聖にも、小田にも、親父や母さんにも、念のため強めの言葉でメッセージを送っておいた。

 とにかく、今はそれくらいしかない。それくらいしか、やれることなんてないハズだ。



「本当に、そうだろうか……?」



 不良共が殺された。しかもお互いに関係を持っていた。


 俺には何の関係もないはずなのに、自分が狙われることを想像した。




 そして今、何かがハッとなった。


 どうして『万が一にでも』なんて、不安になったりしたのだろうか。



 今まで感じたことのないほどの嫌な予感がした。


 その上で……何かしらかの犯行メッセージでもないだろうかと、自分にまつわる情報を虱潰しに当たってみた。SNSや通信アプリ、過去に作ったユーザー登録や、掲示板の書き込み、記憶に残っているすべてのコメントを探索してみた。




 そして最悪なことに、一つだけあった。




 動画にコメントを打ち込むタイプの動画サイト、そこでひっそりとサモンズワールドの動画を投稿していた俺のアカウントに、明らかにサブアカっぽい奴から、メッセージが来ていた。




『キサマは俺を裏切った。だから今度はキサマだ。住所も知ってる。隠れても無駄だ。震えて待つがいい』




 瞬間、体が勝手に動き出した。必要な金と携帯だけ持って屋敷を飛び出していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 指名されてたのにプリントを郵送しちゃったのは酷い行為でしたね。
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