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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
151/181

心配して、心配された

 GW(ゴールデンウィーク)前日の放課後。


 気分は既に休暇モードに突入していて、学校という支配から解放された清々しさを得ていた。

 

 妙な噂が立て続けに起きているようだが、俺にとっては対岸の火事みたいなものだ。俺やスノーには全く関係ない。


 それよりも、時間に余裕がある連休中に何を進めるべきかを考えていた。



 とりあえず、先に自分とスノーとでやるべき作業を別けて考えみた。



 まずスノー側は、拠点のあるヒュードラ山脈から移動して別拠点を設置する。


 魔銃使いにはスノーは死んだと思わせてはいるが、どこかのタイミングで必ずわかるだろう。スコアランキングでもハッキリとスノーの名前が残っているし、所詮は子供騙しだったからな。再び探索されることはまず間違いない。


 ならば拠点は移した方が面倒は少なかろう。

 そもそもあの村は隠蔽性は優れてはいるが、辺境にあって色々と不便だし、王子探索の範囲から遠いのも問題だ。何度も何度も長距離を移動するのも大変な苦労だ。異世界側の移動手段が確立されてるなら別だけどな。……ころぽんさんやコッコさんが羨ましいよ。……もし、アゲイルが手伝ってくれていたら……いや、この件については考えるのは止そう。


 まあ悪い話ばかりでもない。どこからでも地球に転移できるのがわかっているから、キャンプの心配も必要ない。拠点を離れても特に問題はないと判断する。そのついでに、王子探索を続行する。当然、ティンとは別口だ。


 以上がスノー側の基本的な連休中の活動だ。




 一方の自分はというと『紋章陣の開発』と『魔法の訓練』だ。この二つは同時に行う。


 一度、小さいメモ帳に紋章陣を丸々写してみたのだが、スノーがメモ帳の小さな紋章陣に魔力を通した際、転移が作動したのだ。しかも消費MPがかなり減少しての発動だった。


 まだ仮定の段階だが……これはもしや応用が利くのでは? と思っている。その辺も現在は調査の途中だ。


 それにしても、一人で研究やら調査やらやっていると、何を調べてまとめるのにも大変だ。サモルド関連のサイトを見てる限り、まだ誰も開発を行っている様子は無さそうだったし……。


 未だに困惑でもしているのか、あるいは異世界へ赴いてトラブルに巻き込まれて帰ってこれないとか、はたまた俺のように自分だけは高めようと黙々と調査を進めているのか。……もしかしたら裏サイトが既に出来上がっていて、そちらでも情報交換しているのかもしれないけど……さすがにそこまではわからん。


 とにかく、手書きの紋章陣でも発動するし、小さければ消費MPが少なく済む。小さいモノならば、俺でも発動できるだろう。


 それに一度、自分は転移に失敗したと思われる現象に見舞われたこともあった。あの時の心臓が奪われるみたいな感覚を自在に扱えるようになれば、もしかしたら自力で魔法が使えるのでは? という算段だ。


 問題があるとすれば、あの心臓云々の感覚は痛くて怖いってことくらいだな。だが前回のあれで死ななかったのだ。たぶん大丈夫だろう。死ななきゃ安いとはよく言ったものだ。




 祖母さんの屋敷に戻ってくると、電動自転車の関係で、普通に門から入ることになる。それに気がついて何時ものように人が玄関から出てくるのだが、今日は女中さんの手に、包装された黒いカバンが見えた。


 どうやら連休前に配達が間に合ったらしい。そうでなくては困ると思っていたので、安心した。


 お礼を言いつつ受け取って、それを担いで我が家同然の倉に入った。




「ただいま」

「おかえりです」




 ……最近家に帰ると必ず、スノーが入口に立っている。まるで家主を待つ家猫か忠犬みたいだ。餌付けしすぎただろうか?


 自分で言うのもなんだが、他人にしてやれることで自信があるのは料理くらいしかないし、どこぞのファミレスの料理と比べられて「あっちの方が美味しかった」とか言われたら、そりゃあもう悔しいじゃあないか。だから毎回奮発して腕によりを掛けて調理してきたのだが……野生を失った猫ってまさにこんな感じなんだろうな、なんて感慨を持った。


 それはさておき、最近のスノーは自然と日本語を話している。ちょっと拙いかもしれないが、今では妙な癖もない。普通のしゃべりだ。



「今日もおそかったですね」

「ああ、今日は部活がな。でもしばらくは自由な時間が取れるぞ」

「でしたら、ひとつお願いしたいことがあります」



 なんだろう、急に改まって。普段からスノーが何か要望をすることが少ないのだ。何でも聞こうじゃあないか。


「はい。言葉も文字も、それなりになってきたと思ったので、そろそろ……以前、ゼン太郎と行った街を歩こうと思いまして……」


「……それってつまり、また電車に乗って京都に出掛けたいと? またゲドゲドにならないか?」


「げ、げどげど……。いえ、ダイジョブです! 今度は問題ありません。なんなら一人で行って、一人で帰ってきます」


「そ、そこまで言うか。……いや、心配だから行くなら一緒に――」


「いえ、一人で行きます。私を信じてください」



 スノーの言葉には、なにか不思議な力が篭もっていた。奮い立つ人間にあるような、虚勢っぽさのある力み方だった。


 何かがスノーの中でやる気にさせているのだろう。それはとても良いことだ。

 ただし、前回の始末を踏まえると、簡単に許可を出してもいいとは思えないのだが……。そもそもスノーを一人で行かせるなんて、都会に子供を放り投げるのと同じくらい不安になる。いや、まんまその通りだった。



「そうだなぁ。じゃあ明日、適当に昼飯を食って帰ってくる。それだけな」

「あ、明日ですか……」



 急すぎるとやっぱり無理とか言いそうな雰囲気だなぁ――



「……いえ、行きましょう。望むところです」



 ――とは、ならなかった。相変わらず覚悟が決まるとスノーさんは強いなぁ。



「わかった。それじゃあ、この話は別の日にするか」

「この話、といえば、その手に持ったカバンはいったい?」

「ああ、スノーのだよ。開けてみるといい」



 鞄の掴み手をスノーに渡すと、その重さに少し驚いていた。それでもすぐになれて、チャックの部分を難なく解いていく。


 中を開くと、その形に違和感を覚え、最初はいぶかしむような目だったのが、その全容を見たあとでは感嘆する声音を漏らしていた。


『コンパウンドボウ』という種類らしい。コンパクトな見た目で、スノーが以前使っていた『ルナイラの神弓』に少しだけ似た形をしている。ちなみに配色も似た白と銀の商品を選んだ。


 大体5万程だったか。まあ、値段は未来の自分が負担するということで……。なんだか借金ばかり増えてないだろうか。



「スノーは剣よりも弓の方が得意だろ。今度からそれ使ってくれ」

「これは……」



 スノーが説明もされずに弦を引き始めた。

 今回購入した弓は結構硬いと聞いていたのだが、スノーは指だけで弦を掴み、腕で引っ張ると同時に胸を張り、瞬時に限界位置まで到達すると、流れるように指を離して空撃ちを見せた。短い間ではあったが、一連の動きが自然体で迷いがなく、見事すぎてこっちが見惚れてしまったくらいだった。



「……良い物です。本当にもらっても良いんですか?」

「ああ、どの道、武器はいるだろ。今度から俺は操作しないから、スノーは自分に合った武器を使うべきだ」

「なる……ほど……」



 おかしい。先ほどまで喜んでいたはずのスノーが、なぜか急に気分を落とし始めた。何もおかしなことは言っていないハズなのだけど……。


「……あの、ゼン太郎――」


 スノーがなにか意を決したように口を開くと同時に、携帯に通話の着信がきた。電話の相手は小田だったのだが、スノーが気を利かせて「後にします」と言い、弓をカバンに入れて倉から出て行った。何を話したかったのかはまだわからないが、とりあえず電話の方に出た。



「もしもし」

『ゼタっち。久しぶり。元気してた?』

「ああ、一応な。というか、結構時間空いたよな。二週間ぶりか?」

『それくらいじゃない?』


 詳しい時間なんて覚えてもいないから、どうでも良いのだけれど。



「しかしまた、唐突だな。何かあったか? それともゴールデンウィークだし、一緒に遊ぶかって話か?」



 それはいいかもしれない。久しぶりに小田と共に羽目を外すのも悪くないだろう。小田のためなら一日くらい、休息日を設けてもいい。なんなら一度、実家に戻ってもいいだろう。



『いやぁ、そっちで遊ぶのならいいんだろうけど、ちょっと今は戻ってくるのはやめといた方がいいかもねって話がしたくってさ』


「なんだ? なにかあったか?」


『えーっと……ゼタっち、花菱勇喜(はなびしゆうき)って覚えてる?』


「誰それ? 知らん」


『……だと思ったよ。ゼタっちが鼻もげユー君って呼んでた不良だよ。ほら、ゼタっちが鼻に釣り針引っ掛けて鼻を裂いた事件あったでしょ?』


「……ごめん、それ何の話?」


『この鳥アタマぁ! あのさぁ……その都合の良い記憶消去の設定、どうにかならない?』



 そんなこと言われてもだな。思い出す必要もない相手っているだろう。


 それに、こういうのってやった側なんか覚えてないものの筈だ。



「で、その鼻が裂けた男がどうしたんだ?」


『殺されたんだよ。自宅で』



 殺された。


 その言葉で、話の流れが急に氷点下に向かっていく感じがした。

 どういうことなのか……。その事情を把握するために、自分でパソコンを付けて、最近誰かが殺されたとか、事件性のある話を探してみた。だが、それらしい記事は大きくは載っていなかった。



『まあ、被害者が不良ってことで地方新聞の小さい記事なんだけどさ……。それでも近所中で話が飛び交ってるよ。しかも、鋭利な刃物で袈裟切りに斬られて殺されたってさ。犯行現場が自宅で、他の家族が傷ついてないから、家族の誰かの犯行だって皆から思われちゃってるし。……アイツ自身、不良だったから、手がつけれらなかったんじゃない? みたいな、なんとなく辻褄合わせてる感じかな』


「いや……もうそれ、お前だってわかってるだろうけど……それ間違いなく、サモルドのアレだろ?」


『やっぱり、ゼタっちもそう思う?』


「このタイミングでだろ? 今の俺にはそれしか考えられないよ。……アイツがサモルドやってたとは意外だがな」


『あ、やっぱり鼻もげユー君の事、覚えてたんだ』


「うるさい」



 余計なことを言うな。知らないってことにしておけ。

 それはともかく、その件についてはどうなのだろうか。しっかりと考えておくべきだろうか?



「うーん……そもそも、アイツが何の種族を使っていたのかも不明だしな。剣使いなら、やっぱりベターに人間か? 半魔族使えるほどの世渡り上手にも見えねえし」


『同意見だね。ついでに言うと、近隣でゲームのコスプレしてるような人物の目撃情報はなかったよ』


「……つまり、逃げ遂せたか、再転移して帰ったってところか?」



 あるいは、サモルド関連ではなく、最初から地球の人間が行ったことで単なる深読み、とか。


 逃げ遂せたってことはないだろうな。紛れ込めたとしても、こっちの世界のルールとかわからないだろうからすぐにボロが出る。監視カメラにでも写っているだろうさ。


 再転移して帰った……という可能性が高いか。それが誰にとっても、一番マシな結末だとも思えるし、そう願ってるよ。



「ん? でもそいつが殺されて、何で俺が戻ってこない方がいいんだ?」


『いや、普通に考えて、ゼタっちには鼻を裂いたって前科があるから。余計な疑いとか掛かるよ?』


「遠い場所にずっと居たのに、誰に疑われるんだよ」


『相手の親』


「……そりゃあ、笑えねえな」



 全く、痛いところを突かれた。まあ感情的になった相手は馬鹿な発想をするものだ。時に怒りや危機感によって、ありえない行動を取る時もある。そんなのに巻き込まれるのは確かに面倒だ。



「わかったよ。しばらくは帰らない」

『それがいい。ゼタっちってタマに何しでかすか、わかったモンじゃないからね』

「友人を危険人物扱いするかよ……」

『これでも、心配してるんだけどねぇ』



 心配、ね。

 何で俺が小田に心配されなきゃあいけないんだ。お前は俺の保護者かよ。俺はお前に守られてるつもりは全くないんだがな。……そう言いそうになるのを押さえて、意趣返しのつもりで――



「お前こそ、あんまり出歩くなよ。変なのに巻き込まれても、俺は助けられないからな」


『ダイジョーブだって。ゼタっちと違って、こっちは余計な争いは避けてるからね』



 ――そう、言っていた。



 単なる、口先のつもりだったのに。

 たった、それだけの話なのに……。

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