小田の判断とスノーの名案
久々に、小田から連絡がきた。
最後に電話したのが随分と前のような気がしてくる。一応、うるさくしてスノーの勉強の邪魔をしないように、一階のテーブルまで移動して、机の上にでも座って電話を繋げた。
「もしもし」
『おっつー、ゼタっち。ぼちぼちしてる?』
「なんだよ、その最近どう? みたいなぼんやりとした感じ」
初めの口走りはまずまずの様子だった。最後の会話とは違って、覚悟はできたのだろう。
とりあえず、会話のボールをさっさと返すために、最近のさわりから話し出すことにした。
「そうだな。何故かは知らんが、俺もついに魔法使いデビューすることになりそうだよ」
『へー。それって三十歳を童貞守り貫くってヤツ?』
「勝手に言ってろ。今に見てろよ、漆黒の炎を使いこなしてやるぜ」
『それネタなんだよね? ダークでフレイムなマスターにでもなるの?』
あながち、間違いでもないから我ながら恐ろしい。スノーが能力を行使していた分には『チートみたいな能力』で済んでいたのに、いざ自分も使うとなると途端に『チープで滑稽』だと思えてきた。今更だけど、自分がこれから物凄く恥かしいことをしようとしているのではないだろうかと実感してきた。
……それとなく、見た目ではわからない魔法にしようと心に決めた。
「まあそれはいいさ。何か用事があったんだろ?」
『うん。一応さ、ゼタっちには話とかないとなぁと思ってさ』
なんだか恋人か奥さんでも紹介されるみたいだな、とか口走りそうになったがやめておいた。きっと前回の続きなのだと思ったら、軽口も言いたくなくなる。
少しの間だけ不自然な沈黙が訪れた。数秒の後に小田が息を深く吸い込んで、それからゆっくりと述べた。
『…………やっぱり、僕にはダメだよ。善太郎』
「…………そうか」
俺も、小田も、どちらもやっとひねり出したみたいな声になっていた。
しばらく待っていると、小田が色々と話してくれた。
『色々さ、考えた。考えたらさ……怖くなった。
実は殺しに加担してたんだとか、アゲイルの命を利用してきたとか……。僕はそれをちゃんと受け入れないとダメなのに、真正面から受け入れる覚悟もなくて……。
そしたら今度は、自分の中で全部なかったことにしようなんて考えててさ。
アゲイルも他のキャラクター達のことも、最初から“道具”みたいな存在だったと考えるしかないって思った瞬間に、自分が無自覚に人を殺し続ける殺人鬼みたいに思えてきて。
だから、うん。正直、ダメだと思った……。僕は、ダメなヤツだ』
「……いや、お前はそれでいいんだよ」
自ら悩んで出した結果なのだから、それだけで十分だ。それでいいじゃないかと、自分自身にも言い聞かせた。
小田の決定を俺がとやかく言うべきことではない。言える道理はない。
だからこそ、残念だった。
自分には小田を引き止めることはできない。本当は手伝ってほしいとか、一緒に協力してくれたらとか……結局は自分本位なことを考えているのだけれど、それでも親友であるからには、なんて詰まらない理屈を考えたりもして……。
俺も大概、未練がましいことを考えていた。自分でもあまり良くない状況だってわかってる。
だからさっさと、邪念を振り払って、いまはただの友達になろうと努力した。
「しょうがねえよな。で、アゲイルにはなんて言ったんだ?」
『似たようなことを……。でも、心配された』
「そりゃあ心配するだろうよ、アゲイルはお前を友って呼んでるんだからな」
『うん。本当、不思議なことにね。恨まれてると思ってたのに』
「スノーもそうだったよ。何でだろうな」
それからしばらくの間、中身のない話をしてみたり、スノーと一緒にパスタを食べたとか、高校がどうだとか、小田の方は上手くやってるとか……。そんな普通っぽい近況を互いに共有していると、次第にいつもの口調になり、気がつけば言いたいことも言い終えた頃合となっていた。
そろそろ最後のオチを付けて、通話を切ろうかと思っていると、小田が最後の話題を出してきた。
『あ、そうだ。もしアゲイルに取り次ぎたかったら気軽に言ってよ。それくらいはできるからさ』
「ん? そうか。……いや、お前はもう深く関わるなよ。たぶん、良くないことがしばらく続きそうだからな」
『そん時は全力で逃げる。……でもなぁ、ゼタっち』
「ん? まだなにかあるのか?」
『……いや、ごめん。やっぱりナシで』
そういって、また一方的に切られた。前回の時もそうだったけど何か言いたそうにして、結局言えないみたいな感じで、逆にこっちがモヤモヤする。メッセージでも送って聞き出そうかとも思ったけど、やっぱりやめた。
言いたくないことなんて俺も沢山あるからな。無理に聞きだすのも悪い。
なんて考えていると、スノーが頭を逆さまにしてこちらを覗き込んでいたのだから思わず二度見してしまった。でも俺が気がついたというのに、スノーは全く動じることなく両の目はずっと俺を捉えていて、それもまた怖い要因だった。
「な、なんだ?」
「いまのは、だれと、はなしていました?」
「あ、ああ。小田……いや、スノーにはマダオって言ったらわかるか」
「……それです!」
唐突にスノーが何をひらめいたのか、二階からスルリと飛び降りて俺に駆け寄ってきた。
「ゼンタロウ! マダオと、ハナシが、したい」
「え? まあ、いいけど。なんで?」
「……ア、アゲイルとハナシをしたい、ですから?」
若干、言葉が怪しくなったが、大体の内容が察することはできた。
たぶん、小田を通してアゲイルと連絡を取り合いたかったのだろう。今更だけどアゲイルとも二週間近く連絡を取っていなかったからな。そろそろ顔を合わせたい頃合なのだろう。
でも、色々と問題があった。今、携帯電話をスノーに渡してしまうのは少し問題があるというか、俺もなくなったら困る。これから他にもリトさんやころぽんさんにも連絡をしたいのだから。
だとすると、固定電話でさせればいいと思うのだけれど、電話番号ってそうそう簡単に教えて良い物でもないだろう。だから先に、小田に『スノーに電話番号を教えてもいいか?』と確認をとるのが礼儀だろう。
「わかった。明日まで待ってくれ。そしたらいつでも連絡できるようになるから」
「わかりました。ありがとうございます」
その時のスノーの表情は、達成感のようなものが溢れていた気がした。それはそれで、可愛いので良しと思っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゼンタロウがマダオと会話をしていると考えたとき、自分でも珍しく名案が思いついたのだ。
ゼンタロウがもっとも親しくしてきた相手であり、悔しいけれど自分よりも長い年月を共にしてきたであろう人物、マダオ。彼にゼンタロウのことを聞ければ、もしかしたら、今回の仲違いをどうにかできるのではないかと思い至ったのだ。
これが名案でなくてなんなのだろう。
ただ、問題なのは自分がそれほど地球の言語が達者ではないということだ。聞き取ることは既に問題ないとは思うけれど、やはりもっとスラスラと喋れるようにならねば……。
「……何をどう聞くべきか、今のうちに考えておきますか」
とにかく、打開策が思いついた今日だけは妙に安心していた。……ゼンタロウに理由を聞かれた時の言い訳などついつい忘れて。




