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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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耳掻きしてたら寝てた

 スノーが帰って来た後、冷えた体を温めるために風呂に入るように勧めた。また覗きでもするのではないかと疑われたが、なんならパソコンの電源コードと携帯も預けると言って、実際に渡した。これらがなければいつもの手段では絶対に覗きなど不可能だからな。



 そもそも、いつまでも同じ手段に頼るほど俺は単純ではないのだよ。人は常に進化し続ける生き物である。そんな一度防がれた手段を続けるほど、俺は甘くはない。



 いまは警戒されているので行動は起こさないが、なぁに……ぬかりはない。古来より日本にはノゾキアナという、とても(エロ)い人が考えた技法ある。般若のお面の目にカメラを隠して映像を録画すれば、後で回収してじっくり鑑賞すれば良い。スノーはそんな道具があるなど、まったく知らないだろうからな。


 笑いがこみ上げてくるぜ、スノーさんよぉ? 精々いまだけは安心しているんだな。



 それに無理してリアルタイムで覗く必要もないのだよ。俺のパソコンには既に何百と保存された過去のメモリーズが詰っているのだからなぁ。これがあれば十年先だって俺は飽きない自信がある。ハッタリじゃあねえぜ。……ただ、最近なんだか自分でも性癖がそっち方面に進んでいるのでは無いかと、偶に自分で自分が心配になってくる。




 大丈夫だ、俺はロリコンではない。好きになったヤツがたまたま小さかっただけなんだ! …………我ながら気色悪いな。


 なんだか急に「もういい加減、こんなアホな事は止めちまおうかなぁ」と賢者タイムさながらの気分になった。いっそファイルごと捨てるか? いや、だが命よりも重いエロフォルダを消すのは誰にとっても苦渋の選択だ。無論、俺にとってもだ。


 今一度、一年間の思い出をゴミ箱に投入して即座に消すという未来を想像してみた。


 だが、消すと心の中で行動を想像するだけで、俺の膝は容易く崩れ落ちた。


「無理だ、耐えられない……!」


 身を裂かれるほどの慟哭が心の底から必死で訴えてくる。俺の心の中のエロい人がやめてくれと必死に懇願してくるのだ。わかったよ、わかったから涙を拭きな。もう二度と、消すなんてバカな考えは起こさないからさ。




「……アホなことで時間使うのはやめよ」


 それはともかく、食事の用意を進める。本日は以前からスノーに挑戦させようとしていた日本食を用意した。


 内容は白いご飯とお麩のおすまし、焼きサバ、筑前煮だ。以前作ったオムライスは普通に食べてもらえたので、お米に関しては心配していない。だが味噌汁はまだ時期尚早だ。スノーは見た目で食べられるかどうかを判断しちゃうお子様だからな。目隠しで食事してもいいという段階になってからでなければ、怖くて作れない。



「そんな気分で作りました。どうぞ、スノー様。お召し上がりくださいませ」

「いただきます」



 ツッコミはもらえなかったが、たぶんそれほどボケを理解してないのだろう。でもどんな意図での言葉くらいかは既に理解してきているようだった。本当、頼もしい。それから日常会話から慣れるためにと、普段からゲームでの翻訳は使わないことにした。一応、ポケットの中にハンズフリーを常に持っているので、大事な時はそちらを利用するけれど。


 ちなみに、食器については箸ではなく、スプーンとフォークを用意している。箸はやっぱり難しかろう。本人が希望しない限りは勧めないようにした。でも汁物に関してはお椀を持つ、という行為をおぼえたようだった。



「おいしかった」

「そっか。どれが?」

「これと、これ」



 おすましと筑前煮をお褒め頂いた。でも入っていた鶏肉は少し手が鈍っていた。やっぱり野菜が好物なのだろうか。それに魚の反応も微妙だったし。……お刺身という鬼門に挑戦するのは相当先になるだろう。


 だが麺類に関しては大好評だった。パスタを食べ終わった後、スノーから『またアレが食べたい』なんていわれた。正直、あの時ばかりはハグしたくなった。……ファミレスで食べた後だけどね。ちょっとだけ、涙が出ちゃう俺の心を誰か理解してほしい。



 それから最近恒例となったスノーの言語(文字)学習を軽くこなし、今日の分のノルマも終わらせて、そろそろもう終わろうという頃になっていた。


 しかしどういうつもりなのか、スノーは離れの部屋に戻らなかった。ソファに座ったままそわそわとして何かを待っているようだった。


 しばらく知らないフリをして、異世界から送ってもらった魔銃を一階に持って行き、少しの間観察してみたり、どうにかしていじれないかなどを考えてみていた。現実世界でいうなら狙撃銃に近い形だ。でも弾倉はない。グリップの場所に宝石のようなモノが取り付けられていて、引き金はあるけど廃薬莢の部分も見当たらない。木製の部分が一切ないボルトアクションの銃、という感じだった。


 それからバレルの場所に文字が彫られているけど、コレはスノーでも読めなかった。



 何にもわからないなぁ、なんて思っていたその時。



「ゼンタロウ。これ」



 スノーが待ってましたと言わんばかりに着信の鳴っていた携帯をわざわざ吹き抜けから顔を出して見せてきた。それを見てやっと「電話の呼び出しか」と理解し、急いで二階に戻った。


 そして案の定、着信相手はダイスからだった。実際、あの予想も単なる思いつきの仮説だったから、本当に当たっているとは考えなかった。


 ……というよりも、考えたくなかった。当たってほしくない予想だ。なにせコレが本当にその通りだったとすると、もしかしたらラックさんは既に――。




「どうしたの?」

「……ああ、うん」



 二階に戻ってきてからポケットのハンズフリーを装備して電話を繋いだ。でもすぐには取らない。たっぷり時間を掛けてからだ。……特に理由はない。でもこういうのって、相手がどれくらい必死なのか試したくなる。



「……もしも――」

『やっとでたか!!! これ! どうなってんだよ! ゼタお前!! お前ナニを知ってんだッ!?』

「まず落ち着け。なにがどうしたって?」

『お前が!! ぜ、全部知ってるんだからな!? どういうつもりだ!?』



 なんだか大混乱してる上に、少し勘違いしてないだろうか。それほど余裕がないってことなのだろうけど。



「まあ、お前のことだ。きっと現状に吃驚仰天してそれっぽい言葉を仄めかしていた俺がすべての元凶だ、わかってんだぞ? ……とか言いたいんだろ?」


『いや、まあそうかもしれないけど――てか、それよりコレ! どうすりゃ良いんだよコレ!!? もうなに喋ってんのか全然わかんねえんだって!! あと知ってるコトは全部言え、それから――』



 その後も喚き散らされそうだったので、ハンズフリーを外して待ってみる。放っておけば落ち着くだろうから、それまで適当に音が静かになるだろう。


 暇なので、耳かきでもしてたっぷり三分待ってから、再度装着した。



『――もしもーし? な、なあ、聞いてるか? おーい?』

「終わったか?」

『おい!? 今までの話、聞いてた!?』

「聞いてない」

『聞けよ!!!』

「うるさく騒ぐだけなら切っていいか? 時間の無駄だ」



 耳掻き棒の汚れを綺麗にふき取ってから、ふとスノーの耳にしてやったらどうかなぁとか思い付いた。思い立ったら吉日ということで、さっそくスノーの横に座った。


 どうしたのかと聞きたそうな顔をしたので、自分のお膝の上をポンポンと叩き、招くようにスノーの頭を引っ張った。こうして、人生初の他人への耳かきチャレンジを決行することになる。ちょっとドキドキするね。


 ダイスには適当に相槌でも打つ気分で会話する。


「それで、一から順に説明いるか?」

『た、頼む』


 スノーの耳は尖ってるけど、そんなに大きくない。それにフニフニと触り心地も人の耳と大差ない。でも汚れなんかは少なく見える。やはりエルフって代謝が少ないのだろうか。


 まあ決め付けるのもよくないし、俺は生物学者じゃあないから無駄に考えるのは止めよう。



「まず前提としてだな、俺もお前と同じで多くは知らん。でも会話は基本的にゲームを通して可能になるから、まずはそれでコミュニケーションを取ってお互いに落ち着くんだな」

『わ、わかった!』

「そうか。じゃあな」


 一方的に切った。なんだか最後の方で呼び止めてくる声が聞こえてきたけど、こっちはどうでもいい。知りたくもない情報に確証が一つ増えてしまったばかりだからな。そういう時は他のことでもして気を紛らわせるのが一番だ。


 溜息が出そうになる気分を、今は無理やり耳掃除に意識集中した。



「ほい、次左」


 スノーは特に抵抗することなく反対側を向いてくれた。そうして暇を楽しんでいると、再び電話が掛かってきた。どうせまたダイスだろうけど。



「ほいほい、今度は何だ?」

『……お前の家、どこだ?』

「いや、教えねえけど」

『頼む! ウチ普通に両親がいるからバレたらなに言われるかわかんねえんだよ!』


 そんなに大声で騒いでる方がバレそうだけどな。いや、それは言うまい。


「それなら、あっち側に送り返せばいいんじゃあないか?」

『い、いや、試そうとは思ったんだけど、どう見てもMPが足りなくって……』


 その辺の事情にはさっそく順応したのか。まさかダイスの奴、相当ゲーム脳が進んでるんだろうか。


「瞑想で回復させろよ」

『いや、試したけど回復しないし』

「それはおかしいな……。まあいい、ティンの最大MPと消費MPはいくつだった?」

『ええっと、最大値は713で、減った分は600くらいだ』

「……獣人にしては高い数値だな。ユニークか?」


 ゲーム内のビーストのステータスは基本的には近接戦闘と感知能力が得意分野で、魔法に対する能力は他と比べれば低めだと聞いている。アモンは魔法を多用していたけど、結局あれってスキルに近い気もしたし。……いや、今その話は関係ないか。


『あー、うん。実は秘密にって言われてんだけど、人間と獣人のハーフだからだと思う……』

「……そういう他人の秘密は言わんでもいい。何でも正直に話すなよ」

『いや、その……お前に色々と頼りたいっていうか、頼りにしてるからっていうか……ダメか?』



 ダメだよ。それに頼りたいからって、家に押し入られても困る。

 と、しばらく会話に夢中で耳掻きを放置していたら、スノーが寝息をたて始めていた。これはさっさとダイスとの会話は終わらせたい。でもダイスをこれ以上軽薄に扱うのも可哀想になってきたし、少しくらいは折れてもいいかと思ってしまった。



「今日のところは頑張ってしのげ。明日の朝、鞍馬駅までこい。そこで落ち合おう。これでいいか?」

『あ、ああ! た、頼んだぜ、今はゼタだけが頼りだ!』

「……静かにしとけよ」



 そうしてやっと通話を切った。これでスノーの方に集中できる。


 今日は疲れたのか、太ももから下ろして寝やすいようにと頭をひじ掛にまで移動させる。その間もスノーが起きる様子はなくて、毛布をかぶせ、部屋の電気を消して倉から出ることにした。今日は久しぶりに離れの方で自分が寝る事にしよう。普段スノーが寝ているベッドで眠るなんて、考えてみれば興奮するはずなんだけどな。


 まあ、やっぱり例の件……ラックさんの現状を考えて、あんまり気にする余裕はなかった。





 そうして、ダイスとティンをこの屋敷に招くことになってしまった。


 ……後から考えると、何で俺は他人を容易く決めてしまったのだろうと後悔した。色々と思案しなくてはならないことは多かった。


 これから先、色んな検証を行なうのにはダイスとティンの協力を得た方が得策だとか。

 スノーとティンを模擬戦させて、将来的にスノーの戦闘技術を伸ばそうとか。


 そういう打算が胸の中にあったのだとは思う。事実、期待はしていた。



 でも、それは家に招く必要は全くなかった。

 さらに言えば、今回の件は別に会うだけでよかった。無警戒で軽率な判断だった。



 ……つくづく思うよ。


 何度失敗すれば、失敗しないように生きられるのかなってさ。

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