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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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パターンの仮説

申し訳ありません。いまさらですがティンがスノーを呼ぶ時の名称を「ユキノ」に変更しました。今日になってティンが『スノー』と呼ぶ違和感に気が付きました。彼女はユキノの時しか知らないはずなのに……。なにとぞ、ご容赦を……。

 ティンが心配だったので特に何か策を用意するつもりもなく、ティンの捜索を行った。どうやら杉林の方にいるのだと聞いて、そちらまで歩いていくことにした。


結構な距離もあって、ここまで遠いと雪崩の影響もほとんどなかった。精々、音と地鳴りが聞こえてきたくらいではないだろうか。



「ユキノ!」



 久しぶりに誰かが偽名だった頃の名前を呼んでくれた。杉の木の陰から現れたのは黒長の髪に褐色の肌をした女性の姿だった。パッと見ると人間にも見えるのだけど、獣独特の三角の獣耳が頭の上でピンと立っていて、太くて長い尻尾が体の後ろに生えている。久しぶりに再会したけれど、声も背丈も私の記憶しているティンと同じで、装備以外はあまり変わっていなかった。



「ティン、久しぶり」

「……え? あれ、ユキノなの? あ、でも声は一緒かも」

「いつも変装してたから。いまの方が普通」


 ティンは寒そうにしながら、鼻をごしごしとしていた。相当に寒いのか、ちょっと赤くなっている。


「大丈夫?」

「うん、ちょっとだけ鼻がマヒしてる……。そっちはこんな寒いところでよく平気ね」

「慣れてるから」



 それよりも大丈夫だろうか。よく見たら血色も悪いし、足つきも力がない。ちょっとばかり辛そうだ。


『ゼタ! やっと合流できたぜ。……てか、お前ホントどこで活動してたんだよ? なんかヤケに装備が現代チックだな』

『ああ、そうだな。それよりも――ティンは久しぶりですね』

「え? あ、うん。そうね、最後に会話したのって相当前かしら? あ、いまさらだけど、さっきユキノっぽい見た目の何かが吹っ飛ばされたんだけど――」

「この近くにはタチの悪いイタズラ好きの精れ……妖精がいるから、惑わされないで」



 久しぶりの再会のお陰か、出会い頭に会話が弾みだした。このままひたすら会話でもするのかと思っていると、脈絡もなくティンが空腹を知らせる音を出した。天気が悪くて今が昼時なのかもよくわかっていないが、たぶんそんな時間だろう。



「……ごめん」

「ゼタ、どうしますか?」

『そうだな。ここからだと隠れ家は遠いから、山を降りて近くの村まで行った方が良いな』


 と、今しがた思いついた風に言うけれど、これも事前に決めていたことだった。


 ヒュードラ山脈の故郷の村には近づかせない。誰もいない故郷の村は私達にとって、異世界側での最後の砦のようなものだ。ちゃんと信用できるようになるまでは村に案内はしないように、と釘を刺されている。本当は案内したい気持ちはあるのだけど、リスクを考えるならしかたがない。



「あーあ……。結局、ここまで来て戻ることになるのね」

『でも合流できたんだからいいじゃね?』

「そうだけどさぁ」



 申し訳ないとは思うが、ティン達にはお帰り願う流れになった。一応、一番近い村までは私も同行するつもりだ。


 携帯食料として持ってき四角い固形物と、暖かい紅茶の入った水筒をティンに渡した。ティンはこの二つを見て私と同じようにわからない顔をしていたが、その内容には嬉しそうに驚いてくれた。一方のダイスの方はそれらを見て、それが何かを知っている風に反応していた。



『もしかして、ゼタとスノーってさ。オートマタの活動してる大陸にでも活動してたのか? なんか所持品のほとんどが世界感が違うんだけど』


『さぁてな……。もしかしたら、今日か明日くらいにはお前にも事情がわかるんじゃあないか?』


『んん? なんだろ……そういうところに連れてってくれるのか?』



 ゼンタロウは鼻を吹かしてその後の会話を無視した。ダイスはといえば、ゼンタロウの妙な敬遠に取っ掛かりがつかめずに難儀していた。ずっと前にゼンタロウがダイスと会話していた時はもっとこう、礼儀正しい風だったのだけれど。



『ティン、足元がフラ付いてますけど大丈夫ですか?』

「え、ええ。まぁ……ちょっとアレだけど……まだ大丈夫」

『なんか俺とティンに対する態度違いすぎねえか!?』



 なんと言うか、温度差が激しい。見物している分には面白いけど、ティンとダイスは戸惑っているみたいだった。まだティンを試している最中なのかもしれない。とりあえず、私はその様子を傍観して雪山を降りた。





 雪山を無事に下山し終えると、限界を迎えたようにティンが膝を折った。どうやら足を痛めていたらしい。靴を脱がせたら足首全体に青痣ができていた。相当な無茶をしたようだ。



「あっちゃー……」



 ティンは自分のことなのに、他人の怪我みたいな様子で怪我の具合を見ていた。血は出ていないが、この足では歩くだけで痛いと思う。少し触ってみると、ティンの表情が少し歪んだ。



「やっぱり痛い?」

「そこそこ。でももうちょっとだけ頑張るわ」

『ゴメン……。いろいろ終わったと思って油断してた』

「気にしないで。どうせ我慢する以外になかったし。問題はあの村の教会には神父さんがいないってことなのよねぇ。自然治癒頼りになりそう」



 ここでゼンタロウが思案した様子をしたあと、提案した。


『スノー。氷魔法でソリっぽいの作れるか? それに乗せて、村まで運ぼう』

「なるほど。良い案です」


 そうして村まで運び込むと、空いていた家を一件借りてベッドに運んだ。私はこの村を訪れたのは初めてだったが、ティンは昨日もここで寝泊りしていたらしい。昨日も出会ったみたいな知った顔で村長と話をしていた。


 それはともかく、体を休めるティンを前に、一応の経緯としてビルテに関する情報を聞いてみた。

 ティンは特にビルテを深く理解していたワケではなく、ただ捜索隊に入った時に組むことになった人物、という認識だった。



『一つ、いいですか?』



 と、そこでゼンタロウが違和感のある丁寧口調でティンに迫るように声を出した。



『ティンはアリッサから、何か話し掛けられたことは?』



 その質問の後、妙な空気が漂い始めた。ダイスは相変わらず話の重要性に気付かずに考えのない呟きを繰り返し、ティンはといえば質問の答えを探している様子だった。



「えっと、どうだったかしら? ないと思うわ」


『……そうですか』


「あ、でも最近一度だけ、ダイスとバカなこと言ってる最中に、あのお姫様がどっか去っていったのは見たわよ。その時の様子が少し変だったから、よく憶えてるわ」



 その後、ゼンタロウは息を大きく吸い込んだ後、わかったと言いたそうに息を吐いて、『撤収』と声に出した。



「なに? どういうこと?」

『今日はもうこの辺で終わろうかと。スノーにはこれから移動してもらわなきゃいけないからね』

「わかりました。ティン、また今度ね。足、はやく治るといいね」

「あ、うん。そっか……バイバイ」



 扉を閉めた後、部屋の中から「あっさりしてるなぁ」というティンの声が聞こえてきた。


 それはともかく、私はゼンタロウにずっと聞きたいことがあった。空き家から出て人目のない場所まで移動する際に、その疑問を問いただしてみた。



「ゼンタロウ、何かわかったんですか?」


『そうだなぁ。本当はもっと長い時間を掛けて観察すべきなんだけど、ティンの素直っぽさで9割ほどは信じていいかなぁとは思っちまったな。あれはきっと多少は我慢はしても、あえて隠さない“正直タイプ”だ』


「そっちではなく、ダイスに今日か明日か、事情がわかると言っていた話です」


『ああ、そっちか……。まあ単純なパターンというか、まだ予測段階なんだけど……スコアランキングの順番なんじゃあないかって仮説をいま試してる最中だ』


「スコアランキング、ですか。そういえば王都にいた頃は凄く気にしてましたね」


『まあな。とりあえず自分達が早くて、他の連中が遅かったのはそういう関係じゃあないかって考えてな。スノーが3位で、4位はアリッサ、5位はアゲイル、間を飛んで13位にティンがいる。一日の終わりに一人、アプデのメッセージが送られる。その順番で言えば、今日の夜にダイスにメッセージが届く日なんだよな』


「それが、転移をする権利を授かる順番ですか……。何か助言をしなくてもよかったのですか?」


『まだ仮説だからなんとも言えない。それに、何も知らない奴に言ったところで、なに夢妄想を言ってんだって言われるのがオチだ。俺は一々そんな無駄な手間を取りたくない』



 そうして雪山の中で姿を暗まし、適当な洞穴の中に紋章陣を設置すると、洞穴の入口を氷魔法で閉じて隠してしまう。そうしてやっと地球のゼンタロウのいる倉に戻ってきて、暖かい空間で一息ついた。



 その日の夜は、どうやらゼンタロウの予想通りになったようだ。

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