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このゲームはVC推奨だった

『いい加減にしてください! また役人から違法薬物の疑いが掛かるでしょうが! ただでさえ三日前に怒られたばかりなのに!』


 誰が言ったか、ギルドの職員の一人が並み居る死人どもを避けて割り込んでくる人物がいる。メガネの男性で、いかにも文官だという弱そうな男性だ。耳が長いので多分エルフだろう。

 彼の後ろでは護衛とも呼べそうな精悍な男が、暴徒と化した酔っ払いを押さえ込み、または囃し立てるだけの邪魔者を外へ乱暴に放り出していた。


『ゲルト、もうちょっと丁寧にして! あとで苦情が来るから! それから診療所のキーリー先生を探してきて、酒の飲みすぎで死んでる奴がいたら今度こそお国に潰される!』


 どうやら酒の飲みすぎで死に掛けている阿呆がいるらしい。アゲイルがここの賑わいは異常だと言っていたが、ここでは割と日常茶飯事らしい。


 あと死人の事を気にするのなら赤黒い内容物を口から戻しちゃってる人を先に見るといい。あの色は胃に穴が開いて血と食った物が混じっている奴だ。理科の先生が自慢げに過去の失敗談を語っていたので覚えている。



『ブランドー!! もう飲み比べは終了です!!』

『なんだあ? 我輩はまだまだいけるぞ』

『いいえ、終わりです! 言う事が聞けないならまた地下牢にぶち込みますよ!!』

『……仮にもギルドの長に行なう仕打ちとは思えんのだが?』

『アンタが消えるとむしろ仕事が進むんだよ』



 黒服のオッサン、ギルドマスターだったのか。じゃあメガネの人はサブマスかな。



『良い酒会であった。貴殿、名を聞こう』

『竜田アゲイルだ。またいずれ、決着をつけよう』

『ブランドーだ。世界中の酒を用意して待っていよう』

『それは楽しみだ』



 両者は視線を交し合うと、拳をたたき合わせた。それが約束の誓いでもあるように。

 二人の姿は一見、漢達の友情のようなスケールにも思えた。だが、背後でせわしくなく後片付けに勤しむギルド職員らは、悲壮感のある視線を二人に惜しみなく送り続けていた。


 意味がよくわからなかったし、深入りするのも面倒だ。たぶん、どうでもいい出来事なのだと判断して、なかった事とする。




『随分と面白いイベントだったね』


 その時、妙にハッキリした声が聞こえてきた。どころか、この声には聞き覚えの人物だった。

 ラックさんの声だ。


 通話していないので、間違いなくゲーム内の仕様として会話をしているんだろうとわかった。だが、その方法がわからないので返事のしようがなかった。一応、周辺を見渡してラックさんの言っていたアリッサらしい人物を探していると、端っこのカウンターで深い黒のローブを着込んだ人物がいた。


 燃える炎のようにウェーブの掛かった赤い髪、強い意思を感じさせる眼に、表情は今までの騒ぎに対してまったく動じず、静観してスノーとアゲイルを見ていた。まるで俺達が来るのを待っているように。




「スノー、カウンターの端の女性に、声を掛けてくれ」

『わかりました』



 スノーとアゲイルがカウンターに向かうと、女性は待ち構えていたように振り返った。


『お前達がエルフのスノーと、半魔人の竜田アゲイルで合っているのか?』

『うん』

『……そう、だな』


 女性は特権階級特有の強い物言いと、しかし決して見下してはいない様子で、自己紹介を始めた。


『はじめまして。私がアリッサ……ただのアリッサだ。お前達と同じ、精霊付きだ』


 この場の誰よりも身だしなみは小奇麗だとは思うが、王族の人間と思うような豪奢な服などではなく、軽めのシャツに茶色いデニムズボン姿であった。

 装備などはローブに隠れて見えないが、普通の鉄の剣の柄が少しだけ覗いている。


 そして――


『こんばんは。ゼタ君、マダオ君。先に来てたんだけど、眺めさせてもらってたよ』


 そして青白い発光をしている光から声に合わせて聞こえてくる。

 どうやらこれがラックさんの声と関係しているようだが、挨拶を返そうとしても、俺も小田も返答ができなかった。



『あれ? 声がないけど、もしかしてまだ会話方法を二人とまだ知らない?』


 すると事情を察したラックさんが説明を始めてくれた。



『まずはエンターキーを押してコメントモードを用意してくれないか?』


 エンターキーを押すと、確かにコメントを記入するための専用のタグが発生した。この機能自体はどこのゲームにもある。ボイスチャットを使わない人たち相手には、これで文字を打って会話をしたものだ。

 まさかこれで会話しているのか? とも思えたが、どうやら違った。



『“チャット:チャンネル オープン”と入力してください。そうすればプレイヤー同士で会話できるようになるよ』


 初めは疑問に思ったが、試しに入力するとコメントが吹き出しみたいに画面には現れず、代わりに『Pi!』という効果音が聞こえてきた。

 画面を見ると、スノーとアゲイルの肩の上に青白い色の小さな光の玉が出現していた。



「もしもーし?」

『もしもし? 聞こえてるよ』

「おお。ラックさん。すごいですね」

『こっちも聞こえますよ』


 小田も入力を終えたようで、声が聞こえてきた。

 やっとこれでまともな会話ができると考えたが、しかしこのコメント入力でチャットチャンネルを作る方法は、さすがにわからなかった。


『研究会のメンバーであるゼタ君なら既に知ってる情報だと思ってたんだけどね。どうかした? ちなみに昨日の情報だよ』

「いえ、すみません。昨日は外に出てて、今は新品のパソコンの設定中でして……」

『なるほど、大体把握した』


 そうか、昨日の内に会話方法が解明していたのか。思えば昨日から研究チームのスレに顔を出せていないな。


『しっかし、コメント入力してチャンネルを作るなんて、変わった仕様っすね』

『そうだね。ちなみにこれを発見した経緯は、コメントしたら吹き出しが出なかったからなんだろうって色々試した結果らしいよ』

『うーん、さすが新規会社、他のゲームと常識がちょっと違うんなぁ』



 俺も変わった仕様だとは思う。


 それにコメントで会話ができないという事は、キーボードでの会話が主な人達が会話不可能なのではないだろうか。


 ……まあ自分たちは問題ないのでいいか。何はともあれ、これでゲーム内会話ができるようになった。お蔭で憂いも少ないだろう。


『にぎやか……』

『精霊の話す内容というのはイマイチ要領を得ぬな』

『ふむ、私も同感だ』



 この会話はどうやらキャラクターたちにも聞こえるらしい。

 これはこれで良いかもしれない。一緒に会話できると楽しいだろう。



 俺達はネット通話を使わずに、オープンチャンネルで会話することにした。

どうでもいい裏話


『ところで気になってたんだが、冒険者の中から回復魔法を使える人間を探さなかったんだ?』

『そんな事をしたらバカ共が仕事として金を要求し、味を占めてますます常習化が進む』

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