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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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真面目と不真面目の使い分け

今日になってやっと「耳掛け式ワイヤレスヘッドセット」の一般名称を「ハンドフリー」だッ! と思い出しました。そんなボケナスな私をどうかお許しを……。

 反応に戸惑うこと数十秒。まずに冷静になろうと努力して、次に事態を理解しようと分析する。



 おかしい。どうしてスノーが自分に黙って学校にまで来ているのか。ひょっとして、何かが気に入らなかったのか。それとも一人で地球にいるのが怖くて付いてきてしまったとか? いや、それはあるまい。屋敷を出るとき、そんな素振りはまったくなかったんだから。



『気付くのが早いですね』

「……お、おう。まあな」



 スノーの側も俺が察知した様子に気がついたようだ。なんでスノーが察知したのかと思ったら、ハンズフリーを装着したままゲームを起動したら、うっかり口に出た声がスノーに聞こえて気付いたのだとわかった。

 それにしてもスノーの奴、いつ気付かれても別に構わないという態度だった。いったい何を考えているんだ。



『ところでアイツって、誰のことですか?』

「……誰のことか想像してみ?」

『えーと……私ですか?』

「正解だよ」



 思わず溜息と同時に頭を抱えてしまった。もう周囲がどうとか考えられないほどに意識がスノーのいる窓に向けられた。



(どこからどうツッコミをすればいいのかわからない。いや、困惑に時間を使うな。残された時間を考えろ)



 教室の時計で確認し、残り5分で全員が移動開始するのだとわかって、更に焦らされた。どう修正するにしても時間が足りないと悟る。


 ここは突貫でもなんでも、簡潔に物事を整理して、スノーの意図を確認し、速やかに指示を出す必要性があった。



「えっと、スノーさん? とりあえず目的を教えてくださいませんか?」

『はい、ゼンタロウのいう学校とはどんな場所なのかと興味を持ちまして。それからご安心を、絶対にばれないように動きますので』



 安心できねぇよ、と口から勝手に乱暴な言葉が飛び出そうとしていたのを寸前で飲み込んだ。


 スノーの自信満々な声とは裏腹に、俺には不安しかない。自分の隠密スキルのレベルが低いのを忘れたのだろうか。いや、低いままなのは俺のせいだけどさ。



 とりあえず……発見されるという話はひとまずその辺に置いておこう。


 そうじゃあなくって、問題はどうして黙ってついてきちゃったのかと言う話だよ。


 確かにスノーに行動を制限した覚えはない。学校に来てはいけないなんて俺は一言も釘を刺していない。そもそも付いて来るとも思ってもいなかったんだ。ましてや、俺に黙ってだなんて……。



 そうだ、そこがまず変だ。



「スノーさん。何で黙って付いてきたんだ?」

『その方が面白そうだと思ったので』



 わーい。どっかの誰かと同じこといってるぞー。……十中八九、俺じゃあねえか!



『それにゼンタロウ、最近は何かと誤魔化してますよね? その辺も気になったので……』



 思わず吐き出しそうな溜息を歯噛みして耐えた。なんにしても俺が悪いんじゃないか。……でもなぁ。



「誤魔化しとは人聞きが悪いな。言っても仕方がないことだから流してるだけさ」



 そんなん、個人が考えても途方もない大きな問題の話なんか、詳しい事情を把握してないスノーに話しても、混乱させるだけだ。どころか余計な事態に巻き込みかねない。


 でもそこが、スノーにとっては気に入らない要因でもあったのだろう。だからこんな行動を取ってしまったのだ。



 いかんなぁ。まさか、スノーの強気な側面がこんなところで、こんな形で、俺に襲い掛かってくるとは……。

 参ったな。この件はいままで俺がゲームで好き勝手してきた弊害でもある。


 しかも普段は静謐で大人しいから、スノーのこういう時の「やる時はやる女」という動きを予測できなかった。



 今度からちゃんとした常識(ルール)を教えなくてはならない。などと偉そうに思ったけど、そもそも自分だってまともな常識が備わっていないのだと思い至り、途端にどうでもよくなった。



 いいや、こういう時こそ発想の逆転だ。『ネガるな、ポジれ、さすれば道は開かれん!』と、アニメの名言を勝手にオマージュして思考を切り替える。


 ネガティブ面を全て飲み込んで、残ったポジティブ要素だけを考えよう。



 そうだ、スノーがどれだけこの世界に順応できるのかをチェックするいい機会かもしれない。そうして、こっちの世界の諸事情なんかもほんの少しでも感じ取れたら上々だ。……と、自分自身に言い聞かせるのだった。たぶん、そんなに効果もないだろうけど。



「よし、スノー。黙って学校に来た事に関しては、今回だけ不問とする。ただし次からはやめなさい」


『どうしてですか?』


「楓さんが困ってたからだ。俺にはいくら迷惑を掛けてもいいけど、他の人にはやめような。あと、何かする時は相談してくれ。まだスノーはこっちの世界のルールをちゃんと理解していない。取り返しの付かないことだってあるんだからな」


『……なるほど。軽率ですみませんでした。今後は気をつけます』



 よし、ちょっと強めに言ったのが効果的だったようだ。これで何とか変なクセになる前に矯正はできそうだ。まあ学内で教師に見つかったところで「俺の親戚の子で~」とかでっち上げればいいだろうと安易に考えたりした。最悪、変装はしているみたいだし、突然エルフが現れたとか、そんな状況にもなるまい。




 とりあえず、楓さんにも連絡をして、この問題はひとまずのこう着状態を得た。


 その後、体育館にて始業式などの行事が進められた。途中でハンズフリーの装着もやめて、時間を浪費していく。こういう何もできないタイミングこそ、頭を休めるいい機会だと勝手に判断して呆けていた、のだが……。


 しかし、いつかの廊下ですれ違った毒を吐かれた男が造形美術の教師の一人だと知って、思わず目をそらした。さらにはクラス担任を受け持つ人物であり、結末まで言ってしまうと……なんと自分のクラスの担任であるという最悪なオチが待っていて、全力で情報を遮断した。



 もう、どうでもよくなったよ、本当。


 ああ、もう早く学校とか終わってくれねえかな。帰ったらスノーとトランプでもしたい。そうだ、今日はオムライスでも作ろう。そうしよう。チキンライスにトロトロの玉子を被せたタンポポな奴。最近はスノーが玉子料理を好む関係で、そっちの料理が得意になってきた。我ながら自分の才能が恐ろしい。将来は出汁巻き玉子を延々と作り出す職人にもなれそうな気がする。


 妄想たくましくして時間を使っていると、既に教室には帰ってきており、今は自己紹介をする時間を設けていた。そして――


「次、辻風。はやく自己紹介をしろ」

「あ゛?」


 気分よく妄想を膨らませていた最中に、いかにも気に入らない男の声を聞いて気分を台無しにされた。



「いいから自己紹介。時間ないぞ」



 涼しげな顔でいう男に、嫌悪感を隠すことなく舌打ちで返し、適当に終わらせるつもりで席を立った。


 教卓の前までくると、クラス全員の顔が見て取れる。どこを見てもわかりやすい連中ばかりで、本当は自己紹介なんて聞いちゃいない。ただ自分の番になったら何を言うか考えてるヤツと、終わったヤツはさっさと流せよと考えてる連中だ。まあ、簡単に二分化できるようなことでもないと思うけど、どうせ他人になんか興味ないだろうさ。態度と顔でわかる。



 いいね。何しても別に良さそうな気さえしてくる。間違った名前でも書いて遊んでやろうか。


 そうして軽く見回していると、窓の方を見た瞬間に、一瞬、表情を作る力を失った。スノーのヤツが陰から顔を出して、俺の行いを注視していたからだ。



 もし、ここで俺がしょうもない腑抜けた自己紹介などをしたらどうなるのか。……スノーから「ああいうのが正しい態度なのですね」と覚えられる未来まで想像して、さらに常識が歪みそうな予感がした。


 スノーが見ている手前、極限まで最悪な態度で自己紹介をするのだけはやめておこう。


 でも態度を改めるからといって、突拍子もないことをするつもりはない。やっても無難に済ませる程度だ。

 一応、名前は綺麗に書いて自己紹介という名の儀式を始める。



「辻風善太郎です。趣味は特になし。以上」

「もっと何か話せ。協調性がないのか、お前」



 うるさいクソ教師。だいたい皆こんなもんだろうが。何を話せっていうんだよ。言っておくが詳しい詳細なんて俺は言いたくないぞ。ゲームや映画鑑賞が趣味なんて、そんなの誰だって一緒だろう。ああ、腹立ってきた。



「希望する選択科目。将来の夢。何でもいいから言え」

「協調性なし。希望科目なし。将来の夢は――」



 将来の夢、ねえ……。口に出した瞬間、途端に簡単に口にするのが憚られた。



 ……どうでもいいか。熱くなったところで、考えたところで今更どうでもいい話だ。忘れていい。思い出さなくっていい。

 俺は所詮、やりたいことなんて何もない。ただ遊んで、暇潰して、時間をむさぼって、そういう奴でいい。……そういうのがいい。



 そう思っていたら、鼻で笑い飛ばしたくなってきた。




「将来の夢は、ありません」




 そんなもん、誰かが奪っていったよ。

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