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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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知らんと言ったら知らん

 4月7日。

 スノーが現実世界に現れてから一週間が経過していた。


 ついでに、待ってもいない高等学校の始まりである。



「おはよう」

「おはようです」

「今日はいい天気だな」

「はい、そうです」

「……応答がおしいな。まあいいや、その辺はもう慣れだし」



 予想通り、スノーの日本語習得は順調に進んでいる。少し不安定ではあるが簡単な会話は成立するようにはなった。まあ、流石にいきなりは無理だったな。それでも聞き取る能力は高いので、上達は早いとは思うけれど。


 でも最後には、やっぱりサモルドの翻訳機能を利用する。


『大丈夫でしたか?』

「形にはなってるから、及第点はある」

『そうですか……』

「昼の間に関しては楓さんに頼んであるから、何も心配ないぞ。あと、何かあったら連絡な」

『はい、番号はしっかり覚えています』


 今では数も減ってきているらしい固定電話。離れの部屋の前にも子機があって、それを使えば俺の携帯に繋がるように教えてある。何かあればすぐ連絡を取れるようにしておきたいからな。



「じゃあ行ってくる」

「さよなら」

「……それは別れの挨拶だ」



 まあ、ニュアンスの違いの説明は楓さんに任せよう。たぶんあの人なら任せて大丈夫だろう。



 そんな感じで山の中の車道を自転車で走りながら学校を目指した。気分がよくない所為か、桜が咲いているのを見ても、特別な感情も風情も感じなかった。


 ちなみに入学式の関係で今日だけは制服だ。本来は私服で登校が許される。別になんでもいいとは思っているけど、毎日私服を選ぶのは面倒だなぁ、とは思っている。むしろ毎日制服で登校してもいいかもしれない。



 そう思っている間は、なんか普通の学生してるなぁとか、他人事に思えて仕方がなかった。



 正直、サモルドの件に関しては、わからないことばかりで手探り状態だ。


 運営に直接電話してみても繋がらないし、メールを送っても同じ文言しか返ってこない。……会社の所在地でさえも、きっと意味のない場所だろうと予測ができた。実際、ネットのリアルマップを利用して調べたら、数年前の画像ではあるけれど、小さい神社があった。もうこれ詐欺で済むのだろうか?



 それからラックさんには全く連絡が取れない状態だし、一応今でも連絡を取れるコッコさん、リトさん、ころぽんさんには探りを入れたが、みんな何事も無さそうだった。


「一斉ではないのは、何かしらの順番があるとか……?」


 まだわからない。決め付けるには情報が不鮮明すぎる。


 そもそも、ラックさんと連絡が取れないのは単純に携帯をなくしただけとか、一人で傷心旅行に出かけているからとか、そういう考え方もできる。アリッサという存在が爆弾に思えて、俺が勝手に不安がっているだけに過ぎない。


 それにきっと、何かが起こればニュースにもなろう。それがなければ、まだまだ憶測の域を出ない。




「ま、こんなの個人でどうにかできるとも思えんがなぁ」



 夜中に考えてみた。

 ネットの彼等はまだ、問題を問題として認識できない。それなのに突然勧告しても無意味だ。無駄な努力とも言う。



 どうせ解決するなら、実在するかもわからない秘密組織とか、なんたら防衛軍みたいな特殊チームに頼むしかあるまい。俺みたいな学生には何もできんさ。精々、自分がいままで共にしてきたスノーと仲良くして、和解して、今度から対等な立場でよろしくね、と固い絆を再構成させていくしかないと打算を組むくらいだ。



「……秘密結社、都合よくないかなぁ」



 あったら全部任せよう。そして俺は全力で応援させてもらう。無論、関与しないけどな。


 だってそんなの面倒だし、学生が介入する領分でもないだろう。そもそも、その他大勢とかいう連中なんか、別に本気で助けたいとも思わないし、俺は知らんと言ったら知らんのだ。一度は気に掛けたのだ。だからもう一切関与しない。義理は果たしたといっても過言ではなかろう。



 それにきっと、秘密結社なんてのがなくても、どこかの正義感ある人間が全部なんとかやってくれるさ。俺にはそういうのに全く魅力を感じないからさ。やりたい奴がやってくれたらいいさ。



「でも自衛の手段だけは確保するべきだよな」



 どんな未来が予想されるかわからない。そんな状況にあるのだ。何かに巻き込まれたら恐ろしいと思うくらいの判断力くらいはある。



 そう考えると、真っ先にスノーを頼りたくはなる。けれどすぐに頭を振って忘れようとする。


 まだ心のどこかで、スノーを自分のプレイアブルキャラクターだと認識しているのか、何かあったときの保険として考えているのかもしれない。


 ……考えた覚えもないけれど、他所からしたら今の俺の状態は「もしもの時の為に、スノーを飼いならそうとしている」風にも見えるだろう。否定はしたいが、客観的に分析すればそう思えてしまう。



 そう思われない為にも、自分で何か手段は考えておきたい。



 スノーに頼る方法を除いて、次に思い浮かぶのは武器の入手だ。



 もちろん武道なんてやった事がないし、最近はジムにも行ってない(祖母宅の付近はド田舎だからジムもない)。だから比較的、楽な武器がほしい。剣や弓なんて心得がないからもちろん遠慮するとして……銃なんて良さそうだ。


 すると異世界から小銃を入手してくるという案が浮かぶ。


 ヒュードラ山脈から東へ移動して、海を越えた大陸に『砂漠エリア』と呼ばれるオートマタの聖地のような場所があるらしい。全体が砂漠の大陸が広がっていて昼は灼熱、夜は極寒。武器やアイテムは砂の下にある遺跡に隠れているのだとか……。自分で取りにいこうなんて考えるだけで嫌になりそうな場所だ。


 ……たとえ、スノーに頼むとしても、灼熱って部分が非常にキビシイと思える点だな。




 じゃあコッコさんに頼んで、小銃を届けてもらうのはどうだろう。……でも取引する金がないか。勝手に倉庫から金を引いてもらうとか? 一応、コッコさんに打診してみるか。それならスノーに頼ることなく、俺がエルタニア辺境まで移動すれば大丈夫そうだし。……いや、軽くノリで考えてるけど、異世界に行っても本当に大丈夫か? そもそも倉庫のお金って、俺とスノーどっちの物になるんだ? ……スノーが働いて得たお金か……。



 なんだかどれもこれも、難しい気がしてきたな。やっぱりスノーを頼るべきだろうか……。




 結局、そこが肝心になってくるのだ。




「……うーん。……でもなぁ、今の状態で頼んでも、なにも考えずに二つ返事で答えるんだろうなぁ」



 気が進まない。そんなことばかりだ。


 いや、自分らしくないな。もっと軽く考えていかないと。



「まあ、今は保留で」



 結局はいつもの後回しである。

 まあ何事もなるようになるさ。気楽に行こう、気楽に。下手に答えを急いでも、いい考えにはならんさ。




 学校の駐輪場に到着すると、さっそくクラス分けされた表を確認しにいく。


 どうやら芸術高校だからといって、すぐに造形クラスとかデッサンクラスとかに分かれるワケではないらしい。最初は全員で混ざって、来年度から専攻分野のクラス分けをするのだとか。


 その辺に関しては自分も特に何かをやるって決めてないからありがたい。絵を描くにしろ、物を作るにしろ、別に強い関心があるワケじゃあないし……。



 自分が振り分けられた一番端の1組に入ると、さっそく始まってたよ、チーム分け。


 自分はドコ出身だとか、なにがしたいからこの学校に入ったとか、好きな漫画とかアイドルとか(インテリぶった奴は芸術家の誰がいいとか)、下らない話題が飛び交っていた。いや、下らない話をするのはいいんだ。うん、悪くない。自分が全く興味が湧かないってだけの話だ。僻んでるみたいでダメだな。今後は一切聞かないことにしよう。



 とか何とか思っていたら、携帯に電話が掛かってきた。番号は屋敷からだった。


 ハンズフリー、楽でいいなぁ、なんて思いながら携帯の通話を繋いだ。どうせゲームアプリに切り替えるだろうからすぐ切るだろうけど……。



「はい、もしもし――」

『もしもし、善太郎さんですか?』

「あれ、楓さん?」


 スノーから何かあったのかと思ったのだけど、相手は楓さんだった。どうしたのだろうか。



「なにかありましたか?」

『スノーさんは今、どちらに居られますか?』

「え? どちらって、離れの部屋にいませんか? もしくは倉とか……?」

『念のために確認しましたが、どちらにもいらっしゃいませんでした』

「……ちょっといったん切りますね」



 少し不安になった。何か、よからぬことにでも巻き込まれたのか、あるいはまた謎な展開に発展していてどこかへ消えてしまったのだろうか、とか……。


 首輪のつもりでもないけれど、急いで携帯のサモルドのアプリでどこにいるのかを確認してみた。



 すると、なぜか見覚えのある外の壁と、窓から覗く教室が見えた。窓の外から草陰に隠れているのか、スノー本人はゲーム画面からも見えていないが……でも、確かに画面内にはスノーは俺の教室の窓の外にいた……。




「……アイツ、何してるんだ」




 思わずスノーをアイツ呼びしてしまった。

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