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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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他人の所為にするなよ?

 少しの間、沈黙が支配した。携帯の通話時間だけが経過し、何度も口を動かしては声の出ない状態が続いていた。


 そんなどうしようもない空気を破りたくて、ワザとらしく一度、大きな溜息を吐いて迷いも一緒にどこかへと吹き飛ばす。



「ついにお前のトコにも来たのか。……それで、どうしたんだ?」


『……まだ、触ってない』


「そっか……」


『うん』



 そうして、また沈黙が訪れようとしていた。コレはちょっとばかり、時間が掛かりそうだ。


 俺個人としての意見は、アップデートが小田のところにも来たのは正直驚いたが有用な情報だ。これで今までの『スノーだけが何らかの理由で転移ができた』という仮説が消滅したと言っていいだろう。だから情報提供ありがとう。また何かあったら聞かせてくれ。……といったところか。



 だが小田はそうはならない。


 小田は、まだ話したい話があるはずだ。だから何も喋れないままなんだ。



 とりあえず待ってみる。しばらくしたら何かを話したがるのではないだろうかと期待して、気長に構えて、ただ待った。



 待ち続けて、小田がやっと声を出し始めた。



『……ゼンタロウは、さ。どうした?』

「どうしたって?」

『……スノーちゃんとは、どうした?』



 そして自分の問題ではなく、回りくどい方向に進むのだった。気持ちは汲んでやるけどさ。……三度までは我慢してやろう。


 まずこれで一回目だ。



「まあ、今は一緒に住んでるな」


『……そ、そうなんだ』


「ああ、変装の衣装とか道具とか揃えたりしてさ。今日は一緒に京都観光でも巡ろうかと思ってたけど、コレが全然ダメでさ。京都駅までは行ったんだけど、とっとと買い物済ませて帰ってきちまった」


『……へぇ。すごいね』


「凄い事なんか一つもねえさ。わからないことばかりで、何の進展もなかったって思うくらいだ」


『いいや、善太郎は凄いよ。僕は、そうはならないから』



 そうはならないとは、どういう意味だ。さっきから妙にウジウジと声に覇気がない。


「言ってる意味がわからん。どうならないんだ?」


 小田は空元気になっていく声を出しつつ、思いを告げた。



『僕はほら、善太郎みたいにすぐに行動できるようにはなってないからさ。今だって、自分はどうすればいいかわかんなくて』


「なんだよ、わかんないって。アゲイルと話したんだろ? というかアプデの件はアゲイルに何て言ったんだ?」


『……まだ』


「まだって……。先にアゲイルと相談しろよ」


『できないよ。そんなの……』


「できないって……おい、まさかお前、昨日のあれからまだ話し合いもしてないのか?」



 無言の肯定をされてしまった。その瞬間に頭の中で『俺じゃあなくて先に当事者同士で話せよ!』と怒鳴っちまいそうになった。だが、二回目の我慢だ。口には出すまい。感情には出すけど。


 どうやら小田は罪悪感の方が強すぎて、顔向けができないようだった。にしても考え過ぎじゃあないか?

 おかしいな。いつもならもっとスマートに自分なりの答えを出して解決する男なのに。



「アゲイルはお前が深刻に思うほど、気にしないと思うけどな」


『じゃあ、善太郎はどうなのさ? スノーちゃんに何も思わないってことはないよね?』


「そりゃあまあそうだ。でもな、言ってみりゃあ今までのは詐欺みたいなもんだろ。気にし過ぎたら負けだ」


『それで善太郎は納得できるの?』


「納得する、しないはこの場合は関係ない。やるか、やらないかだ。極端かもしれないけど、自分が悪いと思ってるならなおさらだ。悩む前にさっさと謝って来いよ。気が楽だぞ」


『……相変わらず、善太郎は強いね』


「“凄い”の次は強いかよ」


『善太郎みたいに1か0しかない、単純な考え方はできないんだよ』



 単純ってどういう意味だ。今、俺は貶されたのか? いや、見逃してやろう。三回目のコレはノーカンってことにする。だけど今度は俺から質問させてもらおう。いい加減に口も回るようになってきたみたいだし、そろそろ引き出すか。



「一体、何に迷ってんだ。というか小田、正直なところ、どうすべきだと思ってんだよ? そこまで思い悩む理由は何だ?」


『……それは、やり続けるって決心が、つかないというか』


「じゃあ止めるしかないだろ」


『そんなことしたら、善太郎が――』

「あ? 俺?」



 咄嗟の言い訳をした後、小田が「しまった」みたいな声を漏らしていた。なんだか、物凄く変な予感がしてきたぞ。



「まさかお前、俺が続けてるから、自分も続けるべきだなんて思ってたりするのか?」


『……まあ、だいたい、そんな感じ』


「あほくさ」



 脊髄反射で愚痴が飛び出てきた。なぜそこで俺が出てくる。手前のことだろうに、自分を基準に決めろよ。もういい。言いたい理屈を全部言ってしまおう。



「もう今の態度で大体わかったけど、お前の答えは『やめたい』ってことなんだよな? だのに俺が続けるから自分も続けるって、お前それでも俺の親友の小田真雄か? さては偽者だな? ああ、言い訳は聞かんぞ。そんなの理由にならん。お前なら言わなくてもわかってる筈だろ? 他人に理由を委ねるな。そこは曲げちゃダメなところだろ?」


『それは、そうかもしれないけど……』


「けどもカカシもあるか。はっきり言っちまって迷惑だ。お前がそれで取り返しの付かないことになっても、俺は何もしてやれないんだぞ? だから、お前が無理して俺に付き合う必要なんかどこにもない。それよりアゲイルと向き合ってやれよ。あいつはお前をずっと待ってるぞ」


『……ああ、そっか。そうだよね。……ダメだなー、僕。やっぱり、まだアゲイルを、ちゃんと“人”だって認識できてなかったみたい。自分にとって都合よく待ってくれてる“AI”だって認識がまだ抜けてないのかも』


「そりゃ普通だろ。お前はまだ、直接アゲイルと出会ったワケじゃあないんだから」



 変な所で悩みやがって。小田がやめたい理由ならいくらでも思いつくが(精神的に辛いとか、罪悪感から解放されたいとか、先のことを想像するのが怖いとか)、それでもやり続ける理由が「俺が続けているから」なんて一番に出てくる時点で、根本的に間違っている。


 まあ、親友冥利に尽きるとは思うが、それはそれ、これはこれだ。



「あとな、最後にこれだけ言っておくぞ。俺とお前では状況が違うだろ? アゲイルは自立してるし、味方も多い。でもスノーは今、立場がない。何をするにも一人っきりだ。だから今すぐには突き放すワケにはいかない。それだけだ。わかったか?」


『ああ、うん。ありがとう』



 小田はまだ、言葉に力はないが、それでも迷いは減ったように言葉がスラスラと出てくるようになっていた。



『……善太郎に説教されるとは思わなかったよ。あーあ。実は本当に、まだゼタっちと続けたかっただけなんだけどなぁ』


「なんだよ、それ。マジで理由の擦り付けじゃあないか。お前本当に小田か?」


『擦り付けるつもりはないんだけどねぇ……』


「だったらなんだよ」


『…………さあ?』



 その後、すぐに通話が途切れるように音が切れた。あの野郎、何を隠したくて誤魔化したかったのか知らんが、一方的に切りやがった。礼儀を知らんのか。


 だけどその後、メッセージで「とりあえずアゲイルと話してみる」と言ってきた。まあ、それが何よりも先だろう。さっさと済ませて来いよと送ってしまうと、自分でも何を格好つけてんだかと溜息が出てきた。



 これでアゲイルに協力してもらって色々と実験するなり、王子捜索するとか、色んな手札が消えてしまったわけだ。もうちょっと後先を考えて発言すべきだっただろうか。……いや、きっとなんとかなるさ。



 しかしながら、とんでもなく七面倒なお悩み相談だったな。小田じゃあなければ「知るか」と一蹴して終わらせていたところだ。もういいや、今日はとっとと寝るか。



 ……なんて、思ったのだけれど。


 なにか、妙に忘れてる気がした。ソファで横になる前にパソコンの椅子に座って、少し考えてみる。頭を親指でグリグリとマッサージすると、やっと思い出した。



「……いや、駄目だろ。この状況」



 小田にアップデートが来たってことは、他の連中にも時間差でアップデートが来てるかもしれない……。だとすると、一番心配になったのがラックさんだった。


 通話アプリを開いてラックさんからの応答を確認してみたが一切の反応がなかった。諦めずに、五回くらいは通話してみた。だが、いくら待っても結果は同じ。


 コレの意味するところは……。




「……ダメだ。これマジで俺の手に負える問題じゃねぇよ」




 今は何も起きていないが……その内、取り返しの付かない大事件とかに発展する予感しかしなかった。


 どうするか。どうしようか。わからないが、とにかく思いつく対処をやっていく。



 インターネットの海に潜って攻略サイトやら掲示板に行って注意勧告のつもりで書き込みをして回った。


「サモルドのプレイヤーへ。新種のウィルスがある。世界をアップデートしますか? は押すな」


 という具合の内容だった。若干の嘘は混じってるが、一々異世界と繋がってるとかそんな話をしても通じるワケがないと思い、こういうコメントになった。自分では大丈夫だとは思ったのだけれど、浅はかだった。


 返って来た反応はといえば「荒らし乙」「ソース出せ」「不人気ゲーにウィルスとかないないwww」など、信用の欠片もない反応しかなかった。その上「最初から過疎気味のゲームを更に過疎化させるな」なんて被害妄想も大概にしろよといいたくなるコメントまであった。


 その結果、俺の出した結論とは――




「…………勝手にしろよ、もうしーらね」




 ――完全なる諦めであった。

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