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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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運営、許すまじ

 山の中の屋敷に戻ってくると誰にも出くわすこともなく倉へと直帰できた。良いことだ。下手をすると知らない人とすれ違って会話に発展する時もあるから面倒だ。


 戻ってきて一番にしたのは携帯の充電だ。それが済むとひとまず放置して、今度は三台あるパソコンの内、二台を起動する。ゲーム用とネット用の二つだ。


 先にサモルドを起動してからヘッドセットを装着すると、さっそくスノーに断りを入れておく。



「わるい。これから買ってきた機器を使って色々と準備するから、適当にくつろいで休憩しておいてくれ」


『わかりました……。ところでゼンタロウ、見学していても?』


「うん? まあ構わないけど、たぶん見てもよくわからないだろ」


『いえ、とりあえず何かしたいので』



 そう言って、退屈な作業をスノーはずっとソファに座って見ていた。無料で転がってるMP3をダウンロードして、それを激安音楽プレイヤーに同期させているだけだと言うのに。何の動きも無ければ、きっと何をしているのかさえわからないだろう……。


 とりあえず、自然っぽい音を選択していき、スノーが気に入りそうな陽気な音楽も混ぜて、全部で20曲くらいの項目になった。今はコレで十分だろう。



「スノー様、こちらをどうぞ」

『……なんですか、その呼び方』

「あれ、お気に召さない?」

『なんでもいいです。ちなみにこれは?』

「今日スノーにあげた道具から音を出す機械だよ」



 倉に戻ってきたらスノーは大きなヘッドホンを首に掛ける形で下ろしていた。ずっと耳を隠していたから蒸れていたのだろう。


 ヘッドホンのプラグを差し込み、使い方を説明する。


「この小さいボタンを長押しすると画面が光って、そんでココを押すと再生。止めたい時も同じくココを押せばいいから」

『おお……おお……。なんだか面白いですね』

「細かい説明はまたその都度聞いてくれ」

『はい、わかりました。ふむ……コレは……」



 面白いのはスノーの反応だけどな。ボタンを繰り返し押すだけで感嘆の声を出していた。まるで子供がおもちゃをもらって色々と試しているみたいだ。……実際、それと同じなのだろうけど。



 それが終わると、携帯のバッテリーが50%を超えていた。そろそろ購入したハンズフリーを携帯に登録しようと思い至り、箱から商品を出してみた。これで楽ができると考えながら、ひとまず説明書を読んでいく。……今更だけど充電が必要なのか。まあワイヤレスってそういうモノだけどさぁ。



 遅れながらもヘッドセットにバッテリー充電を開始しつつ、携帯も同期待ちの状態となって、しばらくヒマになった。



「なあ、スノー」

『今度はなんでしょう?』


「とりあえず時間空いたし、実験の続きでもするか?」


『買ってきた道具の準備はもう終わったのですか?』


「今は待ってる状態。とりあえず暇だし思いついたことから片づけようかなぁと」

『なるほど』



 さて、そうと決まれば優先度の高い順に済ませよう。


 まずは紋章陣について触れてみる。

 とりあえず紋章陣の起動だけやってみて、消費MPの数値を確認してみる。

 前回は理由不明で減っていたが、果てして今回はというと……。



 結果は349、消費量がまたしても減っていた。



『減った原因はなんなのでしょうね……』


「二人揃って転移したからってわけじゃないのは確かだな」


『使用した回数では?』


「じゃあ連続で使ってみるか」



 可能性はありそうだ。熟練度みたいなのがあって、回数で減っていくとか。といっても、二回、三回と繰り返しても349という数字は変わらなかった。

 とりあえずこの実験は継続して続けて行くことにする。よくわからないままだと気味が悪いからな。



「さて、次は何をするか……」

『別に何でも構いませんよ』



 構いませんよって言うけど、本当にいいのだろうか。



「……なあ、スノー。本当に体を操作するのは平気なのか?」

『いつものことです。そもそも、覗きはするのにそっちは気にするのですか?』

「それはそれ、これはこれ」

『また適当なことを……』



『操作する・しない』の話は、まだ決着をつけていない。


 こう言っては何だが、スノー単体での接近戦はそれほど強くない。コマンド技が使えないとか、敵との間合いの取り方が雑だとか、フェイントを入れるとか、読み合いや刺し合いが下手だとか、色々な面で不出来だ。


 でもだからと言って、これからも俺が精霊(プレイヤー)として操作するのかと言われると、微妙に抵抗感がある。


 スノーは気にしていないとも言ってくれたが、俺は気にする。……何度目の可笑しな話だろう。被害者ではなく、加害者側が気を病むなんてさ。それではまるで、自分も傷ついているから許してくれと女々しい態度を取る真性のクズじゃあないか。そういうのは好かん。


 まあ、その辺についてはいずれ決着をつけよう。戦闘に関しては異世界に行った時にでもチェックして、大丈夫だと判断したら今後一切操作しない、とか。そんなプランを考えてみる。せめて自力でコマンド技くらいは使えるようになって貰わないと心配だ。



『それで、操作するんですか?』


「……今は他の事案を進めよう。まだ気分が乗らない。……あ、そうだ。“サモンズサークル”について色々調べたいかな。だから今日は単なるモニタリング……えっと、スノーの体は動かさないから安心してくれ」


『任せます』



 そういう事で、メニュー画面を開いて、目新しい『サモンズサークル』の項目に注目してみた。


 初めて取得した時はなにがなんだかわからない状態で、結局いままでおざなりになっていた。


 とにもかくにも、手付かずだった項目をチェックしてみた。またいきなり何かが起きるのかとも軽く警戒していたが、タグが出てきただけだった。Aと書かれた横に『ヒュードラ山脈・教会』と書かれており、その横で『稼動状態』と続いて『○』と表記されている。クリックできるボタン式にも見えたので、表記を押してみると『○』が『×』に変わった。


 なにかが変化した予感を感じてみれば、床に書かれていた筈の紋章陣に視線を向けた。するとそこにあったはずの紋章陣は跡形も無く描かれた絵は消えていた。


「……コレはまた……」

『綺麗に消えてますね』

「いや、まあ、うん、えっと、そうだな」


 徐々に事態を理解していくと、段々頭の中が騒がしくなってきた。



 ……まさかとは思うが、これってずっと起動しっぱなしだったってことなのか?

 もし誰かがうっかり紋章陣に足を踏み入れたらこっちに来ていたとか、そういう筋書きも有り得たのだろうか?



(怖ッ!! というか俺、誰でも入って来れる部屋で普通に寝てたわ!)



 いい加減、説明をしない運営を締め上げたくなってきた。


 どころか頭痛がしてきた。


 もっと深刻に捉えるべきだっただろうか。これでも十二分に俺はこの問題に関しては全力で取り込んでいるはずなんだが……。そもそも一度に全ての疑問が解消されるワケないじゃないか。



(ええい、ウジウジと鬱陶しい! 過ぎたことなど知らん! 次だ、次!)



 そもそもMPが350も必要な魔法を使える者など多く居ない。キャラロストしちゃうゲームでレベル40以上ないと到達できない数字だと考えると、大半のプレイヤーは(ふるい)落とされるだろう。安定して高レベルを維持しているプレイヤーは全体の一割未満じゃあないか?


 どころか、ヒュードラ山脈って上級者からしたら辺境の土地で、エルタニアからも非常に遠いし、スコア的にもそれほど美味しくない。極寒耐性持ちでないと活動しにくいとか、様々な点で不利益が多いから余程の物好きでもない限りは来ないエリアだ。大丈夫、問題はなかった。だから今回はセーフだ。そういうことにしておけ、俺。



 ……そういえばアゲイルが来る可能性があったか。まあアゲイルなら別にいいか。それに実際に来てないみたいだから、まだ小田と相談している最中なのだろうけど。



『大丈夫ですか? なんだか一人で疲れてますが』

「ああ、そうだな。もういい加減、疲れちゃったよ。頭ナデナデしてくれないと俺ちゃんもう動けないかも」

『はいはい、ヨシヨシ』


 いつもの冗談だったのに、ツッコミがやって来ると思いきや、普通に撫でられた。

 真面目にそういうことをするのやめてくれ。恥ずかしさで死にたくなってくるから。いや、自分から言い出したのに止めろとか言いにくい。


 なにこれ、新手の拷問か?


『なるほど、ゼンタロウはこういうのが苦手なのですね。良いことを知りました』

「性格わるいぞ。誰に似たんだ」

『間違いなくゼンタロウかと』

「――さて実験の続きしようか」



 消した紋章が復活しないと問題があるからな。スノーが今度こそ異世界に帰れなくなる。


 とりあえずボタンを押しなおすと、今度は新しく設置し直すか、再出現させるのか、どちらか選べと出てきた。


 もしかしたら地球側の紋章陣は設置の移動が簡単にできるのだろうか。



 まずは再出現させてみると、先ほどと似たような場所に紋章陣が再出現した。若干のズレがあるようだが、何か違いでもあっただろうか? まあいいか。



 それから一通り試したあと、転移に問題は無さそうだと判断して今日はそれで終わりにした。当然、紋章陣は消しておいた。




「ほい、お疲れ様」

『ありがとうございます』



 倉の一階のテーブルで食事を取っていた。パンは口に合うみたいだから心配ないけど、米がどうなのかが気になる所だな。俺が知る限り、スノーはまだ食べたことがなかったと思う。今度、試してみたい。



『ゼンタロウ。一つよろしいでしょうか?』

「うん? どうした。ジャムが欲しいか?」

『あ、はい。いただきます。――ではなくて、一つお願いしたい事があります。地球の文字と言葉を教えて欲しいのです』

「ん? いや、もちろん構わないけど、突然どうした?」



 実は俺もそうしてもらった方が良いとは思ってたんだが、スノーから提案されるとは思ってなかった。

 どういう心境なのか、少しばかり気にはなる。



『まあ、その……なんとなく、でしょうか?』


 なんとも歯切れの悪い言い方だな。……そういえばスノーは以前、何か隠してた時にも歯切れの悪い言葉で誤魔化してたな……。


「……なんとなく、で新しい言語を習得しようとするとか、天才かよ」

『褒めてますか?』

「褒めてるけど、この場合は嫌味と妬みも混じってる」

『ええ……。やめたほうがいいですか?』

「冗談だよ。今日は疲れたから、明日からはじめようか」



 そう言うと、スノーは一安心したように肩の力を抜いていた。


 正直、どんな理由でも構わない。スノーに限って、変な動機ではないだろう。ちょっと説明しにくいとか、口にすると恥かしいとか、そんなとこだろ……と、勝手に納得しておく。




 今日の活動はそんな具合で終わりを向かえ、スノーは離れの部屋に戻っていった。


 自分もそろそろ寝るかなぁと思っていると、サモルドのアプリを切った携帯から通話の着信が来た。相手は小田だ。当然、迷わず出る。




『善太郎……』

「おう、どうした? ……というか、初っ端からその状態かよ」



 なんだか思いやられるなぁ。まあ、小田相手だから、多少は色を付けて真面目に付き合ってやるさ。金と恋愛の話だったら即切りするけど。



『ねえ、昨日だったか昨々日だったか。善太郎さ、夜中にアップデートするとかどうか、聞いてたよね』

「ああ、したな」

『世界をアップデートするとか言う文言の……』

「……したな」



 小田はまだ、口にし辛いのか、舌の回りが遅かった。それでもその先の言葉は何がくるのか、簡単に予測ができてしまった。




「……お前のアカウントにも、来たのか?」

『………………うん』





 この瞬間、やっと、この異世界と行き来する事態が、自分だけの特権ではないのだと知った。

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