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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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スノー様の社会科見学②

 路面電車の駅を端から端まで乗車すると、30分ほど経っただろうか。


 スノーは椅子に膝を乗せて、ずっと景色が流れていく窓を見つめていていた。最初は山の中だったから萎縮もしていなかったが、途中から住宅街、そして気付けば都会に飲み込まれたのを感じてか、言葉を失っていた。この辺はまだ押し迫るような窮屈さがないのでマシな方だとは思うけれど、この反応だと先が思いやられる……。


 久しぶりに寺町・新京極へ繰り出したかったが、今日はやめておこう。

 むしろどこへ行って買い物を済ませるか悩む。高い買い物をする時はポイントカードを作った店じゃあないと買い物したくないんだよなぁ。ポイントは電化製品になると途端に馬鹿にならなく感じる……。



 あぁ、京都駅前ヨ○バシ、キミがとても遠くに感じるよ。



 とにかく、そこまでいけるかスノーの状態を確認してみた。


「スノー、大丈夫そうか?」

『えぇ、まあ……なんとか。ただ、音が……』


『音』と聞いて、そういえばスノーの耳はとても優秀な精度を誇っていたのを今更になって思い出した。耳がいいと、都会では耳が痛くなったりするんだろうか。


「大丈夫か? 耳が痛いとかあるか?」

『痛くはないですが、あちこちで色んな音が鳴っていて、少し気分が……』



 スノーは不満げな表情をしながら、体を寄せてきた。

 音酔い、とかだろうか? 経験がないから良くわからないけど、ヘッドホンで耳栓代りになっているはずだからマシだとは思うが、少し心配になった。


 ここから地下鉄を使って移動するつもりだったが、選択肢が狭まりそうだ。それか、もう少しハードルを下げて、今日は帰っても良さそうな気もする。最悪、欲しいモノはネットで買えばいいだろうし……。



「どうする? もう帰るか?」

『いえ、大丈夫です。御気になさらずに』



 いや、普通に御気になりますけど。

 ……仕方が無いか。あんまり利用したことはないけど、今日は特別にタクシーを拾うことにした。『学生の身分でタクシーを使うのか?』みたいな視線を感じるんだけど、きっと被害妄想だろう。周りの視線など俺は気にしない。


 とりあえず京都駅前まで、とタクシーの運転手さんにお願いして、京都の街中を走っていく。



 しかし車の中でもスノーの元々白い顔がさらに青ざめていくのに、そう時間は掛からなかった。



「おーい、大丈夫かー?」


『……スミマセン』


「悪い、もうちょっとの辛抱だ。頑張ってくれ」


『ハイ……』



 途中から言葉数少なくなってきたスノーはこれ以上ないほどに気分を悪くして、京都駅前に到着して早々にダウンした。やはり引き返すべきだったか。


 だがここまで来たら仕方がない。落ち着ける場所はどこかと考えて、京都駅ビル東側の屋上の大広場までおんぶしてやってきた。案外、ココは人が少ないから休憩するにはいいだろう。意外と穴場なんだよ、ここ。


 スノーを芝生に座らせて、適当に水でも買いに行った。


 すると、手元のペットボトルを見て、開け方も教えねばと気がついた。色々と寸前になって気付かされる。


 とりあえず蓋を開けてこうやって飲むとポーズで教えて、スノーへと渡した。



『ありがとうございます……。――んん? なんだか、変な味がしますね』

「市販の水に関しては俺もそう思う。でも毒はないから安心してくれ」



 休息のために買ってきた水一つで、しおしおと花が枯れるように元気を失っていく。前途多難だ。


 心のどこかで、スノーと一緒に京都観光でもしようかなぁ……なんて甘く考えていたのだが、この状態ではそれ以前の問題たった。音に敏感なのか、広域の騒音に弱いのか。


 そもそも俺はスノーが人酔いしないかどうかを気にしていたんだけど、それ以前の問題だった。何事も予想通りにとはいかないな。



 スノーは北側の展望を覗き見て、嘆息まじりに口を開きはじめた。



『……しかし、なんと言いますか、想像を絶する光景ですね……。どこを見ても人間が居て、無秩序にも思える奇妙な建物ばかり、乗り物だって色々あって、空気は濁ってて水も変な味で、オマケにマナもないなんて……。私が想像していた精霊郷とは何もかもが違います』


「すまん。ちょっと初っ端にハードル上げすぎだった」


 散々な評価だった。やはりスノーは都会は苦手か。

 大阪の雑多感よりはマシだと思ったんだけど、基準が違うか。それと空気が合わないというのは、もはや取り繕うことができない内容だな。死にはしないが、それが続くと苦しいってのはよくわかる。俺も最近、空気とか雰囲気が合わなくて息苦しさを実感してるし。



「どうする? もう今日はやめておくか?」


『……ちなみに、今日は何をするつもりだったんですか?』


「色々と必要なものを買い揃えようかと思ってた。通話するための道具とか、スノーの服とかカツラとか、まあ先に用意しておいた方がいいと思った物全般だな」


『では、そこまでは頑張りましょうか』



 スノーが無理を隠した様子で立ち上がった。やめて欲しいなぁ、そういうの。俺が真面目にならざるを得なくなっちゃうから。


 でもスノーは頑張るって言ってるし、頑張ろうとする気持ちを邪魔するのも、なんだか間違っている気がする。



「なあ、しばらく会話せずとも大丈夫か?」

『何をするんですか?』

「多少誤魔化そうかと」


 ゲームアプリを一度閉じて、動画サイトのヒーリングミュージックを探す。『水の音』というの選び、スノーのヘッドホンに繋いで音を流す。するとスノーはちょっと気分が変わったかな、くらい表情になり、一時の誤魔化しにはなった。


 その後は意思疎通も難しいので、真面目に手を引いて、デパート目指して歩き始めた。……どうでもいいけどスノーが密着しすぎで歩きにくかった。




 まずは二階で、スノーに巨大なヘッドホンを買い与える。

 装着すると周囲の音が全く聞こえなくなる高級な奴だ。値段を見たら2万くらいするけど、なくては日常生活に困るのであれば必要経費として考えよう。

 あと安価な音楽プレイヤーも買っておく。倉に帰ったら何か自然の音のMP3でも入れてスノーに渡しておくつもりだ。これで少しは機械にも慣れるだろうし。


 それから予定通り、ハンズフリーを買っておく。これでもう腕が固まらずに済みそうだ。

 無論、大容量モバイルバッテリーも購入する。48時間の充電量とか書かれているちょっと大きめの物だ。ライトも装備できる優れもの……らしい。ライトって、正直いるのだろうか。わからん。



 とりあえず買った商品ですぐ必要だと思われるヘッドホンだけスノーに装着させて、付け心地を確認してみた。



「どうだ?」


『……はい。先程より大分マシだと感じます。ありがとうございます』


「そうかそうか、それはよかった。じゃあ、もう一件も済ませるか」


『え? あ、そうでした。服ですね……』



 うん、まだこれで終わってないんだよ。

 それにその二万のヘッドホン、大き過ぎて今の清楚な服とマッチしていない。最初に渡した奴は丁度いい大きさだったから似合ってたんだけど。


「まあ安心しろって、ここの上の階に行けば服屋がある。すぐに終わるさ」



 ということで、簡単にコーデタイムとしよう。ただし、俺は服なんてよくわからないので店員さんに全て任せた。女の子の服なんて、知らんもんは知らんのだ。


 とりあえず店員さんには「このヘッドホンが気に入ってるから、これ基準で揃えてださい」と注文してみた。


 するとだね……俺はレジの前でビックリしたよ。



 赤い線の入った黒パーカーが1万もした。どうしたら見た目も普通のパーカーでそんな値段になるのか。

 あとショートデニムとか肌着とか細かいのを集めたら2万になってた。

 それに変装用にと選んだ帽子とカツラのセットが1万もした。カツラが意外とお高いのなんでなん?


 計、スノーの地球での服装で4万オーバーくらい使ってた。


 その結果、いつの間にかサイフの中には諭吉さんが一人しか居なかった。俺は今、恐ろしいほど簡単に大金を使った気がする。もしかしたら自分は、とてつもない浪費癖があるのでは無いかと、いま初めて恐怖を覚えた。


 でも何故だろう。ちょっとだけなんだけど、一気に大金を失った瞬間、心が軽くなったというか……。きっとこの感覚は癖になったらダメな奴だ。しばらくは自制しよう。


(あれ? そういえば、実況動画の録画機材を買った時にも同じ感覚を覚えたような……いや、気にしないでおこう。後悔なんかした所で、何も面白くはないんだからな! ……そういえば、最近はもう全然実況動画作ってないなぁ。あの時の熱はどこへ行ってしまったんだい……。ああ、段々悲しくなってきた)



『ゼンタロウ、着替え終わりましたよ』



 色々とどうでもいい事を考えてたら、スノーが買ったばかりの服を着て店から出てきた。


 今度は清楚な感じではなくて、なんか街で遊んでる女の子みたいになってた。まあ、ヘッドホンを基礎に考えてコーディネイトしたから、自然とそうなるか……。店員さんに悪意はなかろう。それどころか、今の服装も十分にアリだ。

 きっとこれも変装スキルの賜物なのだろうか。スノーはもしかしたら、どんな服を着せても似合うのではなかろうか。……我ながらゲームのスキルを現実に持ち込んで考えるって相当に頭が悪いな。ゲームスキルを現実として捉えるなんて……いや、もしかしたらそういうこともある、か?



 ここでふと、疑問にぶち当たる。


 実際の所はどうなんだ、と。


 スキルレベルが現実に通用するのかどうか……。だとすると『開錠』とか『剣術』とかどうなる? ……この『術技習得率A』とかは?


 これは、今一度考えるべきだ。



 難しく考えていると、スノーがジッとこちらを見つめているのに気がついた。

 

「なんだ?」

『一応、感想を聞いておきます。どうですか?』

「うん? ああ、いいよ。すごく似合ってる」

『……服の似合う基準が私にはわかりません』

「大丈夫だ、俺もさっぱりわからん」



 だから脛を蹴るんじゃあない。正直に話しただけでしょうが。



『で、これで用事は終わりましたか?』

「ああ。そうだな」

『ではすぐに帰りましょう』



 スノーはもうすぐにでも帰りたいらしい。まあ、気持ちはわかる。頑張って色々と回ってくれたのだから文句はないさ。



 それに俺は今回、色々と気が付いた。



 文字が読めないと、大抵のルールを把握できないってことに。


 世の中には文字で色々と説明されている。そりゃあもう、駅の切符の買い方然り、ペットボトルの開け方然り、電子機器の使い方然り。逆に言えば、文字さえ読めればどんなルールでも勝手に学習できる仕組みになっている。



 というわけで、スノーには先に文字を習得をしてもらおう。できれば言葉も覚えてもらうといいかもしれない。その方が絶対にいいし、日常でも不便がなくなる。



 それにゲームのスキルやステータスが地球でも通用するなら、スノーの言語習得は恐ろしく早いかもしれない。




 なにせスノーは、公用語の文字の習得をたった三日で終わらせた頭脳の持ち主だからな。

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