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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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スノー様の社会科見学①


 目が覚めると、淡い桜色の浴衣を着た銀髪エルフ耳の女の子が自分の顔を覗いていた。


 夢がまだ醒めてないのかなんて思っていたが、短く挨拶のような言葉を発していたのを聞いて、寝惚けた思考を振り払った。



「……おはよう、スノー」



 お互いに言葉が伝わらないというのは不便だな。とか思いながら今日も一日が始まった。


 急いで携帯のゲームアプリを付けて、会話可能な状況にする。さてと、今日も一日適度に頑張ろうか。



『ゼンタロウ、女の人がコレを渡してきた』

「……あぁ、うん。たぶん昨日のアレだな」



 昨日、祖母に返した封筒だ。厚みは昨日と殆んど変わらないが、恐らく条件とやらは中に封入されているのだろう。


 昨日のうちにこの金を使う腹は括った。


 だからいい加減、難しく考えるのはやめてさっさと封を開ける。中には数えるのが面倒になるくらいの諭吉さんが隠れていた。……本当にコレが祖母から送られたものでなければ、どれほどラッキーだったか……。


 そんな贅沢な悩みを持ちながら、札束の横に明らかに紙質の違うカードを見つけて、指で挟んで出した。



 中に入っていたのは、湖の前で裸体の女性がツボから水を出している絵のカードだった。エロスとかそういう要素は全くなくて、古臭い絵本のような画風だ。ちなみに、下には17とローマ数字で書かれて『The Star』と書かれている。


 裏をめくると、黒字で『星を見つけよ』と書かれている。



 星と言われて絵柄のほうを見ると、1つの大きな星と7つの小さな星が書かれている。……だからなんだよって感じだった。



「……意味がわからん。なんの暗号だよ」



 これでは何をさせたいのかさっぱりだ。昨日、無理して祖母に会いに行ったのが途端に馬鹿らしく感じてきた。



「もういいや。あーあ、無駄に骨折りさせられたって気分になっただけで、もう十分だ」



 もういい。これ以上、祖母に付き合うのも面倒だ。金を一体幾ら使うのかはまだ知れないが、借りたということにしておこう。いずれ使った分は全部つき返してやる。そうすれば気分は晴れやかだ。……最初からそうすればよかったな。



 とりあえず十枚くらい諭吉さんを自分のサイフにいらっしゃいして、封筒に『マイナス10万』と書いておく。その後で出かける準備を進めた。外出用の良い靴を選んで、後は適当に無地(ユニク○)の物を選んで着替える。


 服なんて無地でいいんだよ。シンプルは正義。本当に大事なのは靴だよ、靴。男の本質は靴に現れるというらしいからね。理由は知らないけどそうらしい。……などと脳内で御託を並べていたら、ふとスノーに視線が行った。



「あー、しかしどうするか」


『なにがでしょうか?』


「今日は外に出て、街を案内しようと思ったからさ。でもそうすると、服装とかなぁ」



 

 耳については再びヘッドホンでもいいかもしれないが、その他がまったく考えられていなかった。


 まあ、黒インナー姿でも現代っぽいのだろうけど、それで街に出る奴はいないだろうし。しかもそれが直接の肌着なのだから、それだけで外に出ると危うく露出狂になってしまいかねない。


 そもそも銀髪なのも目立ちすぎる。外国人でもこんな綺麗な銀の地毛、なかなか居ないぞ。

 今更だけど変装用の毛染めの魔道具があればよかったのだが、あれはもう残ってない。エルタニアの辺境へ道具を回収しに行く時に使い切ってしまった。まあ、そのお陰で安全に回収できたと考えられるのだけど。



「髪の色はもう仕方がない。せめて服装だけでも外に出られる格好にしないとな」


『シノビ装備ではダメなのですか?』


「イタい外国人みたいだからやめような」



 いや、逆にそういうのもアリだろうか。ちょっと考えてみた。しばらくして、やっぱりダメだと判断した。横に並んでるのが自分だから無理だ。なんだかそういうコスプレをさせた一線越えてるヤバイ奴みたいだし。


 仕方がないので離れに移動し、使用人さんに声を掛けてそれっぽい女の子の服を用意できないか聞いてみた。



 すると楓さんが白いシャツと、紺色のロングスカートを持ってきてくれた。今日のシフトは早かったらしい。



 とにかく、持ってきてもらった服をスノーに着せてみる。生のお着替えシーンとか非常に萌える展開だね! と眺めていたら、楓さんに部屋から追い出された。なんと残酷なことをするんだと抗議しようとすると、汚い物でも見るような目をされたので、素直に黙って身を引いた。今回だけはこの程度で手を引いてやろうではないか。


 それから数分後、扉が開くと、そこにはなんとも見違えたスノーの姿があった。


 ゆったりとした清潔感のある白いシャツと、黒いヒモのリボン。それに一切の遊びがない無地の紺のロングスカートが高貴な雰囲気を醸し出している。もともとの素質がいいからなのか、いい所のお嬢様みたいだ。さすがエルフ族は伊達ではないな。まあ、自分がデザインした欲目もあるんだろうけど……。



 ……そう考えてみると、どうにも不可思議なことに思い至った。



(今はもう異世界があるってわかってはいるんだけどさ。そもそもの話、キャラメイクした人物は元から向こう側に居た人物なのか? それもとキャラメイクの通りに、後から似るのか?)



 俺なんかは自分のアバターに対して、全力で自分の好みを押し付けていくのだが……。



 果たしてスノーという人物は、自分がデザインしたから生まれてきたのか? それとも、異世界に数多生活している人物から選んだ結果になっているのだろうか……?



 少し考えごとをしていたら、スノーから恥かしがるような声でコチラの様子を伺っていた。



『……あの……やっぱり、これは私には似合わないかと?』

「いやいや、今の方が断然いいって」

『本当ですか?』

「うん。妖怪っぽさがなくなった」


 こらこら、脛を蹴るんじゃあない、痛いじゃあないか。足癖が悪いぞ。



 ……まあ、考えても仕方が無い事か。どうにも疑問が多すぎる。どれから手をつけていいかもまだわかっていない。そもそもこの謎を解き明かしたからと言って、なにが変わるとも思えないし……。



 じゃれ合いながら色々と終わらせると、やっと屋敷から出た。


 祖母の屋敷から最寄りの交通機関は路面電車の最終駅である。それも徒歩で20分も離れた場所だ。普段なら電動自転車を走らせていくところだけれど、今回はスノーも一緒だからゆっくり行く事にした。



 なにはともあれ、さっそく外へ出ようとすると脇戸を潜ると、スノーが急に立ち止まった。


「どうした?」

『……いえ、マナの気配が急に薄くなったので……』

「マナねぇ。まあ、こんなものじゃあないのか?」


 たぶん、紋章陣からかなり遠ざかったからだろう。異世界と繋がってた場所から徐々に離れてしまったらその分、異世界の空気も薄くなったのだろう。


 もしくはまた地面が怖くなったとかだろうか? コンクリートと一緒でアスファルトなんてスノーは初めてだろうし。



「ほれ、お手手をどうぞ、スノーお嬢様」

『……バカにしてますよね』



 一応、これでも気を使ったつもりなんだけど。まあ、茶化しがないと言えば嘘になる。仕方がないじゃあないか。俺はこういう性格なんだよ。


 なんて肩を竦めていたのだが、そんな冗談は後になってできなくなっていた。


 予想はしていたが、スノーはコチラの世界の一つ一つに対して過剰に反応した。車が通るのにもビックリして背中に隠れるし、信号一つで青と赤の意味もわかってないから結局手を握ることになったし、電車のホームに行くのにも改札口の説明とか色々と話して……。



「いや、だから改札口は一人ずつしか通れないから」


『そう言って、私を置いていくつもりではないでしょうか? あれ、勝手に閉まりましたよ?』


「違うから。とりあえず一旦離れて、この切符をあの機械に入れたらいいから」


『ちっとも理解できません。もういいです。二人で一緒に通りましょう』


「いや、だから一人ずつしかダメだって……」



 結局、こんな問答をしていたら二十分に一本の電車を乗り損ねた。最終的には駅員さんのいる窓口を使って一緒に通った。事情も知らない筈の駅員さんから、何故か微笑ましいものでも見るような表情をしていた。見せ物じゃあねーぞゴルァ?


 ホームで待っていてもスノーに落ち着く様子もなく、あっちこっちに視線を送っては興味心身に質問を繰り返し、中には携帯でわざわざ調べて確認を取ったりもしていた。天狗の顔が何故赤いのかなんて、知らんよ……。きっかけについては、ここのホームの梁には天狗のお面が飾られてるからだ。


 最終的にひと段落したのは電車に乗って、ひとしきり驚いた後だったか。



『なんなのですかこの世界……奇妙です。いえ、不可思議です。有体に言ってわけがわかりません。何故マナがコレほどまでに薄い空間で、魔法を使い続けられるのですか?』


「今更だけど、魔法じゃあないんだよ」


『じゃあ何で動いてるんですか?』


「それは……まあ、電気とか熱エネルギーとか、液体燃料とか……? うん、俺も全部一から説明するのは無理だ」



 ここに着て授業をサボって来たツケが回ってきた気分になった。そもそも一から全てを教えるとなると、小学校に通ってもらった方が早いな。いや、そうなると言葉から教わる必要もあるのか。



『こっちの世界に住んでるのに、ゼンタロウは理解していなくても、なんでも知っている風に使っているのですね』


「そんな呆れた風に言うなよ。『中身を知っている』のと『使い方を知っている』では全然違うだろう? スノーだって自分の体の筋肉一つ一つがどうやって動いて、指を動かすのに神経の伝達系がどうのこうのなんて、考えたこともないだろう?」


 するとスノーは反論することができずに、たじたじとし始めた。


『……神経とかはよくわかりませんが、でも確かに、腕を動かすのに、そういった内側を考えたことはないですね……失礼しました』


「いや、謝るほどの話じゃあないけどさ。とりあえず今日はこっちの世界の簡単なルールを覚えて行こう。な?」


『はい、わかりました』



 これで一つは問題解決だろうか。


 しかし、心配事はまだ残っている。会話し続けていると携帯のバッテリーが際限なく減っていく。まだ一時間しか外に居ないのに、もう80%にまで減っていた。このままでは五時間に一度は充電しなければいけない計算となる。大容量の充電器でも買うか……。



 こうして買い物リストにまた一つ項目が増えた。

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