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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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得体の知れない愛

 休憩中。スノーには好きにしてもらった。すると二階のソファが御気に召したのか、最初は確かめるように座り込み、次第に甘えるように横へと寝転がった。眠るのかとそのまま観察すると、膝裏を肘掛に掛けて、足をバタバタし始めた。



 それはさて置き、パソコンに電源を入れて、メモ帳に今後の事についてしばらく書き留めた。


 正直、考えることが多すぎてどれから手をつければいいのやらとも悩みはする。



 地球と異世界との往来が可能な理由とか、サモンズワールドとはなんなのか、運営の目的とか。まあコレは正直、問題が大き過ぎて個人では絶対にわかりそうにない。しばらくは放置するつもりだ。どうせ運営のことだ、きっとまともな返答など来ないだろう。


 その予想は的中し、昨晩に送ったメッセージの返信は以下の通り、コピペのような返信だった。



『現在、対応を順次行なっております。御急ぎであるところ大変申し訳ございません。ご意見、感想、ありがとうございました』



 ありがとうございました、じゃないんだよ。ご意見も感想も言ってねえし、質問に対する説明が聞きたいんだよ。今更だけど、サモンズワールドって最初から今まで、ずっと説明がされてないよな。




 まあ、それはもうどうでもいい。世界の謎なんてワケわかんない議題なんかより、抜け策王子の探索や、転移の実験の方が、まだ手がつけられる。



 だが……差し当たっては、スノーの存在をどう扱うべきか、という方が俺にとっては先決だった。



 しばらくの間、スノーにはこっちで生活してもらうのはすでに決定している。その上でいざとなれば異世界に雲隠れしてもらえばいいとしても、ずっとそれだと扱いが非常に可哀想なことになりそうだ。


 だからできれば、それなりの環境を整えてあげたいとは思う。だけど自分がどれだけ力のない人間なのかはよく理解している。まあ有体に言って、資金力が皆無だ。



 食費はまあ、騙し騙し何とかなる。自分でも情けないとは思うが、家政婦さん等に頼めば、それなりに持ってきてもらえるだろう。



 でもその他の、生活に必要な……布団とか服とか、あるいは施設とか……やはり考えれば考えるほど、どうにもならない。この倉、風呂とかトイレがないから、離れまで行かなくてはならない。というか、その話をするなら、祖母に一言、スノーという人間エルフを住まわせたい、と言わなくてはならない。現在は完全に侵入者の状態だ。


 だったらいっそ、一人暮らし計画を早期に行なうべきなのだが……バイトするのにも学校側に許可申請をする必要もあるらしいから、なんとも時間の掛かりそうな話だったりする。立場上、苦学生ってわけでもないから、余計にややこしいし……。


 ふと、脳裏にサモルドの世界のお金が使えれば、なんて考えが過ぎった。



「……エルタニアから追い出されてさえ居なければ、湯水のように金はあったんだがなぁ」



 エルタニア王都にある倉庫屋には、かつてスノーが精霊騎士団として活動していた頃の蓄えがある。装備もある程度そろってしまうと、途中から使い道が生活費以外、無くなってしまうのだ。いつかとんでもない装備でも造る時に必要だろう、なんて夢想しながら蓄えたのだが、結局そのままだ。



 今はあの金の一部でも必要だと感じた。が、地球で使うのなら、どこかで換金しないと使えないと思い至り、持ち込んでも無意味だと思えた。そもそも学生が一人で換金とかできないだろうし。


 まあ、そんな下らないことを考えるくらいには迷っていた。




 では住むのが難しいからやっぱり異世界に居てもらうか? という思考にはならない。むしろ、スノーにはこっちの世界で色々と経験してもらいたい。どころか、異世界の住人として、地球がどんな世界なのか知るべきだ。知ればきっと、スノーにも事の問題がどういったものなのか、その理解も早まると思えた。


 正直、地球の常識を知ってもらわないと、この問題はどうやっても理解しにくい。事実、あのアゲイルも理解が困難だったようだし、次に生かすべき反省点だろう。




 それと……コレは俺の個人的な思惑なのだが、このままではスノーがいけないと危惧したからだ。……実はスノーを連れまわして目新しい発見をさせて驚かせたい、という欲もあるけれど、それでも外に触れるのはいい経験となるはずだ。



 そうでもしなければ、いずれスノーが俺の操り人形になりかねないと直感したのだ。それは、考えただけでゾッとする。



 ああいうのは想像するだけでもダメだ。操り人形になった奴が何を思って生きているのか、俺には全く理解できない。気味が悪いし、気持ちが悪い。目の前でそれを見よう物なら眉を歪めてそっと立ち去る勢いだ。


 ゲームの頃なら、むしろ自分の意志とは違う行動をされては困るからと率先してスノーに接してきたが、今はもうそうじゃあない。




 スノーは一人の生きる実在人物だ。それを歪めるのは俺の性に合わん。




「……まあ、色々と高説並べた所で、実践できなきゃどれも意味が無いわけだが、どーしたもんか……」




 上を見ながらデスクの椅子をクルクルと回ってみて、ふと横を見ると、スノーが俺を見て興味深そうにしていた。ゲームのアプリを開いて携帯を耳に当てて会話してみた。



「なんだ?」


『いえ、先ほどから何を言っているのかと……。あと、その椅子……どうやって回っているのですか?』


「……やってみる?」



 とりあえず独り言については黙秘して、椅子に座らせてクルクル回してみる。その後、スノーは一人で回る方法を思いついたのか、足で床を蹴って一人でクルクルし始めた。後に目が回ったとか言いそうだとか思いながら、ふと、とある棚に背中が当たった。


 その棚の引き出しには、確か昨日……封筒を入れたはずで……。



「――…………いや、でもな……」



 どうするか。


 いや、どうするも何も無い。触れたくないって思いの方が圧倒的に強い。だが、今は喉から手が出るほどに、それが必要だと感じてしまう。自分の目的のために使うのではない。スノーのためだとも言い訳することもできるだろう。が、しかし……妥協することによって損失する自身の意志はどうなるのか。



 気が進まない。



 でも、一度でもその可能性が脳裏に刻まれると、他に頼る術が思いつかなくなり、既に頭の中で思考が『使うかor使わないか』の二択しか考えられなくなっていた。



 気がつけば疲れた溜息が出ていた。馬鹿馬鹿しい。何で俺がよりにもよって、溜息なんぞ吐かねばならんのだ。この俺が「どっちも選べないよぉ」なんて半端野郎みたいにウダウダと悩むなんて、間違ってる。


 あーもういい加減、うんざりだよ。自分が酷く弱ってるみたいじゃないか。


 こういう時は、どうとでもなれだ。



「……スノー、休憩は終わりだ。ちょっと一緒に来てくれ」


『あ、はい。ところでゼンタロウ、視界が若干傾いて見えるのですが……』


「三半規管の異常だよ。というか、エルフにもあるんだな、その感覚。……あ、そうだ。コレ付けてくれ」



 いつも自分が使っているパソコン用のヘッドホンをスノーに装着させた。コードは服の中にでも入れてもらう。


『なんですかこれは?』

「耳隠し。地球にはエルフはいないし、長い耳だとみんなが不思議がる。変に興味を持つ奴もいるからな」



 納得したのかしてないのか、とりあえず言われた通りにしておくか、という態度でヘッドホンを受け入れた。


 そういうどうでもいいやり取り等を終わらせて、倉の外へと出た。今から祖母へ会いに行くために……。



 本当は祖母から金を頂くのは嫌だ。虫唾が走る。

 でも金は必要だ。背に腹は変えられない。だから自分なりに妥協する理由は欲しい。その正当な理由を、今から作りに行く。問答無用で押し付けられる状況を回避したい。ただ、それだけだ。



 それにどの道、しばらくスノーがこの家に住むならば、祖母へ面を通しておかねばなるまい。ダメならダメで、また手は考えるさ。



 とりあえず庭に面した離れの自室に入り、その後は庭師さんが整えたお庭を眺めながらの長い渡り廊下を過ぎ去って、主屋の方に侵入する。既にスノーの存在は何人かのお手伝いさんには見られて、みんな驚いた様子をしていた。耳は隠しても、スノーの姿に現実感はなく、明らかに異様だから仕方が無い。


 とりあえず今、祖母に会えるかどうかを確認していると、一人の女性……祖母の占い師としての秘書さんがやって来た。



「善太郎くん。こんにちは。いまなら丁度、御婆様はお暇ですよ」

「……そうですか。じゃあ、ちょっと失礼してきます」



 そういって、祖母の仕事場としての領域に足を踏み入れる。スノーは何も聞かずに俺の後をついてきた。


 廊下を歩いてしばらくすると、四枚のふすまの並ぶ部屋の前に来た。少しずつ嫌な感傷が蘇りつつも、何も言わずにその扉を開いた。




「やっと会えたね。善太郎」


「……不本意ながら」




 まず目に入るのは蝶の刺繍のある黒い着物、白くて短い髪、黒い丸ブチのサングラスを掛けた老婆の顔だった。そんなのが、俺を真正面から見ていた。全体像が子供のように小さくて、それでも腰は曲がっていて、如何にも怪しげな老婆の姿だ。まるで山に住まう珍妙な妖怪を小奇麗に仕立て上げたようだとも言える。


 そんな老婆が、俺を視界に入れると、コレでもかというほどに喜ぶのだ。今から取って食おうかというほどに、口を大きく開いて、笑みを作って近寄ろうとする。それを感じた瞬間に一歩だけ後ずさりすると、それ以上は老婆もコチラにはよってこなくなる。



「善太郎は相変わらず気難しいね。全く、私に懐かない」



 相変わらず、そんな事を臆面も無く……。




「だけど許すよ。善太郎。私はそんな貴方の全てを愛しているのだから」




 そんな、息の詰るような気持ち悪い言葉を、老婆は平然と吐くのだった。

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