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クロステラ ― 俺のパソコンと異世界が繋がっている  作者: 白黒源氏
Episode:Μ(ミュー)
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長くて詳しい説明より、要所だけまとめた短い説明の方が良い

 小田には簡単に説明してみた。だがそれ以上に、俺がココにいるって事実で常識の壁は簡単に壊れたことだろう。それでも、信じられない物は信じられないって気持ちはあるようだから、小田は未だに困惑した様子だった。


『ちょ、ちょっとまって。理解が追い付かないよ。どうやってそっち側へ行けたんだ? そもそも何がどうなって――』


「待て待て、俺だって全部わかってる訳じゃないんだよ。これでも色々と調べてる最中だ。今こっちに来てるのだって初めての試みだし」


『色々と冷静過ぎやしないかい!?』


「昨日の内に一生分のSAN値は削ったから大丈夫だ」


『それはもう大丈夫じゃないよね!? ああもう、善太郎がいつも通りのマイペースで頭が痛い……』



 人を傍若無人の化身みたいに言うなよ。それに自分が気に入ってる他人の前では、できるだけ見栄で生きてくのがポリシーなんだ。猫を被るとも言うが、アゲイルの前くらい、いいだろう?



「すまない。ゼンタロ殿。どうやら我が精霊マダオはとても動揺している。かく言う私も、少々事態の理解に難を期している」


「いえ、気にしてません。どころか、マダオとは長年の親友だから理解しています。アゲイルこそ……いや、アゲイルさんこそ気にしないでください」


「……この者は本当に精霊ゼタなのか?」


「はい、その筈です」



 誠実な態度を取っているのに、どうしてそうなる。



「ゼンタロウ、どうしてそんな気持ち悪い敬語を使ってるんですか?」


「そこまで酷いか?」


「むしろ、余所余所しいのが気がかりだ。他人として疎外感があるので、できれば普段通りで頼みたい」



 そういえば、何だかんだでアゲイルとも一年もの長い付き合いがあるのか。その所為か、そこまで気を許して貰っていたと考えれば……。


 どうして俺はこんな複雑怪奇な人間関係を築いてたんだ? 故意じゃあないんだけどさ。



「あー、わかりました。……わかったよ。えっと、これで大丈夫?」


 一度目の同意はワザと強めに吐き捨てるように言って、次の同意で完全に口調を崩した。何でも段階を踏むと切り替えは楽だ。



「うむ。まだ少したどたどしいが、そこは今後に期待だな」


「私の時も態度が硬いので、頑張ってください」


「そんな品評会みたいに言われても……。というか、スノーにも改めて聞くけどさ、二人とも今まで精霊に操られてきたって感覚は嫌じゃあなかったのか?」



 そういうと、スノーはケロっとしていて、むしろ吹っ切れたように、あるいは開き直るような表情で応えていた。だが、一方のアゲイルは目を少しだけ据わらせて真剣な表情を作っていた。



「全てが受け入れられる……とは言わない。無論、様々な事柄があった。良い結果もあれば、反対に辛く悲しい出来事もあった。一言で全てを片付けるには難しい。……だが、私はマダオを精霊としてではなく『友』として受け入れている。友ならば、ある程度の悪ふざけも許せるものだろう?」



 そういうと、最後にアゲイルは優しさすら感じるニヒルな笑みを作って許していた。その上で、次に興味深い話をしてくれた。



「深く気にするな。全ては竜王陛下がお決めになられたことだ。エルタニアに潜入して情勢を把握するのに、マダオはうまく協力してくれた。精霊騎士団とやらの日々も、案外に悪くなかったからな」


「それって、最初からエルタニアに間者として潜入したみたいな言い方だよな……」


「最初は様子見のつもりだったが、一度ドラグランへ帰還した際に、そのように決まったのだ。マダオにも極秘でな。だから気にするな」


「それ、言っても大丈夫なのか?」

「今なら打ち明けても問題なかろう」

「そういうもんか」

「そういうモノだ」



 アゲイルもちゃっかりしてるな。それに、自国の王様に忠誠を誓っているのがスノーとは明らかに違う所だと感じた。芯が一本通っている。アゲイルの言葉には重みがあった。まあ、俺にはいまいち同意しかねる理由だけどな。



 だけどな、小田の方はどうだろうか。



「小田、大丈夫そうか?」


『……ちょっと待って……。今はちょっと、状況整理に困惑してる』


「しばらくゆっくりしてろよ。その間に大体の事をアゲイルには説明しとくから」



 さて、サモルドの携帯アプリを閉じて、二人にどうやって、何を説明するかを考える。




 そもそも……。

 アゲイルもスノーも、どうして自分達が操られていたのか……その目的も、意図も、方法もわかっていないはずだ。運営側の話ではなく、俺や小田、その他大勢の精霊(プレイヤー)にとっての項目だ。


 この話、どれもが彼等にとっては不愉快な内容になりかねないというのが問題だろう。



 目的、ただ遊ぶため。


 意図、単なる暇つぶし。


 方法、知らない内に。



 こんなフザケタ理由で二人に言ってみろ。今までの空気が全部台無しになるぞ。

 ココは間違ってはならない。多少暈かしてでも説明して……できれば御高説たる理由でなければならない。いや、難しいか?



 決して、我が身可愛さにハッタリを使うわけじゃあない。二人の名誉を守るためだ。


 自分達が命がけで生きてきた過去を、俺達にとっては単なる遊びだったなんて知られたら間違いなく印象最悪だ。



 それをふまえると、目的と意図は伏せた方がいい。


 知らない内にそうなっていた、という点だけで何とか説明できるだろうか。




 よし、プランは決まった。




「じゃあ二人とも、まずはコレを聞いてくれ。『ジニーお願い、今は何月何日?』」


『日本時間で現在4月2日――』この時、何故か音が捻じれる用にノイズが聞こえてきて――『……とサぎ之月5節目の2分目でございます』


「とさ、ナニッ!?」



 今、『トサギ之月』って言ったかのか。偶に聞く、サモルドのゲーム内時間の表記だった。何故ナビがそれを喋れるんだ。いや、異世界の翻訳機能のお陰だろうか。ややこしいな。



「ほぉ、その小さな板は生きていたのですか?」

「こんな板なのに、喋れるんだ……」



 まあ、教えたいことは伝わったからいいか。



「えっとだな。二人とも、コレは生きてるんじゃなくって、作り物なんだよ。二人はシグってオートマタと出会った事はまだ覚えてるか?」


「えっと、あの機械族のうるさい人?」


「そうそう。最後、スゲー残念な負け方した奴だ。アレも実際にはただの作り物で、中身に命なんか入ってない。自然に生まれた生物じゃないんだ。今、喋ったこの『ジニー』って声も同じだ。コレはこの携帯という便利な道具を、更に便利に扱えるように開発した“AI”――人工知能っていう、代替可能な道具みたいなモノなんだよ」



 二人とも、今の所はそういうのがあるという事に関しては納得してくれたようだ。



「それで? そのAIとやらがどうしたのだ?」


「実は、これが一番困った問題なんだけど、俺達の世界、地球ってあえて呼ぶけど……。殆んどの地球人は、こっちの世界の住人をこのAIだと思っちまってんだ」


「……いや、ゼンタロ殿、AIという存在が命なき道具という話は理解したが、我々がそれ等と同じという理屈がわからないのだが?」




「ゴメン、結論を先に言っちまった。少し遠回りになるんだけど、長いからな。


 そもそもAIって技術は極一部の頭がずば抜けて良い連中しか理解していない代物なんだ。

 それくらいに進化してて、俺含める大多数の地球人は、そういった技術が発展しても……へえ、そこまで進んだんだ――としか既に認知できない領域なんだよ。


 中身が全くわからないからさ。


 そんな世界で、俺達一般人は仮想世界……『自分達の想像力だけで作った世界』で自分達の経験値を積む『ゲーム』って存在があるんだけど。


 コレも年々技術が発達してて、AIと理屈は同じだな。俺達はその『ゲーム』を使って、自分達の世界では経験できない体験を吸収してたんだよ。


 で、仮想世界もいつの間にか進化して、意識しない内にどこまでも現実に近づいていて、仮想と現実の境界が徐々にわかんなくなってたんだよ。終いにはこの世界の事をいつもと同じ、仮想世界だと思って『ゲーム』としてプレイしていた。だから――」




「……ふむ、長くてわからん。もっと簡潔に頼む」


「お前等、毎回それ言うよな!? とにかく今まで全員、架空の人物だと思ってたんだよ! 今まで勝手してごめんなさいでしたッ!!」



 折角丁寧に説明してきたのに、あんまりだ。……チラッとスノーを見たら「あれ、終わったの?」みたいな反応してた。まるで聞いてない……。俺の行き場をなくした誠意はどこへ行けばいいのだ。……俺の胸へ戻っておいで。



「まあ、そちらの地球とやらにも、様々な事情があるのだろう。それだけは何とかわかった」


「理解が思った以上に雑なんだけど……」


「非を自覚している者に鞭で叩く趣味はないだけだ」



 そう言われると、アゲイルの手甲が肩に対して軽く叩かれた。それが許しの証だとでも言うように。


「……しかしそうなると、問題は我が精霊のマダオとなるな。我が友はこれで気が小さい。自責の念で潰れなければ良いが」


 おやおや、アゲイルにも心配される程か。いや、一応は俺もしてるけどな。小田は根っ子が真面目だから、受け止め切れない問題になると折れちまう心配もある。でも、気がつくのがもっと遅れる方が問題だ。


 それにこれは、小田とアゲイルの問題になる。ココから先は黙って成り行きを見守るしかない。



「すまない。しばらく、マダオとゆっくり話し合ってみることにする。今日はまだ早いが、ドラグランへ帰還しても構わないか?」


「ああ、わざわざ呼び出して悪かった。色々と助かったよ。ありがとうな」


「アゲイル、またね」



 本音のところで言えば、まあ、小田にはまだアゲイルと一緒にゲームをしていて貰いたいと思うけれどさ。何せ、コチラはまだまだやらねばならない問題が残っている。


 スノーのエルタニア帰還には、アゲイルの力も是非借りたい。でも、それはこっちの勝手な都合でもある。小田がいるなら、俺も頼みやすいんだけど、やっぱりアゲイルだけなら気が引けてしまう。……頼むからこの程度で折れてくれるなよ、小田。




 さて、小田はアゲイルに任せておいて、コチラもどう動くか考えないとな。


「……そうだ、スノー。これからしばらくどうする?」


「なにがでしょうか?」


「いや、こっちの世界で今まで通りに過ごしていくか、地球でしばらく現状を整理するために時間を使うか、どっちがいいって話さ?」


「それは――……」



 スノーはしばらく考えて、視線を右下へ移動した後、首を左に傾けて左端を目で追い、最後に上目使いのような形で申しわけ無さそうに俺に言った。


「ゼンタロウのいる方でお願いします」

「……そうだな。俺もそっちの方が良いと思うよ」


 どうせこっちに残っても、どこにいるのかわからない行方不明の王子を足で探し回るだけだし。それなら手がかりとなるヒントを得るまで、別の事をして情報収集をした方が効率的だ。



 そうだ。

 どうせなら、何かできないか色々と地球へ持っていくか。倉の一階はまだまだ広いし、何でもできそうだ。



 そうして、スノーと一緒に地球へ持って帰っても良さそうなモノだけを選び抜いた。ヒュードラ山脈の雪が深すぎるとか寒いのが堪えるとか、色々あったが、今回は割愛する。



 地球へ持って帰るのに目立っている品は消耗品のスクロールと魔法のインクだろうか。ちなみに一回分しかない貴重品だ。


 魔法が作成できるスクロールセットは元々、魔法ギルドの専売特許品で門外不出の魔法道具らしい。だから個人が一回分でも持っているのもおかしいのだけれど。


 経緯は……まあ、ニンジャクラスになった記念の時に、調子に乗ってオイタした時の戦利品みたいな物だ。うん、悪いことしたなぁとは反省している。でもこの際だし使ってしまおう。



 逆に、持って行けない道具もあった。


 ナックルダガーや竜骨小太刀だ。アレは日本に持ち込めば確実に銃刀法違反になる。


 武器で持っていくのはルナイラの白木刀と、黒いアルミラージの隠し刃の手甲だけだ。隠し刃はまあ、見た目がわからないし、ギリギリセーフということで……。それにこの二つは絶対に手放したくない、非常に貴重な分類の武器だ。


 誰も来ないヒュードラ山脈の廃村といえども放置し続けるのは怖い。黄金の杯はいいのか、だって? ここまで来た記念に誰でも持って帰ればいいさ。



「そういえばゼンタロウ、こちらへ帰ってきた時の魔力の消費量はどうだったのですか?」



 言われて思い出した。消費MPについては全く触れていなかった。一応、到着した時に確認はしたんだけど、今まで情報共有するタイミングがなかった。


 消費されたMPはゴミを送った時と同じく351だった。これが意味する所は、異世界転移の発動に必要なMPは個数ではなく、一回に開くことによる回数制である……ということだった。


 未だに理屈がどうなっているのか全然わかっていないが、転移に人数が関係がないというのがわかってよかった。これで質量にも影響するとなれば、道具の幾つかを置いていかねばならなかった。



「回数制だったよ。まあ、一度に通行する量では変化しないらしい」

「そうですか。では――」

「あ、待った」



 と、スノーが紋章陣に足を入れる手前で呼び止めてみた。



「今度は何でしょうか?」


「いや、実験の続き。今度は一緒に行こう」


「……え? 先ほども一緒だったのでは?」



 荷物を持っていないほうの手でスノーの手を握ってみる。


 触れると、ちょっと冷たいかなとも思えた。細くて、小さくて、でも剣ダコみたいなのもあって……他にはない中々に味のある手だった。この手は好きになるかもしれん。


 まあ、こんなことでは何も変わりないとは思うけれど、こういうのも良いだろう。意味とかは特にない。強いて言うならこっちへ来る時にやり逃したから今やるかってだけだ。



「そんじゃあよろしく頼む」

「……ありがとうございます」

「素直なのは良いことだ。頭もナデナデしてあげようか?」

「調子に乗らないでください」



 紋章陣を踏む前に俺の足を踏まれた。体重とか無さそうなのに、意外と痛かった。


 つまらない事をしながら白い空間に吸い込まれて、白い海中を潜ってきて、最後にはやっぱり吐き出されるように倉に戻ってきた。手を繋いだ状態が良かったのか、もしくはスノーのバランス感覚が優れているのか、今回は無難に着地する事ができた。



「お疲れ様。とりあえず荷物を下に置いてきて、一回休憩でもするか」

「わかりました。でも、その前に消費した魔力量を見なくてもよろしいのですか?」

「そんなもん、手を繋いだくらいじゃあ変わらないだろ」

「それなら一体何のための実験だったんですか……」



 何でもいいじゃあないか。と軽くあしらうつもりで携帯でMPの消費量を確認してみた。



 すると、ここへ戻ってくるまでに1085あったMPは、きっかり350減って735になっていた。


 何故か最初の351から1だけ、消費量が少なくなっていた。




「……なんでやねん」

誤字報告、設定などの違和感に関しての報告、まことにありがとうございました。大変助かっております、心より感謝です。

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