もはや不正だよ!?
一応、ランキング1~10位まで見てみる。
トップがサイトーさん。レベル36とダントツで高い。スコアも抜きん出ている。スコア1702。
次に自分のスノー。逆にレベルが一桁しかなくて、スコアがトップに迫っている。……悪目立ちしてる気がする。スコア1695。
3位がアンドロメダさん。オートマタらしい。レベルじゃなくてランク表現になっている。相変わらずオートマタだけ世界感が違うな。FPS視点だったし。スコア1251。
4位以降からスコアは一気に600以下になる。
4位 バッハ ドワーフ
レベル23 スコア589
5位、みみずく 獣人
レベル20 スコア554
6位、ととろ ドワーフ
レベル22 スコア521
7位、アリッサ 人間
レベル20 スコア515……多分ラックさんだろう。
8位、メロンソーダ 半魔人
レベル25 スコア508
9位、シグ オートマタ
ランクC スコア497
10位、奏 人間
レベル19 スコア496
3位から上だけ何か違うことをしている気がする。明らかにスコアの桁が違うし。
そして何かの間違いかと何度も思うが、1位と3位の間にいるのはウチの子だ。名前とレベルが一致、種族は闇が抜けてるけど一応エルフではある。
こうなってくるとスコアの獲得条件が気になる。
いつの間に1695なんて手に入れたんだ。3位とも大きく離れてる。
『おいおいゼタっち、嘘はいけない。正直に話したらどうだい?』
「俺も、結構、ガチで、動揺してる」
うーん。なにした。何しちゃったんだコレ。何が原因だろう。正直、動悸がすっごいする。
『あれ? 2位はスノーになってるけど、ゼタって名前はやめたの?』
『いや、俺が見たときはゼタでしたよ』
「そういや話してなかったな。名前の変更は本人の同意が得られればできるみたい。そもそも『ゼタ』は俺のハンドルネームだし。このゲーム、キャラ=プレイヤーじゃないからちょっと違和感があったし」
『なるほど。確かにそれはあるかもね』
「だから話の流れで『スノー』って名前で今度から呼ぶねって言ってたら、ステータスがいつの間にか『スノー』に変わってた」
『興味深いね。そんな簡単に名前を変えられるのか……』
『いやいや、気にするところおかしいでしょ? ゼタっちがランク2位とか間違ってもありえねえ!』
「俺だってそう思うよ。スコアの上げ方ってラックさんはわかります?」
『さあ? 僕の方もいきなり300ほど増えてたりしてね。何が条件なのかわかってないんだ。モンスターを倒すと幾らか貰えるのは確認したんだけどね』
戦闘でスコアを稼ぐのはわかりやすいな。いきなり高得点を貰うのはちょっとよくわからないけど。
それじゃあどうして、自分がこれほどの高得点を手に入れたのかという疑問だが……。
思いつく中で一番の候補は、やはり異名持ちの魔物を倒したことだろうか。なんだったか……あのホワイトジャガーの名前……虐殺の神獣だったか? まあなんでもいいか。そういう特殊個体を倒すと一気にスコアが手に入るのかもしれない。そう、千点くらい!
まあ後は牙剣作って擬似心眼のランク上げて、魔属性で塵にして……。
ああ、魔属性。お前の存在を忘れてた。
「……普通、異名持ちモンスター相手に戦って勝てるか?」
『異名持ちと遭遇したことねーのよねー。存在自体は知ってる』
小田は狩りに積極的だったが、大物には出会ったことがないらしい。
『異名持ちはひとつ前のキャラで遭遇したよ。レベル15のゴブリンだったけどね。ちなみに、異名持ちは特殊能力を持っててレベル以上に難敵だから、挑まない方が良いよ。“不動力斬”って奴でね。近寄ったら睨まれただけで殺されてた』
「初見殺しですか……。最悪ですね」
『たかがゴブリンと思って挑むのは危険だと思い知らされたよ。ちなみに、エルタニアに生息するゴブリンはレベル2~6だから、安心して狩れるよ』
今の話を聞いて思ったのは……間違ってもレベル50超えた異名持ちと戦って勝てる訳ねえよなって事だな。
それを倒してるんだよな、俺――というか、スノーが。
やはり倒せた原因は魔属性だろう。
あまりにも不自然だし。
今日は遅くまでスノーと一緒に調べてみるか。
『とりあえず詳しくは明日の夜にしようか。それまでに王都に到着してもらって、夕方に冒険者ギルド集合でどう?』
「よろしくお願いします」
『OKOK、ダイジョブっすよ』
『じゃあ今日はここまで。お疲れ様でしたー』
そんな感じでラックさんはグループ通話から退席、小田も通話を終えたのだった。
「今日は魔属性の威力を調べるぞ」
『はい』
夜も深い頃、スノーには村の外へ出てもらう。この辺の魔物は低レベルのゴブリンばかりらしいので、丁度良い。
「これから見かけたゴブリンに魔撃を使ってどれだけ耐えるかで大まかな威力をチェックする」
『わかりました』
それから魔撃やら魔力剣を使用して氷属性と比較してどれだけ威力の差があるのかを確認しようとした。
ゴブリンの姿はイメージしやすい。薄汚い苔色の肌をした小人みたいな奴等だ。このゲームでは群れる習性がないのか、一匹寂しく行動している。もしくは『はぐれゴブリン』という奴かもしれない。
まあ、なんでもいいのでさっそく実験を始めるのだが……。
『どうしました?』
「ダメだ、ゴブリンじゃあ弱すぎる」
魔撃の溜めを利用して、威力を最小限に抑え、見かけたゴブリンを攻撃して回った。
MP消費1の魔撃《属性:魔》はゴブリンを当然の如く塵に変えた。
対して比較対象の魔撃《属性:氷》はというと、同じくMP消費1で殺してしまった。水色の魔力の弾みたいなのでも氷漬けになっての凍死。ゴブリンではダメージ算出ができないと判断する。
「いっそ、物体を対象にするか」
物体に耐久値が設定されているなら、それで大体わかる。オブジェクトとしてわかりやすいのがあればいいんだが、あいにくと都合よくはなかった。
「うーん。その辺の木でも大丈夫か?」
という訳で、何の罪もないその辺に生えていただけの木を破壊して回った。
自然破壊を幾らか繰り返して、最終的に判断を下した。
「うん、スノー。魔属性は完全にアウトだ! こんなもん、チートみたいなもんだ!」
『チート……とは?』
「不正してるって事」
ゴブリンにやったことと同じ手順を行った。
氷属性で樹木を攻撃した時、魔撃が着弾した場所が凍りついた。衝撃もあったのか、木の表面に凹みができていた。
MP1の癖に凄まじい威力ではあるが、木を一本全ての破壊とは至っておらず、むしろ良い結果だったと言えよう。
そして別の木を見つけて、魔属性での実験。
結果は木が一瞬で消し飛んだ。木の葉一枚残さず。
その一本だけでは流石に何かの間違いかと思ったが、繰り返してみても、結果は同じだった。
最終的に、大岩にも同じことをしてみた。
岩は全壊とまではいかなかったが、不自然なクレーターの形を刻み込み、奇妙な三日月型の岩へと変貌を遂げた。
そうしてやっと、魔属性は絶対やばい奴だとわかった。
「即死付与よりヤバイな……。物質崩壊って感じがする」
数字のダメージではない。もっとエグイ『存在そのものを壊す』って感じだ。
「そういえば、牙剣に魔力剣をしたとき、牙剣が壊れたんだよな……」
ふと思い立って、村で拾ったショートソードを装備する。
魔属性で魔力剣を使用してみるとショートソードはオーラを纏った刃の部分が塵のように消えてしまった。
強すぎるし厄介すぎる。
魔属性を使うとどうなるか、もっと詳しく検証する必要があるだろう。少なくともスノーのスコアが異常に高いことから、そっちには影響はないだろう。逆に、経験値がそれほど手に入らないというのが問題か。
成長できないというのは論外だ。今後は使用を控えていく方向になるだろう。
あとできることは……事情を知っていそうなスノーに直接聞く事か。
「スノー。魔属性ってなんなんだ?」
『今更ですか。……詳しい事は私にもわかりませんが、闇エルフ族の歴史と関係があると思います』
「歴史? いや、予想しよう。……そうだな、魔王様の味方にでもなって力もらっちゃったか?」
『魔王ではありませんが、惜しいですね。私たち闇エルフの伝承では、“異邦の魔神”と伝わっています』
「異邦の魔神ねえ……」
異世界からの侵略者、と言ったところか。
割とスケールがでかいな。
『私の祖先、闇エルフ達はその“異邦の魔神”と契約して、とある特殊な加護を受けたと聞いています。たぶん、魔属性を扱うのがそれに当たるのだと思われます』
なるほど、魔神から授かった力だから、次元が違うのかもしれない。
もうちょっとその辺が気になった。
「その魔神ってさ、どうなったの? 倒された? 封印された?」
『さあ、どうでしょう? そこまで聞いた事はありません』
よくある封印系なら魔属性を使い続けると『封印が解かれる!』なんてイベントでもあるのかと思ったが、わからないならどうでもいいか。
まあ、今後は魔属性にはあまり頼らない方向性で行こう。そもそも俺は接近戦がしたいのであって魔法はそれほど使う気はないのだ。まあ、近距離高火力魔法があるのなら率先して手に入れていくのも悪くはないけどね。
とりあえず、研究会に魔属性の事を報告するのはやめておこう。強すぎるし、他の人が取得する方法が現段階でなさそうだからだ。チート扱いされるのも堪ったもんじゃあない。いや、あのスコアとレベル差で、もう疑われても仕方がない段階かもしれないか。取得条件が過去に異邦の魔神と契約したことのある種族……というのも、作り話として受け取られそうだ。
今後は魔属性という存在は秘密にしておこう。その方が面倒も少ないだろう。




