幕開けの直前
本日二つ目の投稿です。それから序章ラストです。
3月15日。
俺は荷物をまとめて家を出る準備をしていた。
既にパソコンなどは新天地となる自分の部屋に持ち運ばれている。実際にはどういう状態になっているのかはよくわかっていないが、俺は高校生活をほぼ、一人暮らしという環境で乗り越えなければならないらしい。
それもこれも、全ては親父の陰謀ではあるのだが、もう一つの思惑が隠れていた。
「……ああ、憂鬱だ」
思い出すのは自分の祖母だ。全てはあの人の一言から始まった……らしい。実は俺も話し半分でしか聞いていなかった。……というか、聞きたくなかった。俺は既に心を閉ざした貝の如く、受身となって事態が勝手に過ぎ去っていくのを待つばかりという姿勢に入っていた。
俺は別に勉強するつもりはないし、どこか大きな大学に行こうとも思っていない。
なぜかというと、俺は好きな事をして生きていける自信があるからだ。
それは何故か。
俺は物事を成功に導くには何が必要なのか、それを知っているからだ。
それが何かというと、問題に対して『解決』できる能力と、新に何かを『創造』する能力だと言っていた。別の言い方をすると解けない問題に対して『考え続ける力』だと思っている。
自分が何をできる人間なのか、何に対してやる気が出る人間なのか、その辺を理解しているから、実は中卒でも構わないと思っている。それでベンチャーでも何でもして金を稼いで、生活できるように働けば、別に何だっていいじゃないか、というのが持論だ。
まあ今のは俺ではなく、別の誰かが言っていた言葉だけどさ。でも持論と呼べるまでの領域に、俺もこの言葉を信奉している。
今回は色々思うところはあるが仕方がない。嵌められた自分の浅はかさが原因だ。不承不承ながらも高校までは頑張るとはしても、だ……。
(よりにもよって芸術学校とか……嫌な記憶が蘇りそう)
実は相当逃げ出したいと思っている。でもそれを許さない人物が家庭に一人、あと引越し先の家にいる祖母もそうだ。
辻風の家は祖母の影響力がかなり強い。そりゃもう祖母が『カラスを白だ』といえば、辻風家の中ではカラスは白いと言わなくてはならない位には強い。……しかもヤクザよりも性質が悪いのは、祖母が世界でも名の売れた占星術師だという事だ。
個人的に言わせて貰うが、祖母は相当に胡散臭い。テレビに出たり本を出したりとしているが、占いなんて不確かなモノで皆の心を掴んでいる。カルトみたいだと決め付けているのが俺の本音だ。しかもだ。タチが悪いのが、俺は祖母から理由のわからない好かれ方をしている、というところだ。
正直、自分の祖母に対して言うべき事でもないが、俺にとって祖母は天敵以外の何者でもない。
なにせあの人は、人の心を操ってるんだからな。俺の嫌いな人間だ。
『ゼンタロウでも、辛いと思うことがあるのですか?』
しまった。極自然に自分でも気が付かないうちに溜息を吐いていたようだ。
折角の楽しいゲームの最中に、何をいらない事を考えているんだか。とはいっても、いつものようにゲームのコントローラーは握っていない。携帯で会話して、今スノーが何してるかを共に過ごしているだけだ。
「そりゃあ、環境が激変するともなればなぁ……。今になって、スノーの心の痛みを実感してるよ」
『よくはしりませんが、まあ頑張ってください』
「うわーい、スノー様のコトバがアリガタイなー。ココロにシミるー」
天上でも見上げながら気のない返事をしてしまう。
あーあ。ホント、誰でもいいから助けて欲しいもんだ。
ちなみに、サモルドの方は以前から逃亡の準備をしていたので、王都に残してきた大事なモノというのは、素材関連や大量の資金くらいだ。……本当はそれらも運び出した方が良かったかもしれないが、残念ながら俺の慢心の結果だ。
きっと大丈夫だろう。残しておくと不安なものだけ持って行けば……なんて甘い判断だった。お金も素材もなければ資金難に陥ってしまうというのに……。お陰様で現在は金欠に悩まされている
しかも選んだ物品だけでも、移動にはかなり手間を要した。「これは置いていけない、持っていくか」という大事なアイテムだけを選んだつもりだったが、結局、エルタニア辺境の村とヒュードラ山脈を三往復くらいしなければならない量となった。途中からアゲイルに応援を頼んでしまったくらいだ。
しばらくはそれを回収して、スノーの故郷(ヒュードラ山脈の村)を倉庫代わりに色々と運び込んでいる毎日となっていた。
あと、カリオットに関しては、今も王都のルピアの馬小屋に預けたままの状態だ。
さすがにカリオットを回収しようと思うと、スノーに会いに行くのだと簡単にばれそう、とコッコさんに諭されてしまったからだ。だから今もカリオットはルピアのところに預けている状態だ。いつになるかわからないが、迎えに行きたいとは考えている。
『ゼンタロウ、遠くから魔物の群れです』
「やれそうか?」
『問題ありません』
「ならやってくれ。少しでも討伐して資金を回収しないとな」
スノーはといえば、今のところは問題無さそうだ。ちょっと気が抜けるタイミングが偶にあるけれど、それ程深刻じゃあない。逃亡した直後のあの放心状態はさすがに深刻だったけど。まあ、持ち直してくれてよかったと思うよ。
あと、これが一番重要な話なのだが、正式に精霊騎士団を脱退した旨をラックさんには伝えた。
ただ、ラックさんは今、海外出張なんてやっているらしく、連絡が凄く途切れ途切れなのだ。最後の連絡では台湾の生産工場の視察に連れて行かされた、という部分までは把握している。三日どころか、十日以上も連絡が難しいなんて、なんと言うか、タイミングと運が悪かったの一言に尽きる。
一応、脱退の理由は「アリッサに直接聞いてください」と、今は関わりたくないという胸を伝えつつ、クランは去った。アゲイルも脱退したので、戦力的には相当な低下だろう。
どうにも喜んでいいのか、悔やんで良いのか、複雑な気分だ。どうやら、まだ古巣の事を気にしているのはスノーだけではないらしい。
いい加減、俺も立ち上がるか。
「さてと……早いけど、出発の時間だ」
ドラムバックを担いで、適当に親父と母さんに言葉を交わし、聖にはメールで適当に済ませて家を出る。
最後に道端で小田とすれ違って、適当に喋ったりして。
まあ一時間以上も話し込んで、終いには「これが今生の別れでもあるまいし」なんてお決まりのセリフでも言ってさ。
実際は……これが最後の日常になるなんて、まったく想像もしてなかったわけだ。
先に言っておくが、ココから先はもっとヘビーだ。




