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アゲイルの忠誠心は揺らぎない

 スノーがアモンの強襲を避けた後、アモンの追撃を防ぐようにアゲイルが盾を使って割り込み、押し留めていた。


 すぐさま離れるアモンに対して、深追いをすることなく、アゲイルは静観としてその場に佇んでいた。


「ほぅ……。やはりアゲイル殿はそちらに付きますか」


「そういう貴殿はどういう了見で襲い掛かった?」


「それはいわゆる、面白そうだからに決まっているではありませんか。ワタクシ、ユキノさんのような強い方と戦うのが好きなので。アゲイル殿もお分かりでしょう?」


「ふん、私と貴殿の趣味を似ていると? まるで自分も私と同じ“武人”だとでも言いたい口ぶりですが、私からすれば貴殿はただの戦闘狂だな。貴殿には、決定的に人の情が欠けている」


 アゲイルがパルチザンの石突を地面に叩きつけると上空から赤い巨体が、口から火の粉を散らしながら地上に降り立った。


 ファイアードレイクがアゲイルに寄り添うように近づくと、アゲイルも誇らしそうにドラゴンの口元を慈しむ手で擦った。その行為に気を良くしたのか、軽い喉を揺らす程度の唸り声を聞かせた。


「なるほど。エルドラ子からも、お前は不気味だと言われているぞ」

「やれやれ。ワタクシ、これでも紳士だと自負しているだけなのですがね。まあ宜しいでしょう。所詮は羽の生えたトカゲのいう事です。哀れみはすれど、怒りを抱くなど以ての外でございますからね」


 直前まで狙われていたスノーを置き去りに、いつの間にか二人の間で戦うことが成立していた。だがここで、置いてけぼりの当人達が事情を聞かせろと声を上げる。


『お前等……何してんだ? わざわざ庇うとお前等まで追われる身になるんだぞ?』


『水臭い事言うなよ。ゼタっち、俺ら親友だろ? 親友のピンチに駆け付けねえ奴はいねぇだろ?』


『質問を質問で返すな。エルタニアで活動できなくなるぞ? わかった上での行動か? アゲイルもそれで良いのかよ?』


 エルタニア王国は現在、精霊付きと呼ばれる者達の一大拠点であり、この大陸……あるいはこの“トラキオン”という世界に置いては世界一、プレイヤー達に優遇された国であるといっても過言ではなかった。だのに、黙って見過ごせば居残る事もできたであろうに、スノーを庇う事で、共に悪評を受ける事になりかねないのは自明の理であった。


『モチ、当然よ』

「承知の上だ」


 だが彼等はあっさりとその利点を捨てた。捨てる事ができた。


 その様子に、スノーも善太郎も、それを傍で耳にできたアリッサも顔をしかめていた。それが端を発してアリッサは一度、アゲイルに対して問い詰めるように言葉を投げかけた。


「アゲイルよ、お前は生まれながらに兵士であり、戦士であり、騎士だ。そこなスノーとは違い、貴様は正しく誉れある騎士の何たるかを知る者の筈だ。忠誠を重んじ、謀反を嫌悪する。お前の騎士道とは、王を蔑ろにするものなのか? お前がスノーを庇う理由は何だ? 応えよ!」



 アゲイルは竜神の盾を背中へ仕舞いこむと、エルドラ子の背に遠慮なく騎乗する。

 そして鼻で笑い飛ばすように答えた。



「異な事を仰る。全く以って筋違いだ。そも、私が忠誠を誓っているのは他でもない、この世でたった一人の御方のみ。テンペスター竜王陛下、唯一人だ。断じて貴女様ではなかった。それとも……アリッサ王女とも在ろうお方が、ずっと勘違いを為されておいでだったかな? まさか自分にその忠誠心が向いていたとでも? なんと滑稽な……」


 アゲイルが珍しく明らかな挑発を繰り返し、腹の底から笑いを漏らしていた。アリッサは眉間の眉を痙攣させつつも、大勢の場で恥をかかされた事を、まだ、あえて飲み込み、最後のチャンスだとばかりにアゲイルに言葉を問うた。


「……私に付くつもりはないのか? お前で在れば、正しく己が何者である事を理解しているだろう。私は有能なお前に対し“慈悲”として、最後にそれだけを問おう」



「…………愚もココまで極まればある種の芸術だな」

「なに?」



 アゲイルが失笑すると首を振りながら溜息を漏らし、エルドラ子も溜まらずに鼻から二つの火の塊を「ぷっ」と笑うように飛ばした。



「貴女は有無を言わずに我に従えという。……だが我が友が願うのだ、自分の親友を助けて欲しいと。


 私はその二つならば、私は一人の友を選ぶ。それだけの話だ。


 我が名は竜田アゲイル! 精霊マダオの友であり、銀雪のエルフ、スノーとは共に命を預けあった仲間だ! 決して、単なる“無能な操り人形”などではない事を貴女に宣言させて頂こうか!」



 竜に乗ったアゲイルがパルチザンの刃先をアリッサに向け、次にアモンを見やった。


「スノー殿にゼタ殿。やる事があるのだろう? 構わず行け、退路は確保する」


『ま、そゆワケで、とっとと済ませてトンズラしようぜ』


「……わかった。ありがと」


『そこまで啖呵切ったからには負けんなよ?』



 スノーはアゲイルとアモンの二人が居た場所を避けて、王の居る演台へと目指す事にする。だが当然、その行く手には、目で射殺さんばかりとばかりに怒りに燃えるアリッサの姿が映る。


 それと向き合い、スノーは萎縮することなく、むしろ立ち向っていくように身を引き締めて挑んだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 その上空でアゲイルとアモンの両者は、互いの翼を広げ、高位を奪い合い、我先にと天空を目指した。しかしその半ば、両者の赤と青の二色の炎がぶつかり合い、戦闘の様子を伺わせた。


 アゲイルは竜翼を羽ばたかせながらファイアードレイクの炎の息吹を、アモンが剣に宿らせた蒼炎で切り伏せる。その直後、不意に何処から現れたのか……青い炎がアゲイルの背後から襲いかかろうとした。それを見ていた小田が急降下をさせ、アゲイルに『自在に操る炎の盾』の魔法を使用する。青い炎はその熱量からして違うのか、炎の盾に負けることなく、むしろ飲み込んできた。


 アゲイルは観念したかのように迫り来る青い炎に対して待ち構え、パルチザンの突く槍で消し飛ばすと、ようやっとしつこかった青い炎が消えうせた。



 現状、赤と青のぶつかり合いは色の支配率で赤有利にも思えるが、戦況はアモンの方が優勢であった。



「ほぅ。ただの仔竜とばかり侮れませんな」


 アモンは口ばかりで警戒する様子もなく、持ちなれた両手剣で軽々とアゲイル達よりも優位な上を取ったことで、余裕の笑みを浮かべていた。



「彼奴の炎、一体なんなのでしょうか?」


『わかんねーけど、ユニーク特性っぽい事をゼタっちが言ってた。普通の炎属性と違って、闇属性が混合してるんじゃねえかって推察してたな。でも威力も増してるし、多分アリッサの光魔法と同じで、特定の属性強化の加護とか受けてんのかも』


「……なるほど。心得た。要するに少し厄介な強敵なのですね」


『……ところでアゲイル、下が終わるん、なんか早そうだからあの手でいかね?』


「相変わらずスノー殿もゼタ殿も仕事が速い」


『ちったぁペース合わせて欲しいよなぁ』


「同感だ」



 互いにちょっとした信頼の愚痴を漏らし合うと、二人は意思疎通をしなくてもわかり合えるような気分になれた。


 そんな二人を他所にアモンが再度、青い煌めきを剣に宿らせると、急行直下して速度を出してアゲイルへと襲い掛かった。


 アゲイルは、ここで立ち向かうことはせず、あえて急降下を選んだ。


 竜としては若干細身なファイアードレイクが翼をたたむと、それだけで地面に向かって急降下する。やがて広場の地面がよく見える頃合になると振り返り、追い掛け続けたアモンに対して炎の息吹を浴びせた。


 それを予期せずにいたアモンは竜の炎を受け止め、青炎の剣の腹を盾に突き進んだ。



 エルドラ子は炎を吐き続け、やがて地上が迫るや否や口を閉じて再び地上に頭から突っ込み始め、地面からホンの数メートル位置で一度だけ羽ばたき、体位を戻し、乱暴にスノー達がいる広場まで戻ってきた。


 ドラゴン単体でならば今の着地は問題なかっただろう。だが、騎手がいた場合ならば、それは明らかに危険な行為だった。


 ――そう、そこに竜騎士が居たならば……。



「居ない……では何処へ――――ッッッ」



 アモンは黒い鎧の竜騎士のいないファイアードレイクの背を見て、一瞬だけでも動揺をした。その動揺が隙を生んだのだ。



「単体で空を飛ぶのが自分の専売特許だと思っていたのか?」




 アゲイルの背中から、薄い半透明をした朱色の竜翼があった。人によっては妖精の羽だとも思うかもしれない。彼は既にアモンよりも上空に位置しており、背中から心臓に向かって突き刺すように貫通させた。彼はもう不要だと言わんばかりに愛用していたパルチザンを手放し、アモンは力を失うように槍ごと地上へと落下していった。


『炎に隠れて背後から……まー騎士道ではないわなー』

「私は竜騎士ではあるが、元から騎士道など持ち合わせては居らん。私は冒険者だ。何でもやるのが売りのな」



 そうしてアゲイルは友と一緒に、ニヒルな笑みを浮かべ、下で待つスノーとエルドラ子を迎えに降りた。

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