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頼れるお兄さんとランキング

 親父から三十万を借りた次の日、小田が「日本橋行こうぜ」なんて提案してきた。

 パソコンはネットで注文するつもりではあったが、どのメーカーを選ぶか決めていなかった。


 ならば一度、電気街へ遊びに行くついでに、パソコンを見て回るのも良いか。



 それに『サモンズ ワールド』の移動時間は長い。普通のゲームみたいにローディング画面が終われば移動完了――とはならない。


 アゲイルが居たドラグラン王国とスノーの居たヒュードラ山脈はほとんどご近所みたいな近場であった。故に駆けつけるのが早かったのだが、次に向かうエルタニア王国は割と遠方のようだった。


 山二つ、国三つほどか。ゲーム全体のマップの広さを考えるとまだ近い方らしい。が、ワイバーンであっても到着がその日の何時になるかは不明だった。となれば、昼以降まで外でふらついても問題はないだろう。



 そういうわけで、俺と小田はドスパ○やらソフマ○プやらパソ○ン工房なんかを回って、買うべきパソコンを吟味していた。ついでに定員さんから「ファンのところにフィルターつけると良いですよ」というアドバイスをいただき、その店員さんのオススメパソコンを購入する事に決めたのだった。なんか巧い具合にセールスに引っかかったと思うかもしれないが、個人的には満足している。色々と教えてくれる店員さんは大事にしたいのです。だって俺の趣味はパーツ弄りじゃなくて、ゲームだしね。



 その後は道具屋筋を通って冷やかしながら家に帰った。


 家に帰ってきてすぐに二号機のパソコンを起動して『サモンズ ワールド』を立ち上げた。





 時刻は夕方手前だった。


 ちなみにゲームと現実の時間がリンクしている。


 時間経過の速度が現実と同じなのだ。ただし、地方によって時間帯が違う。

 確定ではないが、このゲームの世界でも大地は丸いのだろう。現在地が昼間ならば、反対側は真夜中なのだ。


 偶然、俺達のいる場所が現実の日本時間と似ているだけなのである。


 開始直後は、スノーとアゲイルが徒歩で村を散策している最中であった。


「スノー。ただいま」

『おかえり、精霊さん』


 軽い挨拶をした後、どうしたのかを聞いてみると、人間の領土に入ったのでワイバーンから降りて移動しているとのことだった。今日はこの村で休むらしい。一応、既にエルタニア王国の領土には入っているらしい。


 深く考えていなかったが、ワイバーンで王都に入るのはさすがにマズイらしい。そもそもそんな事情、気にもしなかった。そりゃあワイバーンといえどドラゴンだ。そんなのがいきなり王都に現れたら何事だと騒ぎになるだろう。だけど、これはゲームなんだからもうちょっと融通を利かせてほしいとも思ったりする。




 それから小田の方も家でログインしたのか、アゲイルが独り言のようにつぶやき始めた。


 これもどうにかしてほしい。

 というのも、近くに居るプレイヤーと会話する方法の事だ。ヘルプが実装されてくれないので、未だにプレイヤー間の会話方法がわからない。


 一応、要望や改良案はメールで送っておいたんだけれど、検討するという無意味な返事を定型文でまとめたメールが返ってきただけである。トラキオン運営、本当に大丈夫だろうか?



 まあ、今は()()問題ではない。今どき、無料通話なんていくらでもある。『空っぷ』やら『緑線』とか。それらを使って通話すればいいだけの話だ。複数人ならグループ通話とか便利だしね。元々の知り合いと話しをするくらいならそれで済む。



「あ、そうだ。いい機会だしラックさんとも連絡しよ」


 携帯のジニーにグループ通話を頼んで小田とラックさんをグループ通話に招待する。


『ブラック・ラック』……通称ラックさん。


 この人は社会人で、俺がMMOを始めるよりもずっと前から色んなゲームを渡り歩いてきた人である。本人はファンタジーが本命らしい。ギルドの参加も積極的で、運営とは別で個人イベントなんかを企画する人でもある。8時間耐久レアドロップ掘り対決とか、チーム別で新人ハンターのランクをどちらが多く上げられるか競争をしたりとか、そんな感じのである。ちなみにそれに勝つと景品もあったりした。結構本格的なのだ。



 で、そのラックさんがこの度、古巣を離れてこの『サモンズ ワールド』に来ている。しかも『人生ガチャ』で王族という勝ち組コースを得た人だ。本人は今のところやる気満々らしい。


『こんばんは』

「こんばんはー」

『おはよろーん』



 ラックさんが一番初めにあいさつした。次いで自分、最後のネット特有のいい加減な挨拶が小田である。


 ラックさんはいい感じに成熟した男性の声の持ち主で、この人と話すと結構落ち着く。勝手なイメージだが、職業的には病院の先生とかやっていそうな感じがある。ラックさんはリアル厳禁な人なので、実際の話はノータッチである。逆に俺と小田は学生だとバレてたりする。



『いやー、久しぶりだね。二人とも。今回は同じβテスター同士、よろしくね』

「こちらこそ、よろしくお願いします」

『ラックさん、よろしくっす』



 ゲーム内で再会はまだしていないが、早速再会した雰囲気になっていた。

 ここ最近の近況やら、終末の幻想(大手のタイトル)がどうだったとか。自分たちが別タイトルに移行した後どうなったとか。まあ、そんな感じだ。


『最終的にクランメンバーは散り散り、いわゆる空中分解かな?』

『そんなもんすか。みんな薄情っすね』

「真っ先にやめたお前が言うな」

『まあ、バトルレジェンド(俺達が移ったゲーム)に人が流れたのは仕方がないよね。みんなその口だし。僕も他のクランに行けばよかったんだろうけど、会社みたいに報告義務のうるさい所に入りたくなかったからね』


 この人は、分類的に言えばガチ勢の領域に片足を突っ込んでいる。だが性格が起因してとても緩い人でもある。


 ネトゲで楽しみたいのに、会社みたいに義務を課したくない、とは本人談である。


 そういう人柄のお蔭か、ラックさんの周囲には大概ガチだけど、居心地を求めてくるエンジョイ勢が多かった。


『でもうれしいね。今回はゼタ君とマダオ君がいる。しかも宣伝が足りないお蔭か、人が多くない。僕らは開拓者になれるぞ。このゲームのトップは貰ったね』

「トップっていうか、これランキングとかあるんですか?」

『教会に行けば順位とスコアを確認できるよ。知らなかった?』



 なんと、スコアがあるのか。そんなものがあるんなら先に教えてください。というかヘルプを早く実装してください。


『マダオ君は知ってた?』

『いえ、知りませんでした。というか、教会ってリスタート以外に利用目的あったんですね』

『まあ僕も偉そうに言えないんだけどね。アリッサが教会でお祈りをしなきゃわからなかったし』

「え? 女性の名前? ラックさん、今回女性なんですか?」

『たまにはね。とは言っても、最初は男だったんだよ? 死んで繰り返して、試しに女性を作ったら王族だったって感じだね』


 なるほど。ラックさんも小田と同じような道をたどってきたのか。

 という事はこの三人の中で今のところ一回も死んでいないのは俺だけという事だ。……ちょっと優越感。


 ひとまず、ラックさんのキャラクターを見てから再びこの話題をしよう。


 今はスコアの件が知りたい。



「スノー。その村って教会あった?」


 こちらで会話が弾んでいる間に、スノーとアゲイルは小さな宿屋に入って休息の準備を進めていた。


『教会ですか。あったと記憶してますが、神様に興味があるんですか?』

「神様なんか興味ない。スコアが確認したいんだ」

『なんかって……。それよりもスコア、ですか』


 スコアがよくわかっていなさそうな反応だった。まあゲームの世界の住人にその手の知識は必要ないだろうし、わからなくても大丈夫だと言っておいた。


『おや? ゼタ君も対話スタイルなのかい?』

「ええ、まあ。というとラックさんも?」

『まあね。というか、ちょっとそういう方面で、キミ達には色々と協力してほしいんだけど、いいかな?』


 あのラックさんが俺達にお願い。その言葉を耳にしたとき、俺の中に断るという選択肢ははじめから存在しなかった。


「俺はいいですよ」

『こっちも問題ないです。むしろお世話になります』


 どんな頼み事なのか確認もせずに了承したが、それほど悪い話でもないと思う。

 何せ王族のプレイヤーと一緒に行動するのだ。色々と便宜を図ってくれそうではないか。そのためなら一つや二つのお願い事なんか、ただのイベントみたいなものだ。




 そうこうしている内に、スノーとアゲイルが教会にまでやってきていた。木造の小さい教会だ。人もほとんど居ないが、スノーが居た教会と違って、ちゃんと聖職者らしい人もいた。紺よりも深い色の青い生地(勝色)と白いラインがいかにも厳かな雰囲気を漂わせている。

 長椅子にも、ちらほらと人が座って祈りをささげており、スノー達もそれに倣った。


 すると画面の前に一覧が出てきた。


『お、本当にランキング形式だ』


 最初に声を出したのは小田だった。


 そこには単純に、名前、種族、レベル、スコアポイントの得点数が記されていた。

 普通のランキング形式であるが、最初に自分の順位に飛んでくれるようだ。


『俺、ランキング18位じゃん! やっべ、すげえ上だコレ!』


 小田はかつて体験した事もない高順位に喜んでいた。まあ、母数が少ないとこんなものだろう。ランキングの一番下を見ると、千ちょっとなのだ。そしてここには既にやめていった者も、これから辞めるであろう人間も含まれている。


 それを考えた時、おそらく真面目にプレイして、本気で意気込んでいるのは一割か二割、多くて三割かと考える。

 多くて三百人の中で、トップランカーを名乗っていいのは本気の内の1割……つまり30位以内だろうなと、勝手に線引きをしつつアゲイルの順位を考える。


 ランキング18位なら中々だと思う。ワイバーンからの落下攻撃がいい具合に功を奏しているのだろうな。


『ちなみにゼタっちはどの辺よ? ああ、そういえばまだレベル一桁だもんな。今で百位くらいか?』



「二位だったわ」




『……は?』




「いや、二位」




『1.サイトー・・・・・種族:人間 レベル36 スコア:1702』

『2.スノー・・・・・種族:エルフ レベル9  スコア:1695』

『3.アンドロメダ・・・・・種族:オートマタ ランクB スコア:1251』


 ・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・




 圧倒的なレベル差(?)の板挟みに、自分のキャラと同じ名前で、同じ種族で、同じレベルの人物が居て、改めて間違いないなと確信した。

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