リベンジマッチ➂
申し訳ありません。ちょっと今日は筆が重かったので初の2000文字以下です……。そんな日もあるという事でどうか寛容なお心でよろしくお願いいたします。
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森林がほぼ支配している山の中で、岩盤が剥きだしとなって木々が途切れた丘の崖に、耳障りな高音と空気が揺らめく高熱を発している機械人形と称される種族の人物が、呼吸すら惜しむ数ピクセルを問う世界で、獲物を狙っていた。
遮蔽物の多い森の中では狙撃手は役に立たないのは常識だろう。だがそういった考えは、彼にはなかった。邪魔なものも一緒に消し飛ばせばよい。そのような考えの下、様々な遠隔兵器を利用して、レーダーを配置し、視界を確保し、レーザーカノンによる射撃――否、砲撃を行なった。
その距離、直前上で約1,400m。森と崖では高低差もあるので路面距離だともう少し距離はある。
(狙った獲物ではなかったか。まあいい。連中でもそれなりのスコアの足しにはなるだろう。それに、二射目までは想定してはおるまい)
半年も経てば武装も改良できる、と得意げに再び意識を集中させて狙いを定めた。
すると小型の飛行偵察機越しに、標的の少女と視線が合った。
彼の頭では次のような思考が巡った。
(ほう、アレは次射を察知している目だな。回避するために高速で移動する可能性がある。……ふぅむ、既に位置もばれているだろう。コレを撃ったら次の狙撃ポイントに移動すべきだな。……他の連中は……反応もできんか……)
一番の標的であるハイエルフを仕留めるのは後回しにすると考え、今は少しでも仕留められる、動かない者達を仕留める算段を立てた。
小型偵察機の空撮位置をエルフの少女から塹壕の中央位置に合わせ、マーカーを設置した。単なる印だが、それがあるだけで別視点からでも正確な位置がハッキリとわかる利便さがある。今は照準をハイエルフからずらし、再びエネルギーを充填させる。常に射撃体勢に入っているので、間隔10秒もあれば再度砲撃が可能だった。
「ん? なんだ、無駄な足掻きを」
シグの小型偵察機から、塹壕を守るようにスノーが氷の壁を築いている様子が見て取れた。勘が鋭いことに、彼女等は偵察機のちょっとした視線の動きで狙いが塹壕全体だと察したようだ。
「そんな脆い壁で守れるものか」
10秒などあっという間に過ぎ去り、彼は相手のプレイヤーの判断ミスに心からの憫笑を込めてあっさりとトリガーを引いた。
瞬間、耳障りで独特な音を奏でながら、間違いなく目標に命中した。
「他愛ないな。……ン?」
命中した着弾地点では、予想された炎上も爆発もなく、むしろ静けさしかなかった。
どういうことだと偵察していたカメラから見た光景は、驚くべきものだった。
氷壁は砕かれずにその場に残っていた。どころか周囲にも被害は一切なく、レーザーカノンの砲撃が嘘だったかのようにも思えた。
「……馬鹿な。何故だ!?」
何かの間違いだと思いながらも、装弾数全三発の内、残り一発しか残っていないのを確認したシグはキツネにでも化かされた気分になった。
「何をしたのだ。奴は……」
何か不自然だと思いながらも、移動すると決めていた彼はすぐさま地面に固定していたパイルを抜き、通常形態に戻ろうとする。放熱をしながら狙撃銃の形態を戻す。
彼の中で得体の知れない疑問が沸きあがった。すると今度は一秒の時間が長く感じてくる。
大型兵器を展開するためのギミック一つ一つが、今になって遅いと感じはじめる。早く終われと焦燥感をあらわにし、そんな時に設置されたレーダーから高速でコチラに接近する生物が察知され、彼の警戒度は更に膨れ上がった。
「クソ、奴か? ……いや、違う」
森の中を風が突き抜けるような速さで接近してくる者が、突然方角を変えてコチラとは見当違いな方角へと向かって走り去っていく。
一体なにがしたかったのか、その謎を解くためにとパーツに組み込んだ熱源センサーと倍率変動可能な狙撃スコープを利用して目を凝らしてそれを見た。
それは一目で見ると馬のような形をしていたが、躍動感からシグは、鹿のような動物だと判断した。
(……疑い過ぎか?)
過ぎた緊張感だと胸を撫で下ろすと、特殊兵器であるレーザーカノンを折畳み、背中に背負い込もうとし始めた。
(あれで仕留めたとは考えにくい。早く次のポイントへ移動しなくては――)
と用意していた移動用六輪バギーへと向かったその時。
銀に光る一閃がオートマタの肩を貫いた。
「クソがッ!?」
銀の矢が易々と穿った瞬間、白弓を構えたシノビ姿のスノーがシグの前に姿を現した。
『やり逃げはあんまりじゃないですか、この芋虫野郎!』
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