リベンジマッチ②
小田は相手が複数人で襲い掛かって来る事を想定した作戦にしたようだ。
確かに相手の人数がわからない内はそちらの方が良いだろう。なにより俺も含めてこの場の全員、いままでずっと退屈で少しでも戦いたいと思っていたハズだ。乱戦になれば自分たちの思うように戦えと言われているみたいなモノだし、難しい事を考えずに済む。悪くない判断だと俺は思う。
一応、その事に関してはラックさんにも早々に伝えておいた。結果を待つとの返事があり、このまま戦闘を行なう準備を進めた。
小田の考えた作戦は、まずは敵の接敵を待ち、魔法での待ち伏せ戦術で迎え撃つ。とってもシンプルな内容だった。わかりやすく非常によろしい。
待ち伏せならスノーも慣れた物だ。
魔弓術『氷槍』を生成させて待機させる。この技には貫通力はないが、刺さった場所から特大の氷柱が飛びだすというギミック技である。今までは大型ロボットの足元を狙って、ツララを足元で突起させ、横転させたりしていた。今回もその手を使わせてもらおう。
ちなみに戦闘では邪魔になるだろうNPC達には早々、後方へ下がってもらった。初めから戦力外として考えていたのだ。戦わせるつもりは毛頭ない。
しばらく待つと、俺達のスピーカーからも木々をなぎ倒して突進してくる、自動車的な音が聞こえてきた。だが、それは俺達からすれば大型ロボットのモノではなかった。
もっと、排気エンジンを思わせる震動だ。
相手が近づくにつれて、スノーがカウントダウンをしていた。
『目標、あと少しで現れます。3、2、1――』
「魔法、撃て!」
森から飛びだしてきたのは、六角形のフォルムをした八輪の装甲車だった。上には大口径の回転式機関銃が備え付けられており、照準が自動で今まさにスノー達を狙った瞬間であった。
当然、俺達がそれを許すワケもなく、多種多様な魔法が次々と装甲車に襲い掛かった。炎が渦まき、雷撃が落ち、岩石が現れ進路を塞ぎ、最後にはスノーが放った魔弓術で地面から押し上げられた氷柱によって車輪が完全に浮き、半回転して地面を滑っていった。
映画みたいに派手な登場だったが、爆発はしなかった。
しばらくすると、装甲車の車輪の回転が徐々に緩やかなモノに変わっていく。そのまま何も起きない事の不自然さに、この場の全員が敵の不気味さを感じていた。
「……中の奴は死んだのか?」
『……わかりません』
『ちょっと自分見てきます。何かあったら後衛、よろしくお願いします』
「了解」
人間族のプレイヤーが名乗りを上げた。双剣使いの男性で、戦士ギルドに所属しているガッチガチの戦闘職だ。
ゆっくりと塹壕から身を乗り出した魔法剣士が剣を抜刀し、すぐに対応できるようにと身を引き締めてから、横転した装甲車に対して徐々に近寄っていく。微風に木の葉が揺られる音と、スノーや仲間達の呼吸の音が混じって聞こえてきていた。だが独特の緊張感がその場にはあり、全員が一人のプレイヤーの動向を見つめていた。
すると、装甲車の横扉が内側から壊されるように開いた。中から現れたのは小機関銃を脇に携え、バイポッドを折り畳んだ棒を左手に握る、ターミネートしてきそうな形相のアンドロイドだった。奴はエイムする事なく、ステンガンを持つようなスタイルで弾丸をばら撒き始めた。
双剣使いは慌てずに射線上から回避するように横へ飛び、後方で準備していたスノーや他の魔法使い達が攻撃を開始する。アンドロイドは全身が鋼鉄なせいで耐久力もそこそこにあり、一度は全員の攻撃を受けきってしまった。それでも隙を突いて双剣士が飛び込み、首に剣を二本差し込ませて捻じ切った。
一応、勝ったと思っていいのだろうか。
すると誰が言い出したか、今のがなんだったのかを話し始めた。
『今の、コイツを操作してきたプレイヤーだと思うか?』
『わかりませんね。反応が鈍かったし、自動殺戮兵器かもしれませんよ?』
『エルタニアでは全く見ない戦法だよね。別大陸のコロニー地方では偶にやってる奴がいるとか聞いたことあるな。ただ、ベラボーに値が張るんだったっけ?』
どうやら皆、それなりに知識はあったようだ。
まあ、皆のレベルを平均したら60前後くらいになるような面子なのだから、心配はしていなかったけど。
と、少し安心していたら今度は後部の蓋が開き、妙な形をした少し大振りな鉄のボールが複数吊られたハンガーが二本も飛び出してきた。
何かしら始まったのかと全員の警戒感が高まった瞬間、地面にボールが落下し、球体だったそれ等が内側から開かれて、徐々に棒人間のような形を取り始めた。腕にはアーム・ガンだかキャノンだかの武器が装備されており、一目で敵だとわかった。
「今度はメト○イドかよ」
「みんな気を付けて! 戦闘まだ終わってないよ!」
無人機系の戦闘兵器ばかりが登場する。
だが、こんな鉄クズが十機現れようが、敵じゃあない。別にシールドを持ってるわけじゃないし、弓で射れば簡単に潰せそうだ。
スノーは射撃で一体だけ敵の腕を奪ったが、接近戦しか取り得のないプレイヤーが地上に出て攻防を繰り広げてはじめた。
素早い動きで敵陣に切り込むと、気持ちのいいほどに敵が壊れていく風景を成して行く。双剣士や長剣使い、それにアゲイルと同じスタイルの盾なし槍使いの三人は我先に敵を獲ってやるという具合に攻撃を繰り返している。そんな状態の場所に巻き込んだり、誤射の恐れがある魔法攻撃は皆控えていた。
ちなみにアゲイルは指示を出すためにスノーと同じく塹壕の中で待機している。前線で戦いながら戦況を見極めるのは小田にはまだ難しいようだ。……今回はそれがアゲイルを救ったようだが。
ともかく、しばらく経緯を見守る事にしようと塹壕で待機していると、スノーが自分の額を人差し指で叩いていた。
「どうした、何か気になる事でも?」
『いえ、音がうるさくて……』
「耳を塞げばいいんじゃね?」
『そうではなくて、なにか、こう……聞き覚えのある音がするのですが、彼等の戦闘で聞き取――「しゃがめ!!!」』
それに気がついたのは、スノーが俯いていたからだ。
塹壕から顔を出さずに俯いていたので、カメラワークが暗がりに寄ったのが幸いした。
塹壕は暗いという訳でもないが、それなりに光量が減る。そんな中で、光の加減がいきなり明るさを増やしたのだ。その後は直感だ。
スノーは何も聞かえさずにしゃがみこみ、土が蒸発するような凄まじい衝撃から難を逃れた。
聞こえてくるのは土砂が吹き上がるような衝撃音と、『ギギギギ――』と空気を焼くような珍妙な音を奏でるレーザー音。それにキャラ達の突然の死に驚き、唐突にチャットが切られるプレイヤー達の声。今の数秒で頼れる仲間の三人がロストしてしまった。
『く……』
「全員、防御体勢――て、ムリだよこんなん! 完全に弄ばれてた!」
確かに相手の思惑通りに進められた展開だ。
こりゃ小田では荷が重い相手だ。今回は正しく近代戦術の基礎である情報戦から負けてしまっていた。場所が察知されて固まった所に囮を使って足止めさせて、的確に殲滅された。
しばらくするとレーザー光線も止み、塹壕の穴が降り注いだ土や小石で穴が浅くなっていたのがわかった。所によっては地形も変わって、射撃着弾位置は赤く光って熱を残す、大きなクレーターが出来上がっていた。
凄い破壊力だ。これはきっと、あの武器だ。
《レーザーカノン砲》
そしてこんな武器を扱える心当たりのある人物は、今でも一人しか居ない。
「十中八九、シグさんだな」
いつかスノーが言っていたな。ダンケルクにシグさんが入ったとかどうとか。あの時は軽く考えていたが、よくよく考察するべきだったかもしれないと今更ながら思い知らされた。
まったく、盛大にやってくれたもんだ。
そのお陰で小田が頭を抱えて今まで見た事もなかったくらいに落ち込んでいた。ちょっと深刻そうなのでマイクをオフにして直接問いかけてみる事にした。
「おい小田。相手が悪かったんだよ。持ち直せ」
「……わかってる。わかってるけど、考えてみれば違和感はあったんだよ。無人機ばかりが出てきてプレイヤーが現さなかった。何で自爆系の策略を思いつかなかったんだよ……僕。そうすりゃ少しは被害も減ったはずなのに……」
「落ち着けよ、小田。いつものキャラ見失ってんぞ。とにかく被害報告が先だろ」
若干PTSDみたいな事になってんな。リアルSAN値が削れちゃったか。小田ってば根は真面目だからなぁ。
仕方がないか。
自分の席に戻ってマイクをオンに切り替える。
「全員、被害状況を確認。報告急げ。怪我、負傷者はその場で待機。撤退は指示するまで待て」
多分こんな感じか。俺はリーダーでもないけど、皆それぞれが順番に報告を入れてくれた。
どうやら生き残ったプレイヤーはアゲイル・スノーを含めて6名。塹壕に篭っていたのが助かった理由か。
しかしスノー以外はレーザーカノンの光で目暗まし状態になり、視界が不良状態だとか。中には平衡感覚を失っているキャラもいて、倒れた状態から立ち上がれないのだとか。
……これってもしかして、ちょっとピンチなのかね。
『ゼタ! 空を見てください』
「今度は何でございますですか?」
スノーの視線の先には、どう見ても上空から空撮している小型飛行偵察機が飛んでいた。これ、被害状況までシグさんに知られてしまったか。
「でもレーザーカノンって、一発撃ったら再度動くのに結構時間経過が必要だったよな……」
ならしばらくは安全だと思ってもいいだろう。幸い、レーザーカノンの射線のおかげでシグさんの位置と距離も大体把握できた。今の内に撤退するか打って出るか早く決めないと、今度こそ俺達はピンポイントで狙撃される事になる。
『ゼタ! 同じのが次射、きます!』
「え、嘘、マジ!?」
続きます。




