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リベンジマッチ①

 ダンケルクから移動要塞が出発してから一夜明けた土曜の昼。

 ネットの通話ソフトを利用して、俺と小田、それからラックさんとコッコさんの四人で戦況確認を行っていた。本来ならばこの報告会に俺が参加する必要は無かったのだ、小田が同じ部屋でプレイしている関係で、なし崩し的に参加している状態になっている。



 そんなプレイヤー同士の報告会でいち早く声を出したのはコッコさんだった。



『申し訳ありませんでした。まさか、あんな巨大建造物が移動し始めるとは思わなくて……』



 謝罪の内容は昨夜の移動要塞の件についてだった。確かにあんな一山ほどもある物体があったのに、今までそれが移動要塞だと気がつかなかったというのも不思議な話だ。


『あのデカブツ自体は何処から出てきたんですか?』


『出てきた、と言うよりかは、最初から地上に建造されてたんですけどね。でも軍事基地の敷地内には変な形の建物がいくつもあって、件の物件もただの軍事施設の一つだと思っていたのです。それが一夜の内に移動要塞へと変貌して、基地を踏みつぶしながらの大発進です。こんな風に言うのもなんですが、呆れを通り越して、あっぱれですよ』



 それはまた予想外だな。木を隠すなら森の中を実践されてたってワケだ。しかも軍事基地にはダーク・ブラック・スミス連合の連中しか中に入れないらしいから、遠くから観察するしかなかったのだろう。仕方のない見落としだろう。



「まあいいんじゃないっスか? 作戦にはさして問題はないんでしょう? ね、ラックさん」

『その通りですよ、コッコさん。むしろ、いち早く知らせてくれたダイスとコッコさんには感謝しなくてはいけません』


 小田がいつものように気楽な口調で話を水に流すと、ラックさんもそれに同意した。どうやら『皆で仲良くなろう作戦』は続行するつもりらしい。


 今回の作戦の肝はその名の通り、目標となる敵だけを孤立化させ、ダンケルクのドワーフ族のNPCも含めて仲良く包囲網を作る事である。





 この作戦を初めて聞いた時のラックさんは愉快な演目でも披露するみたいに皆に説き勧めていたのを、今でも覚えている。確か――


『戦争を行うのに必要な消耗項目は色々ある。人手、食力、燃料、資金、鉄鋼、弾薬、医療品……etc。言い出したらキリがない。でも、これらの一つでも尽きてしまうと、それだけで前線は維持困難となる。それ等を補うために兵站が存在しているワケだけど、それを支えてくれる根幹が居なくなると前線の兵士たちはどうなるのか。当然、栄養の巡らない植物のように枯れていくしかなくなる。


 ダンケルクのプレイヤー達は愚かにも行儀が悪い。まるで自分から国民に革命を起こしてくださいと言わんばかりだ。だったらこれを使わない手はない。お望み通りに国と言う最大の支援拠点を失ってもらおう。


 ドワーフの巨大ロボットは確かに強敵だが、燃料も弾薬も必要になるし、一度壊れると修理には人手と鋼材も取られる事になる。この時点で運用コストの高さはわかるだろう。それらを一方的に削る。そうすれば、あとは相手が呼吸困難になって降伏するのを待てばいい』


 今回の作戦は、兵糧攻めのカテゴリーに入る。運用コストの高い兵器をどんどん使わせて本命が何らかの手段で出撃すれば、反乱を起こさせて、帰るべき本拠地を敵に塗り替える。フライフェイスの世界一怖い姐さんも言ってただろう? 兵站の機能しなくなった前線はオバケよりも恐ろしいってな。


 それにこういう話は現実でも偶にあるよね。例えば好き勝手してきた放蕩息子があっちこっちで迷惑かけて、最後には家から追い出されて途方に暮れるっていう嘘か本当かわからない話。……ちょっと可哀想になってくるシナリオだな。





 話を戻そう。


 今回の筋書は大筋通りに進んでいるらしい。……移動要塞が出て来たのは予想していた展開とは異っているが、それでも司令官であるラックさんからすれば問題はないらしい。


『ここから先は時間との勝負だ。僕らはオルレ庵や土属性の魔法が得意なキャラを引き連れて予測進路上の土地を隆起させて妨害。コッコさんは予定通り、ドワーフ達に革命運動を決行させるように促してください。ティンにはその時に粛清の手伝いと、それが終わったらNPCドワーフ達を引き連れて退路を潰す作業に出てもらいます。マダオ君とゼタ君は皆を連れて進軍、そのまま僕らと合流という手筈で頼むよ。何かあっても臨機応変に、それから報連相もしっかりとね。それさえすれば大丈夫。


 なぁに、どうせあの図体だ。火力と耐久力しか頭にないだろう。コチラは機動力で勝負しよう。ただし妨害するだけだけどね』




 こうして、三週間程にも渡って続く戦争は最終章を迎えたのだが、俺達には華やかさの欠片もない大移動という仕事が待っていた。


 もし現状が何かしらの物語だったとしたら、いま脚光を浴びているのはダンケルクで革命運動を起しているティンとルピアだろう。ティンは戦闘で活躍するし、ルピアは革命家にエルタニアが支援すると交渉する場面もある。羨ましい山場もあったモノだ。



 まあ、なんでもいいさ。もし抜け駆けする機会があるのなら、遠慮なく巨大要塞を一人で落とさせてもらうさ。スノーは忍者なのだ。要塞に侵入して敵大将を暗殺してくるくらい余裕さ。



 そんな未来を一人勝手に夢想しながらなんの変哲もない移動シーンと攻略サイトを交互に見ていた。


 ちなみにメンバーは現在、アゲイル含めて9人と、開始時点から比べると3人ほど減っている。一人目の顔面が吹っ飛んだ銃剣士と、レベル50くらいの居たのかどうかも定かではない連中だったか。


 脱退の理由は退屈だったから。

 そりゃあ何もする事なく何日も拘束されてたら、俺だって嫌になるさ。一人はエルタニアに帰ってしまい、もう一人はラックさんのいるエダン山脈側に志願して異動したり、そんな感じだ。この話に関しては、こちらも文句は言えない。


 むしろ、そんな中でも7人のプレイヤーが残ってくれている事の方がありがたい。



 そんなありがたいプレイヤー達と共に移動する陣形は普通の縦陣だ。


 最前列は偵察役のスノーと、感知能力の高い獣人キャラ。


 その後ろの前列に雇ったキャラが並び、その後ろにNPC冒険者や荷物を積載した馬車が組み込まれている。尚、対ドワーフ抵抗軍とはココでお別れなので、彼等は同行しない。


 殿役の最後尾はアゲイルだ。エルドラ子と共に徒歩で移動している。足並みを揃えるためだ。一応、空を旋回して飛び回る事もできるが、それだとエルドラ子に負担が掛かるそうで、採用されなかった。


 一応、竜の呼び笛を一つ、スノーが持っているので、何か必要となればすぐに来る事もできるし、今のところ一度も問題はなかったりする。



「そういえばさ、ゼタっちは知ってる? このゲームのプログラムの話」

「うーん? なんか話題になったか?」

「いやさ、あと少しで一年経つけど、この手のゲームで未だにチーターが現れないのスゲーよなーって話がしたいんだよ」

「そもそもプログラマーが盛んになるほど人口の多いゲームでもないだろ」


 その、『あと少しで』一年経つサモルドは、まだ二万人くらいしかダウンロードしてないらしい。更に今尚プレイしている連中だって五千人いるかどうか怪しいという現状……。一時期の盛り上がりは既に鳴りを潜め、すでに停滞期に突入していた。そんな、先行きのないゲームにプログラマーがわざわざ介入して何かしでかそうとかいう発想が俺には思い浮かべられなかった。


「まあまあ。このレス見てみって」


 そういって小田が携帯を差し出すと、そこには俺の嫌いなアメリカ語がズラリと並んでいた。頼むから勘弁してくれ。


「おい、鳥肌が立ってきたぞ、いい加減にしろよ」

「わざわざ和訳した文が下に続いてんだけどなぁ……。簡単にまとめると、海外のハッカーの一人が偶然興味持ったらしいんだけど、中を覗いたらさっぱりわからねえって、ちょっとした祭りになってるらしいのよ」

「へぇ。さすが謎ゲー。相変わらず妙な所に力入ってんのな」

「ちなみに内部が不明で理解していなくても機能するプログラムを『ブラック・ボックス』て言うらしいぜ。一つ勉強になったな」

「クロ箱って……安易な名前だな。じゃあ中身がはっきり解ってるプログラムは『ホワイトボックス』って言うのかよ?」

「お、ゼタっち正解」


 アホくさ。小学生みたいな理屈だな。

 ……本当かどうか気になってネット検索してみたら、大方(?)その通りだった。厳密には違うみたいだが、言いたい事は何となくわかった。



 とりとめのない雑学みたいな話で盛り上がっていると、カリオットに乗ったスノーが突然、止まれの指示を出したのが見えた。


 何かあったのだろうかとだらけた姿勢から状態を戻して、マイクに近寄った。



「どうした、ユキノ。何か発見したか?」

『……また機械の音がします』

「小田」

「あいよ」


 急いでヘッドセットを装着して携帯の通話アプリにもトークで知らせる。


「ちなみにどんな音だ」

『……なんでしょう。ちょっと雑音が混じってまして、正確にはなんとも……。ウーニャには聞こえる?』

『あー……うーん? ごめん。アタシ犬種だから、兎種みたいに期待されても無理です。匂い専門ですよ、私』



 どうやら偵察同士で仲良くなったようだ。ウーニャというらしい。スノーにお友達が増える事は喜ばしい事だが、今それは関係ない。

 敵勢力かもしれない何者かが近くに来ているという状況だ。油断はしたくない。


 すると、スノーがまた突然、何かを警戒するように一時の方角を見て空を見ていた。


『……何か、飛んできます』

「! 全員、物陰に隠れて! 地面を掘れるモノは急いで塹壕を掘って!」


 小田が慌てて指示を出し、スノーと隣りのウーニャは近くの岩の傍によって隠れた。

 だが、何かが飛来して来たという割には、特に何かが起きる様子はなかった。


「なにも起きないぞ?」

『……いえ、さっきから彼方此方に何かを飛ばしています。それに、妙な耳鳴りもします』

『あ、それはウーニャにもわかるかも。へんな音してるよね』

「変な音? それは機械のエンジンとかプロペラの音じゃあなくて?」

『はい。高音です、それに途切れずに、常に一定で音がします』


 なんだ、そりゃ。まるで電波みたいな事を言い出したな。

 ……電波?


「電波ってまさか――!」



 思い当たる節があると思った瞬間、スノーとウーニャの目の前に一本の長棒が降ってきた。

 棒は地面に突き刺された瞬間にアンテナが展開し、赤点滅をし始めた。



《設置型索敵レーダー》


 攻略サイトの画像でしか見たことはなかったが、特殊な長銃で射出する索敵ユニットだ。効果範囲は物によって違うが、確か半径200~500mだったと記憶している。まあ、例え最低範囲だったとしてもこの瞬間、俺達の居場所は使用者に伝わった事だろう。



「さっそくバレかよ!?」

「ゼタっち、それ壊して!?」

「アンテナ壊したらそれこそココにいるって宣伝してるようなもんだろ!?」

「どの道バレるから今は壊して!」

「ええい!」


 スノーを疾走させて竜骨小太刀で思いっきり叩き切ってやったが、なんだか嫌な予感がしてきたぞ。こう、いままでの敵とは一味違う感じがする。直感だけど、今回の相手は馬鹿ではない。


 すると続けざまにスノーの耳がピクリと反応する。ウーニャですら首を傾げて、スノーと同じ方向を見ていた。



『今度こそ、いつもの機械の音です』

「またドボットかな?」

「その呼称はないわー」

「うるせえ。俺は気に入ってんだよ」

『あーもう! ユキノの精霊ウルサイ!』

『……ごめん』


 そうこうしている内に、スノー達は後方に控えていた前列キャラ達と合流して、同じく向こう側からやってくる敵を待ち伏せする事にした。どうやら相手は接触するつもりでいるらしい。




「全員、待機。魔法による反撃を準備して。その後は追って指示する!」

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