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少年の心を動かすのは芸術よりも浪漫だよ!

 作品制作開始から十日後の事。

 面倒だと思いながらも、俺は目の前に創り上げた物体をよくよく見て、出来の悪さに鼻で笑っていた。



 作品名は「同盟」。



 ぱっと見たらリアルなだけの一本の腕に拳銃が握られているだけの造形物だ。


 だが銃の握っている反対側には、もう一つの手の平があり、そちらでは握手をしようと手を差し伸べる風に手を開いているのだ。


 平和を訴えて同盟を持ちかける時、片手は握手を求めるが、反対では相手に銃を突きつけている。平和とは常に、何かしらの脅威を見せびらかせねば実現しない、という意味合いを表現したかった一作だ。まるで小中学生の被害妄想の塊のような思想だ。



「我ながらなんつーか、全く面白みのない作品だよ。だが学生ならこんなモンだろって線だし、ある意味目立ちゃしないだろ。100点満点中、55点でギリギリ合格って所かな。コイツはきっと才能ないって評価を受けること間違いなしだ」



 ちなみに今回の作品は、いつかの俺が第三の腕のマジックに使おうと思っていた材料の再利用である。骨組は針金、中の肉付けはアルミホイルで、外側の型は紙粘土、肌には質感を出すためにシリコン樹脂液でコーティングしている。塗料は主に化粧品などを使用した。化粧品ならば人間の体を模すのに色の調合の必要性もないから楽だし、手っ取り早い。


 あと拳銃については、スーパーの500円で売られてる安っぽいモデルガンを買って来て、適当に切り落として、不自然な箇所をパテで誤魔化し、見た目の補強もして、それっぽい風に見せたモノだ。後はアクリル絵具で塗りたくった。

 本音で言えばコレも手抜きだな。一から作るとか絶対に面倒くさいし。



「うーん。見れば見るほどに、駄作っぽいな」



 意気込みに反して、材料だけは揃えちゃった“前のめりしちゃってる感”が物凄く感じ取れる作品だ。


 学生が製作しましたって説明しているみたいな出来だ。これなら『落第はしないが上にも行けない』という評価を受けることだろう。それは狙っていた事でもある。芸術学校で変に目立ちしたくないし、何より俺は別に芸術家になんてなる気は毛頭ない。ちょっと今回は事情が七面倒くさいから仕方がなく、それなりの物を製作しただけだ。



 そう、してやっているだけなのだ。


 なのだが……物が完成してしまった今、目の前の物体に物足りなさを感じてしまった。



「うーん。拳銃を持っている側に傷とか増やしたいなぁ。このままじゃ面白みがない。血糊とか確かあったな」



 さっそく演劇のメーク講座の動画などを見て勉強し、リアルな裂傷や打撲の再現を製作してみる。するとコレが思った以上に面白くできて、調子に乗って細かいところまで作っていくと、気が付くとアホみたいに時間が過ぎていた。



「……なーんでまた、こんなもん作っちまうかなぁ」



 駄作だった作品に、駄作に毛が生えた作品レベルに昇華された。怪我だけに。


 ……まあそんな下らない駄洒落はどうでもいい。



「これどうするかなあ。今度は自分に陶酔してる恥かしい奴の作品じゃねえか。もうレクリエーションにでも使うか」


 実際にあるだろ。作品を観客の目の前で壊して、それを「コレが俺の作品です」って動的な瞬間を作品と呼ぶ行為。


 アレでもやらかして、この世からこの作品を消すか。その場合はタイトルを「同盟」から「打破」に変更しなくてはいけないだろうな。


 まあいいか。


 先に風呂でペイント汚れや塗料の臭いを落としてから、自分の部屋に帰った。三時間くらい無駄に父の仕事場(アトリエ)に篭っていたようだ。


 ちなみに部屋の主である親父は、最近は外へ出かけている事が多い。多分、どこかで外注依頼を受けているのだろう。親父の仕事の実体を全て把握している家族は誰もいないので、実際のところは全くわからないけど。辻風家の大黒柱は、大体そんな感じだ。




 そんな瑣末な家庭事情はさて置き、さっそくゲームに戻ろう。


 パソコンの電源を入れてサモルドを起動し、サブ機で攻略サイトと動画サイトを展開して情報収集に勤しむ、いつものスタイルに戻る。その結果、別に事態が進展した事もないのがわかって、背もたれに上半身の力を全て預けた。


 ゲーム内時刻は現実と同じく夜中だった。スノーは一人で洞窟の中で、たき火をして夜を過ごしていた。スノーは耳が非常に優れているので、北の山で隠れて偵察任務に就くことが多くなっていた。



「おーい。スノー。今日はどうだー?」

『ゼンタロウ。お帰りなさいです。こちらは一週間前と変わらずです』

「そっかー」


 ダンケルクから行軍の予行演習のようなモノがあってから丸一週間が経過していた。

 エルタニア本国の方ではそれなりにまともな戦闘が、五分ほどあったらしい。それでメロンソーダが目の負傷と、魔素欠乏症(一時的にMPがマイナスまで落ち込み、HPとSPが削れて行くバッドステータス)で一時戦線離脱宣言していたが……。


 現場を見ていないので、実際どうだったのかはわからない。が、短時間で相当激しい戦場を繰り広げていたに違いない。なにせ、あのメロンソーダが負傷したらしいからだ。あの魔法分野に関しては他の追随を許さないメロンが、だ。


 その負傷も、ころぽんさんが既に教会で高い金を払って完全回復した後らしいから、何も問題ないらしいけど。



 だから次の戦闘の準備は既に整っているのだ。あとは敵の大将が出てきてくれたら一番なのだが。


「うーん。思ったよりも相手は図太いなぁ」

『どうかしたんですか?』

「ネットの方……えっと、精霊同士のコミュニティ内で、ダンケルクの王様をボロッカスに叩いてるわけよ。俺の見立てではあのバッハって奴は我が強いから、不特定多数に叩かれても落ち込む事無く、むしろ『目に物見せてやる!』とか言って反撃に出るタイプだと思ってたんだがよ?」

『ではゼタの目論見が外れた、という事ですかね』

「それだとラックさんの作戦に狂いが生じるんだけどなぁ」



 今になって囃し立てたのは失敗だったかと、頭を悩ませていた。


 第一印象で強気な人だと思ったのだが、もしかしたら周囲から強気で振舞えと言われてきたタイプだったのかもしれない。だとすると可哀想なことをしてしまったかもしれないな。

 いや、気にすることはないか。豆腐メンタルな奴がギルドの……ましてや一国のリーダーなんてするもんじゃあない、という教訓が得られるいい機会だと思ってもらおう。出回った誹謗中傷は今更消す事なんてできないからな。内容だって、敗北してるのは事実だし。



 とにかく、今日はこのままスノーと雑談して終わりかな。と思っていたのだが、手に持っていた携帯にコメント投入を知らせるタブが流れてきた。その人物は、ダンケルクで今尚潜伏して敵の同行を探っていたティンのプレイヤー、ダイスからだった。


 なにやらコメントでは「地震がした」とか「巨大な影が動きだした」とか要領を得ない発言だった。はてさて、何の事やらと思っていると、複数の画像が次々と張り出されてきた。



「うわ! なんだこの一等、頭の悪い浪漫の塊は!?」



 思わず内容でニヤついてしまった。


 画像には、巨大な影とやらのシルエットの全貌が映っていた。背景の山と比べても、その巨大さは常軌を逸していた。シルエットの物体は一山ほども大きさで、戦艦を二つ、横に並べて間に橋をかけ、真ん中に司令塔のような物を乗っけたような形をしていた。


 巨大な単砲が二門、それぞれ左右に取り付けられており、甲板には輸送ヘリやドワーフ達が乗る大型ロボット(ドボット)の姿もありそうだった。地面には巨大なキャタピラのようなものが複数見えるので、地面をゆっくり移動するタイプなのだろうと予測できる。


 なんだろう。これは移動要塞とでも呼べばいいのか?



『どうしたんですか?』

「よろこべ、スノー。敵はついに隠し玉を使ったぞ」

『なるほど。これでようやく、戦争とやらも終わるのですね』

「ラックさんの戦略が上手く機能すればな」



 だけど、こんな巨大兵器が出てくるとは思わなかったなぁ。仮に作戦が機能しても、効果があるんだろうか。ちょっと心配だ。


 あと、もう一つ大事な確認が残っていた。この移動要塞の進路先だ。


 コイツの最終目的地は恐らくエルタニア王都だとして、考えられるルートは二つ。


 一つは奏とリトさんが待ち伏せていた北部辺境を通る北側迂回ルート。こちらは平野も多く、移動要塞の動きも阻害しにくい。


 もう一つはスノーのいる『ルエ』と『エダン』の連山の溝を掻い潜っていく南ルート。ただし、シターニア大森林を突き抜け、更にルエ山脈も大きく迂回するので、かなり距離がある。北ルートと比べると距離が二倍ほどに長いだろうか。


 エダン山脈を越えるのは考えにくい。なにせ足がキャタピラで図体もでか過ぎる。何かしら隠し兵器があるのなら抜けてくるかもしれないが、現状では山越えは不可能な構造だと考える。



 さっそく、ダイスさんに移動要塞が何処へ向かったのか聞き出した。


 どうやら予想通り、敵は北側への進路を取っていた。



「スノー、残念ながら敵は俺達の方へはきてくれないらしい」

『なぜ残念がるのですか……』

「いや、一度この目で動いてるところを見物したいって思うじゃん?」

『観光気分ですか。のん気ですね』



 それから俺はラックさんからの指示を仰ぎ、今後はアゲイルや対ドワーフ抵抗軍と共に北上して敵の背後を追いかける事とする。俺達はやっと退屈な時間が終わったのだと喜び、明日の移動を楽しみにしていた。


 この時までは、まだ見ぬ巨大要塞の造形に夢を膨らませていた。或いは忍び込んで人知れず内側から停止させてやろう、だなんて一人戦果を抜け駆けして稼ごうだなんて、妄想していた。


 残念ながら、そんな事にはならなかった。

 何せ俺とスノーは、移動要塞なんて物よりもよっぽど厄介で面倒な強敵に狙われていたからだ。

本当は【征け! 超弩級移動要塞タローン!】というサブタイで行くつもりでした。

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