白雪姫は男装の麗人に恋をする
「なぁ、あの子可愛くない?」
「ほんとだ!めっちゃっ美少女!」
「きゃー、お人形さんみたい!」
(はぁ・・・またか・・・)
周りからヒソヒソと聞こえてくる声で、僕は密かにため息をつく。
休みだけど、特に予定がなかったので、僕は駅前の喫茶店でゆっくりと読書を楽しんでいたが、結局こうなった。
ほんとは馴染みの喫茶店に行きたかったけど、マスターが新作ゲームをやるために臨時休業になっていたため、仕方なくこちらにきたが、失敗だった。
本を閉じて席をたつ。これ以上面倒事になる前に立ち去らないと・・・
「なぁなぁ、お嬢ちゃん。ちょっと付き合えよ。」
そう思っていたのに、いつの間にか複数の男が僕を囲んでいた。
表情はどれも見慣れた下品なことを考えているであろう表情。
ため息をつく。僕は、そのまま横を抜けようとすると、とたんに肩を捕まれる。
「無視してないでさ、一緒に行こうぜ。」
「そうそう。抵抗しなければ、痛くはしないからさ。」
「むしろ気持ちよくしてやんよ(笑)」
口々にそう言ってくる男たち。
周りの客は何事かとこちらをみている。店の店員もバイトなのかあたふたしながらこちらをみていた。
面倒だが、仕方なく僕は真実を告げるべく、口を開こうと・・・
《カシャ》
しようと、したところで、後ろからカメラのシャッター音らしき音が聞こえてきて振り替える。
「女の子に複数人で乱暴はいただけないな。」
そこにいたのは、偉いイケメンだった。
輝く金の髪に、澄んだ蒼い瞳。180㎝はありそうな背丈に、優しそうな雰囲気。
男性にしては、少し高い声だが、そこがまた不思議と似合っている。
まさに、物語の王子様みたいな人物がそこにはいた。
その人は、こちらにスマホを向けてにこにことしていた。
周りの男たちが、気づいてそちらを向く。
「なんだ?テメェ?こいつの知り合いか?」
「いや、違うよ。」
「なら、口だしてんじゃねぇーよ!ぶっ潰すぞ!」
「おっと。それは怖い。」
おちょくるように肩をすくめるイケメン。
その仕草に頭にきたのか、リーダーらしき男が近づくが、イケメンはなにやらその男にスマホをみせながらこそこそとなにかを話しはじめた。
すると、途端に顔が青くなる男。
「な!なんでそれを・・・」
「いいから、今日は引いてくれるかな?じゃないと・・・」
「ちっ・・・テメェら!行くぞ!」
困惑する仲間をつれて、呆気なく立ち去る男たち。
どうやら、助かったらしい。
僕は、助けてくれた人物・・・イケメンに向き合う。
「あの・・・ありがとうございます。」
「ああ。気にしないで。うるさかったから黙らしただけだし。それより、少し話をしないか?」
「ええ。いいですよ。」
流石に同じ場所では他の客に迷惑だろうと、お会計をしてから、店の人に謝って別の店へと移動する。
移動したのは少し古びた喫茶店だった。
はじめて訪れる喫茶店はドキドキして好きだ。
席について、マスターに注文をしてから改めてイケメンに向き合う。
「改めて、さっきはありがとうございました。」
「別にいいよ。でも、女の子一人で駅前にいるのは危ないよ?」
「あの・・・そのことなのですが・・・」
さっきからの勘違いを正さねばならない。
「僕は男です。」
「・・・・・えっ?」
フリーズするイケメン。
まあ、はじめての人ならそうなるわな・・・
「自己紹介をしますね。僕の名前は内田ゆき、松島高校の2年生で、男です。」
「内田・・・もしかして、君が松島高校の『白雪姫』かい?」
「そのあだ名はキライなんですが・・・それを知ってるてことはあなたも松島高校ですか?」
「うん。3年の藤堂シンだよ。よろしくね。・・・にしても君が『白雪姫』か・・・まさかお目にかかる日がくるとはね・・・。」
イケメン・・・藤堂先輩はなにやら面白そうにこちらをみていた。
「あの・・・」
「ああ、ごめんね。まさか似たような人種に会えるとは思わなかったから、ついね・・・」
「似たような人種?」
不思議ないい方をする先輩。
すると、先輩は見惚れるくらいの笑顔を浮かべた。
「うん。だって、私は女の子だしね。」
「・・・・・はい?」
思わずフリーズしてしまう。
女の子?藤堂先輩が?
「性別は違うけど、まさか同じような人に会うとはね。人生面白いものだね。」
しゃべっている先輩を思わず見つめてしまう。
どこから、どうみても男にしか見えない。
でも、確かに、男にしては声が高いし、真っ白な肌と、どことなく、女性っぽいような・・・
「不思議な表情だね。」
「あっ・・・・すみません・・・。」
「構わないよ。慣れてるし。なにより、私も君が本当に男なのか不思議に思ったから。」
確かに、僕も見た目は女の子にしかみえない。
黒髪は肩口まで伸ばしていて、普通の男子よりは長いし、顔立ちも幼く、背丈も150㎝しかない。
なにより、自分でもびっくりな肌の白さでもはや性別を間違えたとしか思えない。
「まあ、そうですよね・・・。」
「私も昔から男に間違われてね。君の気持ちはなんとなくわかるよ。別に女装している訳ではないんだろ?」
「当たり前ですよ。」
確かに、見た目美少女な僕だが、女装癖がある訳ではない。
「先輩も男装ではないですよね?」
「まあね。もっとも、女性的に成長してからはちょっと色々あって、少し意識して中性的にはしているけどね。見た目が男みたいでも、女と分かれば襲おうとする輩もいるし。幸い、実害はないけどね。」
「先輩・・・」
軽い口調だが、僕も過去に色々あったので、先輩がどれだけ大変なのかは分かる気がする。
だから・・・
「先輩。お互い大変ですが、頑張りましょう!」
笑顔で僕はそう言った。
下手に言葉を重ねても伝わらない。
だから、同じような境遇をもつ先輩にはこうしたほうがいいだろう。
先輩は少し驚いた表情をした後に少し照れたように微笑んだ。
それから、3日後・・・僕は何故か生徒会室で藤堂先輩とお昼を食べていた。
どうしてこうなった・・・
こないだの、休日に先輩と話をしてからどうやら気に入られたようで、お昼を一緒に食べようと教室まできて、誘われた。
藤堂先輩が教室に来たとたんに周りの女子生徒の悲鳴と、僕への嫉妬のようなものが凄かった・・・
「ゆきの弁当美味しそうだね。自分で作ったの?」
遠い目をして考えていたら、先輩にそう声をかけられる。
何故か、名前で呼ばれてるんだよね・・・
「ええ。家族はあまり家事が出来ないので、必然的に覚えまして・・・」
「そうなんだ。私や私の家族は料理出来ないから羨ましいよ。よければ、今度作ってきてくれないかい?お金は出すからさ。」
「いえ。お金はいらないです。一人分くらいなら対して変わらないですので。でも・・・先輩は僕の料理で大丈夫ですか?」
先輩は結構なお金持ちで、有名な会社の社長の息子・・・じゃない、娘さんだから、僕の料理はあうかわからないけど・・・
「君のがいいんだよ。」
そう言って微笑む先輩。
その笑顔に見惚れてしまって、結果的にこの日から毎日弁当を作ることになった。
先輩は僕の作った弁当を美味しそうに食べてくれるので、なんとなくうれしい。
家族は昔からだから感想とか言ってくれないし・・・
そんな感じで、充実の日々を送っていたが、ある日僕は体育館裏に呼び出された。
正直、嫌な予感しかしなかったが、先輩の話と呼び出しの手紙にはあったので行くしかなかった。
場所に着くと、そこには複数の女子生徒と数名の男子生徒がいた。
近付くと、集団にいつの間にか囲まれてしまった。
そのなかでリーダーっぽい生徒が声をかける。
「単刀直入に言うわね。シンに近付かないで。」
「何故か聞いても?」
「もちろん。あなたはシンにふさわしくないからよ。」
当たり前のようにそう言う女子生徒。
周りの人も口々に「泥棒猫」だの「卑しい輩」だの言われる。
なんだか、激しく配役を間違えている気はするけど、あのイケメンぶりと、僕の容姿を考えるとしっくりくるのが残念だ。
「聞いてるの!」
「聞いてますが、なんであなた方がそれを言うのですか?」
「もちろん、シンの為よ!」
「本当に?」
あくまで冷静に問いかける。
「本当に先輩のためなら、僕も特には反論はしません。でも、それは別に先輩が言ったことではないから僕に聞く義理はないですよね?」
「な・・・!」
「先輩が、僕のことを邪魔だと言うならもう接触はしません。でも、それは先輩本人から言われたらであって、あなた方からどうこう言われることではありません。そもそもあなた方は先輩の何なのですか?」
「な、何って・・・」
「恋人でしょうか?それとも友達?まさかクラスメイトとか言わないですよね?」
「ぐっ・・・・」
図星なのか言葉につまる女子生徒。
この感じだと、先輩に一方的に思慕しているとかかな・・・
「僕は先輩の味方のつもりです。先輩がいらないと言えば離れますが、あなた方の言うとこ聞けません。これが答えです。」
僕はそう言い切った。
しばらく、なにやら肩を震わせていた女子生徒だけど、にやりと笑った。
「そう・・・だっから、力づくでも言うこと聞いてもらうわね!」
女子生徒が指示すると列の後ろから何人かの大柄な男子生徒が出てきた。
「この人たちは、君みたいな《男の娘》が好きらしいのよ。だから・・・相手をしてあげてね。」
にやりと暗く笑う女子生徒。
それと同時にこちらに迫ってくる男子生徒。
咄嗟に退路を確認するが、抜けられそうもない。
そうこいしているうちに、男達の手が僕の制服に触れて脱がそうと・・・
《カシャッ》
・・・したところで、またしても聞こえたカメラのシャッター音。
「私の可愛い後輩に何をしているんだい?」
そして、聞こえたあの人の声。
いつの間にか僕を掴んでいた男子生徒を引き離し、僕は何かに抱きつかれた。
見上げると、見慣れた金髪と蒼い瞳のイケメン。
そう間違いなくこの人は・・・
「先輩!」
「遅くなってごめん。もう大丈夫だよ。」
そう言って微笑む先輩。
どこまでも優しく微笑む先輩に、僕は思わず安心して、笑みを浮かべてしまう。
「どうして・・・」
女子生徒の一人がそう呟く。
先輩は僕を力強く抱き締めると、そちらをみた。
「ねぇ?君達は私の可愛い後輩に何をしているんだい?答えてくれるかな?」
「あ、え、わ、私たちはシンのために・・・」
「名前で呼ばないでくれ。不愉快だ。それに、私のためだと?」
声に幾分か怒気がこもる先輩。
「本当に私の為なら、今ここから早急に消えてくれ。じゃないと・・・」
「ひっ・・・!」
先輩の浮かべた表情に怯える女子生徒。
「これからの人生はないと思うよ?」
そう先輩は悪い顔で微笑むと、途端に逃げ出す連中に、思わず苦笑いしてしまう。
「ゆき。大丈夫?」
心配そうな先輩に笑顔で首肯く。
「そう。でも、無茶はしないで。君がひどい目にあうのは見たくないから・・・」
「先輩。」
泣きそうな表情の先輩に僕は先輩の手を握って微笑んだ。
「助けてくれて、ありがとうございます。大好きです先輩。」
「ゆき?」
「えっと、実はいつの間にか先輩に恋してしまったみたいで・・・こんな女々しい男じゃ不服かもしれませんが・・・」
勢いのまま、告白してしまったが、後悔はしてない。
泣きそうな表情の先輩なんて見たくないから。
すると、先輩は驚いた表情から一転してこちらを赤い顔で見つめてきた。
「そんなことはないよ。それに、私も君が大好きだからね。こんな男みたいな女でよければ恋人になってくれるかい?」
「先輩だからいいんです。先輩。大好きです。」
「ゆき・・・」
そうして、どちらからともなく、顔を近づけ、軽いキスをする。
お互い照れ臭そうな表情だろうが、笑っていられた。
それから後に、松島高校のバカップルとして有名になるのはもう少し後の話だった。
お読みいただき、ありがとうございます。