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集中力

 思いもかけずに、王都への誘いがきて数日、僕の王都行きは皆の知るところになる。


 同じ宿舎の幾人かは祝福の言葉を送ってくれた、ロイドもその一人だ、自分の事の様に喜んでくれた。

  しかし不満に思う闘士もいる、当然といえば当然だ、チャンピオンであるブルを差し置いての話しなのだから。

 

 僕自身でも少しの引け目はあるが、そんな事をいちいち気にしてはいられない。


 そんな日々の中で、思いもかけない話しが届いた。

『ブルとの試合ですか?』


『ああ、今のままお前を行かせると、闘士達に不満が残りすぎる、それはコロシウムの運営に関わるからな、お前には残念だがブルと試合をして勝った方が王都行きだ、ネイマル様にも承知してもらった』

 そう管理人は僕に告げる。


『はい、分かりました』

 迷わず返事をする、どちらにせよブルに勝てないようじゃ王都では通用しないだろう、勝ってスッキリ王都行きを決めてやる。


 試合は一月後と決まった。

 今は、訓練場でシャドーを行っている。


 目の前にガードを固めて向かってくるブルをイメージする。


 ジャブを放つ、リーチは僕の方が長い、しかしブルは多少の事では揺るぎはしないだろう、懐に入らられば危険な闘士でもある。


 ブルの試合を見てから、飯もたくさん食べるようにし体を鍛えた。

 けれど、まだブルのあの岩の様な肉体に勝てるイメージが湧かない。


 まだ足りない、このままでは勝てない、あのガリシア戦の様な集中力を出せれば勝機はあるが、あの集中力を自在にだせる様にならなければ。


 息を吐く、自分の呼吸、肉体の僅かな動きに注意をむける。

 集中しろ。

 シャドーを再開する。

 良い動きができているとは思う、だけど足りない。

 周りの喧騒が邪魔だ。

 もっと静かな場所なら、いや、試合の方がもっとうるさかった、そうゆう事ではないだろう。


 絵を描いていた頃は苦もなく入れていたのに。

 僕はどうやって絵を描いていたのか、不意に思いつき、小さな枝を拾うと地面に絵を描いてみる、酷く描きづらい、それに下手になっている気もする、落胆したし昔の様に絵の世界に入りこめはしなかった。


 悔しくて、暫く描き続けていると、段々と楽しくなってきた、この描きづらい枝も地面も、やりようによってはそれなりの味を出してくれる。

 初めは、目の前の木を描いていた、次に近くで練習している闘士、次に記憶の中のブル、そして自分を描いていく。

 最後にコミトを描こうとした時。


『帰るぞレン、もうすぐブルとの試合だっていうのに、何を遊んでるんだ』

 肩を揺すられて、振り返ればロイドがいた。


『遊んでいた訳じゃないんだけどな』

 気づけば日も暮れはじめ、訓練場にはロイドと僕しかいなかった、ずっと地面に何かを描いている僕は、はたから見たらかなり滑稽に映った事だろうと思い、苦笑いを浮かべる。


『んっ! これはレンが描いたのか上手えな、こいつはブルか? んでこれがレン』

 ロイドが僕の絵を見て言う。


『そうだけど』


『こいつ凄えな、レンは拳闘だけじゃなく絵も上手えなのか、俺はこうゆうのは、できねえから凄えと思うね』


 ロイドに褒められて、思わず照れてしまう。


 それから、ロイドに画家になりたかったかと、ガリシア戦の事、集中力をつけたくて絵を描いていた事を話した。


『なるほど、画家さんになりたかったのか、んで集中力ね、確かにさっきのレンは俺が肩を揺するまで全然気づかないくらい集中してたからな』


 ロイドの言葉で気づく、そう言えばさっきの感覚は昔の感覚に近かった。

 一体、どうやって集中していたか思してみるが、それほど集中しようと思っていたわけではなかったはず、ただ段々絵を描くのが楽しくなって、気付けばと言う感じだ。


 ハッキリとはしてないが、何か分かった気がする。

『ロイド、ありがとう』

 僕がお礼を言うと、ロイドが驚いた顔をする。


『何だよ急に、驚くじゃねえか』


『何だか掴めたような気がする、ロイドのおかげだよ』


『そうか、よく分からんが、助けになれたならよかった』

 興奮して話す僕に、ロイドが戸惑いながらそう返した。


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