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ガリシア

  ブルの試合を見てから、三試合を行なったがそれほど苦戦する事なく勝利する事ができた。

 

 あれから、試合の賞金で食事を多く摂るようにしている。

 ブルのパワーに負けない体を作るために、そのかいあってか、今では体が以前に比べてガッシリと大きくなっている。


 次の対戦相手は、僕が見た試合でブルに負けた男ガリシアだ。


 ブルには手も足もでず負けてしまったが、弱い闘士ではない、あの長い腕から繰り出されるパンチは厄介の一言に尽きる。

 しかし、ガリシアごときにつまづいていては奴隷解放など夢物語になってしまう。


 勝つ!


 強く拳を握りこんだ。


 ガリシア戦


 闘技場の中央に立つ、ガリシアと視線がぶつかる、以前見た顔と違う、一欠片ほどの油断も見えない。

 ブルに負けて自信を失ったかとも見えるが、むしろ浅はかな自惚れをすて、深い自信を手に入れた様に見えた。


 手に保護するための麻布がキツく感じる、いつのまにか、拳を握りこんでいた。


 体が震える、以前のガルシアではない、強くなってやがる。


 顔がにやける、緊張を打ち消すためか、初めての強敵に喜んでいるのか自分でも分からなかった。


 ゴォォン


 構えをとる


 笑みを消し構えをとる。


 ガリシアの構えは以前見たときと同じだ。


 ゴォォン


 シッ


 2回目の鐘の音と共にガリシアがジャブを打ち込んでくる。


 頭を振り避けるが、頬にガリシアの拳が掠る。


 チリチリと頬に痛みが走る。


 速い!


 それに威力もある! このパンチをブルは弾き返したのか、いや、強くなっているんだガルシアが


 ガードを固めて、ガリシアに滲みよる。


 ガシ、ガシと、ガリシアのジャブが僕の腕を軋ませる。


 ガリシアの右ストレート


 避けて、踏み込む。


 ボディに右ストレート。


 手応えを感じる。


 そのまま左フックにつなげる。


 ガリシアも、左を上から叩きこんでくる。


 頭で受けて、気にせず連打をたたみこむ。


 このまま押し切ってやる。

 

 次の瞬間、ゾクリと悪寒が疾ると、顎を打ち上げられた。


 視界が歪む。


 振り下ろされる、ガリシアの拳がうっすらと感じられる。


 なりふり構わず逃げて避ける。


 距離がまた離れてしまった。


 さっきのはアッパーか、厄介だ、ブルとの試合ではみせなかったのに、ブルにリベンジするために練習したのか。

 強い! 一瞬脳裏に負ける自分の姿が過ぎる。

 ダメだ、ガリシアは確かに強いが、それでもこの程度の相手に負けるわけにはいかない。


 集中しろ、全部見切ってやる!


 ガリシアに近づく、ジャブが飛んでくる、今度は受けずに避ける。


 今までの誰より速い! でも見切れる。


 避ける、避ける


 避けながら近づくが、数発避けるとバランスが崩れて、ガリシアの拳に捕まる。


 避け方が大きすぎるんだ、もっとギリギリて避けなければ。


 集中! 集中! 集中!


 精神が研ぎ澄まされてゆく、観客の野次も気にならない、自分が奴隷である事も忘れる。


 懐かしい気持ちになる、 やってる事は違うのに、絵を描いていた時の気持ちを思い出した。


 キャンバスと筆、自分の描きたい物、それしかない自分だけの世界、静寂に包まれた穏やかで、すこしだけ寂しい、僕の大好きだった自分だけの世界。


 今も同じだ、この世界にガリシアと僕だけしかいないような感覚。


 ガリシアの肩の動き、筋肉の緊張、視線、呼吸、全てが視える。


 ガリシアに向けて踏み込む。


 こんなにガリシアのパンチは遅かったか?


 避ける! 避ける!


 ジャブも、右ストレートも!


 踏み込んでパンチを放つ。


 アッパーがくる、今度は見えた。


 当たるまえに腕で抑えて止める。


 ボディにフック


 ガリシアの頭が下がる、そこに右ストレートを撃ち抜いた。


 ガリシアは崩れ去る。


 審判がカウントを取り始める、ガリシアは立ち上がろうとするが、膝を伸ばそうとしてまた転がってしまう。


 勝者レン!


 勝利を告げられた後、僕は気づくと係の人間に支えれているガリシアに近づいていた。


 ガリシアと目が合う、ガリシアが訝しげな表情をする。


 僕は何をしたいのか? ただ、心に浮かんだ言葉があった。


『ありがとうございます』

 僕は頭を下げる。


『何のつもりだ! 俺を嘲笑ってるのか?』

 ガリシアが怒りを滲ませる。


『いえ、ただ、初めて拳闘を楽しいと思いました、きっと貴方が強かったからだとおもいます』


『なんだそれは馬鹿にしてるのか、俺は楽しくないぜ、お前が楽しいのは、強い俺に勝ったからだろ』


 ガリシアの言葉にハッとさせられる、そうなのだろうか、僕にはまだ分からなかった。


『すいません』

 失礼な発言だったな、頭を下げ闘技場の出口に向かう。


『オイ!』

 後ろからガリシアに声をかけられる


 振り返りガリシアを見る。


『少しだがな!』

 ガリシアが言う。


『少し?』


『ほんの少しだけだが、俺も楽しかったよ! だがな、その10倍悔しいぜ、覚えとけよ、次は俺が勝つ!』

 そう言ってガリシアが、笑顔を見せた。


『はい! 忘れません』

 僕も笑って、頭を下げる。


『けっ! 変なやつだぜ』


 僕達は闘技場を去る、不思議なほど、清々しい気分だった。




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