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思い

ゴッ! ゴッ! 鈍い音が、響く。


壁に向かい拳を淡々とぶつける。


血が滲み、鈍い痛みが疾る。


周りで訓練している物たちが不気味な物を見る様に視線を向けてくる。


けれど、そんな事はどうでもよかった。


慣れ合いをしている暇はない、一気に上までたどり着いてやる。


『何をやってんだ、あいつ』


『気にすんな、あいつは前からあんなだ』


周りを無視して、拳をなおも打ち続ける。



その日の練習が終わり。


『レン、何であんな事をしたんだ?』

先輩闘士の、ロイドが話しかけてきた。


ロイドは勝ったり負けたりで、それほど強い闘士ではないが、負け方が上手いというか、あまり酷い怪我をしない男だ。


何とかノルマを果たし、引退できれば安全な奉公奴隷になりたいと以前聞いた事がある。


『あんなこととは?』


『壁を殴っていたことだよ』


『拳を強くするためですよ』


『そりゃ、分かるけど、俺だってちょっとくらいはやるさ、拳が硬いのは特だからな、でもやり過ぎだろアレじゃ拳を痛めるだけだ』

そう言うと、ロイドは僕の血が滲んだ拳に目を向ける。


『やってみなきゃ分からない』


僕がそう言うとロイドは一呼吸置いて口を開く。


『何をそんなに焦ってんだレン、お前は天才だよ、俺達とは違う、そんなに焦らなくてもいずれ上にいけるさ』


『そんなに甘くないよ、それにいずれじゃ遅いかも知れない』


『遅いって、何か事情があるのか?』

僕の言葉にロイドが反応する。


しくじったな、つい口を滑らしてしまったよ。

『なんでもないよ、気にしないでくれ』


『なんでもなくはないだろ、良いから話してみな、拳闘士としては、もうレンにかなわないが他の事なら話しくらいきけるぜ』

真剣な表情をロイドが見せる。


ロイドになら話してもいいかと思う。

ロイドは人柄がよく、ガラの悪いやつらばかりの拳闘士達の間でも信頼されてる。


あまり、他の闘士とは関わらない僕にも気安く話しかけてくれる数少ない人間だ。


『幼馴染も奴隷になってるかも知れないんだ、その子を解放したいんだ』


誰にも言わずにいた思いを打ち明ける、馬鹿にされるだろう、奴隷の身で他の奴隷を解放したいのだと、まず探しだせるかもが難しいのに。


『その幼馴染ってのは女の子なのか?』

ロイドは笑わずに真剣な顔でたずねてくる。


『そうだけど』


『なるほど、惚れた女のためにそんなに頑張ってんのか、カッコイイなレン』

ロイドが笑みを浮かべる、けれど揶揄う様なそぶりではなく、爽やかに。


『惚れたとか、そんなんじゃないよ、ただ心配なだけだよ』

ロイドの言葉を慌てて否定する、顔が熱くなってしまった。

『照れるな、照れるな、いいじゃないか! 案外レンも可愛いところがあるんだな』

そう言って、ロイドがガハハと笑う。


ロイドの笑い声を聞いて、他の闘士が何事かと聞いてくる。


止めるまもなく、ロイドが他の闘士に話してしまう。


話しはどんどん広まってしまった、顔を赤くして僕が否定をすると余計に火をそそいでしまう。


次の日には、同じ宿舎の闘士は皆に知れ渡ってしまった。


流石にやり過ぎたとロイドが謝りに来たので、一発腹に入れてやった。


最悪だとも思ったが不思議と暖かい気持ちにもなれた。


それから、何となく他の闘士達と仲も穏やかになった気がする。


少し、焦り過ぎていたかなと

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