チャンピオン
二試合目の日がくる。
今日の相手は、三勝二敗、そこそこな成績だ。
実力は大した事ないが、前の相手の様に油断をしている様子はない、目は真剣にこちらを見据えている。
僕に油断はない。
ゴォォン
構えを取る。
ゴォォン
一歩踏み出す、
相手も一歩踏み出す。
間合いに入る
相手がさらに、踏み込みながらジャブを打とうとする。
遅い!
相手が打つ前に、ジャブを打つ。
相手の顔が跳ね上がる。
もう一発。
相手が堪らず後ろに下がる。
踏み込んで、右ストレートを鳩尾に打ち込む。
呻いて崩れる、相手。
『勝者、レン!』
三試合目
相手は新人だった見れば分かるくらいに緊張している。
ゴォォン
開始の鐘がなっても動きはない、少しプレッシャーを掛ければ、慌ててバランスを崩し、軽く右ストレートを顎に打ち込むと、あっさりと倒れた。
『勝者、レン』
試合に勝つと報酬がもらえる、大した額ではないしコロシウム周辺でしか金は使えないが。
三連勝した金を使い、俺はこのコロシウムのトップの試合を見ることにする。
周りからは折角の報酬で他人の拳闘を見る等頭がオカシイと思われたが。
俺はもっと強くなりたかった。
そのためなら何でもする、酒も、ご馳走も、贅沢なんてのは解放されてからすればいいことだ。
コロシウムのチャンピオン、【猛牛のブル】が入場してくる。
眼光鋭く、岩の様な男だ、背はそれほど高くない、
180センチもないんじゃないか?
闘士にされる奴隷はだいたい体格のいい者だ、僕も奴隷になった時に176センチあり、今では186センチある。
背は低い、けれど丸太の様な手足、太い首、弱くは見えない。
相手も入ってくる、戦績は12戦12勝、連戦連勝で駆け上がり、ついにチャンピオンに挑戦ときた。
まだ若い、好戦的な目に自信を宿し、真っ直ぐにブルを見つめている。
こいつも、上を本気で目指してやがる、ブルも通過点とか考えているのだろう。
ブル自身王都からの誘いがかけられかもと、噂される男。
ブルを倒せば、王都への道は大きく前進するだろう。
ゴォォン
二人が構える。
ブルはドッシリと腰を落として構え、両手を顔にくっつける様にガードしている。
挑戦者は、反対にアップライトに構え、前にある左手は腰の位置に下ろしてある。
ゴォォン
ブルが頭を振りながら近付く。
挑戦者が射抜く様な鋭いジャブを放つ。
ゴンと鈍い音がする。
ブルが額でジャブを受け止めたのだ。
挑戦者が顔をしかめた。
あれだけ、しっかり受け止められたら、殴った手の方が痛いであろう。
ブルがさらに踏み込み、左フックを放つ。
挑戦者はガードするが、体が軋む。
ブルは止まらず体を振り右フック。
まだ止まらない、次々と繰り返される左右の連打の前に、挑戦者はあえなく、崩れ落ちる。
『勝者ブル!』
挑戦者は弱くはなかった、それゆえに、ブルの強さに背筋に冷たい汗がはしる。
あいつに勝たなければ、王都には行けない。
もっと強くならなくては
まだブルに勝つイメージが湧かなかった。
ブルの強さに衝撃を覚えたが、得る物はあった。
ブルの戦い方、ガッチリ、ガードを固めて近づき
近づいたら左右の連打で仕留める。
馬鹿みたいに単純だが、ブルの強靭な肉体で行えば、恐ろしく強い。
僕も知らずに戦えば、今日の挑戦者と同じ目にあった事だろう。
やはり、肉体の強さは重要だ。
ブルのあの肉体、パワーもそうだが、ジャブを受け止めて、怯みもしない首の強さも驚きだった。
自分の体を見る、昔の自分からは考えられないほど、鍛えられているが、まだ足りない。
これじゃ、王都では通用しないだろう。
飯だ!
もっと食わなくてはならないな!
込み上げてくる熱い思いと共に、決心をする




