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神殺戦艦『金剛』 無敵の俺と電脳な私  作者: 井上欣久
破滅する世界 ガスフライヤー『金剛・改』
9/69

1-8 チート無用の無双バトル

 貨物宇宙船は残念ながら攻撃対象外となった。リョウハは気持ちを切り替えて生物兵器(レパス)の殲滅に集中する。


 背面の機動ユニットを停止させて慣性移動に移る。

 空間狙撃銃を構える。

 MK-775は古式ゆかしい普通の銃だ。発射するものは実体弾であり、レーザーでもビームでもない。発射方法も電磁加速などではなく火薬式だ。携帯用の電磁加速銃(レールガン)も実用化されているが、宇宙空間で使うには反動の問題がある。火薬式ならば発生したガスをそのまま後方へ逃がせば無反動化できる。銃の尾栓がない分威力は低下するが、そこは火薬の性能を上げることで対応している。


 リョウハはいつもの低威力のゴム弾ではなくメタルコートした強装弾を薬室に送り込む。

 大昔の分類なら対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)に相当する破壊力を持った実弾だ。


 生き残りの準人型とそれより大型の複座型宇宙機が逃げ回っているのを見つける。


 まずはアレを。


 生物兵器(レパス)が振りかぶった鎌の付け根を狙い撃つ。

 鎌はちぎれた。回転しながら飛んでいく。


 ヤツの甲殻は見た目ほど硬くないようだ。

 被鋼弾より対生物用の軟式弾頭(ナマリダマ)の方が良かっただろうか?


 次は生物兵器(レパス)の頭部と思われる部分を狙撃する。

 これも命中。

 頭部に大穴があき、今度は本体が回転をはじめる。


 思ったより簡単に済みそうだ。


 そう思った次の瞬間には覆される。

 被弾したレパスのお尻から糸がでた。糸を振った反動で回転を制御する。回転が止まった時には頭部の損傷も跡形もなく消えていた。


 再生能力もち。

 生物兵器としては極普通の能力だが、あの再生スピードは反則級だ。


 リョウハは狙いを変える。


 どれほどの再生能力があろうと、兵器としてその行動を制御する核がどこかにあるはずだ。中枢神経として頭部にあるのが一般的だが、そうでないなら身体の中央付近だろうとあたりをつける。


 目についた生物兵器(レパス)のうち二体を続けて狙撃した。一体目はカブトガニのような姿の完全な中央を、もう一体はやや前方よりを狙い撃つ。

 正解はやや前方よりだったようだ。そちらは再生が始まらない。

 それを確認して、もう二体ほど狙撃する。

 ここは宇宙空間だ。当然、銃声は響かない。銃口からの光も極力まわりから見られないように設計されている。

 こちらを探し始めるカブトガニたちをしり目にバーニアを吹かして方向転換。ガスフライヤーを取り巻く作業アームの陰に隠れる。


 軽く移動しながらもう三体ほど撃ちぬく。

 どうもあいつらはセンサーの性能が悪いようだとリョウハは思う。

 思った直後に自分の側のセンサーも調子が悪いのに気づく。自分の目で直視して攻撃すれば何の問題もないが。


 遂に発見される。


 完全にこちらを目視したはずなのにまだためらっている。その間に弾倉を交換。さらに撃つ。


 生物兵器(レパス)たちのためらいは生身の人間への攻撃禁止の条件付けのせいだ。だが、仲間が次々に斃される中、そんなものは吹っ飛んだ。

 イオンロケットを吹かして加速する。糸をあちこちに貼りつけて弧を描いて移動する。


 相対速度が武器になるのは亜光速物体を相手にするときだけではない。最大加速した生物兵器(レパス)がすれ違いざまに鎌を振るえば、いかに戦闘用強化人間と言えども真っ二つにされる。今は装甲服を身に着けていないのでなおさらだ。

 が、そんな死地にいながら彼は笑っていた。


 細かくバーニアを吹かして遠距離からの糸の貼り付けだけは避ける。

 あとはやりたい放題だ。

 迫る鎌の側面に掌を打ち付けて受け流す。

 鎌が当たるより早く両足を敵の本体に接触させてそのまま着地する。着地した後は零距離射撃だ。

 敵を蹴り飛ばして進路を変え、同士討ちさせることまでした。


『変ですね。お嬢様のお作りになった戦闘生物ってこんなに弱かったのですか?』

『あり得ない。キング指定とは言えただの強化人間にここまで圧倒される訳がない』

『ですが、現実は直視いたしませんと。中尉とレパスたちの戦力比は100対1ぐらいにしか見えません』


 余計な通信が入ってきた。

 この通信を敵対行為に勘定するのは……無理か。


「この程度の相手ならただの作業だ。戦闘にもなっていない。弾数さえあれば1000体でも処理できる」

『そこまで言う?』

「ただの事実だ」

『フンだ。レパスちゃんたちはまだ負けてないもんね』


 まだ奥の手でもあるのか?

 むしろ楽しみ、と考えた直後にリョウハは冷や汗をかいた。


 見切りが狂った。


 もう至近距離まで来たと思った生物兵器(レパス)がまだ遠くにいた。相手の反応を許さない距離でかわしたはずが、その鎌が追従してくる。リョウハは刃をファイアビーストの銃身で受け流し、負傷をぎりぎりで回避した。


 何だ、今のは?


 今、攻撃してきたレパスは他の個体の三倍はあった。形は同じの大きさ違い。そのせいで距離を掴み損ねた。

 しかし、そんな個体はいなかったはず。

 最初に出現したレパスはすべて同じ大きさだった。


 戦争狂いの強化人間はあたりを見回し、答えを見つけた。

 レパスは共食いしていた。

 中枢部を失って機能停止した個体をまだ活動している個体が食っている。いや、まさかこの短時間で消化吸収までしているとは思えないから、共食いと言うよりは同化と表現するべきだろうか?

 すでに倒された個体の細胞を自分のものにしてパワーアップしているのだ。


「訂正する、少しは楽しめそうだ」


 すでに撃破した敵に二発目三発目の銃弾を撃ち込んで少しでも遠くに飛ばす。同化による巨大化を抑えようとする。


 それにも限界はあった。

 多少遠くまで飛ばしてもレパスたちは糸を使って回収してしまう。


 それでも多くの敵を撃破した。

 が、最後の一体がでかすぎる。


 最初の10倍程度の大きさに膨れ上がったそいつに正面を向かれ、前面に鎌まで構えられたら中枢に銃弾が届かない。

 中枢以外への攻撃はほぼ意味なしだ。奴はあっという間に同化できる万能細胞製の生物兵器だ、見た目はカブトガニだが実態はスライムの方が近い。少しばかり損傷させてもまわりの細胞がすぐに補ってしまう。


 持久戦は不利だな。


 空間狙撃銃の弾数とともに背中の機動ユニットの推進剤にも不安が出てきた。


『よっ、大将。手こずっているな』

「ヒカカ班長か。確かに今の手持ちでは火力が足りない。負けはしないが、勝つのは難しいな」

『それを手こずっていると言うんだよ。……何かいるかい?』


 もっと大型の火器を持ってきてもらう、のも風情がないな。

 それ以前に重火器の持ち出しは正規の軍人である彼が自分で行かなければならない、という規則もある。


 最後のカブトガニが接近してきたので、それを避けつつ交差する。

 いったんやり過ごして距離をとる。

 あまり距離を開けすぎると奴が別の残骸を喰ってさらに大型化する。それは避けたいが、こちらも何か補給しなければじり貧だ。


「班長、準人型はまだ残っていたな? 一つ貸してくれ」

『別に構わないが、問題が二つある。作業機の戦力ではあいつに歯が立たないのはさっき実証されたばかりだ。それが一つ目』

「そこは腕でどうにかする。生身のまま相手をするよりはマシだ」


 話している間に準人型が接近してくる。

 相対速度が大きすぎる。

 リョウハは機動ユニットの噴射炎を準人型に直接ぶつけて強引に制動をかけた。


 準人型のコクピットのハッチが開く。

 そこからリョウハと同じような簡易宇宙服を身に着けた男が飛び出してくる。


 入れ替わりで搭乗しようとして、リョウハはたじろいだ。


『それが問題の二つ目だ。うちの機体は全部、ピグニーシリーズ、Dタイプ仕様だ。大将、入れるかい?』


 ヒカカたち整備員たちはDタイプ(ドワーフ)だ。

 対して戦闘用強化人間であるリョウハ・ウォーガード中尉は身長195センチに達する巨漢だ。トレーニングが趣味なだけに体脂肪率は低いが筋肉だけでも相当な厚みがある。

 コクピットに入れるかどうか、目測だけで危ぶんでしまう。


「なんとか、してみる」


 空間狙撃銃はハッチの横に工具類を取り付けるラッチがあったのでそこへ引っかけた。機動ユニットも同じようにする。さっきのパイロットは機動ユニット込みでコクピットに収まっていたのに、体が小さいというのは対Gだけでなく宇宙機のスペース的にも有利なのだと痛感する。


 手足を折りたたんで小さなコクピットにのそのそと潜り込む。

 入れないこともない。

 操縦も何とかできる。一部の操作は眼球の動きによる視線入力になるが。


 そこまで確認したところで準人型を軽い衝撃が揺さぶった。

 準人型の左腕に大型レパスの糸が貼りついていた。


「チェーンデスマッチ、か。望むところだ」

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